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リアクション
「お菓子持ってきたわよー!」
ルカルカは、持ってきた沢山のお菓子が入った箱をテーブルに置く。
「少し、暗いか」
ダリルはテーブルにランタンを置いた。
オレンジ色の光が、テーブルの上の料理を優しく照らしていく。
「どうぞ!」
ルカルカはチョコボーム――チョコで作られた球体のお菓子をぽんと投げた。
ぽんっと爆発して弾けて、中から沢山のチョコレートが飛び出してくる。
「うおーっ」
「きゃ〜っ♪」
飛び散ったお菓子を、パラ実生やお菓子好きの少女達がキャッチしていく。
「こっちも凄いな!」
お菓子の箱を開けたのは竜司だった。
中から溢れるほどのお菓子が飛び出してくる。
「そうか、少し遅れたバレンタインチョコか。こんなにたくさん、気持はわかるが困るぜぇ。ぐへへ」
竜司も舎弟達もそうだと完全に思い込んだ。
「国頭、お前の分だ」
竜司がチョコレートを一つ、武尊に投げる。
「そうか。お前、バレンタインの時ホストやってたもんな。だから今頃チョコを配ってるのか」
受け取った武尊の言葉に。
「ん? 何で知ってるの」
不思議そうにルカルカが尋ねる。
「あ……いや」
武尊は目を逸らして優子をちらりと見た。
彼女は合宿中、夏の全国中継された出来事については何も言わずに、武尊の体調を気づかっていた。
「……さて、ネギ焼き出来たぞ。皿だせ、皿」
「いちばーん!」
「はいっ」
「私も」
「いただきっ」
「ぐへへへ」
ばばばっと、指しだされた皿に、武尊はヘラを使って焼きあがったネギ焼きを乗せていく。
ネギと持ち寄った具材、竜司が釣ってきた魚も乗せて、生地をかけて。
両面を焼いた後、鰹節とソースをかけたものだ。
「使いたい奴はこれも使ってくれ」
「使わせてもらうぜェ!」
竜司は武尊からマヨネーズを受け取った。
……しかし焼きあがったネギ焼きは前の一人で終了してしまったため、皿にマヨネーズだけかけておいた。
「肉入ってないのに、美味いなこれ」
「若葉分校でも作ろうぜー」
「屋外で作れるんなら、本校でやってもいいんじゃね? 材料小麦粉だしよぉ」
ネギ焼きは我先にと食べ始めたパラ実生に好評だった。
「うん、美味しい〜♪」
「ホント、美味しい。ぜすたんにもわけてあげるね」
ルカルカやリンも席について美味しそうに食べる。
「ご飯どうぞ。お味噌汁と、漬物もあります。あと、お煮物も」
アレナが台車にご飯とみそ汁、漬物を乗せて運んできた。
使われている食材は、若葉分校の農家からいただいてきたものが大半だ。
煮物はレンコン、こんにゃく、人参を使った甘辛煮。肉は入っていない。
その代り、アレナはギフト券でバーベキュー用の高級肉を用意した。
「こっちはサラダだ! 花畑のようだろ〜」
アレナを手伝って、康之が料理も料理を運んでいる。
アレナが友人達と一緒に作ったサラダはとてもこっていて、レタスの葉っぱに、ソーセージの花びら。もやしとカイワレの雄蕊や雌蕊も作りだされていた。
赤いトマトや、黄色のトウモロコシなど、色とりどりの野菜が使われたそのサラダは、お花畑そのものだった。
「飾っておきたくなるなー」
眺めながらそう言うゼスタにアレナは笑みを向ける。
「食べてくださいね。ドレッシングもいくつかありますので、好きなの使ってください……っ」
続いて、数種類のドレッシングをアレナはテーブルに並べていく。
「肉が焼けたぜェ、てめぇら。食え食え!」
竜司は焼けた高級肉を舎弟達の皿に乗せていく。
肉はアレナが用意したもの以外にも、シャンバラ産肉や、日本産肉、そして大地が持ってきた、イナテミスファームで育てた牛肉もあった。
「こっちはオレの女のパートナーが用意した肉だ、遠慮なく食え」
それから、控えめに野菜を食べている女性達の皿にも乗せていく。
相変わらず、自分の皿はマヨネーズだけだったりする。
「あっ、番長さんのお魚、優子さんが捌いてくれたんです。ごはんと一緒にどうぞ」
