校長室
強襲のゆる族 ~可愛いから無害だと誰が決めた?~
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二章 ゆる族は入り口を抜けると、そこには相沢 洋(あいざわ・ひろし)たちが立っていた。 「た、隊長! 向こうは武器を持ってます!」 一人のゆる族が洋が武器を握りしめているのを見て、ほかのゆる族も慌て始める。 「慌てるな! 我々の容姿こそが最大の盾なのだ! 総員、可愛さアピール!」 「「イエッサー!」」 ゆる族たちは隊長の号令で洋たちの前に出ると、小首を傾げて目を潤ませた。中には小さく震えて泣きそうになっている者までいた。 が、洋はラスターハンドガンを構えて容赦なく発砲した。 「た、隊長! 撃ってきました〜!」 「な、なに!? あいつには人の感情が無いのか!?」 「可愛いからとて、テロリストはテロリストだ。……が、まあ一応警告はしておこう」 そう言って、洋は一度銃を下す。 「進撃中のゆる族に警告する。こちらは教導団である。君たちの行為はラクシュミ嬢の誘拐、たいむちゃん内部への封印という名の監禁、ギフトという戦略兵器の強奪、物産展への営業妨害などの犯罪になっている。協力している者たちにもそれらの罪状が加わる。今ならまだ間に合う。停止せよ。停止しなければ……殲滅戦を開始する」 警告を受けてゆる族たちは顔を見合わせ、 「あいつの話……むずかしくてわからないね」 「ね〜?」 ゆる族たちは洋の言ってることが理解できず小首をかしげる。 「さあ、ゆる族の精鋭たちよ! あの愚かな人間たちに我々の正義を見せつけるのだ!」 「「お〜!」」 隊長に先導されてゆる族たちはふわふわの身体を膨らませて洋たちに襲いかかった。 「……致し方ない。殲滅を開始する」 洋が言葉にすると相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)が小型飛空艇に乗りゆる族たちの頭上を旋回する。 「任せてくれよじっちゃん! しっかりアシストするからさ!」 洋孝は飛空艇に積んでいたポリタンクを持ち上げると、逆さまにひっくり返して中に入っていた液体がゆる族の頭に降り注ぐ。 「隊長! か、海水が降ってきました!」 「め、目がしみる〜」 「う、うろたえるな! ゆる族の戦士はうろたえない! こんなことがなんだというんだ!」 「いえいえ、今ので状況はかなりマズイことになったと思いますよ?」 そう言ったのは杖をゆる族に向けている乃木坂 みと(のぎさか・みと)だった。 みとはニッコリと微笑むと、サンダーブラストを放つ。 白い稲妻が杖からほとばしり、連鎖的にゆる族たちの身体を貫いていく。 「ぎゃ〜〜〜〜〜〜!」 ゆる族たちは骨が透けて見えそうな勢いで感電すると、煙を噴いてぱったりと倒れてしまう。 「うわあああああ! 攻撃してきた〜!」 「お、鬼婆だ〜〜〜!」 ゆる族は悲鳴を上げて、怯えるがみとから笑顔は消えない。消えないというより、笑顔が白いものから黒いものに変ったという感じだ。 「ひ、怯むな数で押し切るのだ!」 「そうはさせませんよ」 洋孝に続いて飛空艇で空を駆けるエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が先行しているゆる族たちにミサイルを向ける。 「……可愛いですが、暴れるのは可愛いとは申しません。可愛いゆる族は温厚であるべきです。再教育が必要と判断します。以上」 淡々とした口調でしゃべり続け、エリスはミサイルのトリガーを引いた。 飛空艇から雨のようにミサイルが降り注ぎ、ゆる族たちはそれをかわそうと右に左に忙しなくわたわたと動いている。 「慌ててはダメであります! 全員、敵に向かって進軍! あそこには味方がいるから敵もミサイルを撃てないでありますよ!」 そう叫んだのはピヨぐるみを着込み空飛ぶ円盤に乗っている葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だった。 混乱状態のゆる族たちは洋たちに近づいてミサイルを回避する。 ひよこ隊長は吹雪に目を向ける。 「むう……二頭身までではないが、なかなかにやるではないか」 「褒め言葉と取っておきます。