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リアクション
第8章 おそーじさせましょ、おそーじしてあげましょ Story5
リオンを挑発しようとしているのか。
シルキーを取り込んだ者たちは、草むらで殺気立つ猫をつまんでは放り投げた。
「はははっ。目当てのもんじゃねーんだから、あっちいけよ畜生が」
「また、かわいいもふもふさんたちをいじめて…っ」
「うん…、分かっているから。抑えて、リオン」
怒りを静めさせようと北都は、拳を握るリオンの肩をポンポンと叩く。
「(わざと術の威力を落とさせようとしているみたいだね)」
黒魔術と違い、清らかな精神力を要求される祓魔術の力を、下げようと狙っているのだとはっきりと理解できる。
「そーんなに、コレが大事なら。くれてやるよ、しっかり受け取りなっ」
「あわわっ!?」
放り投げられた猫が、リオンの顔にぺたんとぶつかる。
「よしよし、怖かったですよね。もう安心ですよ」
「おい、リオン!!猫をいじってる場合じゃないぞ、術に集中しろ」
「わ…分かってますよ。まったく怖いお兄さんですよね、ねー猫さん♪」
「誰が怖いお兄さんだ!猫と話す暇あったら詠唱してくれ。…おわっ」
ほのぼのと猫をもふるリオンを叱っていると、隙を狙っていたのか相手のバケツから猛毒の水が発射される。
箒を傾けかわそうとしたが、僅かに被ってしまう。
「ソーマ、大丈夫?」
「あぁ。問題ない、北都。この俺が守ってやる。だからお前たちは自分のやるべきことをやれ。(つっても、何度も受けるわけにはな…)」
アークソウルで毒に対する抵抗力があるとはいえ、くらえばくらうほど蓄積していく。
姿を見ることは出来ないから、いつ撃ってくるかは分からない。
気配の探知に精神を集中させてバイオポンプをかわす。
「はわっ、砂利がこっちに来ますよ。猫さんに当たらないようにしてくださいね」
「カタクリズムかっ」
念力の嵐に巻き込まれた砂利がソーマたちを襲う。
「援護するよ♪」
弥十郎は祓魔銃のトリガーを引き、霧のミストで自分のほうへ注意を向けようとする。
「うぜぇぞ、てめーっ」
「わっと…!ふぅ〜、できればあまり被りたくないからね♪」
空を舞う斉民から瞬間的に加速をかけてもらい、バイオポンプをかわしてミストを撃つ。
“ミストのほうへ術を使って!”と、ソーマの箒に乗っている2人へアイコンタクトを送る。
彼らは黙ったまま頷き、北都から詠唱を始める。
酸の雨を被ったシルキを取り込んだ者を、リオンが光のウェールで包む。
「シルキーは離れたようだな」
アークソウルの輝きの色が変わり、重なっていた気配が別れる。
「これが、ヒト、というもの?………道具、じゃない…のに」
悲しげに空を仰ぎ、葦原の長屋から去っていく。
「―…こいつらのせいで、オレたちまで誤解されそうだな」
「どうかな。分かってもらえたと思いたいね」
破壊をもたらすヒトでなくなった者と自分たちは違うことを、理解してくれただろうか…とパートナーの双眸の先を見つめる。
「なんか川のほうから、光が…」
空へ打ち上げられた光を、セシリアが見つける。
「何かあったのかしらね?」
「おわぁ!?足になんかぶつかったようなっ」
ズボンに柔らかいものが突撃し、目にも止まらぬ速さで去っていった。
「タイチ、どうかしたの」
「いや、今…小さくって柔らかいもんがぶつかった気がしてさ」
「気配は感じられないみたい。もう、行っちゃったのかも」
足に激突した小さいやつはアークソウルの範囲の外らしく、意識を集中させてアリなどを除外したとしても、気配は地球人を除いた数しかない。
