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天下無双・超決戦!

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四章 戦地の歌



 戦闘が激化していく中、契約者側の兵士達は徐々に疲弊の色を見せる。元々敵の数が十倍という不利な戦況を気力だけで持ちこたえてきたが、今やそれも厳しいものになってきていた。
 そんな中、ジャンヌ・ダルクを名乗る蓮見 朱里(はすみ・しゅり)はエリザベート軍と戦っている自軍の最前線に立ち、戦意を失わないよう歌を歌い続ける。
 純白のドレスの上から白銀の鎧を纏ったようなヘルギを装備し、歌を歌うその姿はまさに救国の英雄のそれだった。
 回復の歌が周囲の味方を癒やし、鼓舞の歌と勇気の歌が戦意の折れかけた兵士の心を奮い立たせる。
 それを見ていた、聖ゲオルギウスことアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は感心したような表情を見せる。
「あのイコン……歌の効果が広範囲に渡るようにしているのか。周囲を兵士に固めさせて、防御に徹しているのも良策だな」
 ゲオルギウスが仲間の戦況を分析していると、エリザベート軍の魔法兵は一斉に魔法を放とうと身構えて見せた。
「そうはさせんぞ!」
 ゲオルギウスはすぐにその動きを察知し、魔法兵に向けてスカージを仕掛ける。強力な光が敵を包むと、魔法兵たちは魔法を唱えているにも関わらず魔法が発現することは無かった。
 魔法兵に動揺が走り、それを見逃さぬよう武田信玄を名乗る高天原 卑弥呼(たかまがはら・ひみこ)が動いた。
「敵陣が動揺しています! この場はこの武田信玄にお任せください!」
 信玄は無双モードを発動させ、
「いきますよ……風林火山!」
 叫んだ瞬間、魔法兵は突如出現した林に周囲を囲まれると、地面が火を噴き林を燃やして突風がその火を拡大させていく。瞬く間に火は広がり、そして幻のように林を灰にすると火もあっという間に鎮火してしまう。
 ゲオルギウスは自らが率いるテンプル騎士団に号令を発する。
「敵陣が崩れた今が好機! 全軍、突撃せよ!」
 号令と共に騎士団は一斉に抜刀し、弱った魔法兵たちを薙ぎ払っていき戦線を押し込んでいく。
「それじゃあ、僕もやっちゃおうかな〜」
 上杉謙信を名乗る、松本 恵(まつもと・めぐむ)は天御柱新型機候補の機動型に接触信号を持つ格闘戦特化イコンを装備して、敵陣を真っ直ぐに切り裂いていった。
 戦線が上がっていくのを見つめながらリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)赤城 花音(あかぎ・かのん)に声をかける。
「さあ、花音。僕が考えたイコンの力をエリザベート校長に見せてあげなさい」
「うん! 分かったよリュート兄!」
 元気よく返事を返すはあ花音はリュートが用意したインフィニティーを元に作られたイコンを身にまとう。流れるようなフォルムが印象的な鎧だった。
「フィーニクスの発展型を意識して、武器はツインレーザーライフルを改良した、
ツインブレードライフルを搭載しているから、近接戦闘も可能だよ」
「名前はまだないの?」
「それは、花音に任せるよ」
 リュートが笑顔を見せると、花音も笑顔を見せると、押し込められていく魔法兵達を見つめた。
「それじゃあ、クイーン・インフィニティー出撃!」
 叫ぶのと同時に花音は地面を蹴り、魔法兵のその先で構えているエリザベートを目指し、目の前で対峙したのは謙信とゲオルギウスが突破したのほぼ同時だった。
 エリザベートは三人を前にして恭しく頭を下げてみせる。
「ようこそですぅ。私がエリザベート軍の大将エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)ですぅ」
 大仰な大魔道士のような服を翻しながら頭を上げて、エリザベートはニッコリと微笑む。
「まさか、ここまで来られるとは思ってなかったですぅ」
「だったら、降参してもいいんだよ?」
 恵がそう言うと、エリザベートは楽しそうに笑った。
「そんなことしないですぅ。私は負けるのが嫌いなんですぅ。もう、手持ちの兵隊はボロボロですけど、今回の戦いだけは勝って終わらせますぅ」
 言うが早いか、エリザベートは突然天を指すと空を鉛色の雲が覆い、雲を裂いて巨大なドラゴンが姿を現した。
