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悲劇がおそった町とテンプルナイツの願い

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悲劇がおそった町とテンプルナイツの願い

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第6章 真実を知る住民達
「……」
 マリアは教会の近くまでたどり着くと、呆然とした。
 教会の上には、ファイアーワイバーンが数体、そして教会まで続く道には所狭しとゴブリン達が蔓延っていた。
「マリア様、ご無事ですか!」
「呼雪君、これは一体どうなって……」
 前もって教会に居た、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が声をかけてきた。
 その後ろにも司祭が怪しいと思い駆けつけた、ユキノ・シラトリ(ゆきの・しらとり)をはじめとし数人の人が集まっていた。
「みてのとおりですよ、司祭の安全を確認しようと思ったらゴブリン達が大量に居たんです。1000体近く」
「1000!?」
 もう一度マリアは教会を眺める。教会を囲むようにしてゴブリン達は並んでいる。
 まるで、虫を一匹たりとも逃さないというようだ。
「魔女はこの教会のなかで、司祭と2人で入ったところを見たって人がいたよ」
「……そうですか」
 ユキノ・シラトリ(ゆきの・しらとり)今まで町人達から、町人達に聞き回って得た情報をマリアに教える。
 ただ、マリアへ気を遣い、言えない情報もあった。
 信者を殺したのは間違いなく、魔女。
 そして魔女と司祭が信者を殺した証拠もつかんでいた。が、問題はどこまでが本当の情報で、どこに罠があるか……それをユキノは懸念していた。
 そのためにも、ユキノはマリアにはまだすべてを話すべきではないと思ったのだった。
「司祭が信者を殺したので間違いない証拠が――」
「ちょっ!?」
 ユキノとユキヒロ・シラトリ(ゆきひろ・しらとり)が慌てて、ジェレミー・ドナルド(じぇれみー・どなるど)の口を押さえるが、すでに遅かった。
 一番言いたくないことをばらされてしまった。
「あの、か、可能性ってだけだから」
「いいえ。その可能性もあるかもしれません」
「えっ?」
 思わずジェレミーの口を押さえてた手を離し、ユキノとユキヒロは「嘘?」と顔を見合わせた。
「信者を殺したのは……グランツ教を盛り上げるための可能性もあるんですよね?」
 神妙に……しかしどこか、覚悟が決まった趣でユキノにマリアは言って見せた。
 予想外の反応にユキノはただ「う、うん」と答えるしかなかった。

「お、マリアじゃねえか。オレらも協力させてもらってるぜ」
「貴女はこの前の……」
「いやー困った。町人たちを助けに行ってたらこのゴブリンだろ?」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は笑いながら、目の前のゴブリン達を指さす。
 そこにはゴブリンの群れと戦うサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の姿もある。
「ああ、あいつも『ランツ教信者が張り切っているのに、女王の信徒が威光を示さないわけにはいかない』って、なんか妙に張り切っててさ」
 そんなサビクをじーっと見つめるマリアにシリウスは後ろ髪をかきながら答えた。
 さらに、シリウスは言葉をつづける。
「そういえば言い忘れたが、『教団に尽くす事だけが神への信仰じゃない』ってこと覚えておいてほしいんだ」
「ええ?」
「あー、分からないよなあ。えっとだな、マルティン・ルターを知ってるか?」
 マリアは軽くうなづいた。
「ああいう生き方もお前にはありだと思うぜ?」
 地球の有名な人で、対抗宗教改革を行った人の話だった。
 もちろんマリアにとっても知ってる人であった。しかし、その人のようになろうなどとはマリアは考えたこともなかった。
 そもそも、グランツ教に対して変えるべきものが何なのか。いや、もしかしたら自分に変わるべきものがあるのだろうか……思わず考え込んでしまう。
「っと、悪ぃな。そんなことを今は言ってる場合じゃなかったか」
「いえ。ありがとうございます……」


「お話は終わったかなー?」
「うわっ、いつから後ろにいたんだよ!?」
 突然シリウスの背後からヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)がひょっこりと前へ顔を出す。
「そろそろ、進んだ方が良いと思うんだよねえ」
「あ……はい」
「あら、そう簡単に行くと思っておいでで? あなた達の目はよほど悪いみたいですねー」
「魔女!」

 マリアは上空を睨んだ。
 そこには再び空に、魔女が立体的なホログラムになって浮かんでいる。
 魔女は下を見下ろしながら、突然手をパチンと強く叩き鳴らした。
「さあさあ、真のラスボスの私様はこの中! 勝てるって人はさっさと来なさいよっ!」
「なんか、すごい頭が悪そうな奴が出てきた!」
「ああ、噂には聞いていたがあんなのが、こいつらを連れてきたのか」
 ジェレミーとシラトリが上空を見上げ、好き勝手におもしろそうに話す。
「だぁーれーが頭が悪そうだあっ。もー怒ったぞー! 総員かかれ〜っ!!」