「目に見えないやつはいるか?」
「ううん…今のところは、そんな感じはしないわ。…イタッ!?…動物の毛かしらこれ」
後頭部に何やらもふっとしたものがぶつかり、頭をさすり手の平を見ると細い猫の毛がびっしりついていた。
「よこせっ」
目を恐ろしくギラつかせたレティシアが、セシリアの手から猫の毛を一瞬にして奪い取る。
「むっ。こ、これは」
「レティシアさん?」
手元をぷるぷると震えさせるパートナーの顔をフレンディスが覗き込む。
「毛色が似ているが、猫又のものではないっ」
「その猫又さんって取り込まれたりしてるのかしら」
「ベルクに届いたメールを見たが、そうだとはなかったな。だとすれば、斬り刻んでやる。もちろん、離れた後だがな」
首を傾げて聞くセシリアに言い、“そのようなことをすれば殺す!”と目に殺気を宿らせる。
「え、あぁそういう話なのね」
“目が怖っ!”と感じた彼女はレティシアと距離を取る。
「空から降ってくるぞ…」
「おや……?」
グラキエスの声にエルデネストも空を見上げ、驚いたように目を丸くする。
「全て、我が守る。ベルク、肩を借りるぞ」
「ぶぎゃっ」
“肩”じゃなく“頭”を踏みつけられ地面に突っ伏す。
にゃぁにゃうー、にゃぁああ〜!と叫び、落ちてくる猫をレティシアが腕の中へキャッチする。
「酷い目に遭ったんだな。よしよし、怖かっただろう…」
もふもふの毛に顔を埋めて、猫たちを抱きしめる。
「やっぱ、猫好きなんだな?」
「は…、そ…そんなわけではないだろ!」
顔をにやつかせるベルクにキレ、力の限り足を踏んづける。
「いってぇえええ!?(いーかげん認めろよなっ)」
激痛に悲鳴を上げて痛む足を摩る。
「民家の中から気配がする」
「ふむ。猫又のためにも、やつらを追い出せねばな」
グラキエスから戸のほうへ視線を向けて祓魔銃を構える。
「あまり近づくのは危険だ、動いていないようだからな」
「ヴェルレクがえっと、あの…あるじぃい!な人を守ってね!」
「はぁ?誰よそれ、正しい名前ちゃんと言ってくれない?」
「だって、無駄に名前言うよりわかりやすいでしょ、この場合」
「そんなだから、いつまでもチンクシャなのよアンタは」
「うるさいぞ…、そこ」
外にいることを知られているのにも関わらず、騒ぐ2人を今にも殴りかかりそうな勢いで樹が睨む。
「ご、ごめんなさい、タイチのお母さん。あと、何かの時にはわたしの苺ドロップ使ってくださ〜い!」
「ほう、もらっておくか」
いつでも口へ投げられるように、袖の中へしまう。
「エキノ。お前は盾となるには小さいが…頼っても良いのだな?」
「抵抗力がない分、修復に必要な精神力はいただきますけど〜。多少は、お守りする盾になれるかと思います〜。あっでも、石化とかは防げないですよ?」
「さて…どう仕掛けてくるか」
樹は戸から離れ、どうやって追い出せばよいか頭の中で策を練る。
「おやおや、正面ばかりですか。グラキエス様、対象ならどうするか…。考えてみると、まず…何をしてくるか分かりますよ」
「(呪いの抵抗を得られるのは厄介。だから、2人を?)」
火山で対峙した時、真っ先に誰を潰そうとしたか思い出し、クローリス使いの2人を見る。
「(それに呪術を使っても、ほとんど効果はない。だとすれば…)」
僅かに気配が動いたのを感じ、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)の傍に立つ。
「そうか。注目しなさそうな隙間から、くる可能性もあるということだな」
小さな格子状のところへ目をやり、灰色の液体のようなものを目にした。
