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リアクション
「幸せになって欲しいと笑顔でいて欲しいと願っているはずだ。そしてここから出られずに憎しみと復讐に囚われている君の事を心配している」
優は今なら説得できるかもしれないと語調を強める。
「……言ってたもん、パパとママが喜ぶって……パパとママに聞いたって」
リリトは頑なまま。
「それは嘘だ。大切な娘にそんな事、苦しみ続ける事を願う親はいない。俺達と一緒にここから出よう。そして会って確認しよう」
優は手を差し伸べる。
しかし、リリトは優の手を取る様子は無い。
「……」
自分が信じているものを否定され、困った顔をするリリト。どうすればいいのか分からない。目の前に現れた見知らぬ人を信じて良いのかどうか。自分が亡くなったのも目の前に現れた見知らぬ人のせいだった。だからこそ知っている者以外信じられない。悪い人をこらしめる方法を教えてくれた魔法使いさん以外は。
「優の言葉を信じて下さい。もう恨まなくて良いんですよ」
陰陽の書はリリトを気遣う真摯な気持ちを言葉にする。
「優は必ず約束を守る。ここにいる俺達も手を差し伸べて救ってくれたんだ。ここにいるのは優だけじゃない。俺や他のみんなもいる」
聖夜も説得に加わる。
しかし、
「嘘だもん。みんなみんな悪い人だもん」
リリトは長く孤独であったせいか説得者達の優しい言葉が信じられなかった。含まれていない悪意を感じていた。何もかもが敵であると。
リリトの怒りは周囲の空気を振るわせる。
その時、タイミングを見計らったように最後の説得者達が登場した。
「落ち着いてこれを見るのじゃ」
羽純は手に持っていた古城の事件の記事をリリトの前に突き出した。嘘偽りの無い証拠を。
震える空気は静かになり
「!!」
リリトは目の前に現れた自分の死亡が載った記事にわずかに驚きを見せた。
そこに間髪入れずに
「リリトちゃん達に悪い事をした人はもういません。これがその証拠です」
ホリイの言葉と羽純が突き出す犯人死亡の証拠を見せた。
「……」
リリトは食い入るように証拠を見つめていた。
「そして、そなたが魔法使いさんと会ってから起きた事件じゃ。これは全てそなたが起こしたものじゃ。そなたと同い年の少女もおる。何の関わりの無い者達を傷付けておるのは事実じゃ。厳しい事ではあるがのぅ」
羽純はミシュ一家を含む前住人の事件の記事を見せた。
「……あたしが……した」
リリトは自分のした事がいかなるものかを形として目の前にある事に少し戸惑いを見せていた。
「そんな事をさせる魔法使いさんは本当によい人であると思うかのぅ?」
羽純は古城の事件からリリトの魔法使いさんを信じる心を砕こうと考えたのだ。
「そうだ。おぬしが信じるべきは別の者だ。それはここにいる者だ。羽純、あの写真を出せ」
甚五郎は最後の説得材料の提示を指示した。
「これはそなたの家族の写真じゃ。裏には……」
そう言って羽純は家族写真を見せて裏返した。そこに撮影日とちょっとしたメッセージが書かれてあった。甚五郎達はそのメッセージが力を持つだろうと説得材料に採用したのだ。
「……パパの字。写真を撮るのが好きで……」
リリトは食い入るように丁寧に書かれた幸せに満ちたメッセージを見つめていた。
「“大切な家族といつまでも一緒に”とある。そなたの両親はずっと来るのを待っておるはずじゃ」
羽純は優しい口調で証明を締めた。
「とても優しそうなお父さんとお母さんです」
ホリイはリリトを真ん中に幸せそうに写っている両親に笑んだ。
「……優しかったのに……」
写真を見る事で今は無い幸せに涙がこぼれ、奪われた事への怒りと知りたくない事実を知った戸惑いが噴き上がる。
「大丈夫。貴女に悪い事をしようとする人が居たら私達が守ってあげる。だから、信じて」
零が何とかリリトの異変を止めようと声をかける。
しかし、様子は変わらない。
「……って」