「これが、私の無双モードですぅ。これで一気に決着をつけるですぅ!」
「僕だって、まだ無双モードは残ってるんだよ!」
 謙信はドラゴンと対峙すると無双モードを発動させる。
「ドラゴニックボルテニクス……受けてみろ!」
 手にしていた剣がまとう雷が竜の形となってドラゴンに食らいつく。地を揺らすほどの咆哮が響き、周囲の人間の足を止めドラゴンは口から血のように赤い炎を吐き出した。
「させないよ!」
 花音は謙信に続いて無双モードを発動させると、歌と魔力で織り成す防御結界、八咫鏡を発動した。
 炎は結界を避けるように周囲に飛び散り、炎の雨が止むのと同時に花音はエリザベートに近づき、ツインブレードライフルを発射した。
「甘いですぅ!」
 エリザベートは炎の聖霊で銃撃を弾くと、天の炎を呼び出して反撃した。
「きゃあああああああああ!」
 巨大なドラゴンを注視していた契約者達は天から伸びた炎の柱に飲み込まれ、そこから脱するように転げ出た。
 それと同時にドラゴンは消え、謙信の竜も消滅した。
「無双モードの差し引きはゼロになりましたが、私の魔法で大ダメージみたいですねぇ?」
 エリザベートは自身の魔法でボロボロになり、形勢が不利になった契約者達を見て笑みを浮かべる。
「それじゃあ、このまま押し切って反撃ののろしにするですぅ!」
 エリザベートが再び天の炎を放とうとした瞬間、高火力のビームがエリザベートの足下を穿った。
「誰ですぅ!」
 叫び、穿たれた地面から射手の位置を割り出して、エリザベートは空を見上げるとゲシュヴィントヒルフェを装備した鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)がバスターライフルを構えていた。
 貴仁はバスターライフルを続けざまに撃ち、エリザベートを遠ざけると契約たちへと近づき、それと同じくしてジャンヌもゲオルギウスを追いかけてきた。
「大丈夫ですか? 今、イコンの方だけでも治療しますから少し待っていてください」
「それでは、私は他の人の手当を」
 ジャンヌが回復の歌を歌う中で、貴仁は自身が作成したエネルギー発生補給装置で恵と花音たちの鎧を回復させた。
 焼かれてボロボロになったイコンの装甲がビデオの逆再生を見ているかのように治っていく。
 花音はすごいすごいとはしゃぎ、貴仁は少し照れくさそうな顔をする。
「こういう裏方の仕事が少しでも増えれば、作戦成功率もグッと上がると思ったんですけど……予想以上の効果が見込めそうですね」
 そう言っている間に治療は終わり、エリザベートはムッとした表情をする。
「むむぅ……振り出しに戻ってしまったですぅ」
「振り出し……それは少し違うな」
 ゲオルギウスは無双モードを発動させると、空から天使の軍勢を召喚した。
「ここから、再び我々の反撃が始まるのだよ」
「そう簡単にはいかせないですぅ! もう一度、みんなそろってやっつけてやるですぅ!」
 エリザベートが構えると、無傷の貴仁を中心に契約者達は武器を構え、空の天使たちと共にエリザベートへと突撃を開始した。


 エリザベート軍での戦いも佳境に入る中、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)と共に遥か遠くにいる辻永軍の兵士を見つめていた。
「さて、折角だから俺の提案した武器のテストもしてみようか」
 天御柱新型機候補の重火力型を身につけているアルマに桂輔は巨大な荷電粒子砲を渡した。
「……これは?」
「狙撃型の荷電粒子砲だよ。艦載用荷電粒子砲を改良し狙撃用にした物で粒子の集束率を上げ威力と射程距離を向上させてみたんだ」
「そうですか、それでは早速試射してデータを取ることにしましょう」
 アルマは荷電粒子砲を辻永軍に向ける。遠くからの脅威に兵士達は気づくこと無く、近くの敵兵士と切り結んでいた。
「試射一回目、通常チャージにて発射します」
 アルマはそう言うと引き金を引くと発射口から光の線が伸び、辻永軍の兵士を貫いていく。
 兵士達は突然側面から攻撃されたことに動揺し、足を止め始める。
「続いて試射二回目、最大チャージにて発射します」
 アルマは荷電粒子砲を限界までチャージすると引き金を引き絞った。
 光線は地表を抉りながら真っ直ぐに突き進み、光に飲み込まれた兵士はその部分を削り取られて地面に崩れ落ちていった。
 アルマは兵士達の状況をスコープで確認しながら焦げ臭い匂いを嗅ぎ取った。見れば、荷電粒子砲から黒い煙が昇っている。
