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蒼フロ総選挙2023、その後に

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蒼フロ総選挙2023、その後に

リアクション

「さーて、点火するぞ!」
 組まれた薪の前に、火炎放射器を手にした若葉分校生がいる。
「それ、使えねぇだろ、燃料抜かれてるし!」
 合宿での使用は禁止されているため、燃料が入ってないのだ。
「ポーズだよ、ポーズ! 盛り上げるためのなッ!」
「そうそう、実際はこれで火を点けるんだけどなー」
 分校で一応庶務を務めている、ブラヌ・ラスダーが火打石で紙に火を点けて、燃え上がらせる。
「熱く燃える、俺達の友情ファイヤーーーー!」
 火炎放射器を手に、騒ぐ若葉分校生。
 薪に火が移り、少しずつ燃え上がっていく。
「それじゃ、火貰うぜ」
 武尊が火を貰いコンロに入れ、団扇で仰ぎながら火を熾していく。
「私達も火、いただくわね」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)も、焚き木から火を貰っていく。
「温かいものを作ります。よろしければ食べに来てくださいね」
 そして、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)と共に、屋外の一角に設けた調理スペースへと戻り、集めた薪に火を点けようとする。
 でも、なかなか薪に火はつかなかった。
「まずは丸めた紙を乗せてそれに火をつけて、その上に少しずつ小さな枝から乗せていくといい」
 教えてくれたのは、鉄板の準備をしている武尊だった。
「はい、ありがとうございます」
 お礼を言って、さゆみは火をおこしていき、アデリーヌは鍋に水を入れて。
 トライポッドに水の入った鍋を吊るした。
 火は少しずつ強くなっていく。
「肉の準備は出来たかァ! 野菜も食えよてめぇら!」
 若葉分校の番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が、倉庫から食材を大量に運んできて、テーブルの上にどさりと置いた。
「こっちは釣ってきたヤツだ!」
 それからバケツ持ち上げる。
 バケツの中には大量の川魚。びちびち跳ねている。
「俺は、こういうのにぴったりな【マンガ肉】を持参してきたぜ! 文字通り煮るなり焼くなり好きに使ってくれ!」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)がテーブルに置いたのは、一本の骨についた大きな肉だ。
「うおおー! 焚き木で焼こうぜェ!」
 若葉分校生達がすぐに運んでいき、肉は焼かれていく。
「俺からはこれ」
 ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)がテーブルに置いたのは、果物が入ったバスケットだった。
 彼はそのまま、椅子に腰かけて皆をリンゴを一つとって、食べ始めた。
「あんまり元気ないねー」
 一緒に訪れたリン・リーファ(りん・りーふぁ)も、彼の隣に腰かける。
「そんなことねーよ。今回は神楽崎主導だから、大人しくしてるだけ。ちょっかいなんか出すかよ」
 ぶつぶつ言いながら、ゼスタは若葉分校生と騒いでいるシリウスをちらりと睨んだ。
