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ふーずキッチン!?

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ふーずキッチン!?
ふーずキッチン!? ふーずキッチン!?

リアクション



【通り】

「そこの下等せいぶ……むっ
 お前からは我々犬族の匂いがしますね! ちょうどいい、この店に入るのですよ!」
 と不思議な犬に誘われて、{ハイコド・ジーバルスはあおぞらへやってきた。
 仕事の後だったから、鎧着用のままで。
 出産に向けて検査入院してる妻の病院にいくまで、少し猶予もあることだし。



【カウンター】

「ご注文はお決まりですか?」
 注文をとりに来たジゼルの顔を見て、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は少し困ってしまった。
「う、うぅん。
 色々ありすぎて何にしたらいいやら」
「えへへ、確かに。
 女将さん、常連さんの希望にこたえてたら何時の間にかこんなにメニューが増えちゃったって」
「面白いねぇ……。
 それで、今日のオススメはやっぱ鮪、だよね」
「それも色々な方法で調理できますよ」
「じゃあ…………どうしよう」
 困り果てているハイコドに、ジゼルは何かを思いついたようで両手を打ち合わせる。
「それじゃあ折角カウンターに座ってるし、色々味見してみるっていうのはどうかしら?」



【会場】

「本当に怪しいイベントじゃないのね?」
「ったく本当に疑り深いヤツだぜ。ただの鮪のイベントだって言ってるだろ」
「どこの世界の鮪のイベントで血だらけで運ばれ行く人がいるのよ」
「あれはそのー……なんだろうな」
 席についてからもこんな風に言い合っている夏來 香菜(なつき・かな)キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)達に、一緒にイベントにきた友人たちは苦笑する。
「まあまあ、それより僕らも何か注文しようよ。今日は僕がご馳走するからさ」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が言うと、後輩達の目がぱっと輝いた。
 仕送りに頼らずにアルバイトで生活費を稼ぐ香菜へせめて先輩らしい行動で助けてやろうと思ったのだ。
「そんなの悪いわ」
「いいのいいの、甘えちゃえ。
 今日は私が料理も手伝うつもりだし」
 彼女のお墨付き。を言って小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は立ち上がった。
「え? あなたが?」
 見上げると、美羽の隣に少々派手なメイド服を着た少女が立っていた。
「ここね、私のお友達の店なの。忙しそうだったから、手伝う約束してたんだ」
(そういえば男子の噂で聞いた覚えがあるわ。クラスは違うけど、可愛い子がこの辺りの定食屋でアルバイトをしてるって。
 この子のことなのね)
「はじめまして、ジゼルです」
 頭を下げられて、香菜の中にもやもや渦巻いていた誤解が解けた。
(超怪しい。と思ったけど、案外普通のお店なのかしらね)
 どうやら一緒にきた杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)も知っている顔らしい。談笑している。
「お腹すきました……。
 ジゼルちゃん、今日のオススメは何ですか?」
「勿論鮪よ。
 今解体している凄く新鮮なものだから……」
「おおおおお!!」
 ジゼルと柚の会話中に、唐突にキロスが立ち上がった。
「こんなでかい肉隗を切るのか!?
 滾る、滾るぜこれは!!」
 目をらんらんと輝かせているキロスに、香菜は頭を抱える思いだが、ジゼルから出たのは意外な言葉だった。
「……良かったらあなたもやってみる?」



「キロス、カッコいいところ見せる時が来たよ。
 剣を包丁に持ち替えて腕前を見せてくれ! 期待してるよ」
「私、間近で見るの初めてですっ!」
 香菜の目からも柚は頬を高潮させ、一目で高揚しているのがわかった。
 が、三月のほうは何かを含んだ笑みを浮かべている。
(どういうことかしら。こんなに煽って)
「いいところ見せてやるぜ!!」