「ああ……やっぱり、回線が焼けちゃったか」
「どういうことですか?」
「いや、威力を上げたら発熱量も増加しちゃって、二発撃つと回路が焼き切れるんだよね」
「そういう事はもっと早くに言ってください」
 アルマは狙撃型荷電粒子砲を置くと、機晶ブレード搭載型ライフル二式を構えた。
「続いて重火力型の標準装備、機晶ブレード搭載型ライフル二式の試射を行います」
 アルマは淡々とした口調ながら、しっかりと武器のデータを明確に残していった。


 メイ・ディ・コスプレ(めい・でぃこすぷれ)マイ・ディ・コスプレ(まい・でぃこすぷれ)が開発したイコンを装備していた。
 マイは自分のイコンが装備されるのを見ながら饒舌に説明を始める。
「基本コンセプトはフラワシが使えるイコンなんだよ? アルテイメッドイコンだと鈍重すぎるので、ブルースロートをベースにして機動性と耐久性を備えてみたんだけど。後、超能力戦メインのBMIモードと、フラワシメインのアルテイメッドモードを切り替えできるんだ。あと見た目だけダスティシンデレラのデザインを受け継いでみたの。どうかな?」
 マイは目をキラキラさせながら訊ねるが、メイは何やら申し訳なさそうな顔をしている。
「うん、すごいのは分かるんだけど……わたしコンジュラーではありませんから、ほら、BMIモードしか使えないのですよ?」
「っ!」
 マイは膝から崩れ落ちた。
「あ、でも! 超能力戦闘は出来るから!」
 メイは必死にフォローに入り、マイはなんとか持ち直した。
「うん……そうだね。それで、どこと戦うの?」
「それは、棒占いで決めましょうか」
 メイが近くの小枝を拾い上げると、地面に立てて手を離す。棒の先端は辻永軍の兵士達の方へと向いた。
「あちらですか、よし、進軍開始です」
「うん……行ってらっしゃい」
 まだ落ち込んでいるマイは力なくメイを見送った。
 マイは後ろ髪引かれる思いで敵に突撃を仕掛ける。機動を重視しているだけあり、マイは凄まじいスピードで辻永軍の兵士の軍列に割って入り、すり抜けるようにサンダークラップを放つ。
 青白い稲妻が地表をかけずり回り、触れた者は身体を震わせ、泡を吹いて倒れてしまう。
「野郎!」
 倒れていく兵士を見つめながら他の兵士たちがマイを囲み一斉に斬りかかる。
「私は女です!」
 マイは無双モードを発動させると、周囲に向けてサンダークラップを放つ。先ほどの光とは比較できないほどの強烈な雷光が周囲を照らし、斬りかかった兵士は全員感電して将棋倒しに倒れていく。
「さあ、次は誰が相手ですか!」
 マイが叫ぶと、兵士達はその力に触発されるように再び一斉に斬りかかり、マイは機動と超能力を活かしてしばらくその場に留まった。


 戦地の外れ。
 シミュレーターの中に入っても戦闘をせずに自らのイコンのアイデアを出し合う契約者も中には存在し、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)は和気藹々と新型イコンについての提案を出し合っていました。
 三人が議題に取り上げたのは4人乗りイコンについてのことだった。
「ストークにベースに四人乗りのイコンを……」
 ミリアが言うと、スノゥとティナは明るい表情で頷きながら自らの意見を述べる。
「確かにぃ〜、イコンさんって2人乗り用ばっかりですもんねぇ〜」
「それなら、武装も一緒に考えない? 例えば、こんなものとか……」
 ティナが言うとスノゥは武装案をまとめた紙を一枚取り出し、ティナは説明を始める。
「速射型機晶ビームキャノン。高速充填を可能にした機晶ビームキャノンで、元武装では機晶姫必須ですが、機晶制御システムなんかでその点は改良できてると良いなって。速射や連射が出来る分、少し燃費は悪いけどね」
「いいんじゃないかな。それなら、それに合わせてイコンの方も……」
 三人の会議はどんどんと盛り上がるが、及川 翠(おいかわ・みどり)には何を言っているのかさっぱり分からず、絵を見せ合いながらあーでもないこーでもないと言い合っているようにしか見えなかった。
 三人の邪魔をしないように少し離れると、近くで何やら怪しげな動きをしている笠置 生駒(かさぎ・いこま)シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)の姿が目に止まった。
「ふふふ、まさかシミュレーターの内部からデータをいじられるとは思ってないだろうね」
