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~ガルディア・アフター~ 石の魔物と首なし騎士の猛攻

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~ガルディア・アフター~ 石の魔物と首なし騎士の猛攻

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序章「石の魔物」


〜遺跡内部〜

 石造りの床が続く少し広めの通路。天井は高く、所々に大きめの燭台が配置されその炎がぼんやりと周囲の不気味な石像を照らしている。
 周囲を警戒しながら歩く数人の人影。いつどこから襲われてもおかしくない状況下は全員の表情に緊張の色を浮かばせた。
 その先頭を歩くイディ・ヴァールは不意に口を開いた。
「空気が変化したようです……どこからかはわかりませんが、こちらを狙って……っ!」
 上空から急に発生した殺意に気が付き、空中を振り払う様に薙いだイディの剣がガツンという硬い衝撃音を発して制止する。
 彼の視線の先にいるのは、赤い宝石の目を妖しく輝かせた悪魔のような姿の石の像――ガーゴイル。
 ガーゴイルは武器を振り下ろしイディの頭を叩き潰さんと襲い掛かったのである。石でできたその質量は重く、一撃で簡単にイディの膝を床につかせていた。
「くっ……なんて力だ!」
 ギリギリと迫ってくるガーゴイルの凶刃を押し返そうと腕に力を込めるが、どうにも形勢は逆転できそうにない。
 もうだめかと思ったその時、ふっと全身に掛かっていた重みが消える。みると、ガーゴイルの首がくるくると宙を舞っていた。
「斬れないのなら、叩き割ればいい……」
(あんなに硬いガーゴイルを一撃で、噂通りの凄い人なのか……)
「検索したサイト、陶芸の友、会報2115号に書いてあった。実に有意義な情報だ」
(陶芸で斬るって! どんな友の会だよっ……寧ろ何調べてるんだこの人……)
 そんなイディの心のツッコミはさておき、向かってくるガーゴイルの首を次々と叩き割っていくガルディア・ノーマッド(がるでぃあ・のーまっど)。よく見れば、経年劣化で脆くなった位置を柄頭で一突きにしているようだ。
 イディの驚きを悟ったのか、ブリック・シャトー。が代弁するかのように語る。
「高速で迫るガーゴイルの脆い一点を一目で見抜き、そこに破壊できるだけの一撃を叩き込む。まったく、言動は変わっているが並の腕じゃねえな」
 彼は目の前のガーゴイルを蹴り飛ばし、ラージュ・キャナルに視線を送る。合図を受けた彼女の魔術で粉々に吹き飛ばされるガーゴイルを横目で見ながら、次のガーゴイルへと剣を向けた。
「……さすがは古代兵器様って所かねぇ」
 吐き捨てるように言った彼の一言には、皮肉の色が感じ取れた。
 イディもその意味を痛いほど理解している。いや、理解させられたというべきか。
 自分達、警護団員が息を切らせながら全力で連携攻撃をし、やっとこさ一体倒す間に、ガルディアは両の手では数え切れないほどの相手を倒している。力の差は歴然であった。寧ろ自分達が足手纏いのようにさえ感じる。
「やはり……俺達じゃ、ルカ様は……くそっ」

 魔術を詠唱するラージュはブリックからの合図で即魔法を放てるように神経を集中させていた。詠唱というものは実に神経を使う。少しの集中が途切れるだけで、唱えた呪文の類は無効化されてしまうのだから。
「うひっ!?」
 その集中が一気に途切れる。彼女の顔の横に太く逞しい石の腕が現れたからである。その腕はゆっくりと曲がり、彼女を捕らえようとしていた。
 詠唱を中断し、地面を転がるように走り距離を取って驚愕の表情でその部分を見る。
 それもそのはず、背後を取られないように彼女は壁を背にしていた。その安全域から襲い掛かられたのである。
 ガーゴイルは石像に命が吹き込まれたモノであり、壁の中の様な部分からは現れない、そんな暗黙の了解を無視されたのだ。
 幸い出てくるまでに時間が掛かるようで、まだ半身すらも出てきてはいない。
「なんだ、まだ全然出てきてないじゃんー。焦らせないでよねーっ!」
 落ち着きを取り戻したラージュは無詠唱の魔法を放つ。威力はそこまでないが、すぐに放てる上に連射が効く。
 白い小さな光弾が次々とガーゴイルの出てきている壁に叩き込まれる。破裂音が響き渡り、数秒も立たずに壁の一部は瓦礫の山へと変貌した。
 その場にへたり込み、ラージュは文句を垂れる。
「もう……反則だよー」

