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リア充爆発しろ! ~クリスマス・テロのお知らせ~

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リア充爆発しろ! ~クリスマス・テロのお知らせ~

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 さて、その頃。
 パーティー会場のレストランから離れた繁華街では、イブの夜を楽しむ人々であふれ返っていました。イルミネーションの下を幸せそうなカップルが行きかっています。
 もちろん、売り子のミニスカサンタだって寂しい思いをしているわけではありません。人々にご奉仕するのが彼女らの充実した時間の過ごし方なのです。
 天御柱学院からやってきた榊 朝斗(さかき・あさと)も、そんなイブを満喫する一人でした。
 パートナーのルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)と、前々からクリスマスイブの日に買い物をしようと約束していたのです。
「たまにはこんな夜も悪くないですね」
「次は、あそこのお店に行ってみましょう」
 ルシェンもアイビスもご機嫌のようでした。朝斗は、なんだか二人に引き回されている感じですが、それも悪くありません。
 通り過ぎる人たちが、彼らを見ています。派手な美人と可愛い女の子が二人の仲良しグループと思われているのでしょうか。おっと失礼。朝斗は可愛い男の子でしたね。男の娘でしたっけ。まあどちらでも目立つことには変わりません。
「しかし、なんだか騒がしいな」
 いやな胸騒ぎを覚えて朝斗は辺りを見回しました。
 クリスマス・イブの喧騒に混じって、どこかで騒動が沸き起こっているような物音が聞こえてきています。空京警察が誇る屈強で勇敢なポリスメンが慌しく駆け回っているのがわかりました。離れたところで戸惑いのざわめきと怒号が飛び交い、争っている音が聞こえてきます。
 まあ、自分には関係のないことです。
 朝斗にとってはパートナーたちとの一時を過ごすことが大切なのです。
「……」
 ふと、今何か見えたような気がして、朝斗は目をしばたかせました。
 街並みを彩るクリスマスツリー。装飾も目に鮮やかです。その間に、背は低いですが印象深い“クリスマスツリー”がいくつもそそり立っているのを見つけたのです。
 イベントのミニスカサンタの女の子たちを追い掛け回している、数人の男たち。前は大きく開かれ、下半身は何も身につけていません。
「あっちへ行こう」
 トラブルに気づいた朝斗は、ルシェンとアイビスを連れて回れ右しました。
 あの変な男たちは、ポリスメンが捕まえるでしょう。彼らの関わることではありません。むしろ、騒ぎが大きくなるだけだということは、朝斗が一番よく知っています。
「?」
 ルシェンとアイビスは訝しがりながらも、朝斗の後をついてきました。大急ぎで現場から離れます。
「やれやれ」
 これで大惨事は免れることが出来て一安心です。後はまた、何事もなく彼女らとお買い物を続けることが出来ます。
「ちょっと、お茶でも飲んでいこうか」
 シックな感じの喫茶店を見つけた朝斗は、二人を誘います。ここなら落ち着けそうです。
 洋風のドアを開きかけて。
「ん?」
 取っ手に手を伸ばした朝斗は、半眼になりました。
 彼が握ろうとしていたのは、喫茶店の扉の取っ手ではなかったのです。
「いらっしゃいませ!」
 器用にこちらを向いて扉にへばりついていた男が歓迎してくれました。この寒空の下、何も着ていません。股間の“取っ手”をさらけ出して、女の子が握ってくれるのを待ち構えていたのでした。
「ここもダメみたいだ。場所を変」
「まあ、小さな取っ手ですわね」
 退避しようとしていた朝斗の思惑も空しく、ルシェンが気づいて近づいていきます。男の顔と“取っ手”を見比べて、哀れみを込めた嘲笑を浮かべました。
「まだ一度も使ったことがなさそうですし」
 何を言っているのでしょうか、彼女は。
「でもまあ、このドアノブを捻ってみたくなったわ」
