百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

とある魔法使いの飲食騒動

リアクション公開中!

とある魔法使いの飲食騒動

リアクション

◆甘き饗宴

 救護室に戻ると、先ほど倒れた吹雪と何故か及川 翠(おいかわ・みどり)が二人仲良くベッドに寝ていた。
「あれ? 人増えてない?」
 コハクが首を傾げながらロレンツォを見ると、深く頷いただけだった。
「頷いていないで状況を説明してよ!」
 ロレンツォの頷きに突っ込みを掛けるコハクであった。
「ふむ。吹雪は先ほどの料理で倒れたのは判るが、翠は何故ここに?」
 ハーティオンがベッドで寝ている翠を見て言う。
「ああ、それは俺が――」
 説明するぜ。とジェイクが言いかけた所で突然救護室のドアが開いた。
「あたしも説明するわ」
 エリスが救護室に靴音を立てながら入ってくると、翠を指差したのだ。
「あの子達が小麦粉を滝のごとく使っていた犯人よ!」
「な……なんだってー!!」
 その場にいたエリスと、ジェイク以外は全員叫んだのである。
「と、取りあえず復活させて事情聴取を……」
 美羽が慌てた様子で槍を使おうとするのをエリスは手で止めたのだ。
「あの子達はね、大量の小麦粉を使いデザートを作っているの。そのせいであたしは……あたしは……」
 エリスはよっぽど悔しかったのだろう。喋っている途中に涙がぽろぽろとこぼれる。
「パンケーキを断念しないといけなかったんだから!」
 それを聞いたジェイクとエリス以外はすっこけたのである。
「けどよ、もう一つの案のわんこそばがあったからよかったじゃないか」
 肩をすくめたジェイクの言葉に、エリスは、「……そうね」と言って顔をそむけた。
「で、翠達の作っていた物は?」
「本人に聞けばわかるでしょ」
 美羽はそう言いながら、寝ている翠の身体を槍で刺した。
 光に包まれた翠は、突如起き上がると美羽の腕を掴んだ。
「あのシュークリームの山は、ロシアン過ぎるの!」

「さて、料理の方も最後になりました。最後の料理はデザートです。最後の舞台かもーん!」
 松崎が張り切った声で料理人がせり上がってくる舞台を差すと、下からシュークリームの山が上がって来た。
「これは……なんでしょう……シュークリームの……山でしょうか」
「ごにゃ〜ぽ☆そうなんだよ。ボク達は翠ちゃん達と一緒にシュークリームマウンテンを作ったんだ☆」
 鳴神 裁(なるかみ・さい)がカメラに向けて可愛いポーズを付ける。
「だけど、ボク達が作ったのは闇シュークリームマウンテン☆」
「略して闇シュー山よ」
「いーとみー♪」
 裁の後ろに立っていたアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)蒼汁 いーとみー(あじゅーる・いーとみー)が裁の言葉のフォローをするように言葉を続ける。
「あれ。翠さんが居ないですよ」
 辺りを見渡しているミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)の袖を引っ張ったのは、スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)だった。
「翠さんなら〜最後のシュークリームを運びに行った後見てません〜」
 その言葉を聞いたミリアとティナは顔を見合わせたのだった。

「なんか一緒にシュークリーム作ってた奴らが慌て始めたな」
 救護室に置いてあるモニターを眺めながら、ジェイクが翠に向かって言った。
「ああ。私が倒れなければ……こんな事にはならなかったの」
「ところで、なんで倒れてたの? シェイクみたいに毒見役にされたとか?」
 美羽は、ジェイクを指差しながら翠に聞いた。
「女の子が進んで毒見役とかあまり聞いた事がないけどな。と言うか、俺はデザートみたいな名前じゃないし人に指差すな」
 ジェイクは美羽を半眼で見ると、大会の続きを見始めた。
「それが……裁さん達と一緒に大量のシュークリームを作っていたんだけど、最後の舞台に作ったシュークリームを運んだ時に、裁さん達のと混ざっちゃって……けど、一個ぐらい味見しても判らないよね。と思って目の前にあったシュークリームを食べたら……」
 翠の深刻そうな声に、美羽の喉が鳴る。
「蒼汁シューを食べちゃったの!」
 
 ※蒼汁(アジュール)とは、裁が謎料理で作る蒼いスライムジュースです。栄養価は高いが魂が抜けそうなほどにまずい、いっそ抜けたほうがマシ、という代物です。

「……それで、食べた後に意識が無くなって起きたらここだったの」
「舞台の上で寝てたら、カメラに恥をさらすと思って拾って来た」
「猫みたいに言わないの!」
 しょんぼりとした表情の翠を見つめながら小暮がさらっと言った態度に美羽は、死の刃を小暮に向けて刺した。
 一瞬にしてうつ伏せに倒れた小暮を見たコハクが、慌てたように美羽から槍をひったくると復活の刃で再度小暮を刺したのだ。
「天国にいる先祖が見えた」
 ぼーっとした顔で呟いた小暮は置いておいて、三人はモニターに注目した。

 舞台では、アッシュと偽アッシュとマイトがアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の作った「ラグドゥネーム」(砂糖の22万倍の甘さ)入りのバケツプリンを食べながら、蜃気楼の怪異 蛤貝比売命(しんきろうのかいい・うむぎひめのみこと)の作ったドラゴンフルーツと数種類のフルーツを加えた夜明けのルビーと言うジュースを飲んでいた。
「ふむ。甘い物には素材をそのまま使ったジュースが合うと言う事じゃの」
「ジュースのおかげでプリンが足りなくなると困りますわ」
 蛤貝比売命の言葉に、何故かアデリーヌが照れながら言った。
「な……ボク達のシュークリームの分を空けておいてくれないと、無理やりに入れちゃうぞー☆」
「ふぃーどみー!」
 もしかしたら食べられずに終了の可能性を察した裁達は、三組に分かれて一口シューをアッシュ達の口の隙間に詰め込み始める。
「もが……もががっ!」
 急にシュークリームを詰め込まれたアッシュとマイトと偽アッシュは、不運な事に二個目で蒼汁シューが当たったのか、息苦しさを感じた瞬間目の前がブラックアウトをした。

 三人が倒れた事により山になっていたシュークリームが雪崩となり舞台に居た全員がシュークリームに埋まったのだが、シュークリームの山の中からマイトの腕が出ていた事によりマイトが新しい大食い大会の優勝者となった。