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村と温泉と音楽と

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村と温泉と音楽と

リアクション


湯るりなす

「ふぅ……大分形になったかな。そっちはどう?」
 温泉施設作り。その中で露天風呂を担当していたリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は分業して一緒に仕事をしているパートナーに話しかける。
「こっちはKANPEKIですよ」
 そう応えるのはブライアン・ヴェルモンド(ぶらいあん・べるもんど)だ。雨よけの天井を作っていたブライアンは板に防腐剤を塗っているところだった。塗り終わったらその板と二メートル近い杭の木材をロープで結んで完成らしい。
「こっちはもう少しですぅ」
 ブライアンの反対側から応えるのはモナルダ・ヴェロニカ(もなるだ・べろにか)。こっちは露天風呂の壁を担当していた。壁としてはもう機能しており、今モナルダはその壁に絵を描いていた。
「ONSEN! なんというHIBIKI!! これはTAIKENするしかないです!!」
 完成が近いのを感じてかブライアンはそういう。今回温泉に入るのが楽しみでこの仕事を手伝っていることをブライアンは否定出来ない。する気も特にないらしい。純粋に楽しみといった具合だ。
「出来たらあたいも入るですぅ。……でも、その前に覗き対策をもっとするですよ」
 絵を書いてる途中にとりもちETCを壁に隠すようにしてつける。よく見ると壁には覗き対策がされており、それを絵が隠しているような形になっていた。
「温泉ができたらレティとユウキをつれて着たいな」
 そんな二人の様子を好ましそうに見ながらリアトリスはそう呟く。ブライアン同様、そういった楽しみを持ってリアトリスは露天風呂作りを手伝っていた。
「KAZOKUでONSEN! すばらしいですね」
「その前に覗き対策を完璧にするですぅ」
 リアトリスのつぶやきにそう好意的な返しをする二人のパートナー。
「……そうだね。後もう少しだから頑張ろうか」
 その心遣いに感謝をしながらリアトリスは二人と力を合わせて露天風呂作りに精を出すのだった。



「ほら、あんたたち、邪魔な岩をさっさと運ぶ」
 温泉施設作り。源泉から温泉を引いてくるためのパイプ作りをしているセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、作業を手伝っている元野盗に指示を出す。
「へい! 姐サン!」
「返事だけはいいのね。こいつら」
 元気の良い返事をして指示にしたがって岩を運ぶ元野盗を見てセレンはそう思う。
「ぼーっとしてたら死ぬからじゃないかしら」
 セレンのつぶやきをそう拾うのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
「? どういうこと?」
 セレアナの言っている意味が分からないのかセレンは首を傾げる。
(機晶爆弾使ってるのに、大雑把だから、ヘタすれば一緒に吹き飛ばされるのよね)
 その辺りを理解してない……もとい意識してない恋人にセレアナは頭痛を隠し切れない。
「ま、でもあいつらがまじめに働いているのはいいことよね」
 うんうんと嬉しそうに頷くセレン。鍛え直したいと思っていた元野盗たち。それが構成に向かっている姿には笑みが溢れる。
(今回の作業を通じて元野盗たちの更生を図ろうとしている姿勢だけは評価してもいいかもね)
 大雑把な恋人にしては理にかなった構成プランだとセレアナは思っていた。
 自分たちで何かものを作らせ、そしてそれを完遂させるという経験をさせる。今までのような他者から奪ったり、あるいは壊したりする以外のこと。それまでの破壊的な行いではなく、自分も建設的なことができる、人に役立つことができる、という自信を芽生えさせる。
 それが元野盗たちを更生させるのに何よりも必要なことだと判断したセレンの考えをセレアナは全面的に指示していた。
「そういえば、あんたらの親分って、今どうしてるの?」
 作業の途中、ふと気になったことがありセレンは元野盗の一人にそう聞く。
「ボスですか? それがいつの間にかいなくなっちまってんですよ」
「ふーん……あいつが一番鍛えがい有りそうだったんだけど」
 性根が一番曲がってそうだったとセレンは思っていた。
「案外、セレンに鍛えられるのが怖くて逃げ出したのかもね」
 そう言うセレアナは、今回の作業風景を見ながらあながち間違ってないんじゃないかと思う。
「だとしたらなおさら鍛えないといけないわね」
 部下を置いて逃げ出すなんてとセレンは思う。
「ま、今はボスより先にあんたらを徹底的に鍛え直してあげるわ」
 とりあえずとセレンはそう言い、元野盗たちに檄を飛ばすのだった。


