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2023春のSSシナリオ

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 賑やかに過ぎる(と言えば聞こえがいい)休日 1

――今日の神崎 優(かんざき・ゆう)の自宅の庭には、1つのリングが備えられていた。
 これは普段から存在する物ではない。【特設リング作成キット】によって作成された物である。
 リングの上には大量の丸太や竹刀、そして神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が立っている。
「聖夜、いいな?」
 リングから降りた優が聖夜に言うと、グッと親指を立てる。明後日の方向を向いて。
 聖夜は目隠しをしていた。これから始まる為に必要な行為である。
「……だそうだ。やってくれ」
 優が刹那に言うと、若干不安そうに「いいんですか?」と問う。
 しかし「構わない」と優が頷くと、「そう言うなら……」と構える。そして【サイコキネシス】で1本の丸太が宙に浮くと、聖夜に向かって放たれる。
「ぐぉッ!?」
 そしてヒット。
「ほら、気配を察しろ。でないと当たるぞ?」
「もう当たったっての……どあっ!?」
 今度は危険を察知したのか、聖夜は辛うじて避ける。ちなみに丸太、といっても模造品である為、当たってもそこそこ痛い程度である。
「他に気を取られると危ないですよー?」
 そう言いながら刹那が次々と丸太と竹刀を適当に選び、聖夜に放つ。段々と慣れてきているようであった。
「あら。休憩するには随分早いんじゃない、優?」
 リング上の2人を眺める優に、神崎 零(かんざき・れい)がからかう様に笑いながら言う。零の手にはお茶が乗ったお盆があった。
「休んでるわけじゃない。聖夜の動きを見てるんだ」
 優はそう言って零からお茶を受け取ると、一口啜る。
「それにしても、急に『稽古をつけてくれ』だなんて驚いたわ」
 零がリング上に目をやり呟く。
「何か思う所でもあったんだろ。まぁ、いい事だとは思うけどな」
 もう一口優は茶を啜ると、視線をリング上へやる。
 その視線の先にあるのは、適当に選んだ丸太を次々と放つ刹那と、それを辛うじて避けた、と思いきや当たってのけ反ったりダウンしたりする聖夜だ。

 話の発端は、昨日の事である。
「優、頼む。俺に稽古をつけてくれ」という聖夜の頼みであった。
 少しでも優や他の契約者達に追いつくために実力を上げたい、という聖夜の願いからきた頼みであった。
「そういう事なら付き合おう」と優は聖夜の頼みを了承。早速休日である本日に、庭に稽古場としてリングを設置したのであった。

「それで、アレは何の稽古なの?」
 優の隣に腰掛けた零が、リング上の稽古に関して問う。
「ん? ああ、あれは気配を察知できるようにするのと、色んな状況で対処できるようにする訓練だ。さっき立ち会ったんだけどな、どうも獣人の特性に頼りすぎる所があるからなぁ……」
 優が思い出したように、軽く溜息を吐く。
 先程優が聖夜と軽く立ち会った際、気付いた点である。
 獣人である特性を利用して戦うのは決して悪い事ではない。だが、聖夜の戦い方は利用する、というよりも頼り切り、といった方が正しい。
 それ故生じる欠点に対処できず、優に太刀打ちできなかったのである。
「でも、目隠ししたままで大丈夫かな、聖夜……」
「……大丈夫じゃないかもしれないなぁ」
 零が苦笑すると、優が渋い顔になる。
「ほらほらー! 次はこっちですよー!」
 最初の不安げな態度は何処へやら。嬉々として刹那が丸太を放つ。
「おわっ!?」
 段々と慣れてきたのか、聖夜が身を捩ると丸太が落ちる音が耳に入る。
「あ、あぶねー……っとぉ!?」
 直後、竹刀の突きが放たれた。
「ふふ、成功成功」
 ダウンする聖夜を見て、刹那が嬉しそうに笑う。どう見ても楽しんでいるようであった。
「まあ、最初から無理あるか……おーい聖夜ー! 目隠し外して良いぞー!」
「ぐぉ……い、いいのかー? いいんだなー?」
 丸太を鳩尾に食らい、膝を着きつつ聖夜が目隠しを外す。少しばかし暗闇に慣れた目に、日の光が眩く感じ目を細める。
「……ふぅ。さぁこれで足枷は無しだ! 今までの俺とは思うなよぉッ!?」
 そして聖夜の顔面に丸太がドン。流石に軽くても、これは痛い。
「あら、良いんですか? 本気を出してしまっても?」
 立ち上がろうとしている聖夜を刹那が凄いいい顔で見ていた。この役を完全に楽しんでいる。

――そこから聖夜が目隠しを外したように、刹那も羽目を外し、本気で殺しにかかっているような過激な物へと変わっていった。
 最早これが稽古だった、という事を忘れそうである。

「……ゆ、優……頼む……手本を見せてくれ……」
 ボロボロになった聖夜を見て流石に可哀想に思えたのか、優が「仕方ない」と腰を上げた。その時であった。

「たのもーっ!」

「あら、お客さん?」
 零がそう言うと、優達も声のした方に目を向ける。
 視線の先に立っていたのは、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)であった。
「ん? ハーティオンか。どうしたんだ?」
 コアに優が声をかける。
「はろろ〜♪ お邪魔するわよ〜っていうかしてるわよ〜」
「……は?」
 普段のコアとは違う口調に、呆気にとられる優。それに気づいてか、慌てた様にコアが咳払いをする。
「コホン……わ、ワタシはソ、ソークーガクエンのぽんこつロボことハーティオンよ……じゃないくてハーティオンだ!」
「……あの、頭とか打ったりした?」
 零が不思議そうに問うが、コアは「いつもどーりいつもどーり」とぎこちなく首を横に振る。
「……で、何か用か? そんな木刀なんて持って」
 優がコアの手元を指さす。コアは手に古ぼけた木刀を持っていた。刃部分に何か書いてあるようだが、よく読めない。
 聞かれたコアは、「よくぞ聞いてくれた!」と、木刀の切っ先を優に突きつける。
「優が稽古してるって話は聞かせてもらったわ……もらった! というわけで、正々堂々と勝負よ……じゃなくて勝負だ!」