隊長、助太刀として一つアドバイスですがこれだけの人数がいるなら一方からではなく四方から敵を囲んだ方がいいと思われるであります」 「なるほど……兵士諸君! ただちに部隊を四つに分けて四方を固めるのだ!」 ゆる族たちはその命令通りに部隊を四つに分けると、殲滅部隊を包囲した。それでも隊長の周りにはかなりの数のゆる族が控えている。 その様子を見て、吹雪は地面に降りてイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)もそれい続いた。 吹雪はピヨぐるみを着ているがイングラハムは着ぐるみも着ないでタコのような姿をそのまま晒している。 「大変なところであったな。だが、我らが来たからにはもう安心なのだよ」 その姿で友好の意を示すが、ゆる族たちの表情はどこか固く、 「……襲え」 隊長の号令でイングラハムは大量のゆる族たちに群がられてふかふかの拳でしこたま殴られる。 「おぶゅ!? ま、待つのだ! 我も吹雪と同じで仲間として……吹雪、何とか言ってほしい」 「あっはっはっは!」 「何を朗らかに笑っているのだ!」 イングラハムが襲われている中、エリスは飛空艇のミサイルを全て撃ち終えていた。 「……ミサイルの残弾がないようです。エマージェンシー、機体の制御不能、緊急脱出を選択します。以上」 やはり淡々とした口調で喋ると、エリスは飛空艇から降り、コントロールを失った飛空艇はまっすぐにひよこ隊長に突っ込んできた。 「危ないひよこ隊長!」 吹雪は叫ぶなり、イングラハムの腕とおぼしきものを掴むとそのまま飛空艇に向けて放り投げた。 空中で制御の利かないイングラハムの身体はなんの抵抗もなく飛空艇と激突し、空中で爆発した。 「ぎゃああああああああああああああああああああ!」 イングラハムは悲鳴を上げながら、地面にポトリと落ちた。 「へっ、汚い花火だ」 「……ほかに、かける言葉はないのか……?」 炭のように真っ黒になったイングラハムはそんな言葉を残すと、がっくりと気絶してしまう。 「このこのこの〜〜〜〜〜〜! 私と兄貴のデートを邪魔するなぁああああ!」 仁科 姫月(にしな・ひめき)は豪快に大剣を振り回してゆる族たちを吹き飛ばしていく。 その瞳には怒りの炎が灯っているようだった。 「お、おいおい……やりすぎじゃないのか?」 姫月の姿を見て、成田 樹彦(なりた・たつひこ)は苦笑いを浮かべながらそれとなく注意する。が、姫月の動きは止まらない。 「可愛いからって許さない! 兄貴とのデートを邪魔しようとするやつらは万死に値する!」 叫びながら地面に大剣を叩きつけ、その衝撃でゆる族たちはどこか遠くまでふっとばされてしまう。 「兄貴は嫌じゃないの!? 折角のデートをこんなことで潰されて!」 「まあ……慣れてるし」 この事態に対する温度差の違いに姫月はムッとした表情になり、樹彦は視線を逸らす。 怒らない樹彦に不満を覚えていた姫月だったが、ある思い付きで不満そうだった表情からいたずらっぽい笑みに変った。 「や、やだ! この子達、背が小さいからスカートの中が見えちゃうかも!」 姫月は顔を真っ赤にしながらスカートを手で押さえてみせる。 その言葉を聞いた瞬間、樹彦は双銃【シュヴァルツ】【ヴァイス】を構えた。 「姫月のスカートの中を覗くだと? ふふふ、どうやら命がいらないらしいな」 ニヤリと黒い笑みを浮かべて樹彦はゆる族たちの額に狙いをつけると、容赦なく引き金を引いた。 「きゃう!?」 ゆる族は思いっきり被弾して床を滑る。 「わー! 撃ってきた〜!」 「おに!」 「あくま!」 「やかましい! 貴様ら、姫月のスカートの中を見ておいて生きて帰れると思うなよ?」 樹彦は怒りに顔を険しくさせながら銃を構えた。 洋たちがゆる族の相手をしていても、それはあくまでも氷山の一角。 別の部隊は吹雪の提案で真っ直ぐにたいむちゃんを目指していた。 セリティア クリューネル(せりてぃあ・くりゅーねる)はたいむちゃんを背にしてゆる族と対峙していた。 「ラクシュミちゃんに手を触れたら、たとえゆる族といえでも容赦はできんのぅ」 セリティアは杖を構えると、ゆる族たちは戦意を目に宿しながらセリティアを睨みつける。 「いくぞー! たいむちゃんをだっしゅするのだ!」 「おお〜〜!」 