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巨大虚獣撃退作戦!

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巨大虚獣撃退作戦!

リアクション

「ここは絶対に突破させるなよ、住民に被害が出る」
「わかってます」
 イコン・マルコキアスに搭乗して、森を背に立っているのは源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)のふたりだ。この先には先住民の集落が確認されている。戦闘の余波が届く距離ではないが、しかしここを突破されてしまえば集落の壊滅は目に見えている。
 二人はマルコキアスに対虚獣武器を持たせ、防衛に徹している。武器が紐付きでは思うように戦えない。
「有無を言わさず追い払ってしまうのは、何だか可哀想な気がしますけど……あっ、来ちゃいます!」
「可哀想、か」
 あのおっかないのがねぇ、とティーの懐の深さに感服半分、呆れ半分で呟きながら、鉄心は対虚獣武器の銃口をこちらに向かってくる虚獣へと向ける。
「連射はできないって話だったよな……」
 鉄心は慎重に、ティーに遠慮する訳では無いが、虚獣の足に狙いを定める。一撃で仕留められなかった場合、中途半端にダメージを与えて暴れさせては余計集落に危険が及ぶ。優先するべきは虚獣の足止め。
 出来るだけ遠くで足止めをしたいが、外しては元も子もない。鉄心は確実に当てられるギリギリの距離で引き金を引いた。
 どん、と重たい反動が機体全体を揺るがす。確かにこれでは、仮に破損の危険が無くとも、迅速な連射はとても無理だ。
 放たれた一撃はまっすぐに虚獣の足に着弾した。下半身を破壊された虚獣は、しかしそれでも息絶えない。ずる、べた、と両手で藻掻きながら、尚こちらへと向かってくる。攻撃された怒りで我を忘れているのだろうか、とてももう戦える様には見えないのだが。
「あう……」
 その姿を見たティーが若干辛そうな顔をしている。
 鉄心は武器の故障も覚悟の上で一気に虚獣との距離を詰めると、至近距離からの一撃でとどめを刺した。
「……どうしてこの子達は、地上に出てきたんでしょう」
「何か目的があるのかもしれないな。調査に行った連中が、何か掴んでくれると良いんだが」
 そうですね、とティーはぷすぷすと煙を上げながら溶けていく巨体を見下ろして、呟いた。