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」
 魔女は号令を強くかけると、ゴブリンは雄叫びを上げ進撃する軍団のように塊になって向かってきた。
「うわわ、さすがにこの数全部対処するのは無理だよ!?」
 ゴブリン達を手前からと、対処していたサビクが悲鳴を上げる。
 その、直後だった。空から白い光がいくつもの線となって、ゴブリン達に降り注ぐ。
「今です!」
 【裁きの光】を放った呼雪が声を上げた。
 その後に続いて、マリア達も一斉に攻撃にかかる。

「ユミヤウテッ!」
 向かってくるマリア達に向かって、待ってましたとばかりに弓が一斉に発射される。
 月のように弧を描き、マリア達に直撃は免れない物となっていた。
 が、それは白い冷たい氷の壁によって、制止させられた。
「ふう、危ない危ない」
 【アブソリュート・ゼロ】を放ったヘルは額を手でこする。
 すべての矢が防がれたと同時に、氷の壁は音と共に、一斉に崩れる。
「サビク!」
「わかってるよ!」
 そのタイミングに合わせ、シリウスの【潜在解放】を受けたサビクは、目にもとまらぬ速さでゴブリンを次々と切り捨てて行く。

「ギャオオオオオオッ!!!」
「空からくるよ!!」
「マリア様こっちです!!」
 ユキノが空の異変に気がつくと、呼雪はマリアを後ろに連れて下がった。
 他の人達も同じようにして、下がる。
 空からは3メートルくらいはある、火の弾が降り注いできた。
 
「ちっ、こいつはやっかいだぜ!」
 シリウスは上空のワイバーン達を確認する。
 そこには、意気揚々とまるで水を及ぶ魚のようにワイバーン達は飛んでいた。
「あんなにうごかれちゃあ、グラビティコントロールも出来ないよ!」
「それがしに任せろ」
 上空を悔しそうに見る、ヘルの横から夏侯 惇(かこう・とん)によって放たれた【轟雷閃】がワイバーンの下腹に直撃する。
 ワイバーンに大きなダメージを与えるには行かないものの、麻痺させるには十分な物だった。
「助けに来たぜ!」
「あなたたちは」
 マリアが振り向くとカル・カルカー(かる・かるかー)、そしてリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の姿があった。

「しかし、相変わらずマリア君は善悪論かな……」
「え?」
「今回のことだって、人を助ける人も居れば、それは弱者を弱者のまま溺れされる偽善だと斬って捨てるような人だって居るって事よ」
 リカインはマリアにどうしても言いたかったことを言うと、首を横に傾げた。
「さて、この前の事件でもグランツ教は一部の凶行であり組織としては無関係と言い切った。じゃあ、今回も無関係と言い切れるのかな?」
「……」
「つまり、ここにある事実だけが、真実を語ってくれるとは限らない。そういうことだよ。契約者だって誰でも善ではないしね」
「私は自分の。いえ、自身の手で真相をしっかり見定めるつもりです……グランツ教の事も」
 マリアはふと、薫に『もっといろんな世界を見た方がいいかもしれないのだ』と言われたことを思い出した。
 もっと私は知らないといけないことが、たくさんあるみたいね……。


「で、お話のところ悪いんだけどさ、そろそろ一気に片をつけたいんだ」
 割り込むようにひょこっとカルは言うと、ゴブリン達を指さす。
 その冗談めいた言葉にリカインは目を丸くし、聞き直した。
「えっ……あれ全部、この人数で片をつけるつもり?」
「うん、あまり長引かせて嫌な結果にはしたくないからね」
 カルは前回の事件での結果を思い返し、残念そうに言った。
「よーし、そうなったら早速行動だぜ!!」
 まってましたとばかりにドリル・ホール(どりる・ほーる)は拳を鳴らしながらゴブリン達へと進んでいった。

それに後に続くようにリカイン、ルカ、マリア達も続いた。
【光条兵器】の銃を教会に向けて、【弾幕援護】でゴブリン達を次々に倒していく。
 それでも取り逃した敵を呼雪、ユキネで対応していく

