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調薬探求会との取引

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調薬探求会との取引

リアクション

 宿。黒亜と共に帰還後。丁度、会合や素材採取が終了した頃。

「今回はどうにかなったが、下手をしていたら多くの犠牲が出ていた。こうなる事を知っていたんじゃないのか」
 陽一はのんびりとお仕置きされている黒亜を見守るシンリに話しかけた。
「……いつもの事だからね。今回は入山してから彼女に気付いて連れ帰ったりすると時間に遅れるし、追い返しても他で実験するからね。でもここであれば君達もいるから」
 シンリはあっさりと答えた。
「つまり、交渉をする前から採取で人を集めるつもりだったのか」
 陽一はシンリの口調から会合の結果に関わらずこうなっていた事を知った。
「……助かったよ」
 シンリは変わらずにこやかな笑みを湛えていた。
「もう一つ、知り合いが遭遇した出来事なんだが」
 陽一は以前この山で再会した石青年フォルトーナから聞いた町中で服毒自殺をした少女の話をぶつけた。聞いた時から関連を疑っていたので。
「それはヴラキだよ。以前、毒薬を依頼されたと言っていたからね」
 シンリは少し考え込んでから感性だけで調薬する獣人青年であると答えた。
「……やっぱりそうか。依頼の善悪には関わらないというからもしやと思ったが」
 嬉しくもない的中に陽一は息を吐いた。
「問わないからこそ、調薬を深く探求出来るんだよ。関わっているのはあちらだけさ」
 シンリはさらりと答えた。
「……友愛会の方か(一体、どう思っているんだろうか)」
 陽一は仕置き見学中のアーデルハイトに視線を向け胸中で問いかけた。
 取引や例の魔術師の凶行を止める事は大事だが、そのために調薬探求会の悪事を看過しなければならないのか、それにより出た被害は自分達にも罪があるのではないかと。

「黒亜を何とか連れ戻してくれてありがとう」
 シンリは戻って来た捜索者に礼を言った。
「礼はいい。それより、引き渡しは少し待ってくれ。お仕置きがまだ足りないからな」
 唯斗は自分の仕置きが終わっていないため引き渡しを先送りにしようと頼む。危険人物とは言え仲間である黒亜を守るために仕置きを止めるかと思いきや返事はあっさりしたものであった。
「……引き渡しはそれが終わってからで」
 シンリは唯斗の要求を呑んだ。黒亜を気に掛けていないというのではなく、何をしても懲りない危険な人という認識のようだ。シンリはこの後、仕置きを眺めながら陽一と何事かを話す。
「よほど黒亜が懲りないのを知っているんだな」
「羽純くん達が色々しても全然反省していなかったよね」
 羽純と歌菜はシンリと黒亜の様子を離れた所から見守っていた。
 お仕置きタイムの開始は、氷を融かしてからだった。当然、封斬糸で捕えたまま。
「では、これから皆さんにご紹介するのは世界を超える古今東西お仕置きの伝統スタイル」
 どこぞの通販番組のような口上からお仕置きが始まった。
「……そう、尻百叩きです!」
 最強の武器である手をギャラリーに見せながら番組は始まる。
「……痛そう」
 クオンはこわごわと唯斗達を見守っている。
「そうです。ただ、それだけではなく、地味に尾を引く辺りお仕置きには最適です。手首のスナップを効かせて……」
 唯斗はクオンの言葉を拾いお仕置き紹介を続ける。
「鞭のように! 鋭く素早く! 当てる際も押し付けるのではなく弾くように!」
 唯斗は容赦なく和やかな笑顔でアトラスの拳気をまとった手で黒亜の尻を叩く。

 スパァーーンッ!!
 高らかな音が周囲に響き渡り眠りさえ吹っ飛んでいく。

「……これで懲りたらいいけど、何か言っているみたい」
 歌菜は黒亜が苦痛の声ではなく何やらつぶやいている事に気付いた。
「……採取した素材で……魔法薬を作ろうか……何の薬にしようか……」
 調薬で頭がいっぱいの黒亜には反省の色は全く無い。苦痛よりも調薬したいが勝っているのは端から見ても明らか。
「……こんなにも散々な目に遭っても懲りていないとはな」
 羽純も他の者達同様しっかり黒亜のつぶやきを耳に入れていた。
 唯斗の誰にも有無を言わせぬ笑顔により、誰も止める事が出来ずギャラリーと化していた。
「何とも言えぬお仕置きじゃな。しかも笑顔とは……普段優しい人や大人しい人を怒らせると怖いとはよく言うが」
 他の者と同じく口出しできぬアーデルハイトは唯斗の仕置きを見守るばかりであった。