部隊長の号令でゆる族たちが襲いかかり、セリティアも応戦しようと杖をふりかざすと、 「クーちゃん! ストップ! ゆる族さんも止まって!」 吉木 詩歌(よしき・しいか)がゆる族とセリティアの間に割って入った。 突然の乱入と大声にゆる族とセリティアの動きも思わず止まる。 「詩歌!? 急に出てきては危ないではないか!」 「クーちゃん、ラクシュミちゃんを守るためだからってイジメちゃだめだよ!」 詩歌は頬を膨らませてセリティアを睨みつける。 「仕方なかろう、向こうが襲ってくるなら相応の対処というものがある」 「そうなる前に、私が話し合いするから」 詩歌はセリティアから背を向けると、ゆる族と向かい合って膝を曲げた。 攻撃を仕掛けてこない詩歌を警戒するゆる族たちはふかふかの身体を密集させている。「ねえ、ゆる族さん。もしここでクーちゃんにイジメられたら、折角の可愛さが台無しになっちゃうかも知れないけど……いいの?」 「それは……困るよね〜?」 「ね〜」 ゆる族たちは互いに顔を見合わせる。 「それにね? ゆる族さんたちの可愛さが台無しになったら悲しむ人も沢山いるから……だから、乱暴なことはやめてほしいな?」 「……どうしようか?」 「え〜? どうしようか?」 戦意を失ったゆる族たちは顔を見合わせて相談し始める。 そんな混乱状態に陥ったゆる族の前に、続いてルカルカ・ルー(るかるか・るー)も前に出た。 「ルカからもいいかな?」 混乱状態のゆる族たちは話を聞くためにクリッとした目をルカに向けた。 「もし、世界征服なんてしたら君たちの『可愛いは正義』っていうところの可愛さがなくなっちゃうと思うよ?」 その言葉でゆる族たちは驚きを隠せず、ざわつき始める。 「だって、征服者になったら統治したり政治たり軍事したりって難しいことしないといけないよ? そんなことしてる君たちって可愛いかな?」 「……可愛くないよね?」 「ね〜?」 「可愛いままでいたいよね? 可愛さは正義のまま愛されたいよね? たいむちゃんと一緒に可愛いままで愛されよう。皆可愛いよ。可愛いからこそ、一緒にたいむちゃんを守ろう! 可愛いは正義!」 「おお〜! 可愛いは正義!」 「可愛いは正義!」 「可愛いは正義!」 その号令と共にゆる族たちは武器を捨ててしまう。 その中をルカとコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)は掻き分けるように隊長の元へと走った。 「な、なんだ貴様らは!?」 ゴッドスピードで加速したイレブンたちはあっという間に隊長の懐にまで飛び込むと、ルカとイレブンはタイムコントロールでひよこ隊長を二十歳ほど年をとらせてしまう。 ひよこ隊長の身体は急成長し、黄色い羽毛が白くなり頭にはトサカが生えて老いた鶏のような姿に変貌してしまう。 「な……なんということだ! 私がこのような姿に……!」 「ああ、そうなるんだね……」 ルカも予想外の変貌になんとなく感心してしまう。 「ああ……時の流れは残酷だ……あれほど可愛かった容姿もこうなってしまえば面影もない。しかも隊長が可愛くなくなれば組織は瓦解へと進んでいくだろう」 「ま、待て! 私を元の姿に戻せ!」 「この暴動が終われば元には戻そう。それまではその姿でいるといい」 そう言ってイレブンとルカはひよこ……改め、にわとり隊長から離れていってしまう。「ええい! この姿でも世界征服は出来る! 行くのだ我が兵士たちよ! ここを支配して、私は元の姿に戻るぞ!」 にわとり隊長は号令で部隊を再び動かした。 白波 理沙(しらなみ・りさ)はもふもふと群れを成しているゆる族たちを見て、だらしない笑みを浮かべていた。 「可愛いゆる族たちが沢山居るわっ! あぁ、ダメだわ……こんなに愛らしい子に攻撃だなんて」 そう言って理沙は攻撃を躊躇っている。 「理沙ちゃん、喧嘩を止めに行かないと!」 ピノ・クリス(ぴの・くりす)はふかふかの手で理沙の袖を掴んだ。 「そ、そうだね……悦に入ってる場合じゃないね。よし、それじゃあゆる族たちに近づこうか。私が護衛してあげる」 「よろしくです」 ピノが頭を下げると、理沙と共にゆる族たちに近づいていく。 後ろから続くチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)はチョコ・クリス(ちょこ・くりす)に声をかけた。 