「これでよしっと……昶、加工終わったから運ぶの手伝ってくれる?」
 ふうと息を吐いて清泉 北都(いずみ・ほくと)白銀 昶(しろがね・あきら)にそう声をかける。二人は木材の加工と運搬を担当していた。湯るりなすは木材を中心に作られているため、二人の作業は完成に重要だった。
「けど良かったよな。ちゃんと温めの温泉も作るみたいで」
 木材を運びながら昶は北都にそう話しかける。話題は自分たちの提案が今回の施設づくりに採用されたことだ。
「だねぇ。熱いお湯より温めの温泉に長く使ってるほうが僕は好きだからねぇ。良かったよ。昶も温めのほうがよかったよね?」
「ああ。熱いとあんまり長く入っていられないからな」
 二人の提案により熱い温泉と、温めの温泉がそれぞれ作られるようになった。温めには引いてくる距離をわざと遠くすることで行い、結構な手間がかかっている。
「薬湯の場所も作るみたいだし、僕達の意見は結構取り入れられたねぇ」
 だからこそやりがいがあると北都は言う。
「ああ。完成して入るのが楽しみだ」
「薬湯に関してはまだどんなふうにするかは決まってないからそっちも手伝わないとね」
 提案した身としてはと北都はいう。
「ん……ここは手摺をつけたほうがよさそうだな。怪我した人が療養で来ることもあるだろうし」
 木材を運び込み、その場を確認した昶はそう言う。
「じゃ、手摺の加工をしようか」
 安全面の確保については現場で気づきできることは現場裁量で好きにやって構わないと、村長であるミナホから許可が出ていた。
「ああ。いい温泉施設になるといいな」
 そう言う昶に北都は頷くのだった。


「珈琲牛乳はウエルカムホームでも取引している業社に頼めばいいでありますな」
 風呂あがりのそれは譲れないと葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は言う。
「やっぱり温泉って言ったら卓球は外せないよね」
 温泉に普通にあるものはあった方がいいとミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は言う。
 温泉づくりが始まった中、二人は木材以外の材料などの手配を担当していた。その中で営業開始後の仕入れ先などもまとめていく。
「ミルディアさん。遊歩道に使う石膏が足りなくなりそうです」
 そうして話し合っている所に作業をしている村人の一人がそう報告をしている。
「分かったよ。あたしが出したアイディアだしね。特急便で手配するよ」
 温泉施設に遊歩道が有ったほうがいいという意見を出したのはミルディアだった。実際自然が豊かであるニルミナスに遊歩道というのはマッチしており、完成すれば名物の一つになるだろうという意見があった。
「あとは休憩室にソファーとマッサージきが必要でありますな」
 定番は外してはいけないと吹雪は言う。
「こうして完成後を想像して配置を考えていると、完成が待ちきれなくなりますな」
 先に先にと次を見越しての作業が中心のためそうなると吹雪は言う。
「うん。こういう計画から参加できるものづくりって楽しいよね」
 あれこれと話し合い、それで自分の意見が反映されるのが嬉しいとミルディアは言う。
「遊歩道……出来るの楽しみだなぁ」
「でありますな」
 図らずしも吹雪の言葉を繰り返したミルディアに吹雪は同意の返事をした。



「大分完成が見えてきたな」
 温泉施設。その建物部分を担当していた黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は、その近づいていく完成を前にそう呟く。
(建築の技術なんて持ち合わせてないから簡単な手伝いと力仕事くらいしかできないけど……この村を拠点にするって決めてから初めての仕事だからな)
 そう心のなかで竜斗は気合を入れる。この村では、契約者が拠点にすることを募集していることを知り、竜斗はそれに立候補していた。特にこの村でやりたいことがあるわけではないが、決め手としてこの間入った温泉が気持ちよかったのがあるだろう。
(ミリーネもロゼも力はある方だし、ユリナだってサイコキネシスで物を浮遊させられる。……この村のためにやれるだけやればちゃんと役立つはずだ)
 自分とその心強いパートナーたちは役立つと。そう竜斗は思う。

「これを持てばいいのであるか?」
 そう村人に聞くのはミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)だ。大きな木材をさしてそう聞いていた。
「はい。……ですが持てますか? あと三人くらい人手が……」
「女だからといって侮ってもらっては困るな。今まで幾度となく試練を乗り越えてきたから力はあるぞ!」
 そう言って自分の背丈以上ある木材をミリーネは一人で持ち上げる。
「不慣れなことではあるが、人助けは騎士道の基本。この村のために死力を尽くそう!」
 力強く持ち上げる姿と心強い言葉。村人はミリーネに感嘆するしかない。
「たまには戦場以外で力を発揮するのも悪くないな」
 村人たちと信頼関係を築きながらミリーネは施設づくりを手伝っていた。