 生駒はシミュレーターに入るためにをジェファルコン特務仕様装備し、このために用意した弾幕用の多連装ミサイルランチャーを置きながらニヤニヤと笑みを浮かべる。
「見付かったら教官にまたお説教やで」
「何を失礼な、自爆はロマン。それに、機密保持が目的なんだから問題ないって」
「自爆はロマンなの!」
 二人の会話に翠は突然乱入し、生駒とシーニーは目を丸くした。
「なんやこの子!?」
「お、お嬢ちゃん……もう少し声を抑えてくれると嬉しいな」
「自爆はロマンなの!」
 翠が言葉を繰り返すと、生駒が翠の口を手で押さえる。
「ど、どないすんねん! このままじゃバレてまう……」
「もう、バレてるぞ」
 シーニーが慌てていると、後ろから声がした。生駒は首が錆び付いたようにゆっくりと動かすと、そこには長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)が不快そうな顔をして、二人を見つめた。
「まったく、シミュレーター内を見回ってて正解だったな。てめえら……ちょっと、話しがあるからこっち来い」
 広明は返事を聞かずに生駒とシーニーの首根っこを掴んだ。
「ちょ、ワタシは止めましたよ!」
「あ! シーニーそれはずるいんじゃない!?」
 二人はずるずると引きずられながら口論を交わし、翠はひとまず三人のところにもどった。
「そういえば、翠はなにか案はないかな?」
 帰ってきた翠を見て、ミリアが訊ねると、
「自爆はロマンなの!」
 翠は嬉しそうにそう言って、ミリアたち三人は互いの顔を見て怪訝な表情になった。
「ま、まあ……ともかく、今のアイデアはシルフィードで試してみるわ」
 ミリアはシルフィードを装備すると、速射型機晶ビームキャノンを構えて遠くの兵士に向けて発射した。
 光の塊が放物線を描き、遠くで光の爆発が巻き起こり兵士達が吹き飛ばされる。
「綺麗なの……」
 翠はうっとしながら光を眺め、ミリアは次々とビームキャノンを発射し、その度に翠は綺麗とはしゃいだ。


 生駒のように理由をつけてシミュレーターに入る者もいるが、堂々とシミュレーターに黙って侵入する輩もおり、ドクター・ハデス(どくたー・はです)天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)がまさにそれだった。
 その目的はデータのハッキング。
 ただ、建物の存在しないだだっ広い平原ではどこにいても目立ってしまうが、リスクを背負ってもこのシミュレーターのデータをハデスは欲していた。
「ククク、教導団の門外不出のパワードスーツのデータ……大勢がシミュレータにアクセスしている今なら、こっそりデータを入手することも不可能ではあるまい!」
 教導団員以外ではパワードスーツを入手できないことを不満に思っているハデスは、
このチャンスにパワードスーツの技術情報を盗み出そうとしていた。
「さあ、十六凪よ! シミュレータのデータベースにハッキングをおこない、教導団が開発しようとしているパワードスーツのデータを盗み出すのだ!」
「やれやれ、ハデス君は簡単に言ってくれますね……。天御柱学院のコンピュータへのハッキングが、そんなに簡単なわけがないでしょう」
 文句を言いながらも、十六凪は【ユビキタス】【先端テクノロジー】で【ノートパソコン】を用いて、データベースへのアクセスを試みる。
「このシミュレーションには、一般応募の契約者が持ち込んだイコンデータも使われています。このイコンデータに偽装して、情報回収用のウィルスプログラムを送り込めば、今回だけは学院のファイアーウォールを突破できるかもしれません……」
 十六凪がウイルスを送り込み──それと同時に警報が鳴り響く。
「なんだ!?」
「どうやら、ウィルスを検知されたようですね」
「むうぅ……! ここまで来て! 致し方ない。ひとまずここは退却……」
「てめえらああああああああああああああ!」
 まるで地獄の底から聞こえるような叫び声に二人が身震いしながら遠くを見ると、広明が生駒とシーニーを引っ張りながらハデスたちに接近した。
 眉間はそこから割れそうなほどシワを作り、額には青筋が浮かんでいた。
「なんだってんだ……次から次へと。てめえらもこっちに来い! イタズラの説教はそこでしてやる!」
 広明は片手でハデスと十六凪を掴むと再び引きずるようにして、テスター達の迷惑にならない場所まで移動し、戦闘が終わるまで説教は続いた。