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全てはあの子の為に。完結編。

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序章「圧倒的な力」


 〜屋敷内部・領主の部屋〜


 ぼろぼろのローブを纏った死神のような大型の魔物……死を運ぶ闇は巨大な黒い大鎌を中空より引きずり出す。
 風を切る音と共に大鎌が柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)に迫った。
 恭也はそれほど焦ることも無く、走りながら女王騎士の盾を展開し大鎌の一撃を防ぐ。
 展開されたフィールドに黒い刃が徐々に食い込み、赤い火花を散らした。

 フィールド越しに伝わる衝撃に耐えながら女王騎士の銃を構え、死を運ぶ闇の頭部目掛けて連射。
 弾丸は真っ直ぐに飛び、頭部に全弾命中するものの傷一つ与えることができなかった。

「くそっ……どれだけ固いんだよ、お前は!」

 恭也は悪態をつきながら全身の力を女王の盾に込めると、大鎌を押し返しバックステップで距離を取る。

「恭也さん、いったん後退を!」

 カル・カルカー(かる・かるかー)の指揮で戦う一行は敵にダメージを与えられないという状況の中、善戦していた。
 なんとか被害は最小限に食い止めているものの、皆徐々に疲労の色が見え隠れしている。

 カルは唇の端を噛み、死を運ぶ闇をじっと見る。

「……やはり有効な決定打は与えられないか……なら適度に攻撃を誘発して、回避に専念……いや、でもそれじゃ
 こっちの体力が持たないか……ああっもうっどうしたらっ」

 悩み頭を掻きむしるカルの肩に夏侯 惇(かこう・とん)の大きな手がぽんっと置かれる。

「余り悩むな、カルよ。おぬしは我らを信じて指示を出してくれればよい」

 クリムの逞しい手も同じくカルの肩に置かれた。

「体力の心配なんぞ無用。ここにいるのは皆一級の武人。そうだろう? 夏候惇よ」

 にやりと笑いその言葉に夏候惇は答える。

「おうよ! それがしの武技、存分に披露してみせようぞっ!」

 クリムと夏候惇は体勢を低くして地面を蹴り、滑るように疾駆する。
 死を運ぶ闇は大鎌を横薙ぎに振り、二人を狙った。黒光りする刃が瞬きするほどの間に彼らに迫る。
 彼らはほぼ同時にチェインスマイトを繰り出し、刃を跳ねのけた。
 しかし、弾かれた刃は通常ではありえない速度で再び彼らに襲い掛かった。クリムが剣を両手で構え受け止める。
 巨大なハンマーで殴られたような強い衝撃がクリムを遅い、地面に脚が少しめり込んだ。
 
「ぬぐぅっ! ……今だッ!」

 夏候惇は緑龍殺しを下手に構えると猛然と死を運ぶ闇にダッシュする。緑龍殺しがほのかに青く光り、小さな稲光を発した。

「おうりゃあああああああああああーーっ!!」

 地面を力強く蹴って跳躍し、死を運ぶ闇の頭部に轟雷閃を撃ち込む。強い青の光が炸裂し、稲妻が死を運ぶ闇を包んだ。

「手応えあり! やったか!?」
「……ウオオオオォォォォォォオオオオオオオッッ!!」
「があああああああっ!?」

 死を運ぶ闇は辺りが震えあがるほどの咆哮を上げる。間近にいた夏候惇は衝撃で吹き飛ばされ、カルの後ろの棚に激突した。
 封印の魔方陣にひびが入り、ガラスの割れたような音共に砕け散り、霧散する。

「封印が……!!」

 右手をゆっくりと地面に向け、黒い波動で吹き飛ばすとリールを抱えて死を運ぶ闇は地下に降りていった。

「奴め、地下にある本体の元へ向かったか!」
「クリム殿、地下にある本体とは一体!?」

 棚からむくりと起き上がり、夏候惇はクリムに尋ねた――がクリムは答えることなく走り、床に空いた大穴に飛び降りた。

「クリム殿!!」
「……あの人に説明を求める方が無理そうだね。皆早く追いかけよう。
 魔物がリールさんも一緒に連れて行ったってことは……なんだか嫌な予感がする……」
「ぬぅ……確かに考えている暇はなさそうだのう」

 死を運ぶ闇が開けた大穴からは冷たい風が漂ってきている。覗き込んでも底は見えず、どれだけ深いかも不明だった。
 カル、恭也、夏候惇は意を決して、クリムと死を運ぶ闇を追って大穴の底へと飛び降りた。