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甘味の鉄人と座敷親父

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甘味の鉄人と座敷親父

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【十三 さよならは突然に】

 甘味の鉄人が終了して、まだ一時間も経過していない頃合い。

 マーシャル・ピーク・ラウンド球場近くの居酒屋で、早めの夕食にありついていた。
 そこへ、同じく大会に参加していた裁が吹雪の食事する姿を見かけ、相席を申し入れてきた。吹雪としても断る理由が無かった為、敗者同士の傷の舐め合い――ではなく、普通にお疲れさん的な雰囲気で互いの戦いぶりをささやかに称え合う会となった。
「それにしても、強烈なレシピだったねぇ。あれ本当に、馬場校長に食べさせるつもりだったの?」
「自分の狙いにブレは無いであります。標的はたたひとり……次こそは、仕損じないよう綿密な計画を立てるであります」
 全くもって、懲りるということを知らない吹雪の不気味な笑みに、裁はただ引きつった笑みを返すしか無かった。
 と、その時――。
「なんや、どっかで見た顔やなぁ思たら、教導のやらかし名人やないか」
 不意に天を衝くような巨躯が、ふたりの座るテーブル脇にのっそり姿を現し、屈託の無い笑みを遥か頭上から落としてきている。
 裁はこの人物が何者なのか、よく分かっていない様子であったが、吹雪は違った。
 一瞬、間の抜けた表情を浮かべ、次いでぎょっとしような顔色に変わっている。
 ふたりの前に姿を現したのは、若崎 源次郎(わかざき げんじろう)だった。
「な……ななな何でこんなところにッ!?」
「いやぁ、カルヴァン商会のお供で、ちょろっとなぁ」
 源次郎の返答に、吹雪は耳を疑った。
 だが、源次郎は全く悪びれた様子も無く、からからと笑う。
「そないに、ビックリすることちゃうがな。わしがテロリスト認定されとるのは、シャンバラでの話やで。カナンで悪いことなんか、何もしてへんよ」
 曰く、東カナン西部の街ベルゼンに於いては、カルヴァン商会の建設資材部門統轄を任されている、ひとりの商売人に過ぎないのだという。
「し、しかし……シャンバラでは相変わらず手配中の筈でありましょう。よくのこのこと……」
「何いうとんのや。自分かて、非リア充エターナル解放同盟公認のテロリストやないか」
 いわれてみれば確かにその通りであり、吹雪としても、ぐうの音も出なかった。
「それはそうと、若崎殿はイレイザードリオーダー討伐の為に、地球に降下したのでは?」
「あんなぁ。もうどんだけ経つ思とんねん。もうとっくに決着ついたわいな」
 いつの間に――流石の吹雪も驚きを隠せなかったが、しかし源次郎は相変わらず、飄々と笑うのみである。
「わしのやりたいこたぁ、もう大体終わったしな。これからはカナンでのんびりするわ」
 それだけいい残すと、源次郎は居酒屋客の間に紛れて、ふたりの前から去っていってしまった。


 ここに、ひとつの戦いが終わった。
 それは何も、甘味の鉄人という大会だけに限った話ではなく、色々なものが同時並行で、幕を閉じていたといって良い。
 あらゆる事象が、必ずしもコントラクターの活躍だけに左右される訳ではなく、様々な要因で突然の終焉を迎えることもある。
 それは決して、誰にも予期出来ない。出来よう筈も無かった。


『甘味の鉄人と座敷親父』 了

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 当シナリオ担当の革酎です。

 今回はコメディでいこう、とわざわざシナリオ種別もコメディにしたのですが、内容的には意外とガチンコ勝負なアクションが多く、ちょっと失敗したなと反省せざるを得ませんでした。

 南部ヒラニプラから東カナン西部の街ベルゼンへと送られる交易品目は、以下のように決定しました。

 ・バウムクーヘン(エース・ラグランツ&エオリア・リュケイオン 作)
 ・焼きドーナツ(小鳥遊美羽 作)

 また、ベルゼンの御三家が独自に商標を獲得したスイーツは、以下の通りです。

 ・カルヴァン商会 柿の水羊羹(佐々布牡丹 作)
 ・イロメラ興業 キャラメル・シフォンケーキ(高柳陣&ティエン・シア 作)
 ・ビーゼル商店 マカロン(霧島春美 作)

 御三家が商標獲得した上記三つのスイーツが流通するのは、あくまでベルゼン市内だけです。
 カナンの他の土地に出回るようなことはほとんどないとご理解下さい。

 それでは皆様、ごきげんよう。