アレナが白米と、魚の切り身を焼いて味を付けたものを、皿に乗せて竜司に差し出した。
「美味そうじゃねェか。オレと優子とアレナの共同作品だな。ゲヘヘ。てめぇらも座って食え」
竜司は、アレナと康之に焼けたばかりの肉をとってあげて、渡す。
高級スライス。そして大地が提供した肉で作った串焼きも。
「ありがとうございます」
「さんきゅー」
皿を受け取った後、アレナと康之は隅の方の席に並んで腰掛けた。
テーブルには、アレナが作った料理と、武尊のネギ焼きの他、舞香と綾乃が作った、百合根のバター醤油焼き等も並べられていた。
「はい、アレナお疲れ」
康之はペットボトルのお茶をアレナに渡す。
「ありがとうございます。運ぶのも手伝ってくれて、ありがとうございますっ」
微笑み合って、肉を味わって食べて、あつあつの百合根のバター醤油焼きを、ふうふうさましながら美味しそうに食べて。
楽しそうな皆の様子を一緒に眺めていく。
「こちらも出来ましたよー!」
ノアがヘラを手に言う。
持ってきた焼きそばと、野菜と肉を炒めて焼きそばを作ったのだ。
もっとも、野菜を切ったのも、炒めたのもザミエルで。
ノアは皮をむいたり、野菜を洗ったり自分の目を洗ったりしただけだけれど。
「はいっ」
「山盛りで!」
「オレも」
「こっちもー!」
皿が次々に指しだされる。
「慌てないでくださいね、料理は沢山ありますから」
メティスは、順番に皿を受け取って、焼きそばを盛っていく。
「それにしても、さすがはオレの優子だぜ、アレナも同じ3位で良かったな」
「はいっ」
肉を焼きながらの竜司言葉に、アレナは元気よく、本当に嬉しそうに返事をする。
「そしてオレ! 立候補してねえのに、投票されてたな。さすがイケメン」
「番長流石!」
「総長に、マスコットガールに、番長、並んでランクインおめでとー!」
分校生がそんな声を上げるが。
「番長はランクインしてねぇって。ぎゃはははは」
すぐに突込みが入り、明るい笑い声があがった。
「グヘヘ、オレに投票してくれたヤツ、サンキューだぜ! ほら、どんどん食えよォ」
バーベキュー奉行と化し、竜司は次々に肉と魚に野菜を焼いていき、舎弟や女の子、更にあまり食べていない男性の皿にも、ぽんぽん入れていく。
「うん、丁度いい感じに焼けてるぜ!」
テーブル席の他、丸太に腰掛けて切り分けた肉を食べている者達もいる。
大皿に乗せてきた料理を回して食べながら、燃える火を眺め、談笑していた。
「麺、ゆで上がったわよー」
硬さを確かめて、さゆみが声を上げる。
彼女が、アデリーヌと作っていたのは、ラーメンだった。
チャーシューは事前に自宅で作っておいたものを、煮玉子やメンマ、ナルトなどと共に持ってきていた。
「このほかにもトッピングいろいろあるわよ」
「野菜や、キノコもありますし、合宿所にあるものでしたらご用意もできますわ」
集まった人達に、もやしや、キノコ、海苔等をアデリーヌが取り出して見せる。
「玉子とメンマ入れて!」
「俺はもやしたっぷりで!」
若者達は座ったまま、大きな声で注文してくる。
「はい、ご注文承りました」
親類のラーメン屋で手伝っていた経験を活かして、さゆみはスープをどんぶりに入れて、湯切した麺を入れる。
それからチャーシューと注文のトッピングを乗せて完成。
「どうぞ」
お盆に乗せて、箸をつけてアデリーヌが配っていく。
その様子をさゆみはドキドキ見守っていた。
「あちっ」
「ふーふー」
若者達がラーメンに息を吹きかけている。
実は、多人数相手に料理を作るのは今回が初めてなのだ。
焚き木の周りにいても、この季節のこの時間はとても寒い。
皆にあたたかくて美味しい物を提供したくて、腕によりをかけて用意したのだ。
「大丈夫ですわ……さゆみの皆さんにおいしい物を食べて幸せになってほしいという気持ちが伝わらないはずはありませんから」
不安そうなさゆみに、アデリーヌが声をかける。
アデリーヌは何度かさゆみのラーメンを食べたことがあり、ひいき目で見ても美味しいと思っていた。