「そっか。それにしても、合宿なつかしいねー。あの時、初めてぜすたんとちゃんと話ししたんだっけか」
 ふふっとリンは笑みを浮かべる。
「そうだな」
 そこで会話が途切れる。
「……うーん、やっぱり元気ないね? 総長さんと水仙のあの子だけ票をもらったこと、ショックだったのかな?
 ぜすたん年上なんだからもっとどっしり構えてればいいのに俺のパートナー達はいい女だろう。ぐらいな感じで?」
「いや、俺は目立たなくていいの。表の活躍は神楽崎達に任せてる。……むしろ、狙い通り」
 言葉ではそう言っているが、不満がにじみ出ている。
「そっか、それじゃヤキモチかな」
 そうリンが言うと、ゼスタはリンを軽く睨んでふくれっ面を見せた。
 リンはまたふふっと笑った後、舎弟に囲まれている竜司に目を向けた。
「そういえば番長さんが、シャイな子は恥ずかしくって意思表示とかできないんだって言ってた気がするよ」
「……」
「つまり投票されてないけどぜすたんに気持ちを向けてる子は総長さんより多い可能性もあるわけだよ」
 うんうんと頷くリン。
「……ダメ?」
 リンが笑顔で首をかしげると。
「駄目。……神楽崎の方が注目を集めるのはいいんだ。だがな、温泉にも、学園祭の企画にも、忘年会にも、神楽崎のことはあえて呼ばなかったのに。なんか腑に落ちない」
 ゼスタはひとり言のようにぶつぶつ呟いている。
「まあ、人望ってヤツだな。若葉分校もお前が総長になったら、人数激減すると思うし」
 いつの間にかブラヌがゼスタの隣にいた。菓子をバクバク食べている。
「……そうか、スイーツの差し入れや、保健体育の授業が悪かったか。それじゃこれからは、神楽崎を真似たお堅い授業をやってやるぜ……っ」
「いや、それは勘弁! 楽しくやろうぜ〜。ゼスタセンセー。あ、ラムネ食うかー。スナックもあるぜ!」
 ブラヌは持ってきた駄菓子をゼスタに渡して、機嫌をとろうとする。
(うーん、ぜすたん、チョコの数勝負も負けていじけてるのかなあ。勝ち負けじゃないと思うんだけど……。
 歳の数だけガールフレンドが居るんだから、その子達から1個ずつは貰っただろうし)
 その子達を呼べば、普通にゼスタの方が多かったはずなのに。
「それに」
 駄菓子を食べながらぼそりとゼスタが言う。
「それに?」
「……神楽崎からもらってないし、合宿も誘われてない」
(ぜすたん、総長さんからチョコもらってない? この合宿にも誘われてないんだ。水仙のあの子からは……総長さんからもらってないのなら、貰ってなさそうだよね)
 リンもあげてないけれど……。
 複雑な感情を抱きながら、リンは鞄の中に手を入れる。
「はーい、どうぞ」
 そしてトマトジュースと、ハートのチョコレートを取出した。
 チョコレートは、手渡す前に一旦心臓の上に置いてから、差し出す。
「最初に見えないものにかたちを与えようと思ったのは誰だろうね」
「……ありがと」
 チョコを受け取って、ゼスタはようやく笑みを見せた。
 すぐに開封して食べ始めるゼスタを見ながら、リンは目を細める。
「言葉にしちゃうと薄っぺらくなっちゃいそうだから言わないって思うけど、言わないとわかんないこともあるよね……」
「うん。特にお前のことはよくわからない。あんな話をした後でも、俺に近づいてくる。でも、俺の望みには応えてくれない」
 ゼスタはリンの頭にぽんと手を置いた。
「ホントお前の頭の中、覗いてみたい」
「むずかしいね」
 とリンが微笑むと、ゼスタは軽く首を縦に振った。

