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リアクション
「温泉♪ 温泉♪」
うきうきしながら、保養施設へとやってきた鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)。
「温泉卵に温泉饅頭♪ 湯につかりながらお酒も飲める〜♪ ってあれ?」
鼻歌を歌い、若干ステップ交じりで脱衣所に向かおうとした貴仁の動きが止まる。
「ん? これは、貴仁殿」
視線の先にいたのは小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)。秀幸は一人、休憩スペースにあるイスに座っていた。
「小暮さんじゃないですか。こんなところで……って、温泉に入りに来たに決まってますよね」
「そうであれば良かったんですけどね……」
「……何か訳ありなんですか?」
「えぇ、実は――」
秀幸は、貴仁に温泉の現状を説明した。
「温泉にモンスターですか……」
「今のところ何も起きてはいませんが、ここの温泉は各温泉地への要衝。このままにしておくわけにはいけません」
「それで、人里離れた場所にある温泉を用意したから、そこに移って欲しいと」
「その通りです。現在協力者の方々が、交渉にあたっているはずです」
「なるほど……」
貴仁と秀幸が会話をしている間、兄を探して温泉へとやってきた美常 雪乃(みじょう・ゆきの)と神翠 清明(しんすい・きよあき)の二人。
「この周辺は、いくつか温泉があるみたい」
「ここなら奴も見つかりそうだな……」
「兄さん見つかると良いんだけど……。せっかくだし、温泉にも入っていこうか。」
「おー、それは良いね」
「それじゃ、私はこっちだから」
「また後でー」
「まぁ、今からすぐに違う温泉に行けって言われても、中途半端だと湯冷めしやすいですし、満足してもらってから交渉したほうがすんなり受け入れてもらえると思うんですけど」
「……なるほど。それは良い案かもしれません」
「っと、アドバイスはここまでにして、俺はゆっくり温泉に入らせてもらいますよ。説得の方は他の方にお任せします」
「分かりました。っと、モンスター達がいますので水着着用でお願いします」
「……温泉はマッパで入るのが、俺の正義なんですが……仕方ないですね。では、失礼……あれ?」
脱衣所に向かおうとした貴仁だが、女子脱衣所に消えていく女の子の姿を見て動きを止める。
「貴仁殿、どうかしましたか?」
「……いえ、何でもありませんよ。失礼します」
「そうですか」
「妹に似ていた気がしますが……、気のせいでしょう」
そう呟いて、温泉へと向かう貴仁だった。
――男湯――
「うわー、これは、想像以上にモンスターいますねぇ……」
「そのようだな」
「聞いていた通り大人しいようですがね」
貴仁は脱衣所にいたジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)と上田 重安(うえだ・しげやす)と共に露天風呂へとやってきた。
「それじゃ、早速交流を図るとするか」
ジェイコブの手にはお酒とおつまみ。
「おっ、良いですね」
「それがしも参加させてもらおうかねぇ。教導団に頼んで、もう少し持ってくるとしますか。お二人さん、お先にどうぞ」
「分かった」
重安は、一旦引き返し、貴仁とジェイコブは先に湯へと入る。
「やあ、いい湯加減ですな」
ジェイコブが近くで入っていたリザードマンに話しかける。
「ニンゲンカ」
若干警戒気味のリザードマン。
「まぁまぁ、警戒しなさんな。せっかくだし一杯どうだ? なかなかいける酒だぜ?」
ジェイコブが杯にお酒を注ぎ、リザードマンに渡す。
「…………」
無言で受け取り、それを飲み干す。
「どうだ? 美味いだろ?」
「……ウマイ」
「サケ、ホシイ!」
近くにいたゴブリンが寄ってきてジェイコブにせがむ。
「まぁまぁ、慌てなさんな。量は沢山あるからね」
重安がお酒とおつまみを持って戻ってきた。
「順番に行きますから待ってくださいねー」
三人でお酒を注いでまわる。モンスター達もお行儀良く順番が来るのを待つ。
「なかなか、珍しい光景だねぇ」
重安が呟く。モンスター達は各自、自由に飲んでいたりおつまみを頂いたりしているが、暴れるようなモンスターは一切おらず、まったりとした雰囲気に包まれている。
「そうですねー。重安さんもどうぞ」
「お、悪いね」
「サケ、オイシイ。オマエモノム」
「あ、どうもー」
オークにお酒を注いでもらう貴仁。
「ユニツカルキカイ、アマリ、ナイ」
「それは大変だな。どうだ、こうしてゆっくりつかってみて」
「クセニ、ナル」
「ははっ、そりゃ良かった!」
最初にお酒を注いだリザードマンと楽しそうに話すジェイコブ。
「ジェイコブ殿も調子が良いようだ」
「っと、酒がなくなったか……」
「ジェイコブ殿、こちらを」
重安が二人にお酒を注ぐ。
「お、すまないな重安。せっかくだからお前も一杯どうだ?」
「ノメ」
「では、せっかくですから頂きましょうか」
ジェイコブが重安の杯にお酒を注ぐ。
「っと、そうだ。リザードさんよ」
リザードマンがお酒を飲み終えた頃を見計らってジェイコブが声をかける。
「ナンダ?」
「ここの温泉もそれなりに気持ちいいが、人里離れた場所にある温泉も結構いけるぜ?」
「ソウナノカ?」
「あぁ。ここは、他の温泉地へ繋がる場所にあってな。結構騒がしくなったりするんだよ。せっかくならのんびりしたいだろ?」
「……ソウダナ」
「だったら、満足したらそっちにも行ってみないか?」
「イイナ。イクカ」
「よし、決まりだな」
「それなら満足するまではのんびりしていくとしましょうか」
重安が再度リザードマンの杯へとお酒を注いだ。
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