「ねえ、マリアは最近グランツ教でどんなことをしてるの?」
「えっ、突然何を聞かれるんですか?」
「その……グランツ教の事は決して良いイメージが無いけど。僕は信仰にかんしては自由だと思うんだよね。
だからその知っておきたいと思ったんだ、グランツ教のこと」
「そうですか……最近は各教会のテンプルナイトと呼ばれる幹部達へ、上層のテンプルナイツの人の指示を伝えたりしてました」
「すごい、お仕事をなさっているのですね」
 ジョンが感心するように良いながらも、その片手で近づいてくるゴブリン達を【氷術】で遠くに押しのけていく。
「私は主に空京の郊外に出来た大聖堂(カテドラル)で奉仕を。
 また、グランツ教にはテンプルナイトでも更に上の方がいらっしゃり、
 その方達の指示を受け、広報用の番組の出演や地方の奉仕、信者の方々のお世話や説法などを行っています」
「ところで、グランツ教って世界統一国家神とかで大騒ぎしているんですか?」
「未来の世界は、グランツ教がパラミタを統一していたという話です」
「未来?」
「ええ、グランツ教は未来から来た宗教なのです」
「はあ?」
 ルカは思わず、素直に変なことを言うなと言わんばかりに首を傾げた。
「未来……といっても、このパラミタ大陸が辿る未来とは違う“軸”に存在する未来です。
 その世界では、パラミタは複数の国家神ではなく、1人の国家神によって統一され、真の平和を得ていると」
「その、1人の国家神というのが――」
「世界統一国家神様です。未来のパラミタ大陸をお救いになられた世界統一国家神様は、滅びの運命を逃れられない“この”パラミタ大陸を救うために現れたのです」
「他のテンプルナイツのみなさんは、皆が何も知らないまま、崩壊する世界に命を落としてはならない。
 だから世界統一国家神のお力をいまこそ1人でも多くの人に知ってもらう時だ……と仰っています」
 国という枠に囚われず、全ての人の命を平等に救う絶対的な存在。
 そこに惹かれてマリアはグランツ教に入信したのだという。

「なんていうか、いろいろ――ん?」
 ……突然ルカ達は立ち止まった。
「どうし……おい、あいつら盾で壁つくってるぞ」
「これは、頑固ね」
 立ち止まるルカ達を後ろからジェレミーが顔をのぞかせると、そこには屈指の鉄の壁と言わんばかりの盾がずらりと真横に並んでいた。
 その盾の後ろにゴブリン達は隠れている。
 しかし、このままバリケードをされたままでは前に進むことは出来ない。
「ドリル、これどうにかできる?」
「任せておけ……だあっ!」
 ドリルの渾身の一撃が盾に与えられる。が、それはびくともしなかった。
 ユキノは盾に近づき何度か、手でコンコンと叩いた。
「魔法が施された盾みたいだよ?」
「困りましたね……それじゃあサイコキネシスはどうですか?
 ジョン・オーク(じょん・おーく)はドリルの顔を見ながら言った。
 ドリルは軽く頷き、「ぬぬぬっ」と集中するが、その集中はすぐに途切れた。
「ダメだ! こいつ、すっごく重いぜ?」

「ふははははっ! 諸君楽しんでいるわね!!」
「また、変なのが出てきた」
 ユキヒロが「げっ」と、怪訝そうな顔で空に浮かんだ魔女を見上げた。
「失礼ねっ! そうそう。その盾なんだけど」
「待って、一つだけ聞いて良いかしら。あなたの横に司祭は居るの?」
「居るけど?」
 ユキノが問い詰めると、魔女は平然とした顔で答えた。
「あなたの目的は、この町をもらうこと。そして、司祭は信者を増やしたかったから協力したの?」
「……まあね」
「じゃあ、最後の質問だ。信者を殺したのはお前だな。魔女……いや、協力したが正しいか?」
「ジェレミー様!?」
 ユキノの横から、ジェレミーは鼻で笑いながら魔女に聞いた。
 マリアはその答えをただ黙って待った。
 あまりの緊迫感に立ちくらみを覚えるが、今はそれどころではない。

「そうねえ。まっ、あんた達どうせそこで終わりそうだし教えてあげよっか」
「……長ったらしいのはいらん。さっさと話せ」
「なんかむかつくわね。ま、いいわ。信者を殺したのはねえ……」
 魔女は、さっきまでの笑いはどこに行ったのか、急に神妙な顔つきで黙り込んだ。
 その、マリアには黙り込んだ時間があまりに長く感じられる。ようやく魔女が口を開いたのは3秒後だった。
「私様よ!」
 マリアの中で怒りが立ちこめると共に、どこかでほっと安心する。
 そうだ、司祭は無関係だったんだ。とそんなことをマリアは考えてしまったが、それは2秒で打ち壊された。
「殺すって言ったのは司祭よ。というーか、計画を作ったのは司祭様〜いやー、ゲスかったなああれは」
「……」