○     ○     ○


 キャンプファイヤーを囲んで、若者達が騒ぐ中。
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、優子を川原へと連れ出していた。
 賑やかな若者達の声よりも、流れる水の音の方が大きい。
「俺は……最初にアレナが優子さんが一生を終えたら共に眠りたいと思っているのを知った時、それも良いんじゃないかと思っていました。
 ……叶うかどうかは、別として」
 パラミタの淡い月の光が降り注ぐ中で、呼雪は優子の目を見て話していく。
「もしパートナーや周囲の人を全て失っても、俺はひとりで生きていくのでしょう。ですが、誰もがそんな生き方ができるとは思っていない」
 呼雪の言葉に、しばらく間をおいて。
 目を閉じて少し考えた後、優子は「そうだな」と言った。
「今のアレナには時間が必要なんです」
 長い目で見て欲しい。
 そして、伝えたい事は後回しにせずに伝え、なるべく触れ合いを持ってほしいと、呼雪は願う。
「……俺も、今の両親の許に引き取られた時には、他人とまともに関われる状態じゃなく、元の生活が出来るようになるには、長い時間が必要でしたから」
「必要なのは、時間と、『人』……だということは、わかる」
 優子の言葉に呼雪は頷いた。
「それでも決断が迫られる事態になったら」
 優子の性格上。穏やかな日常はそう続かない。
 波乱万丈な人生を今後も送ることは間違いないだろう。
「優子さん自身の本当の願いを優先してください」
 泣いているアレナの顔を思い浮かべながら、呼雪は続ける。
「離宮の時のように、アレナに想いで負けないように」
 ふっと息をついて、優子は目を伏せた。
「私はアレナに自立してほしい。だが、傍にいてほしい。……なんだか、親離れ、子離れできない親子のようだ」
 弱い笑みを浮かべて、優子は呼雪を見る。
「だが今はまだそう思う必要――離れる必要はなく、親子の時間を過ごすように、もっと話をして、共に過ごすべき、ということなんだろうな」
 呼雪は深く頷いた。
「肉焼けたぞー! 順番に座れェ!」
 竜司の声が響いてくる。
「戻ろうか」
 優子が言うと、軽く頷いた後。
 これまで以上に真剣な目で、呼雪は優子を見ながら言う。
「俺は、今でもあなたの事をリーダーだと思っています」
「……」
「もしこれからどんな立場になったとしても、俺は自分とシャンバラ……ひいてはパラミタの人々の尊厳を守るために戦います」
 かつて、シャンバラが2つに分かれて戦った時の様に。
 互いにシャンバラを守るために契約者同士が刃を交えた時のように。
 友であっても、尊敬しあっていても。
 再び道が交わった時に、肩を並べて共闘できるとは限らない。
「私も同じだ。どんな未来が訪れようとも、キミの……早川呼雪のことを、信じている」
 優子が手を差し出す。
「……はい」
 呼雪は彼女と握手を交わした。

「終わったみたいだね。僕達も戻ろうか」
 木蔭に潜んでいたヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が平然と言う。
「……あのような話を聞いたらショックを受けると思いましたが、案外そうでもないのですね」
 一緒に隠れて呼雪達の会話を聞いていたユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が、ヘルを見上げている。
「んー、ショックじゃない訳じゃないけど、そういうのって言わなくても普段からなんとなく分かるじゃない?」
 ひとりで生きていくと言う呼雪の言葉に、少なからずヘルはショックを受けるのではないかと感じたユニコルノだけれど。
「でも、だからこそ何処までも一緒に行こうって思うんだ」
 ヘルは普段通りの口調でユニコルノに語っていく。
「呼雪の強さは脆さでもあるからね。
 自分が守ろうとしたものにどう思われたとしても、僕だけは味方で、同じものを見ていたい」
 想いを遂げさせてあげたいし、ずっと一緒にいたい。
 彼のそんな言葉に、ユニコルノは軽く眉を顰める。
「一体、何を考えているんです。あなたも、呼雪も」
 呼雪が何をしようとしているのか。
 ユニコルノには解らなかった。
 だけれど、命を賭けるような決意や覚悟を感じ取っていた。
「私や自立している方達はまだ良いですが……あの子達はどうするのですか」
 呼雪には幼いパートナーもいるのだ。
「うん、だからもしもの時はごめんね?」
 にこっと微笑むヘルに、ユニコルノはますます眉を顰める。
 それからため息をついて、呼雪の言葉、ヘルの言葉を頭の中で反芻する。
「ずっと一緒にいたい、ですか……」
 そして、アレナのことをも思い浮かべる。
「アレナさんが以前仰ったように、私が永らえる事で生き続ける事に希望を見出して下さるのなら、私は何としてもその方法を探します」
 ですが、と。
 アレナの顔を思い浮かべながらユニコルノは続ける。
「本当にそれだけで良いのでしょうか……?」
「まぁ、支えるのも依存も同じようなものだからね」
「……」
「急がなくたって、彼女が変われる機会はきっとくるよ」
 ヘルの穏やかな言葉に、首を縦に振って。
 呼雪と優子が向かった先。
 皆が集まる明るい地へと、ユニコルノとヘルも戻っていく。