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リアクション
しばらく後、
「ただいま戻りました」
「ただいま!」
子供達と猫達を連れたホリイとノーンが戻って来た。探検やかけっこに鬼ごっこなど遊びという遊びをして楽しんだ。クッキーの効果が割り増しされていたため途中で切れる事は無かった。
「ただいま、お父さん、お母さん」
ミエットは両親の元に戻った。
「それじゃ、もうそろそろ行こうか」
クラーナは娘の手をそっと握った。
「リリトちゃんとシャンヌも」
オランドは猫を抱いているリリトにも手を差し出した。
「うん」
リリトはしっかりとオランドの手を握った。
「えと、おばあちゃんとおじいちゃんは?」
ミエットはふと逝く様子の無いウルバス老夫妻に気付いた。
「もう少し旅行してから逝くわ」
ハナエは屈んでミエットと目を合わした。
「……そっかぁ。せっかく会えたのに」
ミエットは残念そうに言った。生前からウルバス老夫妻には孫のように可愛がられていたから会えなくなる事が少しだけ寂しい。
「そうね。私達も会えて良かったわ。今度会う時は旅行のお話をいっぱいしてあげるから」
「うん。絶対だよ。約束!」
ミエットはぱっと顔を上げて、母親と手を繋いでない方の手を出し、小指を立てた。
「えぇ、約束!」
ハナエは小さな小指に自分の小指を絡めて指切りをした。
「おじいちゃんも!」
ミエットはハナエとの指切りが終わったらヴァルドーと指切りをしようとした。
「……」
ヴァルドーは不器用な性格からかなかなか素直に指切りなど出来ない。
「おじいちゃん?」
つぶらな瞳でじっとヴァルドーを見上げるミエット。手を下ろす様子も妻や両親が止める様子も無い。
「……あぁ、約束だ」
観念したヴァルドーはぎこちない様子で小指を絡めてミエットと指切りをした。
ミエットとヴァルドーの指切りが終わったところで
「ハナエさん、ヴァルドーさん、また今度」
「お先に逝きます。お二人ともお元気で」
クラーナとオランドは明るい別れの挨拶をする。
「ばいばい」
「……ありがとう」
ミエットはみんなに手を振り、リリトは礼を言って風景に溶け込み、消えた。
これにて古城の変死伝説は終幕を迎えた。
ウルバス老夫妻もまた古城を去り、自宅に戻った。
古城、廊下。
「これからゴミの分別について一から教えるからよく聞けよ。ちなみその話が終わったら調合についてロゼから話があるからな」
シンは分別箱の前に立ち、オルナ相手にゴミ分別の指導を始める事に。
「みっちりだなぁ」
当然げんなりするオルナ。
「何、呑気に言ってるの。きっちり聞くのよ。どうせ右耳から左耳に抜けるだろうけど」
オルナの保護者としてササカも参加している。げんなりするのはササカの方だ。
「今回はこの通り、捨てるゴミを書いたラベルを貼ってある。底にも」
シンがまず説明するのは分別箱についてだ。分別箱の数や設置の仕方は前回と同じだが、今回は箱の空白という空白に捨てるゴミの種類を大きくと書いたラベルをきっちり貼ってある。しかも普通は見えない箱の底にも。
「底はいらないと思うんだけど」
底のラベルを見て反論するオルナ。
「倒した時に分かるだろ。一番良いのはこの通りにゴミを捨てる事だが、それが上手くいかない事はよく分かっている」
講師たるシンは容赦が無い。前回と今回の大掃除でオルナがどれだけ掃除が下手で物忘れが激しいのか知っているため念には念をという事だ。
「……」
シンの正論に言葉が出ないオルナ。
「だからあれこれ細かく言うつもりはねぇ。魔法ゴミと普通ゴミを別々に捨てろ。服や物に少しでも魔法薬が付いたら確実に魔法ゴミの方に入れろ。それ以外は最悪ごっちゃで構わねぇ。本当はきっちり分別して欲しいが、どうせ忘れるだろうからな」
シンは言いたい事は山ほどあるがどうせ忘れてしまうだろうと考え、最も気を付けて欲しい事を一つだけ言った。
「……それだけ?」
オルナは予想外の事に聞き返した。紙ゴミはここで燃えないゴミはここだとか脳が茹で上がるほどごちゃごちゃ言われるかと思っていたのだ。
「魔法ゴミが一番危険だからな。大体危ないだろう、危険な薬品が散らばる中で実験は」
シンは語調を少しゆるめ、気遣いを込めて言った。
「……うん。ありがとう」
オルナはシンが心配してくれていると察し礼を言った。
「……あ、あのな、別に心配して言っているわけじゃねーからな!」
照れ屋のシンは礼を言われ、少しどもりながらぶっきらぼうに言った。
そこに
「オルナさん、忙しい所いいかな?」
「お気の毒なのですが……」
三枚の紙切れを持った北都とクナイが現れた。
北都は持っていた紙切れをオルナに手渡した。
「ん、んん? な。何、これぇえ!?」
紙切れを見たオルナは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「それはオルナが後で支払うものよ。業者の手配、ありがとうございました」
ササカはオルナに適当に答えてから面倒を掛けた北都達に頭を下げた。
「ちょ、ササカ、聞いてないよ!! てか、凄い金額だけど」
「聞いていないのは、言うのを忘れてたから。それに高額なのは仕方無いでしょ、ここ城だから。全窓の張り替えと厨房などの修繕とかゴミの引き取りとか」
オルナの必死の訴えに正論でさらりと答えて流すササカ。言わなかった事は確信犯だったりする。言えば壊れたままでいいと言いかねないので。
「あぁあぁぁぁぁぁぁ」
オルナは紙切れを握りしめ、悲痛な叫び声を上げた。
「自業自得よ。命が無事なだけありがたいじゃない」
ササカはぽんと親友の肩を軽く叩きながら容赦のない言葉をかけた。
「……連絡した業者は腕の良い良心的な所を呼びましたので」
クナイは少しでも慰めになればと言葉をかけるが、今のオルナには届いてはいなかった。
「……それじゃ僕達はこれで」
北都は挨拶をしてからクナイを連れ、食堂へ移動した。
オルナが落ち着いてから
「次は調合ですけどいいですか?」
ローズがオルナに訊ねた。
「…………いいよ」
オルナは沈痛な声で答えた。すっかり騒ぎの酷さを思い知った。
「調合は十分に気を付けてして下さい。以前も倒れた事があった事ですし。実験器具は清潔に保ち、素材は何度も確認して下さい。作業をする度しつこいぐらいして下さい。もし何もかも忘れた場合は、弄らず即廃棄して下さい。そうすれば少しは安全だと思いますから。それとですね、魔法系統はあちこち城内放置しないようにして下さい。よく分かっていると思いますが」
ローズは先生のように丁寧に説明をした。これまた言いたい事は山ほどあるが、どうせ忘れられるので実験器具と確認と破棄についての三つだけに絞った。
「……なるべく気を付けるよ。ササカもいるし」
オルナは元気の無い声で答えるとちらりとササカの方に視線を向けた。親友に依存してはいけないと分かってはいるが、どうにもやめられない。すでに癖になっている。
「……はぁ、本当に保護者な気分よ」
ササカは気苦労のため息をついた。
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