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ホスピタル・ナイトメア

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ホスピタル・ナイトメア

リアクション



■エンディング


 水面のように波打つ真っ白な光。そこに向かってルカルカ・ルー(るかるか・るー)は自分がゆっくりと浮上していくのを感じていた。
 だんだんと光が強まって、彼女の視界を白光が埋め尽くす。これ以上目を開けていられないと思ったとき、光の向こうから声が聞こえた。彼女を呼ぶ声。語りかける声。白い世界に、にじむように青い色が浮かぶ。
「――ルカ…!」
 声が聞こえた。今度ははっきりと。一体何度彼女を呼んだのか、かすれて血のにじんだ声だった。
……たの……こ、え…。き、こえ…………たわ…
 チューブが邪魔で、それだけを口にするのがやっとだった。ルカルカは涙でぼやけた視界ごしに彼をあおぎ見て、かすかに口元を動かし微笑を浮かべる。体じゅうが重くて痛い。でも生きている。また彼らと会えた。自分を覗き込む人々を見回して、感動すら覚えた。
 そんなルカルカの視界に、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の姿が入る。
 ジェライザ・ローズもまた、ベッドの上で目を覚ましていた。迷彩のつなぎ服姿の男が丸イスに腰かけ、枕元から彼女を覗き込んでいる。丸まった背中。顔はうかがえなかったが、それがだれかは想像が易い。彼女の左手に包み込むようにかぶさっている大きな手が、2人の親しさを物語っていた。
 彼を見つめるジェライザ・ローズのもう片方の手は、となりのベッドで眠る冬月 学人(ふゆつき・がくと)の手をしっかりと握りしめている。
「――自動車? いいえ、あなたがあわれたのは、馬車事故ですよ?」
 医師がとまどったように答える声がした。
「……え? です……が…」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は苦痛に耐えながら必死に言葉を押し出して伝えようとするが、うまくいかない。
「あなたは昨日馬車事故にあわれたのです。それからずっと昏睡していました。この部屋には常時人がいましたからね、目覚めたのであればその者が気付いていたでしょう」
「……そんな…」
 信じられないという顔つきのザカコに、医師が苦笑した。
「考えてみてください。あなたの今の状態で、動けるはずもないでしょう? ベッドから出られるようになるにも数日はみていただかないと。それも補助つきでね。
 あなたは夢を見ていたんです」
「そういうことじゃ」
 よく飲み込めないのか、まだ混乱した表情を浮かべているザカコを見下ろして、彼の枕元に立つ大きなとんがり帽子をかぶった乳白金の髪の女性が締めくくった。


「陣!! 私たち、助かったのね!!」
 負ってるけがなんぞなんのその。目を覚ました瞬間、ユピリア・クォーレ(ゆぴりあ・くぉーれ)はがばっととなりのベッドの高柳 陣(たかやなぎ・じん)にしがみついた。
「いったーーーーー!! いてーだろーが!! 離れろ、このばか女!!」
「いやーん陣ったら! そんな、照れなくてもいーーのよーーー」
「照れじゃねえ!! こんな状態で動けるのはおまえぐらいのものだ!!」
 本当に、なんで動けてんだよ、てめえは!! バケモンか!!
 陣は必死にユピリアを引き離そうとするが、ユピリアはめげない。彼は照れてるだけで、本気でそうしているとは思ってもいないのだろう。だって(あたりまえだが)力が弱い。
「退院したら、退院祝いにどこか出掛けましょうねー」
「ああもう……くそ。勝手にしてくれ……」
 残り少ない体力を使い果たした陣は、投げやりにうなった。ぐったりした体に、ユピリアがうれしそうにぴったり貼りついている。
 彼らの騒動を見るともなし見ながら、セルマ・アリス(せるま・ありす)はどうにかこうにか身を起こしてベッドヘッドに背中を預けた。それをするのが精一杯。深々と息をつき、早くなった鼓動が正常に戻るのを待つ。
「起きたか」
 右手からイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)の声がした。比較的軽くすんだのか、それとも基礎体力の違いか。彼はもう起き上がれるようになっていて、松葉杖をついている。
「不思議ですね……みんなが、同じ夢を見るなんて…」
「夢か。どうかな」
 イーオンはセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)の眠るベッドへ向かい、腰を下ろす。生をたしかめるようにそっとほおに触れたあと、セルマへ向き直った。
「気付いているか?」
 包帯の巻かれた指で首をトントンとたたく。はじめのうち、意味が分からなかったが、それがあの謎の敵に絞められた場所だと気付いた瞬間、はっとなって手をあてた。
「うっすらとだが指のあとがついている」
「そんな…。じゃあ……あれは…」
「ずっと考えている。あそこがどこか、あれが何者だったのか。おそらく完全に説明できる者はだれもいないだろうが……もしかすると、俺たちはまたいつか再びあそこへ行くことになるかもしれない」
 その言葉を、セルマは肯定も否定もできなかった。



