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2章 ファースト・ステージ

 ヒラニプラの街から離れた場所で小型飛空艇ヴォルケーノに乗り、ツアー開始直前の中継映像を見ていたダクレスはカペルとリュリネスのコントに笑っていた。
「……相変わらず、二人は見ていて飽きないと思うのだけどどう思う?イラエット」
 中継されている画面とは別の画面では、sound onlyと表示されてイラエットの声だけが聞こえて来る。
「はぁ、まぁあの二人は確かに見ていて飽きないわね。にしても少しづつリュリネスの突っ込みのキレが鋭くなっているのは気のせいかしら?」
 ダクレスの笑い声にイラエットは若干呆れているようだった。
 コントも終わり、PM23:00になり教会の鐘の音が画面から聞こえて来ると中継画面を切りながらダクレスは操縦席から立ち上がり、伸びをする。
「この調子だと後三十分後ぐらいか。そちらの調子はどうだ?」
「まぁまぁかしら。にしても、貴方仮にも魔獣使いなのにその攻撃方法って……有りなのかしら」
「ミサイルポッドに攻撃魔法を装填させる君よりかはまだましだと思うがね」
 イラエットの皮肉めいた言葉に同じように返事をするダクレス。二人はしばし、ふふふ。と不気味に笑うと同時に咳払いをした。
「そちらの戦闘が終わり次第、合図をお願いするわね」
 イラエットが少し早口に喋るとダクレスの返事を待たずに通信を切ってしまった。
「ああ、了解」
 ダクレスは、一方的に切れた通信には気がつかない振りをして一言呟いた。

30分後――

 先頭集団に居るコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)はなぜか疲れた表情でパートナーを含め、三人の背中を見ていた。
(なんなの。この先頭。さっきから三人並走しっぱなしじゃない)
 鋭いメスの形をしたほうきに乗ってるレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)も、普通の空飛ぶほうきに乗っているロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)もサンタのほうきに乗っている葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)もただマイペースに空を飛んでいるだけだった。
 空京から飛び始めて、ヒラニプラに行くあたりまで集団特有のデットヒートが展開されると思いきや、三人とも様子を窺っているのか、はたまた体力を温存しているのかは判らないが燃える展開にはまだなりそうもない。
(ダクレスさんと対決する時にはどうなることやら……)
 ほう。と白い息を吐きながら軽いため息をつく。
「レキシントンさん、お疲れですカ? まだゴールは遠いデス。ヒール掛けましょうか?」
 後ろを振り返った時に、疲れた表情を見たロレンツォは心配そうにコルセアに声を掛ける。
「あ、いえ。大丈夫です。まだ始まったばかりですので」
 コルセアは、ロレンツォの言葉に遠慮した。
 と、ここで並走していたうちの一人レティシアがメスというかほうきの速度を上げ始めた。
 はっとした表情をした吹雪は、レティシアが単独首位になることを阻止しようと同じくほうきの速度を上げる。
「ふむ。あれが先頭集団か」
 前方から突然、男性の声が聞こえて来た。
 速度を上げて近づいてきたレティシアと吹雪はダクレスが乗る飛空挺の前で止まると、各自上着のポケットから携帯電話を取り出して、ダクレスの姿が映りそうなフロントガラスを覗きこんだ。
「ちょっと! あちきが先に来たんだから先にダクレスさん撮らせなさいよ」
「嫌であります。自分も撮りたいであります」
 ぎゅうぎゅうと顔を押し合いをしている二人の姿にダクレス本人がドン引きしている事などは気がついて居ないようだ。
「二人とも速いですネ。レキシントンさんと追いつくの苦労しましたヨ」
 後ろからロレンツォとコルセアが息を切らしながらやってきたのだが、まだ押し合いをしている二人の後ろ姿を見ながら、コルセアは少し引いてしまった。
「……私の写真を撮るのに競争になるとは思わなかったんだが」
 飛空挺の一部分のガラスを電動で開けながら、ダクレスは外へと顔を出した。
 金髪の角刈りで、碧の眼が見えるか見えないかぐらいの糸目の男性がそこには居た。
「自己紹介はリュリネス君から聞いたとは思うが、私がダクレス・リモンチェッロだ。よろしく頼む」
 ダグレスは、ふっと柔らかい笑顔で自己紹介したがレティシアと吹雪のフラッシュ撮影攻撃に一瞬ひるんだ。
「リモンチェッロと言う事は、イタリア出身ですカ?」
 ロレンツォは慌てたように、上着のポケットから携帯電話を取り出すとダクレスに言いながら二人と同じようにフラッシュで一枚撮影をする。
「ああ。イタリア出身だが、もしかして君もかい?」
「ええ。私もイタリア出身デス。同郷では内と思いますガ、同じ国出身ノ人が居るのは嬉しいデス!」
「後で詳しく話したいのだが、いいかな……というか、寒いので中に入っていいかね。もう写真撮っていない人は居ないね?」
 あっと言う声と一拍遅れてフラッシュが光るのを確認すると、ダクレスは飛空挺の中に入るとガラスを閉めた。替わりに飛空挺の何処かについているスピーカーからダクレスの声が聞こえて来た。
「では、レースの続きといこう。さぁ、これを食らうがいい」
 ダクレスは、目の前にあるスイッチを押す。すると、ミサイルポッドが四基発射され途中でミサイルポッドのカバーが外れて中身が高速で四人へと飛んでいく。
「!?」
 ばすっと雪の塊が直撃したのはロレンツォのみであった。
 他の三人はと言うと、レティシアは乗っていたメスで雪の塊を切り刻み、吹雪は飛んで来た雪の塊の中心をライフルで正確にスナイプし、見事に半分に割って直撃を避けたのだ。コルセアに飛んでくる予定だった雪の塊は、吹雪が二つまとめて撃ち抜いたので元から被害は無かった。
「だ、大丈夫ですか」
 コルセアは、雪に埋もれたロレンツォの顔についた雪を手で払った。
「ありがとうございます。一瞬天国に逝くところデシタ。危ないデース」
 ロレンツォは、コルセアに向けてお礼をした。
「それじゃあ、あちき達の反撃といきましょうか!」
 レティシアがそう言いながら、両手の骨を鳴らしているのを見ると、なんとなくだが若干怒っているようにも見えなくもない態度にダクレスは少し戸惑を覚えたのだ。

 その後、ダクレスの乗った飛空挺は何故か氷と雪に埋もれて動けないでいる所をリュリネスに発見された。