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いい湯だな♪

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いい湯だな♪

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    ★    ★    ★
 
「しっかしまあ、あっちこっちうるさいわよねえ。落ち着いて、入ってられないわ」
 大風呂から上半身を出した宇都宮祥子が、湯煙のむこうからときおり聞こえてくる奇声や悲鳴をなんとか無視しようと努めながら言いました。
「ぶくぶく、まったくだ。ぶくぶく」
 お湯の中から、細かな泡と共に樽原 明(たるはら・あきら)が言いました。決して、おならではありません。
「明はいいわよ、その樽頭じゃ、パンツなんて被せようがないもの。だいたい、水着自体着ようがないし」
「ぶくぶく、失敬な。この我が輩が……ぶくぶく……浮かばないような風呂を……ぶくぶく……作る者がいけないのだ。ぶくぶく……」
 なんとも、泡まじりの聞きづらい声で、樽原明が言いました。機晶姫ですが、樽原明の見た目は樽そのものです。本来なら水に浮きそうなものですが、見た目は樽でも中身は機晶姫なのでどうしても沈んでしまいます。
「ええい、女将を呼べ……ぶくぶく」
「イルミンスールの女将と言ったら、エリザベート校長だけどいいの?」
「前言撤回! ……ぶくぶく」
「はやっ」
 さすがに、宇都宮祥子が苦笑します。
 繰り返しますが、たとえ宇都宮祥子のお尻あたりから樽原明の泡が上ってきていても、決しておならではありません。
「まあ、変わったBGMだと思えば……」
 なんとかなる……かなあと、宇都宮祥子が言いました。
「おらあ、パンツ被りやがれ!!」
 突然、湯煙のむこうからPモヒカン族が突っ込んできました。どうやら、ついにこちらの方までやってきたようです。
「うるさい! 緊急浮上! 悪い子たちへの我が輩からのお年弾であるっ! おっぱ……自主規制……ミサァァァァイルっ!!
 上に座った宇都宮祥子の股の間から樽原明の顔が叫びました。ハッチが開いて、ミサイルが発射されます。
「うべしゅ〜」
 Pモヒカン族がミサイルに吹っ飛ばされていきます。
「馬鹿者!! どこのどいつよ、お風呂でミサイルをぶっ放したのは。防御魔法かかってなかったら大惨事でしょうが!!」
 当然のように、わらわらと天城紗理華を始めとする風紀委員が集まってきました。世界樹の中では、世界樹自体を極力傷つけないように、全体にわたって防御魔法が張り巡らされています。そのおかげで、人死にが出るほどのことはないのですが、さすがにミサイルはやり過ぎです。
「な、なんでこんなことに!?」
 天城紗理華たちが駆けつけると、宇都宮祥子が唖然としていました。湯船からのびた巨大な蔦に樽原明がキリキリと締めつけられているところです。
『世界樹を傷つける馬鹿者にはお仕置きですぅ!』
 エリザベート・ワルプルギスの声が響き渡りました。
『きっちりとお仕置きしておくですぅ』
 ウォールオブソーンを消滅させると、エリザベート・ワルプルギスの声が風紀委員たちに言いました。解き放たれた樽原明が、ばっしゃーんとお風呂に落ちてそのまま沈みます。
「よし、武器を回収!」
 天城紗理華が命じると、アリアス・ジェイリルたちが樽原明そのものを担いでえっほえっほと運んでいってしまいました。すでに、機晶姫ではなくて、ただのミサイルランチャー扱いです。
「ああ、明……」
 宇都宮祥子が力なく手をのばしましたが、樽原明はそのまま没収されてしまいました。
 
