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流せ! そうめんとか!

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流せ! そうめんとか!

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1.食べる!

 秋晴れの、高い高い青空。
 紅葉した木々。
 そして、飛び散る滝の水。
「マスター! ほら、あそこが会場ですね。滝修行を兼ねて沢山いただきますよ(ぐっ)!」
 ガッツポーズを作ってみせるのは、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)
 フレンディスは季節にそぐわぬ橙色の小花柄をあしらった山吹色ベースのビキニ……に、パレオとパーカーを身に着けている。
 しかしそれは、今決して浮いた格好というわけではない。
 周囲には、彼女と同様水着姿の人が集っている。
 今日は、雑貨屋ウェザーの看板娘、サニー・スカイ(さにー・すかい)が開催する『流しそうめん』が開催されるのだ。
「ああ、がんばれよ」
 笑顔を作って彼女を送り出すのはベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)
(嫌な予感しかしねえ……ウェザーのイベントの時点で、絶対)
 笑顔とは裏腹に、その胸中は穏やかざらぬものが渦巻く。
 それでも。
「私、今夏は流し素麺を行わなかった故、とても楽しみです」
「ああ、そうだな」
 はちきれんばかりの笑顔の、フレンディスを見ていると自然に心が穏やかになっていく。
(ま、夏が過ぎた今になって、彼女の水着が見れただけでもいいか)
「これは、何?」
「薬味です。定番のみょうが、根わさび、白ゴマ、すだち、もみじおろし、三つ葉、白ネギ、海苔、小エビ、錦糸卵……」
「ほわぁああ、本格的ですねえ」
 マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)に説明している水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)の手元を覗き込んだフレンディスは、ため息をつく。
 ゆかりとマリエッタも水着をきっちり着用していた。
 ピンク色のパレオ付きビキニと、青いワンピース。
「流しそうめんはよく知らないけど、楽しみね」
 ゆかりの説明を聞き、目の前に並ぶ薬味を眺め。
 マリエッタの表情も、自然綻ぶ。
「映像で見た事はありますが、頂くのははじめてですね」
「大丈夫。僕がお手本を見せてあげるよ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)の前で、葱と茗荷の入ったお椀と箸を持つ。
「ほら、こうやって……」
 どどどどどどどどどどー!
 北都の目の前で、そうめんが滝の水とともに物凄い早さで流れて行った。
「……僕の知ってる『流しそうめん』と少し違うかなー」

「ふ。うふふふふふふふ!」
 不敵な笑い声の主は、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
「こんな水流ごときで私の食欲が怯むと思ったら大きな間違いよ! はあっ!」
 そうめんが、止まって見える!
 いや、セレンフィリティが早いのだ。
 浮遊し、目にもとまらぬ早さでそうめんをゲットする。
「この、そうめんを持ってきた薬味と共にいただくのよ――!」
 セレンフィリティのお椀の中には、薬味と称して様々な物が入っていた。
 いきなり、サンマ。
 そしてカキフライ、柿に栗に梨にりんごにブドウにキノコ各種……
 様々な秋の味覚とともに、そうめんをお召し上がりください。
「いえ……いえ、セレン。それはどう考えても薬味じゃないと思うわ」
 さすがに突っ込むセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 しかし食べてみると、なんとなく食べれない事もない。
「キノコは、ありかもね……」
「でしょでしょ! ついでにこれもどう!?」
 セレアナの台詞に気をよくしたのか、セレンフィリティは謎物体をセレアナに勧めてくる。
 どうやらそれは、彼女が作ったサンマの塩焼きとカキフライらしい。
 なんとか遠慮する言葉を探しているセレアナの前を、そうめんとは違う物が流れ去る。
「あれ? ちょっと今の何かしら。そうめんとは違ってたみたいだけど……」
 セレンフィリティの興味がそちらに移ったことにほっとしながら、セレアナも同調する。
「麺のようには見えたけど……」

「流しそうめんがあるなら、流しラーメンがあってもいいと思うんです!」
「そうだね。流しさぬきうどんもいいと思うよ」
 滝の上流。
 調理と流し担当の堂島 結(どうじま・ゆい)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、意気投合していた。
 結は、大量のラーメンを持参していた。
 味の程は謎だが、その自信だけは☆3つものだ。
「これだけあれば、全員にいきわたるわよね!」
「あわせた付けだれも作っておくよ」
 エースは結のラーメンに合わせたスープを手早く作る。
 同時進行で茹でているのは、さぬきうどん。
「流しにあうのは、釜揚げ系だと思うんだ」
 しかし、さすがのエースも手がいっぱいになってくる。
「……メシエ、温泉卵を作るの、手伝ってくれないか?」
「そこまでお願いされたら仕方ないなぁ」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は、小さく肩を竦めながら立ち上がる。
(そこまでお願いしたつもりはないけど…… それに、ただ見てるだけだし)
 温泉卵。
 温泉のお湯に卵を投入して、時間を見ているだけ。
 なのだけれども、メシエはわざとらしくエースに片目を瞑ってみせる。
「労働の対価は、後でちゃんと貰うよ」
「ああ。何しようか?」
「紅葉が綺麗だね…… 後で、森に散歩にでも行こうか」
「いいね。でも、それで本当に対価になるのか?」
「勿論だよ」
(森の奥……落ち葉のベッドで、たっぷり、ね)
 メシエの含み笑いに、エースは気付かない。