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リア充爆発しろ! ~クリスマス・テロのお知らせ~

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リア充爆発しろ! ~クリスマス・テロのお知らせ~

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 どんちゃんどんちゃん!
「……」
 隣の号室のあまりのうるささに、寝入りかけていた枝々咲 色花(ししざき・しきか)は目を覚ましました。
 天御柱学院生の彼女は、今夜空京へとやってきていたのでした。
 知人の知人の知人に、留守番を頼まれたのです。
「ワタシ〜、イブの夜は彼氏とお泊りだしぃ、きゃはっ。ワタシ、リア充だからテロとか変なのが来ると、超ウザイじゃん? 部屋自由に使っていいから、留守番しててよ。今度奢るからさぁ」
 イブの夜にやることのなかった色花は、とても静かな環境と聞いて、まあいいかと引き受けたのです。
 彼女は知りませんでしたが、そこはルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)の部屋の隣だったのです。
 12月24日など、365日ある一年の単なる一日に過ぎません。いつもと何も変わらない静かな夜。自分の部屋ではありませんが、居心地は悪くありませんし、一人で大人しく寝ていたところでした。
 どんちゃんどんちゃん! わいわい!
 壁越しに盛り上がっている音が聞こえてきます。派手にパーティをやっているようです。
「……」
 色花は目を閉じました。騒がしいのはいやですが、留守番なのでクレームを入れるのは筋違いに思えましたし、関わり合いになりたくなかったからです。
「……」
 しばらくうとうとして目を開けると、隣の号室ではまだ騒ぎが続いています。
 少し喉が渇いたので、水を飲むことにしました。
「!?」
 一瞬、部屋にあった鏡に異様な影が映ったような気がして、色花は振り返りました。確認してみましたが、何もありません。気のせいだったのでしょうか。
「!!」
 もう一度ベッドに入った色花は、硬直しました。天井に人の顔が浮かび上がっているのです。
「!!!!」
 ベランダの窓が少し開いているのに気づきました。しっかり鍵を掛けたはずなのに。隙間から、白い手が伸びてきています。
 色花は、叫び声を上げそうになりました。ズリズリと不気味な音を立てながら、何かが部屋に侵入して来ようとしています。
 それらは、今夜騒いでいる単なるテロリストたちの仕業なのです。この部屋の主がリア充だから狙ってやってきたのでしょう。ぶっ飛ばしてやればいいだけです。
 しかし、心霊現象の類が苦手な色花は、この雰囲気に怖気立ちました。
「リア充爆発しろぉぉぉぉぉ」 
 うめき声と共に、鏡に恐ろしい表情をした顔がいくつも浮かび上がっていました。
「ひぃ」
 耐え切れなくなった色花は、思わず部屋から駆け出して外へと逃げ出しました。
「アワビィィィィ! プレゼントォゥォゥ!」
 廊下では、アワビを持った変な男がムーンウォークで迫ってきます。外見と動きが気持ち悪すぎます。先ほどノーンに眠らされたマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)が目を覚ましただけなのですが、アワビの生臭さが死臭を思わせて、色花の恐怖を掻き立てました。
「た、助けて!」
 色花は、頭が混乱したまま隣の部屋のチャイムを鳴らしていました。うるさいあの部屋です。
「どちらさんですか〜。ピンポンダッシュですか〜」
 扉を開けて、ルシアが出て来ました。その背後から、モモンガが飛んできます。
「フライング・モモンガ・アタ〜〜ック! ですの!」
 ブリュンヒルデ・アイブリンガー(ぶりゅんひるで・あいぶりんがー)は、シャンパンを調子に乗って飲んでしまい酔っ払っていました。来訪者を敵と認識して突進してきます。
「!!」
 色花は、顔面に衝撃を受けました。ついていけない事態に戸惑い、よけそこなったのです。モモンガのブリュンヒルデが色花の顔に激突します。ぶちゅり、と色花の唇に何かがくっつきました。
「あ」
 色花は、押し倒されるように身体のバランスを崩しました。さっきまでモモンガだったものが、急激に大きく形取り重量となって倒れこんできます。
「……」
「……」
 二人は、唇を重ね合わせたまま硬直していました。そう、二人です。
 キスをすると、一時的に元の姿を取り戻すブリュンヒルデが、モモンガから人間へと変貌していたのです。
「まあ」
 ルシアが目を丸くして見ていました。
 尻餅をついた色花に、覆いかぶさるように四つんばいのブリュンヒルデ。さっきまでモモンガだったため、何も着ていません。
 こういった行為が非常に苦手なブリュンヒルデの顔がみるみる真っ赤になっていきました。
「うわああああああん!」
 パニック状態になった彼女は、慌てて立ち上がると顔を両手で隠して走り去っていきます。
 これはまずいです。ブリュンヒルデはもっと恥ずかしい思いをすることになります。
「……」
 あまりのことに、唖然としていた色花は、黙って元いた部屋へと戻っていきました。まだ唇の感触が残っています。
 今夜の出来事は、クリスマスの夢なのでしょう。ぐっすり眠りましょう。明日になれば、また普通の日常が静かに送れます。
 辺りにいたテロリストと思しき連中の姿は、もうありませんでした。
「すやすや」
 ベッドに入った色花は、朝まで目覚めることはありませんでした。



「メリー・クリスマス。なにやってんのよ、あなたたちは?」
 サンタをやっていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、何も身につけずに街を逃げ回っていたブリュンヒルデを連れて、ルシアの部屋へとやって来ました。
「もういっそ、死なせてくださいませ」
 美羽に予備のサンタ服を着せてもらったブリュンヒルデは、部屋の片隅で膝を抱えて俯いていました。肩が震えているのは泣いているのかもしれません。
「私が見つけてよかったわ。もう少しで致命的なことになるところだったわよ」
 ため息をつきつつも、美羽はすぐに笑顔を取り戻します。
「プレゼント持ってきたわよ」
 彼女は、ルシアにプレゼントを手渡してから、ブリュンヒルデの傍にも置いて上げます。
「ルシアをいじめていた子供たちがうらやましがるような超かっこいいイコプラよ」
 美羽が贈ってくれたのは、【完全変形アーテル・フィーニクス】のメタリックカラーバージョンでした。
「ありがとう。これで勝てるわ!」
 ルシアは大喜びです。今夜はプレゼント山盛りでご機嫌になっていました。
「私も、毎晩これを抱いて寝ることにしますわ」
 ブリュンヒルデはプレゼントのモモンガのぬいぐるみを手に取ると抱きしめます。大げさな喜び方はしませんが、気に入ったようでした。
「サンタさん、ありがとう!」
 窓を開けて、ルシアは夜空に叫びます。
 彼女の夢は、叶ったのでした。