    ★    ★    ★
 
「それにしても、兄さんはどこに行ってしまったのでしょう?」
 大浴場の中を、キョロキョロと見回しながら、おニューの黒いビキニを着た高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)がドクター・ハデスを探しています。
「いつものことじゃないですか」
 どうせどこかでろくでもないことをしているのだろうと、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が溜め息をつきました。こちらは、花柄のホルターネックのワンピース水着にスカート状の大きなパレオを巻きつけています。
「せっかくの混浴だというのに……」
 すっごく残念そうに、高天原咲耶が言いました。さすがにこの年になると、なかなか一緒にお風呂に入るわけにもいきません。今日は、絶好の機会でしたのに……。
「わーい。こんにちわー」
「きゃっ!?」
 突然、ボコボコと頭突きをお腹に喰らって、高天原咲耶とアルテミス・カリストがのけぞって倒れました。そのまま、遊歩道から流れるお風呂に落っこちます。
「わーい」
 見れば、コンちゃんメイちゃんランちゃんの三人が、御挨拶をして回っています。ある意味、阿鼻叫喚の脅威です。
 すっぽんぽんで走り回っているおこちゃまたちですが、ちょっと違和感が。頭に、それぞれパンツを被っています。
「あれは、もしかして……」
 流れる風呂の中で立ちあがったアルテミス・カリストが身構えたとき、聞き覚えのある高笑いが近づいてきました。
「ははははは、いいぞ、パンツ・ルーターよ」
 絶好調で、周囲の人々にパンツを被せながらドクター・ハデスがやってきました。
「兄さんったら、発明品と一緒に何をやっているんですか!」
 私を構いもしないでという言葉は口にしないで高天原咲耶がドクター・ハデスを責めました。
「小娘め、何を言うか。P級四天王様は、偉大なるパンツーハットの布教をしているのだ」
 取り巻きと化したPモヒカン族たちが、高天原咲耶に言い返しました。
「変態さんと一緒に遊んでいるなんて、そんな兄さんなんか嫌いです」
 そう言って、高天原咲耶が思いっきりお風呂のお湯をドクター・ハデスにむかってはねかけました。けれども、勢いが足らなくて、手前にいたハデスの発明品に全部かかります。
「ぴー、ぴー。制御しすてむニえらー発生」
「えっ、おい、パンツ・ルーターよ、どうした!?」
 いきなり白煙を上げたと思うと、ハデスの発明品が暴れだしました。
「きゃあ!」
 あっという間に、高天原咲耶とアルテミス・カリストが、ハデスの発明品の触手に捕まりました。けれども、それだけでは収まらず、ドクター・ハデスやPモヒカン族たちをもその触手で捕まえて、高々と宙に吊り上げます。
「しまった、防水が完全じゃなかったか……」
 後悔しても手遅れです。
「きゃあ、触手が水着を……。やめて、取らないで!」
 アルテミス・カリストが、真っ赤になって悲鳴をあげました。ハデスの発明品の触手がパンツの中に入ってきて、もう泣き顔です。
「ぱんつ、トル。ぱんつ、被セル……」
 ハデスの発明品が、触手をにゅるにゅると高天原咲耶のパンツに忍び込ませて、それを剥ぎ取りました。
「嫌あ! 兄さんにしか見せたことないのに!」
「待て! 誤解されるようなことを言うな。いったい、いつの話だ!」
 一斉に集まる痛い視線に、ドクター・ハデスが耐えきれずに言いました。
「三歳のときのことです!」
「時効だろうが!」
 高天原咲耶に叫び返すドクター・ハデスのパンツに、ハデスの発明品の触手がのびてきました。
「えっ、ちょっと、こら、やめて〜」
 ドクター・ハデスのパンツの端を触手がめくったと思うと、その先がにゅるんと忍び込んできました。パンツの中で、触手がうねうねと暴れます。いろいろな意味でヤバいです。
「待って、脱がさないで〜」
 ドクター・ハデスの叫びもむなしく、パンツに絡みついた触手がゆっくりと引き剥がしにかかりました。
「や、やめてー、見たくない、見せたくない!」
 必死に股間と胸を手で隠しながら、アルテミス・カリストが叫びます。
「に、兄様……!」
 高天原咲耶が、血走った目を目一杯見開いてドクター・ハデスの方を見ました。
「よ、よせ、ああっ……」
 抵抗もむなしく、ドクター・ハデスのパンツが剥ぎ取られました。そのまま、高天原咲耶やアルテミス・カリストと同様に、頭にパンツを被せられてしまいます。
 にしても、なんだか異様な触手の量です。ハデスの発明品には、こんなに触手がついていたでしょうか。おかげで、ドクター・ハデスたちの身体は触手に被われて、ギリギリ十八禁をまぬがれています。
「ああん」
「こら、咲耶、変な声出すな。ああん」
「兄さんこそ」
「変態だ、変態兄妹だあ!」
 もう、収拾がつきません。
『いいかげんにするですぅ!!』
 エリザベート・ワルプルギスの声が響き渡りました。同時に、ハデスの発明品にまじっていたウォールオブソーンの蔦が、容赦なく一同を締めつけました。その力に、ハデスの発明品が粉々になって砕け散ります。いちおう、ポータラカ製のナノマシンなので修復は可能ですが、今は砂状の細かい破片になって床の上に落ちて積もりました。このまま下水に流れないことを祈るばかりです。
 ドクター・ハデスたちも、いきなり強く締めあげられてあっけなく気絶してしまいました。ウォールオブソーンが消滅すると、すっぽんぽんのまま綺麗に遊歩道脇にならべておかれます。エリザベート・ワルプルギスの命令で風紀委員が駆けつけるまで、ドクター・ハデスたちはそのまま大の字で遊歩道脇に倒れていました。