「……これ、切ればいい……の?」
 加工前の木材を前にロザリエッタ・ディル・リオグリア(ろざりえった・りおぐりあ)はそう村人に確認をする。
「はい。その印の線にそってお願いします」
 村人の言葉を受け、ロザリエッタはスパっと一瞬で木材を指示通りに切る。
「お、おぉ……これはすごい」
 あまりにも鮮やかな手並みに村人はは驚きしかなかった。
「足も、尻尾も、刃物だから……木、切りやすい。マスターに装備してもらえば、もっと切れる」
 そう言いながらロザリエッタは思う。
(……少し、怖がられた……?)
 村人の様子から少しだけそんな様子を受け取る。
(……でも、村の人たち……助けたいから頑張る)
 怖いはずなのに離れては行かない。そんな村人たちのために。ロザリエッタは頑張る。

「皆さん、休憩時間ですよ」
 そう作業をしている村人たちに声をかけるのはユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)だ。
「お弁当を作って来ましたので、よろしければどうぞ」
 作ってきた弁当を作業をしている村人たちにユリナは配る。
「はぁー……これは美味しいですね」
 ユリナの弁当を食べた村人はそう感想を言う。
「私は力がありませんから……こういう所で役に立ちたいと思ってるんですよ」
「いやいや、あなたのサイコキネシスは十分に役だってますよ」
「そうですか? 役に立っているとおっしゃっていただけるとやっぱり嬉しいですね」
 竜斗がこの村の役に立ちたいと思った。その竜斗の役に立っていると実感できるから。
「たくさんあるから、急いで食べなくても大丈夫ですよ」
 ユリナの料理を書き込む村人たちにユリナは優しい笑顔でそういった。

「……うん。この村でやっていけそうだ」
 村人とパートナーたちの交流を見ながら竜斗はそう思った。



「うむ。岩風呂を作るぞ」
 周りが木材を加工している中。夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はいきなりそんなことを言う。
「またそなたは無茶を言い出すの」
 甚五郎の言葉に草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)はため息をつく。
「確か向こうに元野盗達の手で邪魔な岩が集められていたな。それを利用すれば可能だろう」
「それを加工するのは一苦労なんじゃんがな……」
 それを置いておいてもと羽純。
「岩風呂を作る計画などなかったから、ちゃんと許可を取らなぬといけぬぞ」
 基本的には全て木材で温泉の枠を作る予定だった。

「岩風呂ですか? いいですよ。作ってもらって」
「なんじゃ、村長。来ておったのか。いろいろ話し合いで忙しいと聞いておったが」
 甚五郎と羽純が話している所に許可を取らないといけない相手、村長であるミナホちょうどよくくる。
「まぁ……忙しいのは忙しいんですが……ちょっと無視できない報告を受けまして」
「?……よく分からぬが大変そうじゃの」
 重い溜息――またかという雰囲気の――をつくミナホに羽純はそう言う。
「しかし、流石村長。話がわかる」
「基本的に今回はあったらよさそうという意見は全面的に取り入れてます。村の目玉ですから」
「うむ。だからこそやりがいがある」
 ミナホの言葉に甚五郎はそう返す。
「まぁ、村長の許可があるならちと骨は折れるが岩風呂を作るかの」
 羽純としても作るのは大変だができた岩風呂に入るのは楽しみだ。そう思いウェンティゴを召喚し、岩風呂づくりを手伝わせる。
「よし、やるか」
 そうして甚五郎と羽純は岩風呂作りにとりかかるのだった。

「ふむ……ここが源泉ですが……場所的には下に鍾乳洞がある感じですね」
 温泉の源泉についた阿部 勇(あべ・いさむ)はそう言う。
「いや……鍾乳洞の探索済みの場所の奥付近ですから鍾乳洞じゃない可能性もありますか」
 地理データをきっちりと合わせて勇はそう確認する。
「そっちはなにか分かりましたか?」
 一緒に源泉の調査に来ていたルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)に勇は聞く。
「んー……魔力計が全然反応しないんだよ」
 残念そうにルルゥはそう言う。意志薄弱を治すという不思議な効果のある温泉だ。何か魔法的な仕組みがあるんじゃないかとルルゥは思い調べてみていた。
「魔力が反応すればいろいろ謎が解けたのになぁ……」
 この温泉よく分からないんだよとルルゥ。
「魔力はない……ますます胡散臭い温泉ですね」
 どこから意志薄弱を治すなんて効果が出てくるのかと勇は思う。
「……って、あれ?」
「どうかしましたか?」
 首を傾げるルルゥに勇は聞く。
「今魔力計が動いたような……? あれ?」
「気のせいじゃないですか?」
 ルルゥの言葉に勇も魔力計を見るが、針は動く様子はない。
「うーん……でもやっぱり動いたような気が……」
 勇が調査を終えるまでの間、ルルゥは頭をかしげるのだった。