「飛び入りの料理人の方々の登場です! 皆様拍手でお迎えください!」
 ジゼルのアナウンスで、ステージにキロス、そしてルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が上がって行く。
「皆様のご注文のお陰で、6666キロのオオマグロはほぼ完売の状態になりました。
 こちらは先ほどより少し小さいサイズの鮪ですが、飛び入り料理人の皆様にはこちらを調理して頂きます」
「……ルカが鮪を食べたいの言うので来たのに、まさかこういう事になるとはな」
 ぼそぼそと愚痴るダリルの背中に手を置いて、ジゼルは彼を送り出した。
「頑張ってね、ダリル」
 まさか、ルカルカがあんな無茶をするとは思わずに。


「わあー、マスター、すごいおっきいね、あのマグロ!」
「いやはや、あれで少し小さいサイズだというのだから驚きだな
 この巨体を見事に捌ききるのはなかなかに骨が折れるだろう」
 ステージに程近い席でアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)はパラミタオオマグロの大きさに目を丸くしていた。
 この大いなる大自然への挑戦者達に、自然と期待は高まる。


 手始めに、ルカルカは空飛ぶ魔法でキロスと共に空中に飛び上がった。
「まずは頭と尾を落とすわ。この形をドレスって言うのよ」
「よしっ行くぜ!」
「ええ!」
 ルカルカとキロスは中空から一気に降りて鮪に体当たりするように包丁を振り下ろした。
 が
「あらら……」
 ルカルカは包丁の刃を指で突きながら落胆する。パラミタオオマグロの皮は厚く、通常の包丁では刃こぼれしてしまうらしい。
 ジゼルはぼろぼろにかけた包丁を見て、考えている。
「そっか。さっきは皆特別性の消毒された武器とかで料理してくれてたのよ。
 困ったわね……」
「……そうだ!
 覚醒光条兵器なら!! ダリル、お願い」
「……分かった」
 観念したダリルは、胸からルカルカの巨大な光条兵器を取り出した。
「きゃっ!」
「なっ、何!?」
「光が!」
 皆が思わず目をつぶったほど、すさまじい光が会場を包む。
 普段手になじんでいるはずのそれだが、ルカルカには明らかな違いが感じられた。
 何だかずっしりと、漲るパワーが感じられるのだ。
「ふおおお! なにこの威力!」
 すかさずルカルカとキロスは鮪をさばくのへ戻って行った。


「すごいなぁ。ああいうふうに切り分けられて、僕達のご飯になるんだね。
 アレ、これから食べられるんだよね? 楽しみー!」
 目を耀かせる? ペトラの足元から声が聞こえてきた。
「楽しんでいますか、下等生物」
「あ、ポチさんもいる。こんにちはー!」
「マグロを食べにきたのですか?」
「にゃ、うんうんっ僕はね、マスターと一緒にこのマグロの解体ショーを見に来たんだ。
 その後はマグロをたくさん食べるの!
 ポチさんは?」
「僕はハイテク忍犬として不本意ながら看板犬をしてやっているのですよ」
「わあ、がんばってね!」
 ふんっと赤くした顔を隠すポチの助を見ながら、アルクラントは店の衛生管理について考えていた。
(飲食店的にありなのだろうか)と。


 それと同じ時。
「あ。――これは、世界の……」 
「ダリル!!」
 目を見開いたダリルが急にその場に崩れ落ち、ジゼルは慌てて駆け寄る。
「ダリル、どうしたの?!」
 反射的にダリルを助け起こそうとしたジゼルだが、華奢な彼女ではダリルを支えきれるはずもなく、
今度は二人して崩れ落ちてしまう。
「………お……重い」
 なんとか上半身だけ起こして、倒れたままのダリルを膝に乗せると、ダリルがぼそぼそとしゃべり出した。
「か、覚醒光条兵器の力を使うと……世界との繋がりが感じられるんだ……」
「へ?」
「いや、いいんだ……兎に角、いいから、心配しなくていい。
 ……一度離れてくれ。この格好は少々恥ずかしい……」
「ルカ! 大変! ダリルがちょっと可愛い!」
「え!? 大丈夫!?」
「そう思うなら……、早く済ませてくれ」
「う、うん」
 少女に支えられているという何時もの姿からは信じられないようなパートナーに驚きつつも、ルカルカはまるで舞うようにキロスと鮪を切り続けた。


