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リアクション
お嬢様が何人も主要キャストになっているせいか、観客席は満員だ。
楽しみだね、と言う声でざわついている。
ブーッという開演をしらせるブザーにざわつきは止み、全体が暗くなると、ついに舞台の幕が上がる。
「よいしょっと……」
クナイ・アヤシ(くない・あやし)は重い機材を抱えてステージを照らす。
照明機械で壊されているところが一部あり、レバー操作ではなく機材そのものを担いで移動させなければならなかった。
クナイは見かけによらず重いものをひょいと持ってしまうので、お手の物だ。
「なぁなぁ、これ終わったら血ぃもらえるかな」
ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)はヴァイオリンを弾きながら、クナイに話しかける。音響と照明がある位置は同じで、すぐに合図をし合ったりできる。
「こんな時に血とか言わないでくださいよ」
「でもちょっと腹減ったって言うか……」
「ほら、あと一節で曲を変えないといけないでしょう。北都様次第ですねぇ」
「おっといけねぇ。わかった! これが終わったら頼まなきゃなー」
こしょこしょ話程度の声で話しながらも、手先は一切狂わせない。ライトや曲のテンポが違えば、役者を混乱させてしまう。
美緒にだけスポットライトが当てられ、モノローグから始まった。
クリスマスが過ぎ、ヒロインが街に買い物に出ていたところからシーンが動き出す。
気立ての良い大人しい町娘と、成金の道楽貴族。
去年のクリスマス前後で、キロスは貧乏貴族に成り下がってしまった。
それでも美緒の思いは変わらずにいたが、お互いのためだと結論を出し、結局その時にキロスは街を出ることになり別れてしまった。
元々周りの反対が多かっただけに、美緒は心疲れをしてしまった。
一時は落ち込んだ時期もあったものの、立ち直ってきれいさっぱり忘れられた。
けれどそんな時に偶然街中でキロスと再会してしまったのだ。
もらった連絡先のメモをどうしていいかわからず、暗転。
朱鷺の逃げ回るシーンはコミカルと同時に、ライトが綺麗な髪を照らすのでまた違う印象で客を惹きつけたようだ。
アデリーヌのがっちがちだった演技はどこへ行ったのか、さゆみに「あがらないおまじない」を直前にしてもらったおかげですらすらと台詞が出てくる。
観客の反応も不自然ではなかったので、本人が驚いているぐらいだった。
貴族のパーティのお嬢様役で高飛車に振舞うラズィーヤ。
美緒には魔法使いのように衣装やメイクを施してくれる房姫が出てくるシーンは豪勢なものになった。
物語も中盤を超えた。
「こんな首飾り、なんだってのよ!」
香菜は表情を歪めて、ピンクダイヤの首飾りを投げ捨てバラバラにする。
香菜の役は美緒と対になるアンチヒロインキャラだ。本人の希望で性格はかなり離れたキャラになった。
壊した首飾りはリースが予備で作ってくれたものだ。開演前に二人で話を合わせ、「首飾りは一度壊れる」演出をした。
「やめて! それはわたくしの……っ!!」
まるで本当に争っているかのような迫真の演技は観客を引き込んだようだ。エンヘドゥは勝手に改変されてしまったアドリブを、後でまたどう回収するのかハラハラした。
壊れた首飾りは、終盤になって直った物、つまり元の首飾りが使用された。
香菜は美緒に対して誤解していたようで、綺麗に修復してから返される。
わかりあえないだろう演出をしていたが、そこで香菜と美緒は友達になる。
「ご主人、あの娘と一緒になりたいのでしょう? 僕が協力しますよ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)はキロスの執事役だ。落ちぶれても、ずっとキロスに付いている真面目な紳士。
かと思いきや、逆にかなりラフなカジュアル服を着て、「お嬢さん、今日も元気か?」と、美緒と何度か会う不思議な通行人をやってみせたりなど、複数役をこなした。
舞台袖に引っ込むたび、「大変じゃない?」と声かけをされた。確かに忙しいけれど、北都なりに楽しんでやっている。
北都の手引きにより、会社が立ち直って貧乏貴族から持ち直したキロス。
隆元たちとの戦闘シーンを得て、美緒とキロスは遠くへ行こうと誓い合う。
「オレと一緒に行ってくれるか?」
「はい、是非に」
キロスが美緒に手を差し伸べ、またその手を取る。
ソーマのヴァイオリンのBGMがまたそのシーンにマッチしていた。
「旦那ぁ、早く乗りな! 俺様がどこまでも連れてってやる!」
ケルピー・アハイシュケ(けるぴー・あはいしゅけ)はキロスの馬車馬役だ。
軽快な蹄の音を鳴らし、舞台の端から端まで走って見せる。
さりげなく馬車を引いているシーンは大人しくしていたが、速く走るために捨てて来た、という流れだ。
「美緒をおっことすんじぇねえよ、旦那」
「もちろんだ」
「ふふ、馬で逃避行というのも楽しそうですわ」
街にお世話になった人たちに、お礼を言いながら街を去る。
カーテンコールを終え、ゆったりとしたヴァイオリンの音で幕が閉じられた。
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