「マリア様?」
「大丈夫……分かってる」
 マリアは大きな失望感に襲われる。
 そんなマリアを思い、呼雪が声をかけてくれるがマリアはなんとか返事をするのが精一杯だった。
「目先のものに囚われてはいけません、マリア様」
 突然、呼雪は語りかけるようにマリアに話した。
「あなたはテンプルナイツ……時に私情を挟まぬ判断を下さなければならない立場なのですから」
「……」
「あなたは、自らの信じているものをもっと深く知りたいと思いませんか? その奥に、何があるのかを」
 呼雪は続けてこう話した。
「俺はそれを知りたくて入信しました」
「!」

 やはり、聞いたようなことだった。
 身近にあるけど知らない、もっと、知るべき物……。
「魔女!! あなたはどこまで知っているの!?」
「なっ、あんたマリア? なんか雰囲気変わったわね」
「そんなのは良いわ。それよりも関わってるのは司祭だけなの!?」
「……さあね? ここまで来て司祭に会ってみれば?」
 魔女はそう言うと、マリア達に背を向けてどこかへ行こうとする。
「ただし、その盾をどうにかできればね。その盾、超強い力でも加わらない限りは壊れないし、動かないわよ」
「じゃあねっ!」
 そう言うと、魔女の姿は消えてしまった。

「盾をどうにかしましょう」
「おい、大丈夫なのかよお前?」
「何がですか?」
「あまりのショックにねじがぶっ飛んだとかさ」
 心配そうに言う、ユキヒロにマリアは笑って見せた。
「大丈夫です。私はただ犯人が分かってむしろすっきりしました」
「そう……」

「とはいったもの、どうしようもならねえぜこの盾。さっきサビクと一緒に盾に攻撃してみたがやっぱりびくともしねえ」
 シリウスはお手上げだと言わんばかりに両手を挙げて言った。
 マリアは手をあごに当てて考え始めた。
 あの魔女、『強い力でも加わらない限り』って言った……強い力。
 あ!
「ワイバーンの火の玉を使いましょう!」
「え」
 その場に居た全員が驚いた表情で、マリアを見た。
 マリアは自信満々の表情だ。
「あの魔女は、『強い力でも加わらない限り』と言いました。ならワイバーンの力ならどうでしょう」
「おいおい、それは本気でいってるのかよ」
「……いや、でも悪くない手かもしれないわ」
 マリアの提案に否定するドリルをよそに、リカイン賛同した。
 今、ワイバーンは惇とヘルが交互に技をかけることで麻痺させ、押さえるのが精一杯だった。
 それを、一度開放しこの盾の場所に引き寄せて火の玉を吐かせるというのが、リカインの考えだった。

「問題は、吐かせるタイミングで誰かがおとりにならないといけないんだよね」
 ユキノはどうしたものかと、考えると一つの方法を思いつく。
「私がやります」
 間髪入れずにマリアが手を挙げた。
 呼雪に「危険だ、自分がやります!」と止められるが、マリアはそれを「自分がやりたい」のだとやんわりと拒否した。
 結果的に、マリアがおとりになることとなった。


「本当に良いんだね?」
 ワイバーンを何とか、グラビティコントロールで押さえている、ヘルがマリアに聞く。
 マリアは静かにゆっくりと頷いた。
「3・2・1・ゼロ!」
「グルァアアアアアアッ」
 まるで雷のような鳴き声、轟音が響く。
 マリアは勢いよく、ワイバーンの真下から盾へと向かって走り出した。
 道はすでに、カル達の手によって開けられていた。
 盾までの距離10メートル!
「シュッーグルルル」
 突然上空が静かになる。ワイバーンはマリアを追いかけなかった。
 それどころかその場で火の玉をはき出す準備に入っていた。

「……このままだと、火の玉が先にはき出されるんじゃねーか?」
 ユキヒロ達は、ただゴブリン達を押さえ込みながら事の顛末を見守る。
 マリアも内心では焦っていた。
 あと、3メートル……けど、ワイバーンは首を後ろに仰け反らせ、まさに発射しようという格好をとっていた。
(間に合って!!)
 1メートル。そこで、目の前は突然真っ赤になった。

「マリア様!」
「マリア……」
 目の前のゴブリン達が居た景色を紅蓮の炎が覆う。
 しかし、マリアの姿はいっこうに見えなかった。
「まさか、間に合わなかったの……?」
「そんな訳が――おいっ、見ろ!」
 シリウスはあり得ないと、言いかけたときふと炎に人影が見えた。

「マリア様!!」
 再び呼雪は名前を呼ぶ。
 拳銃を持った女性。その姿は紛れもなくマリアだった。
「盾は壊れました……行きましょう!」