 他の同行者はしばらく目を覚まさなかった。
 ようやく目を覚ました彼らにも話を聞いたが、いずれも病院での記憶は一切なかった。

 彼らが体験したあの世界は一体なんだったのか。
 彼らに襲いかかったあの怪人は一体何者だったのか。

 その問いに答えることができる者はいない。
 真相は闇の中、といったところだろう。

 戻ってきた彼らはこの出来事をいつしか忘れていくだろう。
 あの朝の来ない夜の出来事を。
 しかし忘れてはならない。朝の来ない夜はない。その逆も然り。
 夜は、いずれまた訪れる。

 つまり――悪夢は、いずれまた訪れる。
 それがいつかは、誰も知らない。




『ホスピタル・ナイトメア 了』

担当マスターより

▼担当マスター

菊池五郎

▼マスターコメント

皆さまおつかれさまでした。
4人のマスター陣による、脱出系ホラーシナリオはいかがだったでしょうか。
本リアクションは複数のマスターにより執筆されていまして、それぞれの担当は以下のようになっております。
  01ページ〜07ページ 地上1階担当 高久 高久
  08ページ〜10ページ 地下1階担当 革酎
  11ページ〜12ページ 地上2階担当 綾瀬 亜紀
  13ページ〜17ページ 地上3階担当 寺岡 志乃
  18ページ       エンディング担当 寺岡 志乃&高久 高久

今回マスター陣で話し合い、ちょっとしたギミックをリアクションに仕込んでみました。
最初から通して全部読まれますと、面白さが少し増すかもしれません。

ここからは、各担当マスターからのコメントとなります。

■綾瀬 亜紀
 参加した皆さんお疲れさまでした。
 ホラーはどうでしたでしょうか。
 私はホラーを書くのは初めてなので、うまくホラーになっているといいのですが……

 それでは次のシナリオでお会いできるのを楽しみにしています。


■革酎
 霊安室などという陰気臭いスペースを選択して頂いた皆様、ありがとうございました。
 もっとガチに怖がらせたかったのですが、デスマスクに果敢に挑みかかる皆様の気合が、私の「怖がらせたい」という思いを遥かに上回り、ちょっとしたバトルシナっぽい展開になりました。
 これはこれで、アクションによってリアクションの内容がマスターの思いもよらない方向に進むというPBWの醍醐味ですので、私としてはとても楽しく執筆させて頂きました。


■高久 高久
 トイレという罠としか思えない場所からスタートした皆様お疲れ様でした。
 普段とは違うホラーというジャンルでしたが、如何だったでしょうか? 
 普段ならばホラーではなく掘るアッー!になるのですが、そこは合同シナリオ。あまりふざけることなく取り組ませていただきました。そう言う点では罠だったのかもしれません、私自身が。
 少しでも怖いと思って頂けたのならば幸いでございます。またの機会がありましたらよろしくお願いいたします。


■寺岡 志乃
 参加者さま、当担当パートをご選択いただきましてありがとうございました。
 ジャンボリーでいただきましたご要望には「ホラーシナリオ」ということのほかに「血が出ない」という条件をいただいていました。
 その瞬間、そうか、これは撲殺・絞殺でいけということなんだな、という電波をわたしはたしかに受け取りました(笑)
 その電波を発していたのがご要望いただきました方かどうかは不明ですが、しかとそれを胸にきざみ、執筆した次第です。
 ホラーシナリオは初めて書きましたが、思っていた以上にとても楽しい執筆でした。夏の間にもう1回ぐらい執筆したいですね。そのときはまたぜひよろしくお願いしたいと思います。


 それでは、ここまでご読了いただきましてありがとうございました。
 脱出系ホラーシナリオ『ホスピタル・ナイトメア』はこれにて終幕となります。
 各マスターの次回作をお待ちいただけたなら幸いです。