「……ここですか」
 村長として報告を受けてくるはめになった場所。というか建設中の湯るりなすのすぐ隣。自分がでないといけなくなった原因を思い浮かべミナホはため息をつく。
「……行きますか」
 いつの間に作られたのか簡単な仕切りを越えてミナホは問題の場所に踏み込む。
「いらっしゃいミナホちゃん! 交流入浴場へ!」
 踏み込んだ先。待っていましたとばかりに言うのはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)だ。
「あー、はい。レオーナさん。私忙しいので説明お願いします」
 最初に比べてミナホの対応が雑になったなぁとクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)は思う。自分同様にもう諦めてるんだろうなぁとも。
「よく聞いてくれたわミナホちゃん。『交浴』ってのは人間同士の交流だけでなく、ニルミナスの持ち味たる魔物や獣や人外との交流も狙って。人間でも獣も魔物も人外も、何でも入っていいお風呂なの!」
 どやっと言いそうなレオーナの表情。その格好は安全ヘルメット・地下足袋・ツナギ・軍手で、分かりやすいくらいの炭鉱夫姿と相まって男前だ。
「はい。レオーナさんの考えにしてはまともな部類だと思いますし。素直に素晴らしい考えだと思います」
 ですがとミナホ。
「レオーナさん。正座してください」
えー? なんで? と言いながらもレオーナは素直に座る。
「許可も取らずに村の土地に大きな穴を開けるなんて話がどこにあるんですか」
 だからこうしてミナホは忙しいのを押してここにくることになった。村人では暴走するレオーナを止めることは出来ないから。じゃあミナホなら止められるのかと聞かれたら微妙だが。
「鉄心さんは小さな花壇を作るのにもちゃんと私に許可を貰いに来たんですよ。甚五郎さんたちだっていきなりでも岩風呂作ること報告して来ました」
 くどくどと説教をするミナホ。炭鉱夫姿の女性が正座して怒られるという状況はシュールを通り越して傍から見ると気まずい。
「――というわけで一時間正座していてください」
 ひと通り言いたいことを終えてミナホはレオーナの元を離れる。そうしてこちらを見つめていた二人のもとに向かう。
「お疲れ様です。ミナホ様。それといろいろと本当にすみません」
 自分のパートナーを止められなかったことなどいろいろとミナホに謝る。
「いえ……その格好を見ればクレアさんも被害者なのは分かりますし……」
 クレアもレオーナ同様炭鉱夫姿だ。いつも通りレオーナに騙されて丸め込まれたんだろう。
「それで、そちらの方は?」
 もう一人、この場にいる人物のことをミナホは聞く。
「レオーナ様の新たな犠牲者です。……ティナ様、自己紹介をお願いします」
「ティナ・プルートだ。よろしくポン」
 キラッとウインクをするティナ・プルート(てぃな・ぷるーと)
「………………すごく個性的な方ですね」
 見た目とのギャップにミナホは閉口する。
「? この地域特有の挨拶だとレオーナから聞いたのだが……何かおかしかったか?」
「ああ……なるほど。新しい犠牲者ですね」
 クレアの言っていたことが分かりミナホは息をつく。
「ティナさん。わからないことや困ったことがあればなんでも私に言ってください」
「? なら早速。レオーナが温泉施設に名前を付けたいと考えていたんだ。採用してもらえないだろうか?」
「残念ながら温泉施設は湯るりなすっていう名前に決まってるんです」
 ミナホの言葉に正座しているレオーナからえー? という声が上がる。
「そうか……『ニルミナ湯』という名前を一週間夜も眠らず考えていたみたいだが」
「昼寝のしすぎですね」
「……すごいぞクレア。ミナホはきっと超能力者だ」
 感心する様子のティナ。
「……というわけで、あの温泉施設の名前にニルミナ湯を使うのはできません」
 だから、とミナホ。


「この温泉を早く完成させて、この温泉の名前に使えばいいんじゃないですか」