アークソウルに精神力を与え、宝石から発するアンバー色の輝きを片手に集めて、石化の魔法をから守る。
「出てこないなら、出てこさせるまでだ」
結界石…神籬の境界線を家の中へ敷き、炙り出そうと試みる。
「(エルデネスト、外のほうへ)」
「(承知いたしました、グラキエス様)」
彼のアイコンタクトに笑顔で返し、ホーリーソウルの邪を撃つ力を五指の先に集中させ、気配を感知した先を?く。
「気づかれたか?となれば、裏か。…ベルク」
「ひとつじゃねーぞ」
「あぁ、分かっている。アウレウス、念のため香りを」
「はい、主の望みとあらば。……ウィオラ!」
「かしこまりました。あなたの望む使命は、私の使命」
空へ散った花びらはパチパチと弾け、控えめな甘い香りを漂わせる。
「フレイ、器のほうをな」
「了解です、マスター」
ドジッ娘の表情を消して裁きの章を開き、詠唱ワードを紡ぐ。
ベルクが示す先へ、酸の雨を降らせる。
「―……、すみませんっ」
「やろう、逃げる気か」
炎の翼にエターナルソウルの加速をかけ、逃すものかと追う。
「盗ったもんを返しやがれ。それと、取り込んだ魔性もな!」
「はーぁ?見つけたやつを、どう扱おうが勝手だろーが」
「ざけんな、お前らの道具になんてさせるかよ」
「じゃー、引き離してみろよっ」
青いバケツを脇に抱え、猛毒の水をベルクたちに向かって発射せる。
「ケッ。そんなんじゃ、俺は倒せねーぜ」
ラバーソウルの赤々とした炎で、蒸発させて気化させてやる。
「そらそら、どーした?こねーなら、こっちから行くぜ?」
フレンディスに目配せし、章たちのほうへ追い込むように指示する。
「あれを落とすぞ。エキノ!」
「かか様っ」
どんな攻撃を仕掛けてくるか分からないが、樹はエキノにサボテンを作らせ回りを守らせる
「(へっ、きやがれ)」
太壱は裁きの章の雨を横殴りに降らせて下降させていく。
「んー。相変わらず、おおざっぱだね」
術の使い方が少々荒いのでは、と思いつつ章は祓魔の光りを鞭に変え、地面へ降りるように誘導する。
まだ民家にいるであろう者のほうはというと、グラキエスとエルデネストによって、正面口へと徐々に追いやられているようだ。
相手もただやられているわけにもいかず、バイオポンプを放ち木造の戸をふっとばす。
「なっ、戸を破っただと!?」
「むむ…かか様。このままでは、水に進入されてしますっ」
「(私の精神力が…。くっ、想像以上に消耗が激しいようだ)」
セシリアからもらった苺ドロップを口へ放り込み回復させる。
「修復に集中しなければ、ウチの香りを使うのは厳しいです〜」
「そっちのは親父、あっちと頼む。俺はこいつの相手だな。(『哀切の章で畳返し作戦』だ!…下から突き上げるったら突き上げる!)」
ターゲットを囲むように、片側へ光りの波を回らせて足元から返そうとするが…。
地獄の天使の翼で飛ばれ避けられてしまう。
「全く、太壱君は力押しばっかりなんだから…。そんなんじゃ、しつこくて女の子に嫌われちゃうかもよ」
白魔術のオーラを纏い、光りの鞭でフレンディスの援護をしつつ、太壱の術の行使法を見てはため息をつく。
「うるせぇクソ親父!黙って敵殴ってろ!」
イラッときた太壱が、本音をぶつける章に怒鳴る。
「はははっ。祓魔師でも利口なやつと、ばぁあーかなやつがいるんだなぁ?」
「むっかー、誰がバカだって!?」
「そっちはオカマと、体力おばかな娘か」
「んなぁあ、誰がオカマよ!アタシはそっち系やないわよっ」
「た…体力だけじゃないわ、ちゃんと頭使ってるんだから」
「ふぅ〜ん?まー、バカ同士は、お似合いじゃねーの」
3人を見下ろしながらシルキーを取り込んだ者がケラケラと笑う。
