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無人島物語

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無人島物語

リアクション

「ちっ……。役にたたないリア充メガネが。少しは使えるかと思って特別に生かしておいたけど、もう用はないでありますよ」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、死んではいなかった。まだまだ全裸待機中だ。
 遭難したときに手なづけておいたイルカが助けてくれたのだ。
 イルカは海の知的動物だ。人間と同じように感情もあるという。モテるイケメンイルカとモテないぼっちイルカがいる。吹雪の連れているイルカもまたイルカのリア充を憎むぼっち非リアなのであった。
「もちろん続けるでありましょう、同士キロス?」
 ハデスがいなくなったことで、海モンスターたちは逃げ帰ってきた。
 吹雪はキロスに聞く。
「同士キロスがこんなとこで遊んでいる間に香菜の方はあの島で……」
「わかってる。俺は負けてねえぜ」
 キロスはニヤリと笑うと、イカダを進めて島に迫った。自分の手で決着をつけるつもりのようだ。
「どいつもこいつも、クソであります」
 島へと突撃していくキロスを見つめていた吹雪が舌打ちする。すでに敗北の気配を察知していた。最後の準備をしておく必要がありそうだった。
「イングラハムは、どこかで漂っているはずであります。探すでありますよ」
 吹雪はイルカを反転させた。




「浜辺にいっぱい人がいやがるぜ。畜生……、奴等、俺が海で苦労している間に楽しい無人島ライフを充実させやがって。全員滅ぼしてやるぜ!」
 キロスはイカダに乗ったまま、遠巻きに浜の混乱を楽しそうに見ていた。
「お前ら、バックアップしろよ」
 キロスは海モンスターに言うと、怒りと嫉妬の炎を瞳にたぎらせ浜辺へと突っ込んでいく。
「死ねやオラァァァァ!」
 獰猛さのみに取り付かれたキロスは、迎撃しようと浅瀬に進んできた浜のメンバー相手に問答無用で攻撃を仕掛ける。話を聞くつもりなど毛頭ないようだ。
 そして、それを援護する海のモンスターたち。
「がはははははは! 破壊破壊破壊だぁーーーー!」
 キロスはイカダの上で中指を立てて浜を挑発する。
 凶暴な海のモンスターたちは、島の住人の貴重な食糧源になる新鮮な魚を食べ荒らし始めた。
「ゲラゲラゲラ! 悔しかったらここまで来て見やがれ!」
 キロスは遠距離攻撃のスキルで浜のメンバーを狙い打ち始めた。
 もう、やりたい放題だ。
「あ〜、頭痛いわ」
 騒ぎを聞きつけて、香菜が浜辺までやってきた。浅瀬の向こうで得意げにしているキロスを確認すると、溜息をつく。
「ようやくキロスを見つけたと思ったら、なによあれ? バカ丸出しじゃない」
「これ以上、みんなに迷惑かけさせるわけには行かないわよね」
 すぐ隣では小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、呆れた様子で暴れまわるキロスを眺めている。
「とはいえ、不用意に近づくのは危険だよね。海には障害物はないし、キロスはイカダの上から動くつもりはないみたいだ。あそこまで行く間に狙い撃ちされるよ」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、どうしたものかと悩ましげだ。
 海モンスターの中には、スキル攻撃できる結構強力なのもいるみたいで、集団攻撃されたらそれはそれでいやだった。
「行けばいいんじゃない、あそこまで?」 
 美羽は、特に何事もないように言った。香菜と頷き合うとコハクに言う。
「コハク、援護お願いね」
「……ちょっと無茶な。あそこまで跳ぶの!?」
 何をするか予想のついたコハクは、心配そうに美羽をみる。
「当たり前でしょ。あなたもついてきなさいよ」
 いい終わるなり、美羽はキロスのいるイカダの位置まで跳んだ。
『バーストダッシュ』+『歴戦の飛行術』。それでも少し届かない。
「『セラフィックフォース』!」
 コハクが援護しつつも一緒についてくる。
「な、なんだとーーーー!?」
 キロスが驚きの目で美羽たちを見た。
「『ファイナルレジェンド』!」
 海中から攻撃しようとしていた待ち構えていたモンスターたちを一掃して、美羽と香菜は、キロスの乗るイカダに着地していた。
「いきなり、蹴るっ!」
 美羽は、キロスに美脚を披露した。スカートはぎりぎりまで翻るが、中は見えない。香菜も美羽もそんなキャラじゃないのだ。
『鉄壁のスカート』標準装備の清純派美少女二人組み。
「そこまでよ、キロス! 覚悟なさい!」
「いい加減にしなさい!」
 二人の連携した蹴り技が炸裂する。
「ぐっ!?」
 その攻撃を、キロスは受け止めた。
 一旦体勢を崩したものの、すぐに立て直してニヤリと笑った。
「リングありといかねえか? このイカダから落ちたら負けだ」
 キロスは提案してくる。狭い範囲でのガチンコを望んでいるようだった。
「いいわよ」
「美羽先輩気をつけてください。こいつ、こういう喧嘩得意なの」
 香菜は言うが、美羽は承知の上だ。
 しばしの沈黙。
 キロスが動いた。一瞬で美羽との間合いを詰めると、ダダダダダダダダダ! と猛烈な勢いでパンチを放ってくる。
 それをかわすように、隙をぬって美羽も蹴りを連打した。そこへ香菜も加わり連携しながらキロスにダメージを与えていく。
「う、うわぁぁぁ……」
 コハクは、その戦いをはらはらしながら見ていた。
 波で揺れる足場の悪いイカダの上で、武器なしスキルなしの超接近戦。まさにガチンコの殴り合いだ。
「……っ!」
 美羽も香菜もキロスから何発かパンチをもらっている。女の子の顔を殴るなんて! だが、そんな遠慮なしに純粋に全力勝負してくれるのがキロスのいいところだ。
「ぐうううううっっ!」
 美羽と香菜のツープラトン攻撃を食らって、キロスは耐え切れずに後ろに下がっていった。その隙を見逃す二人ではない。
「これで!」
「終わりよ!」
 美羽と香菜のとび蹴りが同時にキロスに命中する。
「ぐわあああああっっ!」
 どぼ〜〜ん!
 キロスは吹っ飛び、イカダから海へ落ちた。
「おおおおおおっっ!」
 と浜で歓声がわいた。みんな遠くから勝負を見ていたらしい。
「勝利!」
 美羽と香菜は決めポーズをする。
「……くっ、負けたぜ。退いてやる」
 海中から顔を出したキロスが言った。
「当たり前よ!」
 美羽は腕を組んでキロスに言ってから、海中を漂うモンスターたちに呼びかけた。
「あんたたちの王は敗れたわ! 今日からは私が、この海の女王よ!」
<〜〜〜〜!>
 モンスターたちも、呼び声に答えたらしかった。
「よろしい」
 美羽は頷く。
「ああああああ、美羽、顔殴られてちょっと腫れてるよ……。痛くなかった……」
 悲鳴にも似たコハクの声と、
「大丈夫よ、これくらい。格闘王の勲章みたいなものだし、キロスとガチでやれてちょっと面白かったわ」
 明るく笑う美羽の声が、海の上で響いていた。