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リアクション
少しばかり宿を楽しんでいたエリザベート達はダリルからの知らせにより待ち人がようやく到着した事を知り、早々に部屋に戻った。
会合開催の部屋。
「皆揃った所で話すとするかの」
アーデルハイトは後から来たグラキエス達を見回してから話すために口を開いた。
その時、勢いよく襖が開いて
「同化って事はこの世界と重なり合ってイルミンに目玉帝国が建国されるって事か!?」
ミャンルー隊を引き連れたアキラが登場。
「……アキラよ。またそのような事を」
傍らにいるルシェイメアは呆れ顔。
「その事については今から話す故、適当に座るがよい」
アーデルハイトは空いている席を示す事で答えた。
「はいはい」
アキラは示された席に大人しく着いた。ルシェイメアも同じく席に着くが、ミャンルー達の相手で話を聞くどころではない状況に陥るのだった。
とにもかくにも会合は始まった。
「まずは……」
アーデルハイトはエリザベートが北都達に話した内容を明らかにした。ただし製作者については機密故に身の上以外は話す事は出来ぬとはぐらかし手掛かりになるような事は口にしなかった。
「犯人の正体も事件を起こした理由も分かりましたが、限定的に情報を残したのはやはり存在が知られるのを嫌っての事でしょうか。自分達の存在を」
これまでの情報を積んでいるノマド・タブレットを確認し『ナゾの究明』を有するロアは浮かんだ推測をまとめてから言葉にした。少しでもアーデルハイトがはぐらかす目的を知り得る事が出来ればと。
「魔術師が証拠を残さないようにしていたのは、話から考えると元に戻るために捕まるわけにはいかないという事か?」
ダリルも加わる。
「二つとも当たっておろう。手紙にはそこまでの記述は無かったが」
アーデルハイトは二人の意見を肯定した。
「では、製作者についてはやはり記載されているという事ですね。確か撮影者は名付けられる前に脱出したとなると製作者について知る時間はほぼありませんよね。それを知っているという事は、平行世界を歩き回っている時に知ったと考えるのが妥当であり、この世界に存在している可能性がありますね」
ロアは得たばかりの情報を整理しつつ推測を作り、ぶつける。はぐらかされた事柄だが何とかすれば答えに近付けるのではと。
「そういう事じゃな」
変に答えて悟られては厄介とばかりにアーデルハイトの返事は一言だけだった。
ここで
「それで同化現象っていうのは上映会で見た平行世界がこっちと重なり合うという事だよな」
先程まで鍋をつついてチャンスを窺っていたアキラが今だとばかりに同化現象について訊ね始めた。
「まぁ、平たく言えばそうじゃが……」
アーデルハイトは同化現象についてあれこれ話した。
「最後の事件は確か空間を歪めて人を迷わすだったな。それが撮影者を呼んできて貰うためにこちらの者を平行世界に送り付けるという事だそうだな。その中に旅団はいたのか?」
グラキエスは聞いた話をまとめた後、手記が図書館にあった理由を訊ねた。
「それは分からぬ。手紙には旅団や手記の事は一切書かれていなかったからの」
アーデルハイトは首を振りながら残念そうに答えた。
「それなら彼らの目的である近くて遠い場所というのがどこかの平行世界である可能性があるという事か? 彼らを連れて行くものが魔術師でなければ他にいるという事も」
ならばとグラキエスは推測を列挙。
「恐らくあるじゃろうな。あくまでも可能性ではあるがの」
アーデルハイトはグラキエスの推測は退けなかった。
「撮影者はもう分離で平行世界を歩き回る力しか残っていなくてその弊害で衰弱が始まって死期が近くて魔術師が同化現象を起こすのを利用してこっちに来るんだっけ」
ルカルカが念のためにと確認を入れた。
「そうじゃ。同じ人物故に考えは読めていたと書かれておる。ただ悪意しか持たぬ故被害など考えず大量の世界を取り込むだろうから歪に平行世界がこちらと重なる可能性や何かしらの被害があるかもしれぬと」
アーデルハイトは未だ予測の域を出ない被害範囲に顔を曇らせていた。
「そのために手紙で準備を呼びかけていたんだね。平行世界でも呼びかけていたという事は平行世界の人達の力を得られるかもという事?」
ルカルカは映像に手紙が登場していた事を思い出した。
「そうですぅ」
エリザベートはこくりとうなずいた。
「それならあちこち行かず、こちらに留まっていればよかったのではないのか。面倒な事はせずに」
ウルディカは至極当然の疑問を口にした。