「こんのぉおお、バカバカ言うんじゃないわよ!」
「俺とツェツェが…?」
“お似合い。”というセリフに反応し、太壱は顔をカッと赤くし真剣に考える。
「ちょっとタイチ。なんで顔が赤いの?」
「い、いやっ、何でもない!!」
ハッと我に返り、ぶんぶんとかぶりを振る。
「アンタたちも、いちいち反応するんじゃないわよ、まったく…。(アタシもいい加減魔性の攻撃には慣れてこなくちゃだわ、人の神経逆なでする言葉を言われたら、修行を積むまでじっと我慢ね)」
“…エレメンタルリングで引きずり出せるようになったら覚えてなさいよ。”と相手をひと睨みして、アークソウルの守りのバリアを展開させる。
完全憑依相手には無理だが、器へ入り込もうとする実体なき者を引きづり出せるようにはなる。
一度、離れた相手をまた強制憑依させようとするものなら、掴んで阻止することができる。
「遊んでやる暇はないんでな。そろそろサヨナラの時間だ」
ペトリファイで黙らせようと液状の魔法で飲み込もうとする。
「フンッ。こっちにだって、それくらいの対抗策はあるんだから!」
「なめんじゃないわよ」
「ちぇ、宝石が邪魔して効かねぇか。まっいいや、収穫はあったし」
「召喚者を徹底的に、潰しにくると思ったのですけどね」
クローリス使いの2人をしつこく狙ってくるかと思ったが、退散しようとする相手をエルデネストが見上げる。
「重なった気配の近くに、もう1つ何かが…。収穫とは、まさか…猫又のことか?」
「なんだと、猫又を?フッ、我の目の前にして、攫えると思っているのか」
またもやベルクの頭を踏み台にし、レティシアは章の光りの鞭が振るわれる位置を頼りに、祓魔銃のミストを連射させる。
「―……っ。てめぇ、そんなに、石になりてーか?」
「猫又は渡さぬ。置いてゆかねば、貴様の命…ないと思え」
「おーこえぇ♪祓魔師でも血の気の多いやつがいんのなぁー」
ケラケラと笑い骨の翼を羽ばたかせてレティシアから逃れる。
「重なった気配のすぐ近くに、1つだけ気配が。ベルク」
「あぁ、グラキエス。懐に隠しているってことだな」
猫の姿になった妖怪の少女が、黒フードの者の手にあるかもしれない。
ベルクはフレンディスを抱えて追う。
レティシアのほうはというと、しぶしぶベルクに任せてじっと見守っている。
「にゃぁを離すにゃぁああっ」
「畜生の分際で暴れんな!」
「下のやつはともかく、俺から逃げられねぇぜ。フレイ、取り戻せっ」
「(連れ去るというのなら、容赦はいたしませぬ)」
パートナーの飛行スピードですぐに追いつき、哀切の章のページを開き詠唱する。
中のシルキーでなく邪なる器に狙いを定め、光りの礫を放つ。
SPを消耗したせいか背の翼が消え、路上へ落下する。
「ハンドベルでシルキーの意識を…。くっ、こんな時に…精神力が」
「アウレウス、これを食べろ」
「あ、主っ。すみません、では…」
恥ずかしがりながらも主であるグラキエスに苺ドロップを食べさせてもらう。
「主のためにも、速やかに遂行せねば」
ハンドベルをカランカランと鳴らし、ウィオラの花の香りを吸収する。
「シルキーよ、おまは道具ではない。自分を取り戻せ!」
正気に戻そうと鳴らして器の中の存在へ呼びかける。
「中から白い髪のやつが…。やはり、あの地下で会った魔性と、同種の者だったか」
エアロソウルの力を通し、不可視化しているシルキーの姿を見る。
ドレッドヘヤーの髪をした、女性型の魔性は小さくお辞儀をして去っていった。
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