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とある魔法使いの飲食騒動

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とある魔法使いの飲食騒動

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◆フォーク休め

「杜守君は……遺書は無いようですね。小暮君は……」
松崎が倒れた二人に近寄って来て、遺書の確認をした。奇しくも小暮の着ていた上着の内ポケットに遺書が入っていたのだ。
「えー……なになに。『諦めた時がゼロになる』。いかにも小暮君らしい遺書でしたね」
「確率がマイナスからゼロに戻っただけじゃねーか!!」
マイトが突っ込みを入れた瞬間、客席から笑いが起きた。

会場が笑いに包まれている間に、舞台が変わっていた。
次の舞台は、和服を着た藤林 エリス(ふじばやし・えりす)柊 真司(ひいらぎ・しんじ)リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)がそれぞれ準備をしていた。
エリスは、黒い漆のお椀を残っている席へと配って行く。
リーラは、深い天ぷら鍋に天ぷら衣がまぶされた食材を次々と入れて行く。
丁度いい温度のゴマ油の池に落とされた食材は、ぴちぴちと音を立てながらおいしそうに揚がって行く。
「真司、天ぷらが揚がったわ。各テーブルに運んで頂戴」
「了解。エリス、そっちは準備できたか?」
「わんこそばの準備はできたわ! だけど、入れる人が足りない……」
 エリスがトレイに乗った大量のソバを見ながら思案して居ると、視線外から手が伸びて来たのだ。
それは、詩穂とフィッツ。桜華と零と刹那だった。
「手もちぶたさだから手伝うよ。好きな席に立てばいいんでしょ?」
「ありがとう。うん。よろしくお願い」
 詩穂の言葉に、エリスは笑顔でトレイを渡したのだった。
「料理の説明は、わんこそばを食べている間にしましょう。とりあえず、参加者の皆さんどうぞ!」
 トレイを持った詩穂達が、アッシュ達の持った漆のお椀の中に一口分のソバを次々と入れ始める。
「さて、わんこそば大会が開かれている間に、藤林さんと柊君にインタビューです。藤林さんから聞きましょう。なぜわんこそばなんですか?」
「それは……本当は、小麦粉を使った料理を振舞う予定だったのですが、予想外に小麦粉を滝のように使っているチームが居まして……仕方が無いのでそばを打ちました」
 エリスの言葉に吹雪が一瞬そばを食べる手を休めたのに気が付いたのは、隣にいる刹那だけだった。
「どうしました? 手が止まっていますよ」
 なんでもない。と言いたそうに、吹雪は力いっぱい首を振ると天ぷらの盛り合わせの中のキノコっぽいものを箸で掴もうとして、皿の中央に置かれているダチョウサイズよりも大きい卵が微かに振動している事に気が付いた。
「何だこれ!? ……って動いた!?」
 海の言葉に、吹雪は振動している卵をじっと見つめていると、天ぷらにされているはずなのに、テーブルに置かれた皿から卵が一斉に転がって逃げだしたのだ。
 逃げ出した一部の卵の衣部分には、誰かの食べた歯型が付いている。
 考えられるとしたら、偽アッシュとアッシュとマイトだろう。
 次に、何かの輪切りにされている物がある事に気が付いて海はそれを箸で取り口の中に入れて噛む。
「な……何とも言えない名状しがたき味だな」
 さすがに吐き出しはしないが、水を使って飲み込んだ。
(俺の野生の勘が告げている……こいつはやべぇ! しかし勝利のために俺は食らってみせる!)
そう思いながらも、緑色に光っている衣だけの天ぷらをマイトはかじった。
するとマイトの身体全体が緑色に光り始め、身体が思う様に動かなくなっていく。そしてヒャッハー! と言いながらマイトは席から立ち上がると、同じように緑に光っているアッシュと偽アッシュと海も立ち上がり、なんと四人で乱闘が始まったのだ。
吹雪も緑色のかき揚げを食べたのだが、吹雪は何ともなく普通に食べられた。どうやら中に入ってた物が身体の抵抗勢力に負けたからのようだ。
舞台では、エリスのインタビューから真司へ移っている。
「天ぷらの盛り合わせの中身ですか? それはですね、ミ=ゴとアスコンドリアのかき揚げと、どき☆マギノコの天ぷらと、ギフトの卵です――」
「おおっと! インタビューをしている間に突如乱闘が始まったようです!」
 大型モニターが真司のインタビューから、四人の乱闘へと切り替わる。
「俺様がアスコンドリアの王になるんだーーー!!」
「ちょっと! アッシュくん。乱闘は駄目だよ」
 全身が緑色に包まれているアッシュを止めようとフィッツは後ろから抱きついたのだが、抱きつく場所が悪かったのか、すぐに後ろへ弾き飛ばされてしまった。
「俺も忘れるんじゃねぇ!」
「2号は黙ってろよ!」
「お前は3号だろ! 3号こそ要らないだろうが!」
マイトは、アッシュに向けてそう言うと床に転がって固まっていたギフトの卵を手に取り、アッシュへとぶん投げる。
「むしろ、そこの偽物の方が要らないだろうが!!」
 アッシュは投げられたギフトの卵を左に避けると、偽アッシュに向けて指を突き付ける。
「……それもそうだな」
「だろ?」
 アッシュとマイトが二人同時に歪な笑みを浮かべると、二人は揃って床に散らばっていた他のギフトの卵を両手に持ち偽アッシュへと投げたのだ。
 偽アッシュは、残っていた海とナイフとフォークを使い接近戦をしている所だった。
 そこへ横からギフトの卵が投げられるとは思わなかったのか、一つ目は頬に当たり左に身体がぐらついた所を、海にナイフを持ったままの拳で腹を殴られたのだ。
「勝った!」
 そう海が勝利を確信した瞬間。海にもギフトの卵がぶつかって来たのである。
「うっ……」
 と、後頭部強打の衝撃でわんこそばを喉に詰まらせた海が床へと突っ伏した瞬間、わんこそば大会は終了した。終了と同時に、残った三人の後頭部に真司のハリセンが飛んできて乱闘も終了したのだった。