 ルシェンは、手袋をした手で “取っ手”を力いっぱい握りつぶしつつ捩じります。ゴキゴキッ! といやな音が響きます。ぎゃあああああ! と男が悲鳴を上げました。
「その手袋可愛かったのに。捨てような。後で新しいの買ってあげるからさ」
 朝斗は、ルシェンから手袋を没収しました。直接触ったわけではないので、彼女も平気です。
 取っ手男があっさりと撃チンもとい撃沈したので、その場から立ち去ることにしました。
 ルシェンもそれっきり興味を失ったようです。本格的に大変なことになる前に帰ろうと朝斗が思った時でした。
「メリー・クリスマス! お嬢さんたちシャンパンはいかが?」
 ビンの詰まったケースを持った男がやってきます。
「……」
 ケースを眺めて朝斗はため息をつきました。ビンに混じって、一本だけ手に取りやすい場所に明らかにシャンパンのビンでない筒が顔を覗かせています。
 男はケースの底に穴を開け、そこから自分の“特製シャンパンビン”を突っ込んでいたのでした。
「そいつを手に取ってくれると、祝福の白い泡が吹き出すんだぜ!」
 男はドヤ顔で言います。
 それがきっかけでした。
「キャンドルサービスだよ。太い“ローソク”はいかがかな?」
「可愛そうな“マッチ”売りの少年ですぅ。是非ともボクの“マッチ”を使ってみてくださいぃ」
「ホワイトクリスマス! オレの白いシロップを舐めてみる気はないかい?」
 どこからともなく出現した、ツリー隊が朝斗に迫ってきたのでした。
「クリスマス・ツリィィィィ!」
 ツリー隊の男たちが一斉に登場しました。
 サンタ少女もいいですが、実のところ朝斗のようなタイプも好みなのです。男の娘が嫌いな変態なんかいません! 色々やらせてやろうと、仕掛けてきます。
「レッツ・パーリィ」
 ふふん、とルシェンが面白そうに微笑みました。
 次の瞬間。【退魔槍:エクソシア】で男たちを殴り飛ばします。
「そんなに貧相なのに、自慢げにしてはいけませんよ。お・し・お・き・してあげるんですからね」
【魔力開放】で、ルシェンの雰囲気が一変しました。麗しい美女から魔性の女王様へと姿を変えたのです。
「うふふふふふ」
「ぎゃああああ!」
 さっそく、地獄のようなお仕置きの時間です。
「もう、どうしてこう変態さん共は雰囲気をぶち壊してくれるのかな?」
 アイビスも黙ってみていたわけではありませんでした。【ぽいぽいカプセル】から【六連ミサイルポッド】を取り出し、見敵滅殺モードで湧き出てくるツリー隊を容赦なく爆撃します。
「私たちの前でやった行為、死ぬまで一生残る記念を残してあげるッ!  社会の汚物の駆除、徹底的にしてあげるわ!!」
「はいはい、皆さん危険だから近寄らないでね」
 朝斗は虚ろな笑みを浮かべながら、周囲に黄色いテープを張り始めました。こうなったらもう止められません。
 心臓の弱い子は見てはいけません。『グロ注意!』と張り紙をしておきました。
 ルシェンは、集団が逃げ出さないように【魔王の目】を使い、逃亡不可能にして【武器凶化】を槍に施し、殺さず活かさず責め続けることにしました。
 アイビスも好調です。離れている変態は【ハーモニックレイン】で吹き飛ばし、逃げようとするなら【機晶ブースター、機晶姫用フライトユニット】で高速追撃してその勢いで【レゾナント・アームズ】で叩き潰す戦法で気持ちよく片付けていくことにしたようです。
「助けてくれぇぇ!」
 ツリー隊が朝斗に赦しを乞いますが、空しい願いです。朝斗はルシェンとアイビスを見て申し訳なさそうに目線をそらすことしか出来ません。
「やめてあげてよー(棒)」
 一応、静止はしておきました。
 ここまでは、まだ想定の範囲内だったのです。
 あの、『本物の邪悪』が彼らの前に出現するまでは。
「 楽しそうでありますな。全てを破壊しつくしたいほどに 」
 遠巻きに見守る人々の間を掻き分けて迫ってきたのは、ただ純粋な悪意。世界を恨みつくした恐るべき負のオーラを纏って“ヤツ”が姿を現します。
「!!!!!?」
 強烈な殺気に、ルシェンもアイビスもそちらに視線を向けました。
 今、自分たちが相手にしているモブなどとは全く違う異質な闘気を漲らせた暗い闇が、そこにはいたのです。
「  貴様らを消毒して殺るであります!! リア充は死に絶える運命なのでありますよ 」
