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リアクション
『小型虚獣、さらに二体撃破を確認、残りは六体。東方面はだいぶ戦況が落ち着いてきたから、巨大な奴に小型が近づかない様、引き続き牽制、撃破頼む』
「了解です。よし行けエクス!」
「うん……動きづらいよ、これ」
和輝達からの通信を受けた湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は、自らが乗る小型飛空艇アラウダから身を乗り出して、直下を進んで居るパートナー、エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)に声を掛けた。
エクスは量産型虚狩人を駆って、虚獣の方向へと向かっている。彼女に限ったことでは無いが、量産型虚狩人は全身をすっぽりと覆う構造になっているため、「搭乗している」というべきか「身に纏っている」というべきか微妙なラインだ。普段は「身に纏う」タイプのパワードスーツを愛用して居るエクスにとって、まるで着ぐるみのような虚狩人は慣れないこと甚だしい。
「コイツはまともに武器がつかえるぞー、よかったな」
どこか人ごとな雰囲気を漂わせながらの凶司の言葉に若干の不満を覚えつつ、しかし「武器が使える」の一言で少しテンションが上がったか、エクスはうん、と小さく頷く。そして。
「武器使えるなら……よおおおおっっし!」
クライ・ハヴォックの雄叫びを上げて防御力を高めると、両手に持ったユナイトソードを融合させて大剣に変える。
「十時の方向、味方機が付いてない奴がいるな」
「よーっし!」
アラウダの高度を上げた凶司が、詳細な戦況をエクスに伝える。エクスは指示に従い、足止めする者が居ない状態の虚獣めがけて駆ける。
合体状態のユナイトソードを、しかしエクスはラヴェイジャーの腕力でもって難なく振り回す。一気に虚獣との距離を詰め、アナイアレーションの一撃をお見舞いした。
振り回された大剣が空を切り裂き、風が逆巻く。斬る、と言うよりはぶん殴る、に近い。圧倒的な暴力に晒された虚獣は、おおおおおと吠える。だが、一撃で仕留めるところまでは行かない。虚獣の厚い皮膚が、衝撃のほとんどを吸収してしまう。
「ケーブルを踏むなよ、一度下がって態勢を整えろ」
そのままいつもの調子で反転して次の一撃、と思っていたエクスは、凶司からの言葉にハッとして、一度まっすぐ飛び退る。ケーブルのことをすっかり失念して居た。あのままではぶちっと踏んでいたところだ。
素早く、しかししっかりとケーブルの位置と余裕を確認して、再びユナイトソードを構える。虚獣が立ち上がる前に仕留めたい。
エクスはしっかりと狙いを定めると、クロス・スラッシュで切り裂いた。
それは、アナイアレーションの一撃で弱っていた虚獣には充分なダメージだったようだ。ドォ、と倒れた虚獣は、程なくして溶け始める。
「やったな、エクス」
「うん、でもこれ、けっこーきっつい……」
しかし、大技を連発したエクスには疲労の色が濃い。凶司は冷静に、撤退を告げる。
前線からは少し離れた所で、基地を守る様に立っているのは富永 佐那(とみなが・さな)とエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が乗るイコン、ザーヴィスチだ。
『前線組の消耗が激しい。包囲網を突破する奴が出たら足止めを頼む』
「了解です」
上空の和輝からの通信を受け、佐那はザーヴィスチに武器を構えさせる。
「さて、接近戦仕様のこの機体と、この武器の相性はどれほどのものでしょう」
日頃は接近戦を好んでいるが、この武器しか通用しないのであれば仕方が無い。だが、素直に後方からの援護射撃を行っても、この機体では充分な力を発揮できないだろう。
「佐那さん、右手前方から虚獣、来ます」
ディティクトエビルとイナンナの加護を使って周囲の警戒を担当しているエレナが警告の声を上げる。佐那はすかさず、機体をそちらに向けた。
「シューニャさん、射撃の補助をお願いしますね」
エレナがモニターの中に表示された妖精のアイコンに話しかけると、了解しました、と涼やかな電子音声が応える。
「それより、投擲の軌道計算をお願いします」
「了解しました」
「……投擲?」
エレナがきょとん、として居る間に――
「そーれっ!」
機晶AI・シューニャが瞬時に計算した軌道に乗せて、佐那はあろうことか、ライフル状の対虚獣兵器を――ぶん投げた。
目標は虚獣の口の中だ。
シューニャによる軌道計算の手助けもあり、巨大なライフルはあんぐりと空いた虚獣口の中に見事吸い込まれていく。
ガゴッ、と小気味の良い音を立てて、虚獣の口をライフルが塞いだ。
あが、あが、と虚獣が狼狽えている隙に、紐付きの武器を捨てて身軽になったザーヴィスチは、持ち前の機動力を活かして瞬時に虚獣に肉薄する。
そしてすかさず――引き金に手を掛けた。
だが。
「あ、まずい……」
発砲が起きない。投擲の拍子に、アウタナと繋ぐケーブルが抜けてしまったのだ。
充分ケーブルには余裕を取ったつもりだったのだが、と佐那の顔に焦りが浮かぶ。
藻掻く虚獣は、めちゃくちゃに両手両足を振り回す。佐那はやむを得ず一度機体を下がらせた。幸いなことに、今はケーブルに縛られる必要無く動く事が出来るので、回避は容易い。
しかし、このままでは虚獣が基地を破壊してしまう。
「ここは朱鷺にお任せを」
と、その時小さな影がザーヴィスチの足下を駆け抜けて行った。
生身の機動力を活かしてケーブルの保守に当たっている、東 朱鷺(あずま・とき)だ。
朱鷺は素早く、ザーヴィスチの武器が使用しているコネクタの元へと向かうと、丸太のようなケーブルを両手で抱え上げ、コネクタに刺し直す。
「これで大丈夫、と」
がちゃん、と確実な手応えを確かめてからザーヴィスチを振り仰ぎ、合図を送った。
と同時に再び、虚獣の口に刺さったままのライフルに光が灯る。
それを見逃す佐那では無い。すかさず暴れる虚獣に接近すると、再び引き金に手を掛けた。
今度こそ、確かな手応えがザーヴィスチを襲う。
ゼロ距離どころの話では無い。体内でアウタナの力が火を噴く。
これにはさしもの虚獣もひとたまりも無い。
ぶしゅう、と嫌な音を立てて虚獣の身体は四散した。――ついでに、ザーヴィスチのライフルも。些か、扱いが乱暴にすぎた様だ。
「ちょっと無茶をしすぎたでしょうか」
大破してしまった武器の回収は諦めて、佐那は一度ザーヴィスチを下がらせる。
残る小型の虚獣はまだ四体。まだ油断は出来ない。