だから、皆に喜んでもらえるという確信もあった。
「ん、これは……」
「おー、さらっとしたスープだな。温まるぜ」
スープから飲み、笑顔を浮かべていく若者達の姿にさゆみはほっと胸を撫で下ろす。
「私も一杯いただいていいか? ちょっと冷える場所にいたもので」
戻ってきた優子がくすっと笑みを浮かべる。
「すみません……。俺ももらえるかな? 出来ればパートナー達の分も」
呼雪も軽く笑みを浮かべながらさゆみに尋ねる。
「喜んで! もうすぐ次の麺がゆであがりますから」
さゆみはどんぶりとスープの用意をしていき。
「トッピングはどうなさいますか?」
アデリーヌはトッピングの具材を優子達に見せた。
ヘルとユニコルノも戻ってきて。
近くの丸太に腰掛けて、皆で、温かくて美味しいラーメンを戴いた。
竜司が焼いた肉と、武尊が焼いたネギ焼き、それから自分が作った料理を皿に乗せて、アレナは優子達に届けた。
テーブルに戻ろうかと思ったけれど、さっきまでアレナが座っていた席には別の人が座っていて、並んで座っていた康之の姿もなかった。
「アレナ、こっち」
茂みの側に、康之はいた。
「康之さん、あっちでラーメンいただきましょ」
「ああ。でもその前に」
康之は隠してあったものを取り出した。
……豪華な花束だ。
色とりどりの美しい花を見て、アレナは目を丸くする。
「改めて3位おめでとうだぜ!」
「あ、ありがとうございます。康之さん達のお蔭です……」
花束を受け取ったアレナに。
「おめでとう!」
「よっ、人気者!」
「アレナちゃん可愛い〜」
周りにいた人達から声が飛んできた。
「ありがとうございます。ありがとうございますっ」
アレナは顔を赤らめながらぺこぺこ頭を下げる。
「ふふ……」
「へへへ……」
それから、康之と微笑み合った後で。
「お花、テーブルに飾ってもいいですか? 花瓶取ってきます」
「ああ、俺も行くぜ!」
一緒に合宿所に花瓶を取りに向かう。
「……そういえばアレナ」
歩きながら、康之はアレナに目を向けた。
「クリスマスの時に、来年も再来年もずっと俺にプレゼント渡せたらいいなって思てるって言ってたよな」
「はい」
康之が笑みを浮かべる。
途端、不安そうな顔になりかけていたアレナの顔にも、ほっとした笑みが浮かぶ。
「俺も同じだ。この先ずっと、こうしてプレゼント渡したり楽しい思い出をアレナと一緒に共有していきたいって思ってる……できれば、アレナの隣でな」
「は、い」
「そのために俺、頑張るから。アレナの『ずっと』が、俺達やアレナにとって最高の形で実現するために! 全力で!」
アレナが康之を眺める。
彼の顔は、真剣そのものだった。
「どうして、ですか……って聞いたら」
アレナは目に涙をためながら、笑顔を浮かべる。
「また同じ答え、くれるような気がします」
優子と、大好きになった友や仲間と過ごす今を。
彼の答えが、気持ちが、存在が。
永遠と信じたい。でもそれは絶対ありえないと。
終わりは、そう遠くない未来に訪れることが確実だと。
アレナは知っているから――。
涙が、ぽたりと落ちる。
「生きていると、色々なことがあります、から。人は、ずっと、ずっと同じでいること、出来ない、ですけれど」
涙をぬぐって。
「ありがとう、ございます」
切なげに、微笑んだ。
○ ○ ○
「アレナ、こっちにおいで」
戻ってきたアレナを、優子が呼び寄せた。
その頃には調理は全て終わり。
皆、焚き木の側に移動していた。
「毎日有意義な時間が過ごせたと思う」
炎の前で、優子が皆を前に言う。
「戻ってからも、日々鍛錬を怠らず、己の大切なモノの為に、強くあり、精進し続けよう」
それから――優子は、柔らかな笑顔を浮かべる。
「付き合ってくれて、ありがとう。楽しかった!」
「本当に、ありがとうございます!」
優子とアレナの言葉と満面の笑みに。
歓声が上がり、拍手が沸き起こった。
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