 リア充というリア充をテロしつくす、パラミタ最悪のフリー・テロリスト葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の出現に、朝斗はぞわりといやな鳥肌が立ちます。
 レストラン襲撃でポリスメンに連行されましたが、官憲ごときに束縛できる吹雪ではありません。一瞬で脱出し、追っ手をまきながら襲撃を続けていたのです。街かどに手配書が張り出されますが、無問題です。
「……!」
 ルシェンとアイビスは、目の前の敵を放棄して、即座に吹雪に攻撃を仕掛けていました。
 実際、変態などこの狂人に比べれば悪のうちに入りません。危険度もケタ違いなのです。
「 憎い憎い憎い! 憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎!  」
 怨念と火炎瓶を撒き散らしながら、吹雪が全力攻撃を繰り出してきます。LV110。三人が力を合わせれば十分に勝てる敵です。しかし、朝斗に危害が及ぶ可能性を考えて、ルシェンは強制排除に出たのです。女王様モードで楽しむと言うよりは、ガチの戦闘です。
「あたり一面焼け野原になるぞ」
 朝斗は、通行人たちを遠ざけるために両手で制止しながら後方へと押し戻します。すでに周囲は半ばパニック状態です。
 何とか落ち着かせようとして。
 ズルリ。
「……?」
 ふと、違和感を覚えて彼はその場に硬直しました。今、何か大切なものが足元へ落ちて行ったような……。
「どれ貴様の粗末なツリーをご拝見」
 朝斗の背後に、もう一人いました。
 吹雪のパートナーにして宇宙人型のポータラカ人、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)です。
 吹雪と連携してリア充を確実に葬り去ろうと暗躍していた彼は、朝斗を仕留め終えていました。
 朝斗の下半身をパンツごとずり下ろし、露出されることに成功していたのです!
 クリスマス・イブの街中で、禁断の男の娘ツリー本邦初公開の衝撃が広がります。
「ぬう!! なんと立派な!!」
 イングラハムは悔しそうに呟きました。これでは勝った気がしません。
「ぷつん」
 朝斗の奥で、何かが切れたのがわかりました。
 彼は、おもむろに衣装を整え直すと、ゆっくりと吹雪とイングラハムに向き直ります。
「死ね」
 圧倒的な闇が、朝斗を包みました。普段は表に出てこない、あのもう一つの人格が現れたのです。
【闇人格:アサト】。もっとも危険な友人。彼は、反撃を開始します。
『静かに滲み出る狂気』は、吹雪の邪気にも劣らぬほど膨れ上がっていました。容赦も遠慮もありません。ただ、目の前の敵を殲滅するのみ、です。
 ドオオオオオオオォォォォ!
 強力な契約者たちの全力対戦に、イブの街は大きく揺れます。
「 おのれ、リア充めリア充めリア充めリア充めリア充めリア充め! リア充めぇぇぇぇ! 」
 吹雪は、朝斗たちの猛攻に追い詰められ、怨念の歯噛みをします。なんということでしょうか。いつもリア充が、彼女らを苦しめるのです。
「 爆発しろぉぉぉ! 」
 こんなところで倒れるのか、吹雪は無念の退場になりそうでした。
「ここは我が食い止める、何すぐに追いつく」
 イングラハムは、吹雪を段ボール箱につめると、どこかへと放り投げてしまいました。
【歴戦のダンボール術】の効果は絶大で、誰もが見過ごします。
「ふふふ、楽しかったな。また一緒に遊ぼう」
 イングラハムはフラグ台詞を吐きながら、朝斗たちの攻撃で最期の時を迎えます。
「我は生きて辱めは受けぬ。さらばリア充ども。生まれ変わっても呪ってやるぞ」
 ドドドド〜〜〜ン!
 イングラハムはその場で自爆しました。
「……」
 煙が晴れると、全員が呆気に取られていました。クリスマス・イブの街並みはめちゃくちゃになってしまっています。
「空しい戦いだった」
 朝斗は我に返って夜空を見上げました。色々ありすぎて平静を保っていられそうにありません。これがクリスマス・イブの惨劇なら、神はなんと残酷なのでしょうか。
「仕切り直しに休憩しよう」
 休養が必要な朝斗は、雰囲気のよさそうな喫茶店を見つけて、ルシェンとアイビスを誘います。彼女らも頷きました。
 もちろん、今度の喫茶店はちゃんとした取っ手がついていますけどね。