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5章 ファイナル・ステージ

 おしることお茶をおかわりしながら、すっかり心がほぐれたカペルは、自分の目的を忘れそうになっていた。
「そろそろ、年越しそばでも食べるか? この日のために家で打って来たんだ」
「おおっ日本式の年の〆ですね。いいですね。年越しそばというのも一度食べてみたかったんですよ」
 ほくほくと笑顔で答えたカペルに、甚五郎は「少々お待ちを」と言ってキッチンへと引っこむ。
 と、そこへカペルの携帯が鳴ったのだ。
「もしもし。イラエットか。うんうん……後十五分ぐらいで先頭集団が来るかもしれないのか。判った。相手をしよう……それじゃあまた後でな」
 電話を切ると、ホリイとルルゥがカペルの事をじっと見ていた。
「ああ、そうだ。ダクレスにも電話しておかないとな……」
 
 ブルブルと携帯が鳴った。
「はい」
 ダクレスは、飛空挺を操縦しながら携帯の通話ボタンを押した。
「ああ、ダクレス。そっちは今どこら辺にいるのかね?」
「今はそうですね……シャンバラの大荒野に入った所ですかね」
「えっ……ちょっと予定より遅い気がするけど」
「飛空挺が雪と氷に埋もれたので、掻きだすのに時間がかかったんですよ。
そうだ。途中でリュリネスに会いましたよ。あいつは、相変わらず説得するのに苦労をしているようでした」
 ダクレスは、ヘリファルテでレオーナに説得しているリュリネスの絵を思い出して思わず笑ったのだった。
「で、どれぐらいの時間でこっちに来れそう?」
「そうですね。後三十分後ですかね」
 そうか。と、言ってカペルは携帯の通話を切ったのだった。
 携帯の時刻を見ると、もうすでに一月一日になっていた。
(早いな。もう新しい年か……そろそろ飛空挺の準備をしておかないとな)
「年越しそばはここで食べずに、飛空挺の中で食べるよ」
「そうか。まぁパネルに汁が飛ばないように注意するんだぞ」
 あつあつのそばの乗ったトレイをカペルは受け取ると、テントから外へ出て自分の所有する飛空挺へと乗り込んだ。
 パチンと音を立てて飛空挺のヘッドライトが点くと、ヘッドライトで照らされた参加者の影が浮かび上がったのだ。
(えっ!?)
 予想外の参加者の進行スピードにびっくりしたカペルは思わず、携帯の時刻と浮かび上がった参加者の影を二度見してしまった。
 参加者の影は、ふらふらと左右に動きながらカペルが居る飛空挺へと近づいてきた。
そして……べたんっとフロントガラスに誰かの左手が付いた時、カペルは絶叫したのだった。

それから30分後――

「遅くなりました」
 そう言いながら、ダクレスはテントの入口をくぐった。
 テントの中は参加者達でいっぱいだったのだが、何か様子がおかしい。
 テーブル席を囲んで誰かをはやし立てている。
 後ろからちらりと見ると、なんとカペルとレティシアがテーブルの上で麺棒と出刃包丁で戦っていた。
「ちょっと、社長。お客様と喧嘩だなんてはしたないのでおやめ下さい」
 ダクレスはテーブルを囲んでいる人達をかき分けて二人へと近づいて行った。
「いい所に来た。ダクレス、お前の乗って来たヴォルケーノを貸してくれ」
 両手で麺棒を持ち、レティシアの出刃包丁の攻撃を受けとめながらカペルはダクレスを見ると無茶なお願いをして来たのだ。
「どの飛空挺が来てもあちきのメスでたたっ斬ってあげるわ。だから無駄なあがきはやめなさい」 
 ふふふふ……と悪役のような不気味な笑い声を上げながらレティシアは出刃包丁の柄に力を込める。
「とりあえず……イラエット。二人の仲裁の手伝いを頼む」
 ダクレスはテントの隅でお茶を飲んでいたイラエットを見つけると、イラエットに向けて言った。
 それを聞いたイラエットは、面倒くさそうにダクレスを見る。
「出刃包丁で指や腕を切ったら痛いじゃない」
 イラエットは何故か近くにいたホリイに同意を求めた。
「怪我したラ、私がヒールするから問題ないヨ」
 横からロレンツォがイラエットの言葉を撃ち砕く。
 ロレンツォの言葉にがっくりと肩を落としたイラエットは、しぶしぶと言った表情でテントの隅から離れたのだった。
 ダクレスとイラエットがカペルとレティシアの喧嘩を止めている時、外からソリが雪の上を滑る音が聞こえて来たかと思ったら、テントの入口が乱暴に開かれてゲブーと郁乃と揺花が転がりながら入って来た。郁乃と揺花はなぜか目を回していた。
「っと、ここで俺様はラストスパートを掛けるぜ! あんたはそこでくつろいでな」
 ゲブーはエリスを見つけると、エリスに向けて言った後また外へと出て行ってしまった。
 突然のゲブーの宣言に、先にくつろいでいたエリスは椅子から立ち上がった。
「あーっ! あんたまだ優勝狙ってたの!? あたしが阻止してあげるわ!」
 エリスはゲブーを指差すと、席に置いといたシュワルベを掴んで外に出たのだ。