「大丈夫? チョコたん」 チョコは肩に乗っており、ゆる族たちが暴れている姿を見て小さい体を震わせている。 「な、なんでみんなあばれてるでしゅか……? こわいでしゅ……」 「大丈夫だよ、何があっても私が守ってあげますわ」 「チェルしゃん……ありがとうでしゅ……」 チョコは震える身体でチェルシーの頬にすり寄ると、チェルシーは思わず頬を緩めた。 「ううう……可愛いですわ〜!」 何かの我慢が限界に達したのか、チェルシーはチョコを手に持つと愛おしそうに撫でて頬ずりした。 「ちぇ、チェルしゃん……は、恥ずかしいでしゅ……」 チョコは恥ずかしそうに抵抗するが、チェルシーは構わずチョコを目で続けてる。 と、 「ここから先は通さないぞ!」 「ぞ!」 理沙たちの前にゆる族が立ちふさがった。 「ちょっと待って! 私たちは話し合いをするために……」 「もんどーむよう! そこのゆる族も同罪だ! しねー!」 ゆる族たちはおもちゃのような武器を構えて、ピノに襲いかかる。 「ふん!」 飛び掛かってきたゆる族の一人を理沙は全力の拳で迎え撃つ。 ゆる族の一頭身しかない身体は衝撃で醜く歪みながら地面を転がった。 「な、なぐったぞ! こんな可愛い見た目のボクたちを」 「ごめんね? でも、ウチのピノに乱暴しようとするから。……でも、みんなもこういう風になりたくなかったら……話し合いで解決したいな?」 理沙がクスクスと笑い始めると、ゆる族たちも殴られたくないのかその場で硬直してしまう。 この膠着状態を見て、ピノが一歩だけ前に出る。 「みんなー、ケンカはやめようよー。そんなことするより、みんなで一緒にオヤツを食べようよー」 オヤツという言葉を聞いて、何匹かのゆる族が目の色を変えた。 「オヤツがあるの?」 「ここには無いけど、これから美味しいクッキーを売ってるお店に行くんだよ〜。だからみんなも一緒に行こうよ〜」 ピノが誘うと、ゆる族の何匹かがふらふらと近づいていくが、半数ほどは唾をのみこんで押しとどまった。 「惑わされるな! そんなのウソに決まってる!」 「嘘じゃないよー! 本当だよー!」 「ここにクッキーが無いなら、嘘じゃないか!」 「いやいや、ここは素直に言うこと聞いた方がいいと思うぜ?」 ピノの説得に割って入ったのは黒猫の着ぐるみを着込んだ国頭 武尊(くにがみ・たける)だった。 「なんで止めたほうがいいんだ?」 ゆる族が返すと、武尊は後ろに控えていた猫井 又吉(ねこい・またきち)がいた。 「やい、お前ら! この方を誰だと思ってるんだ? この人はなぁ。鬼魔狗野獣会の総長にしてパラ実C級四天王の猫井又吉さんだぞ。又吉さんはなぁ。ニルヴァーナではイコンに頼らず生身でなぁそこに飾られてる鳥人型ギフトと一緒に超凄い化物と戦った豪傑なんだぜ」 武尊が又吉を紹介すると、ゆる族たちは話を半分まで聞いた時点で何を言ってるのか理解はしていなかったが、何やら恐ろしい気配を感じて身体を毛をぶわっと膨らませていた。 その紹介をうけて又吉が前に出た。 「テメーらが何処の誰に従ってるのかわからねえが、この俺の前であんまチョーシくれてっとひき肉にしちまうぞゴラァッ!」 又吉は目をカッと見開いて、恫喝するとゆる族たちはその迫力で今度は膨らませた毛をしぼませた。 その様子を見て、武尊がゆる族たちに優しく声をかけた。 「普段はすげー良い人だけど、怒らせると凶暴でチョー怖い人になっちまうけどな。 今ならまだ間に合うから詫び入れちまえよ。オレからもとりなしてやっからよ。ごめんなさいって謝れば、きっと許してもらえるって」 「そうだよ、その後でみんなでオヤツを食べようよー」 そこにさらにピノが誘惑するように声をかけ、 「これ以上ゴタゴタ抜かしやがったら全員くしゃくしゃに潰してやるからな……」 又吉が脅すような口調で追い詰めた。 硬軟織り交ぜた説得にゆる族たちは全員が顔を見合わせて、 「ごめんなさい……もう暴れないから、オヤツに連れて行ってほしいです」 ゆる族たちはピノに頭を下げた。 それを見て武尊が着ぐるみ越しからニヤリと笑う。 「そうそう、それでいいんだよ。さ、早くオヤツを食べにいきな」 武尊に促されてゆる族はピノに続き、理沙たちは大量のゆる族を連れてスタジアムから離脱した。