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王子様とプールと私

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【みんなで、お茶会中】

 散々な目に合ったヴァレリアとキロスは、プールサイドで休憩することにした。
「こうして見ると賑やかさが一層伝わってきますわね」
 テーブルについたヴァレリアの元に、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がやってきた。
「素敵なお嬢さん。花をどうぞ」
「わあ、ありがとうございます」
「一緒にハーブティとゼリーでお茶はいかが?」
 ヴァレリアは目を輝かせてキロスを見た。そんな目で見られたら、キロスが断れるはずもない。
「もちろんキロスも一緒に、一息入れたらどう?」
「まあ、ちょうど休憩するところだったからな。そうするか」
 お茶の準備をするエースの後ろから、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)もやってきた。
 本当は、メシエはあまり騒々しいところは好きではなかったのだが、リリアにお願いされてやってきたのだ。
「あらキロス君とデートなのね! いいわね、素敵な彼氏!」
 リリアに微笑まれて、ヴァレリアは焦り始める。
「え、えっと、まだわたくしたち、結婚しておりませんの」
「恋人になっていないの?」
「結婚、――恋人。彼氏……?」
 ヴァレリアが考え込む。どうやら今までこうしてプールを巡っている間も、あまり「夫婦」と「恋人」の違いを意識していなかったヴァレリアは、リリアに指摘されて初めて疑問を抱いたらしい。
「そういえば、おとぎ話の王子様とお姫様は、あまり恋人という関係になっていない気がしますわね……」
「でも、現にこうしてたくさんカップルがいるでしょう?」
 頭を抱えてしまったヴァレリアの元に、
「恋愛というのがどういうものか、教えてあげるですよ」
 と、言いながら現れたのはオルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)だ。
「恋愛というものがどういうものか、オルフェは本当に最近知りました。今も、こういうものでいいのかなって思う事もあるですが……」
「恋愛について……是非教えて頂きたいですわ」
「ヴァレリア、よく聞いておくんだぞ」
 キロスに促されて、真剣な表情でオルフェリアに向き合うヴァレリア。
「恋っていうのはふあふあしてて、きっと良く判らないものだと思うのですよ。そういう感覚的なものって判りにくいと思うのです。オルフェも、ちょっと判らないですが……」
 オルフェリアはそう言って、後ろを向くと手招きをした。
「なので、もっと分かりやすく伝えるために、こういうのはどうかなって思ったですよー♪」
 オルフェリアの後ろから、『ブラックボックス』 アンノーン(ぶらっくぼっくす・あんのーん)ルクレーシャ・オルグレン(るくれーしゃ・おるぐれん)が、手にケーキを持ってやってきた。
「初恋をテーマにケーキを作ってみた。皆で食べてもらえると嬉しい」
 アンノーンがテーブルに載せたのは、ハート型のチーズケーキだった。食紅でピンクにした粉砂糖がかかっており、見た目にも可愛いらしい。
「この中にひとつ、ハート形にしたピンクの苺が入っている。ガレッド・デ・ロアみたいに切り分けて食べてほしい」
「ハートの苺が当たった人には、恋愛の幸運が降りて来るですよ」
 アンノーンとオルフェリアの言葉に、ヴァレリアは目を輝かせる。
「是非皆で切り分けて食べてみましょう!」
 アンノーンの次に、ルクレーシャもケーキを乗せた。こちらは、ふわふわのスポンジにピンクに色付いたクリームがサンドされている、ハート形の苺のケーキだ。ケーキを飾るハート形の苺の周りは、ラズベリーとブルーベリーが彩っている。
「こちらも初恋がテーマのケーキですよ♪」
「宝石箱みたいで綺麗ですわ!」
 ルクレーシャのケーキも、ヴァレリアは目を輝かせて見ている。
「冷たい飲み物が欲しいは、アイスレモンティーもありますよ。甘いケーキに合わせて、砂糖は入れてありません」
 レンジア・ヴァイオレット(れんじあ・ばいおれっと)がテーブルの上に並べて行く。
「一杯作ってもらったので、皆で食べるですよ♪ ヴァレリアさんに素敵な恋が訪れますように」
「どうして、そこまでしてくれるのですか?」
 ヴァレリアは、オルフェウスを見て不思議そうに訊ねる。
「簡単です♪ オルフェは恋の魔法使いさんですから♪ 皆さんが素敵な恋ができるように応援するのがオルフェなのです♪」
 そう言って笑顔を見せるオルフェリアに、ヴァレリアも笑顔になる。
「では、オルフェからヴァレリアさんに素敵な恋ができるように魔法をかけさせて頂くですね♪」
 こうして、9人のお茶会が始まった。
 テーブルにはエースのお手製ハーブティとゼリー、アンノーンのチーズケーキとルクレーシャの苺ケーキが並んだ。レンジアの持ってきた、レモンティーの入った水筒も置かれている。
「何だかとっても鮮やかですわね。どれも美味しそうですわ」
 ヴァレリアは幸せそうに満面の笑みを浮かべる。
「水着姿もとっても可愛いね」
「まあ……嬉しいですわ。今日のために選んできたかいがありましたわ」
 ヴァレリアはエースに褒められて、明るく笑った。
「ワンピースもいいけど、ビキニの水着もいいわよね。ヴァレリアさんはどういうのが好き?」
「どちらも可愛いですわよね。今日はビキニで、今度はワンピース……という風に、いつも新鮮な気分で着たいですわ」
 女の子らしい話を楽しそうにしているヴァレリアを、キロスはハーブティを飲みながらじっと黙って見ていた。
「……で、キロスはどう思っているの?」
「んあ?」
 突然リリアに話題を振られて、驚くキロス。
「何がだ?」
「何って、彼女のことどう思ってるの?」
 言い澱むキロスに、ヴァレリアが不安そうな顔を見せる。
「二人のことなのだから、周りが勝手に決めつけるのはやめなさい」
 メシエがリリアをたしなめた。