怨念がこもる声、腕からするりと地面に降りて飼い主の前に立ち塞がるシャンヌ。
「……出て行って!!」
リリトは声を荒げた。そんなリリトの気持ちに呼応するかのように写真や証拠の記事は全て燃えて灰になり貯蔵庫に保管されていた物が宙を飛ぶ。シャンヌは飼い主がいじめられていると思ったのか説得者達に威嚇の声を上げた。記事や写真を持っていた羽純は『イナンナの加護』で危険を察知し、素早く手放したため無事であった。
「出て行くつもりはないわ。あなたを助けるまでは」
強い意志に満ちた目をリリトに向け、墓守姫は真っ直ぐリリトとの距離を縮めようと一歩を踏み出す。
「墓守姫さん!」
姫星は武器を取りに戻る事なく突き進む墓守姫を呼び止めようとするが、止まる様子は無い。物が飛んで来ようが、地面に落ちて割れた瓶の破片が腕を傷付けようが足を止めない。ただし傷は『リジェネレーション』で回復しているので問題は無いが。
他の説得者達も自分と皆の身を守るため動き始めた。
「!!」
ホリイは『オートガード』で襲って来るシャンヌから身を守った。
「物が!!」
リリトの荒ぶる心によって飛散するガラス瓶や物が詰まった袋を陰陽の書は『サイコキネシス』で飛んで来る物をことごとく地面へ落下させ皆を守る。
「怖がらなくていいんだよ!」
「少しでも心が晴れるように歌いましょう」
ノーンは『クリスマスキャロル』、姫星は『幸せの歌』でリリトの心を癒そうとする。
そして、
「リリトちゃん、もう怖がらなくて、いいのよ」
リリトの元に辿り着いた墓守姫は彼女を抱き締めた。抱き締めると言っても相手は幽霊なので空気を抱き締めていると同じだが、今はそんなな事は関係ない。自分の気持ちが伝わればいいのだから。
「……」
抱き締められたリリトは動かないが、荒ぶっていた周囲の様子は落ち着きを取り戻していた。幽霊なのですぐに抜け出す事だって出来るがそうはしなかった。
その様子を離れた所でシャンヌが心配そうに見ている。
「……行きましょう」
舞花はシャンヌを抱きかかえ、リリトの元へ行った。
「リリトちゃん」
「……シャンヌ」
舞花からそろりとシャンヌを受け取り抱きかかえた。
姫星とノーンの歌が響く中、リリトは改めて集まった説得者達を見回す。目には信じてもいいかもしれないと思う光があった。その理由は、自分が何度も出て行くように言ってもどこにも行かず、暴れても逃げないし危害を加えるような事はしない、何より優しい言葉をかけ続けてくれている。
その事はリリトの胸に強く刺さり、
「……ふぇぇぇぁぁぁあぁぁあん」
大泣きさせた。次から次へと堰を切ったように溢れ続ける涙。
説得者達は静かにそれを見守り墓守姫はずっと離れない。
「…………ごめんね……ごめんね」
涙が少しだけ収まり、説得者達にしゃっくりを上げながら謝る。その姿は憑き物が落ちたかのようだった。ただそれだけではない匂いもほんの少し含んではいたが。とにかく説得者達には怨念や復讐ではなく悲しくて寂しくて後悔しているただの女の子に見えた。
リリトは傍らにいる墓守姫をちらりと見た後、ゆっくりと説得者達の元に歩み寄り
「……本当に……悪い人……なの……魔法使いさん」
恐る恐る自分が信じるものについて小さな声で問いかけた。
「……本当です」
エオリアが皆を代表して答えた。答えは残念だが、口調は優しい。
「…………」
リリトは答えるエオリアを見た後、
「……悪い人……もう……いないの?」
質問を続ける。声は先ほどよりも小さく水分を含んでいた。
「いないよ。いるのは君の味方だけさ」
エースが笑顔で答える。
とうとう声は消え入りそうなほど小さくなり、震え
「全部、全部、あたしが悪いの?」
目からは涙が溢れる。
「……一番悪いのは貴女達家族の命を奪った人と魔法使いさんです」
零はリリトの前に屈み、癒す笑みを浮かべながら言った。
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