「そうは思うが……」
アーデルハイトは事情を明らかにした。
「撮影者が魔術師を知ったのは、遺跡での準備を終えた頃で随分ここで調査をした後ですか。弱る状態では対処出来ない可能性があるために他の平行世界や私達に助けを求めたと……向こうもどれほどの被害が出るのか予測出来ていないようですね」
とロアは撮影者もまた予測で動いている事を読んだ。
「この先の事だが、話では同化現象を魔術師に起こさせて平行世界にいる撮影者を呼び、元に戻って貰うという事だが、設置した魔法凍結装置は同化現象を起こした後に起動するようにして魔術師の動きを止めた方がいいな」
頃合いだと読んでダリルが今後の対策を話題にした。予め『ユビキタス』により魔法凍結装置の具合など現在の遺跡の状況を確認済み。
「元に戻るまでこの世界に起きた異変に対処すると」
グラキエスも加わる。
「そういう事じゃ」
アーデルハイトは力強く二人の提案にうなずいた。
「元に戻った後はどうするつもりなんだ? 同化現象が起きたままにしてはおけないと思うが」
グラキエスは更に先の事を訊ねる。
「それについては問題無いですぅ。元に戻った撮影者が分離現象を起こして元に戻すですよ。被害が出ないように考えてするそうですから大丈夫ですぅ」
エリザベートが笑顔で答えた。
「話に出たさまよう特殊な平行世界とは何だ?」
グラキエスは新たに登場したものについて問いただした。
「さまよい、出会った世界を浸食し存在を奪うとしか書かれておらぬ」
アーデルハイトは困ったように書かれてあった事そのままに伝えた。
「そうか。という事は撮影者自身が知らないのか知っていて書いていないのかも分からないという事か」
グラキエスは二つの可能性を上げた。どちらにしろ事柄から感じる嫌な予感は同じだが。
「そうなるの」
アーデルハイトの返事はこれだけで
「……手紙に書かれていた事は以上じゃ」
アーデルハイトはそう言って手紙についての話を終わらせた。皆、ホムクルンスの製作者の話が残っていると知りながらも口にしなかった。当日本人に聞けばいい事なので。しかし、この後、北都からの情報でさらなる手掛かりを得る事には成功した。
一方、会話に加わらなかったルシェイメアは。
「なかなか大変な事になるようじゃな」
話を耳に入れながら四人の幼い獣人の相手に忙しくしていた。
再び、手紙の内容が明らかになった後。
「出現するのが歪かもしれないでもイルミン目玉帝国建国の未来が来るって事だよな」
アキラは再び目玉帝国の話題を上らせた。
「目玉帝国建国?」
聞き返すのは知らぬシンリだけ。
「そうそう。こんな帝国で……」
アキラは持参していた映像を見せた。なぜなら上映後希望者に配布する事になっていてアキラはしっかりと受け取っていたのだ。シンリに映像を見せる間、ちらちらとルシェイメアの様子を伺う。この後のために自分から注意を逸らす目的でミャンルー隊を連れて来たのだ。
「……面白い事になっているね」
映像を見終わったシンリは軽く笑みを浮かべながら感想を言った。
「だろう。それで目玉化する秘薬を作れたりとかは……」
アキラは興奮気味にルシェイメアに聞こえないように声量を小さくして交渉を開始。
「こういう面白い薬を作るのが好きな子はいるし作れない事はないとは思うけど」
シンリは作り手候補については明確に答えるも作れるかどうかについては慎重であった。
「それなら周りなんか気にせず是非……」
バンバン作ってくれと言って素材や報酬について話し合おうとした時、小粋のいい音と共に頭部に激しい痛みが走る。
「いってぇ〜」
アキラは的確にドツキ回された箇所をさすりながら恨めしそうに背後に振り返った。
そこにいたのは
「アキラよ、またろくでもない事を口走っておったな」
腕を組んだルシェイメアだった。ミャンルー達の相手をしながらもここぞという所は見逃さない最強のお目付役。
「ろくでもないってこれだけは譲れないぞ。いくら相手がルーシェでも」
実現可能かも知れない未来を前にアキラは負けない。
「ほほう、足りぬというか」
「未来は絶対に実現する」
ルシェイメアとアキラのドツキ合いが始まった。
結局は、
「懲りて少しは大人しくする事じゃ」
ルシェイメアが勝ち
「く〜、ルーシェ、やり過ぎだろ」
ドツキ回されたアキラはぼこぼこにされた。
それでも騒ぎが終わると宿の旦那に案内された部屋でルシェイメアやミャンルー隊と仲良く眠ったという。
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