 この後、山は解除に回っていた者達の力と捜索者達の進言で動いた調薬探求会によって事なきを得たという。そして、集まってくれた頼りになる協力者達は宿で過ごしたり下山したりと自分達のするべき事に戻った。
 皆の協力によってたっぷりと素材を得た調薬探求会は大人しく下山した。当然、エリザベート達の要求は呑み違える様子は無かったという。
 エリザベート達は帰宅するなり今後をまとめた報告書とにらめっこしたりと着々とこの後に待つ騒ぎに備えるのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

夜月天音

▼マスターコメント

 参加者の皆様お疲れ様でした。そしてありがとうございました。
 皆様のおかげで情報と素材を無事に手に入れる事が出来き、どうしようもない黒亜も無事に確保され調薬探求会も満足して大人しくなりました。

 下記からはリアクション内に登場しました報告書になります。


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【撮影者から送られた手紙について】



■正体不明の魔術師と撮影者の正体
元は一つの人物であり、ある老翁が大切な家族を失った悲しみから作製された膨大な魔力を有するホムクルンス。作製されたばかりで名前は無い模様。

自身の正体、作製者について上映会に発見された手紙や書物に記されているらしいが、校長達は頑なに口を閉ざしている。情報収集者によると校長達の判断によるものである事が判明。その理由については明らかにしないが、作製者が校長達や一部の者達の知り合いである可能性があるためらしい。
撮影者が保持している撮影機器は作製者と故人となった家族と作製した物である。

■二つに分かれた理由について
完成し目覚めてすぐにさまよう特殊な平行世界の浸食に遭遇し世界からの脱出するも作製されたばかりのため魔力や人格の定着が不安定だったため世界脱出の影響を受けて魔力の大部分と人格の一部が身体から離れて別の平行世界(こちらの世界)に散ってしまった。
魔術師と撮影者と別れるも互いに元に戻る事を望んでいた。撮影者は数多の平行世界を歩き回り、魔術師は助けを呼ぼうとしていたが、有するのは膨大な魔力と悪意のみのため、騒ぎを起こす事でしか撮影者を呼ぶ方法が思いつかなかったという。撮影者に残ったのは平行世界を歩き回る程度の魔力だという。

撮影者は欠けた事により衰弱を引き起こし死期が近いという。魔術師との一刻も早い統合が望まれる。

■同化現象について
平行世界をこちらの世界に同化させる現象であり、散々邪魔をされ考えを変えた魔術師が発生させると思われている。

悪意しか持たぬ存在故に被害を考えずに発生させるために平行世界が歪に姿を現したり天変地異や魔物が跋扈する可能性が予想されている。

現象を食い止めるには、二人を元に戻し、同化現象とは反対の作用である分離現象を起こす必要があるという。元に戻す際、同化現象発生後に魔法凍結装置にて魔術師を捕らえ、撮影者と統合する流れをとる模様。

■最後の事件現場について
空間を歪めて人を迷わせると言われているが、平行世界に助けを呼ぶために人を送るというのが正しい。

■平行世界に存在した名も無き旅団の手記について
記述は一切無い。
一部の情報収集者の推測によると彼らの目的地である近くて遠い場所は平行世界である、何かが彼らの平行世界への行き来を可能するという。ただし推測の域は出ず調査要。

■特殊な平行世界について
様々な平行世界間をさまよい、遭遇した世界に浸食し、存在を消すというものらしいが手紙に詳細は一切無し。

■撮影者が魔術師を発見した経緯について
魔術師の事件を聞きつけ発見に至った。遺跡での対決準備が終了した後であり、これまでの事件を調べ次は人を送るのではなく同化を起こすと予想したそうだ。分離しても同じ存在という事だろう。
上記でも述べたように撮影者には力が無いだけでなく衰弱し続けているため現場に留まっての対処では対応出来ない可能性があり被害規模が予測出来ないため多くの協力者を得るためにあちこち動き回った模様。

今回、明らかとなった手紙の内容の報告は以上である。

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