「なんだかステージは大変なことになっているみたいだが、腹も減ってきたし、そろそろ注文するか」
 アルクラントはメニュー表に視線を泳がせる。
「大味な調味料が並んでるが、仮にも定食屋だ。
 まずいものは出てこないだろう、色々食べ比べてみるのもいいかもしれないな」
「あ、マスターは色んな食べ方を試してみるんだ
 じゃあ僕特製のマグロ丼も張り切って作るよ!」

 そんな訳で、数分の後、テーブルの上に乗せられた「お好みの調味料でどうぞ丼」の上に、ペトラの魔改造が施された謎丼がのせられた。
(……嫌な予感しかしない。
 だが食べないわけにもいかない……ッ!)
 一口口に運んで、目をひんむいたまま固まるアルクラントの顔。
 それを見て青くなっているポチの助は思い切り目をそらすが時すでに遅し。
「あ、ポチさんもよかったらどう? 自信作なんだ!」


 会場の別の一角では、客達が俄かにざわつきはじめていた。
 原因は黒全身タイツの集団である。
「世界征服計画」の途中に、ぞろぞろと戦闘員を連れてやってきたドクター・ハデス(どくたー・はです)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)だった。
 余りの間違った迫力に注文を取ろうとしていた寿子の声も、当然ながら小さくなってしまう。
「お客様、ご注文は……」
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!!


 ……とはいえ、腹が減っては世界征服はできんしな。
 今日は鮪フェアと聞いたが……」
「は、はぁ……そうですが」
「ふむ、調理法や調味料は自由か。
 ならば、俺はミタラシソースとオリーブオイルを選ぼうか」
「僕は漬鮪丼をハーフサイズでお願いします」
「あー俺はこのネギのせ――」
 戦闘員達が注文をしている間、ふとステージを見たアルテミスはキロスに気が付いた。
「はっ、あそこにいるのはキロスさん!?」
 彼の姿を目に止めたと思ったら、アルテミスの心の中に大きな波がやってきた。

 ある日突然現れた、不思議な感情。
 彼が気になって気になって仕方ない。
 おかしい。どきどきして、そわそわして……これは一体……
「な、なんでしょう、この胸のもやもやは……

 はっ、さては、これはマグロ解体の手際をキロスさんと競いたいという、剣士としての闘争心!?」
 アルテミスは立ち上がると、そのままステージに駆け上がり、キロスに向かって人差し指をビシッっと向ける。
「キロスさん! どっちがより早く、より綺麗にマグロを解体できるか、

 勝負です!!」
「は、あ?
 お、おお。分かった」
 何が起こったか把握出来ないキロスは、同じくステージに立っていたルカルカを見るが、
「いいんじゃないの? 面白そうだし」という無責任な発言で、とりあえずの生返事をしつつ、アルテミスの動向を見守ってみることにした。

 だが、アルテミスの方はそんな視線を受けていては、少しも耐えられない。
「あ、あああ! 卑怯です! そんなに見つめるなんて卑怯です!」
「ああ!? なんだそりゃ!
 つーかお前顔赤いぞ、熱でもあるんじゃ」
「や。やめてください近寄らないで下さい!
 こ、これは勝負なんです! だから――」
 アルテミスは叫ぶが、キロスはそれを無視して自らの額をアルテミスの額にくっつける。
「なっ……だ……!」
 アルテミスの頭は蒸気機関の如く煙を吐いて、後ろに倒れてしまった。
 すんでのところでキロスが助けたものの、ステージ上に傷病者二名。 
「ま、また倒れちゃった!? どうしよう!!」


 その頃、ドクター・ハデスは……
「もぐもぐうまいなもぐもぐ、ミタラシソースは甘くて好みがもぐもぐ分かれるところだがもぐオリーブオイルというもぐもぐのは中々の拾い物だなもぐもぐ」