「虚獣の数がだいぶ減ってきたね。今ならダイバーの救助に行けそうだ」
 基地の周辺で待機していたセルマ・アリス(せるま・ありす)たちは、顔を見合わせて頷き合った。
「念のため、私達は援護に回るよ。穴の中から虚獣が出てこないとは限らないし」
「ダイバーの方の救出、よろしくお願いします」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)のふたりが、量産型の虚狩人の前に立って言う。
 美羽はもとより戦闘を担当するつもりだったが、ベアトリーチェの方は、四人乗りの飛空艇アルバトロスを使ってダイバーを運搬するつもりだった。しかし、ナラカへダイブするには虚狩人かイコン等での防護が必要、しかし量産型とはいえ虚狩人に乗ったままでは、アルバトロスに乗るどころか踏みつぶしてしまう。と言うわけで救助は他のメンバーに任せ、援護に徹することとなった。
「私達はイコンで降りるわ。対虚獣特殊兵装は持っていかないから、可能なら援護をお願い」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)が、格納庫横で待機しているフィーニクス・NX/Fを目で指す。現在、イーリャのパートナーであるジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が発進準備を進めている。
「じゃあ、ワタシ達は一番後ろからついていって、拾い上げた人を乗せていくね」
 セルマのパートナー、ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が、ぽんぽんと自分が乗る予定の飛空艇アルバトロスを着ぐるみの手で叩く。ミリィはゆる族用のダイブスーツを着込み、ダイブの準備も万端だ。
「じゃあ、美羽たちが先行して活路を開き、イーリャたちのイコンが『穴』内部を調査。俺達が救助したダイバーを回収。それでいいかな」
 セルマの言葉に一同が頷く。そして、各々量産型虚狩人やイコンなど、搭乗する機体に乗り込んだ。
「いくよ!」
 先頭を勤める美羽の掛け声で、六人は一斉に飛び出した。虚獣の数は減ってきたとはいえ、辺りではまだ戦闘が続いている。こちらが押しているとは言え、油断は禁物だ。
 他の戦闘には構わず、一団はまっすぐに『穴』を目指した。
 大地に黒々と口を開けている大穴からは、ナラカの瘴気が微かに漂ってくる。この中に生身で落ちればひとたまりもない。
「全く、自分でどうにか出来ないのに、こんな場所に降りていくなんて……」
 セルマが呟くのも無理のない話だ。
「中から虚獣が出てきたら危ないから、私は中へいくね! ベアトリーチェは外をお願い!」
「わかりました。絶対、救助活動の邪魔はさせません」
 パートナーに一声掛けると、美羽は虚狩人の機体を躊躇わず『穴』へとダイブさせた。ベアトリーチェはそれを庇う様に立ちふさがる。
「私達も、行くわよジヴァ」
「上等!」
 イーリャとジヴァが操るフィーニクスが迅速に続き、さらにセルマ、ミリィも続く。
 量産型虚狩人はケーブルが付いている関係で、あまり深くまでは潜れないし、行動範囲も狭くなる。自然、イコンを操るイーリャ達が捜索の中心になる。
 フィーニクスは持ち前の飛行機能を活かし、一直線に『穴』の中を進んでいく。一方量産型虚狩人に乗ったセルマは、空飛ぶ魔法↑↑を使ってゆっくりと降りている。ミリィは飛空艇の速度を調整してセルマに続く。
 万が一虚獣が出現しないとも限らない。『穴』へとダイブした五人は、周囲に充分な警戒を払いながら、取り残されているダイバー達の姿を探す。
 セルマが光精の指輪から光の精を呼びだして、辺りを照らす。やや強い電球程度の明かりだが、無いよりは良い。
「全く、自業自得ね。とはいえ、彼らが一番情報を持っているのでしょうから、皮肉だわ」
「ママ、あっちの方で何か動いた」
 イーリャがぼやいていると、フィーニクスの操縦を担当しているシヴァが視界の端で何かを捕らえた。ダイバーかも知れないし、虚獣かもしれない。シヴァはディメンションサイトのスキルをフル活用して、周囲の状況を把握しながら近づいて行く。
「大きな影はないわね。ダイバーかしら」
 慎重に影との距離を縮めていくと、果たしてそこに居たのはダイブスーツに身を包んだナラカダイバーだった。
「大人しく投降しなさい……じゃないわね、救助に来たわよ」
 ダイバーに向けてイーリャが告げると、ダイバーはぶんぶんと大きく手を振る。その腰には、巨大な荷物がぶら下がっていた。おそらくは「戦利品」だろう。
 無理矢理イコンの空きスペースに乗せる事も出来ないでは無いが、コクピットが狭くなってしまう。万が一戦闘になったりしたときのことを考えると、それは得策ではない。
「ミリィさんに任せましょ」
 ジヴァは淡々と言うと、ダイバーをイコンの掌の上に載せた。そして、少し高度を上げて、ミリィの乗ったアルバトロスの元へと戻る。
 ダイバーを保護した旨を告げ、飛空艇の座席へとダイバーを乗せた。
「ちょっと、そんなに広く無いんだから、お宝は置いていってよ! 他にも乗る人が居るんだからね」
 巨大な荷物と共に乗り込んできたダイバーに、ミリィのお説教が飛ぶ。
 当然ながら「死にそうな思いをして取ってきたお宝だ」とダイバーは拒んだが、しかしすぐにセルマがもう二人、ダイバーを保護してきたものだから、三人は渋々持っていたおたからをナラカへ向けて手放す。そうしなければ乗れないのだ。
「今のところ虚獣が出てくる気配はないよ。もうダイバーも居ないみたいだし、さっさと引き揚げよう!」
 いざというときの為周囲に警戒を払っていた美羽だが、どうやら今のところ、新たな虚獣出現の気配はない。出ないなら出ないに越したことは無い。安全なうちに引き揚げるに限る。
 五人は一度集まって状況を確認すると、『穴』から這い上がる。
 地上では、ベアトリーチェがブライトマシンガンでもって虚獣の足止めをしていた。他の機体も善戦しているので、『穴』の付近には今のところ、虚獣の姿はない。
「ダイバー達を早く安全なところへ連れていこう」
「わかってるよ」
 指示を受けたミリィは、アルバトロスを思いっきり飛ばして、戦闘区域からの離脱を図る。万が一その途中に虚獣に襲われないよう、その後ろを残りの五人が固まって続いた。