 部下であるラージュの様子にも気づかずうな垂れ、床を唯々眺めるイディの肩にぽんっと優しく手が置かれた。
「ぼーっとしてる場合じゃないわよ。自分にできることをしないと……ね?」
 軽くイディに笑顔を見せると、ベルネッサ・ローザフレック(べるねっさ・ろーざふれっく)は自分の愛銃をガーゴイルに向けて連射。続けざまに頭部へ弾丸を撃ち込まれたガーゴイルの首は衝撃で、ばきりともげた。
 直後、槍を持ったガーゴイルが上空からベルネッサを奇襲。が、後方に回転しながら跳躍し彼女はそれをやすやすと躱す。ガーゴイルが槍を地面から引き抜くより早くベルネッサは雨の様に弾丸を浴びせる。
 細かい破片を撒き散らしながら殺意に満ちた石像は体勢を崩しその場にくずおれるが、なおも相手の命を狙わんとばかりに槍を突き出してくる。
「うおおおおおーーッ!」
 イディはその槍を弾くと、体重をかけてガーゴイルにタックルを決めた。
 吹き飛んだガーゴイルはそのまま近くの階段を転がりながら落下し、階下で床に叩きつけられ粉々に砕け散る。
「はぁ、はぁ……自分に、できる事……か。よし!」
 呼吸を整え、気合を入れ直したイディは吼える。物言わぬ石像達に向かって。
「ルカ様は、俺達が助け出すんだッ! 貴様らの様な紛い物の命なんかに負けてたまるかッ!」
 
 背中合わせに立ったベルネッサとガルディア。二人とも呼吸に乱れはない。
「どうやらあの隊長、イディの空気感が変わったようだな」
「へぇ、そう? 正直そこまで気にしてる余裕ないんだけど……」
「変わったのは、紛れもなく君の言葉でだろう。戦力を向上させた所は評価する」
「そりゃ、どうも。あと、私にはベルネッサって名前があるのよ。ちゃんと名前で呼びなさいっ名前で」
 しばし一考の後、ガルディアは敵に向かって駆けだす。
「……覚えていたらな」
「なっ!? ……ったく! いい性格してるわねっ!」
 駆けだしたガルディアに少し遅れてベルネッサもガーゴイルの一団と対峙する。しかし、その表情には少し笑みが零れていた。


一章「防衛」


〜遺跡内部・大広間〜

 ガルディア達が進んだ通路の後方、大広間にて奮戦している者達がいた。
 彼らの役目は押し寄せるガーゴイルを先へと進ませないように食い止める事。ガルディア達が後方を心配しなくてすむ様にする為である。
 ガーゴイル達が武器を振り上げ一斉に襲い掛かる、その数は数十体を超えていた。猛然と襲いかかった石の殺戮者達はその動きを次第に鈍らせ、ついには空中や地上でそれぞれ制止してしまう。それだけではなく、じわじわと一か所に集められるように引きずられていく。
「流石に重いね……もっと軽く作ってくれればよかったのに」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)はサイコキネシスでガーゴイル達を操りながら少し辛そうに感想を述べた。
 そうは言いながらも、しっかりと一所に集めたガーゴイル達に次の一手を繰り出す。
 右手を振り、赤く発光した掌から炎の嵐が吹き荒れる。熱されたガーゴイル達の身体は見る見るうちに赤く色づいていった。
 間髪入れずにトマスが左手を振ると、青く発光した掌から氷の嵐が吹き荒れた。急激に冷やされたガーゴイル達の身体にひびが入る。
「さーて、仕上げだね」
 そういうと、トマスは武器を構えガーゴイル達へと突進する。彼がまずは武器を一振りすると刀身から炎の衝撃が発生。
 身動きが取れずにそれを受けた石の魔物達は腕や足など各部へのひびを更に深くしていった。
 一撃目の勢いそのままに回転するように放った二撃目は氷の衝撃。限界を超えたいくつかのガーゴイルの腕や足が破砕する。
 破損した身体のせいで上手く動けないガーゴイルを確認し、トマスは合図を出す。
「アイアイサーッ! 派手にいくぜえぇぇぇーーー!!」
 合図を受けたテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)はグレネードランチャーを肩口に構え、しっかりと固定する。照準を覗き込み、ガーゴイル達の密集している中心点へと合わせた。
「こっからが大変ってな。しっかりと撃ち込む位置を考えて撃たねえと……遺跡まで爆砕しちまう」
 先行しているメンバーからの地形情報を確認しながら、爆砕しても問題のない位置へと着弾予定ポイントを微調整。
 膝を付き、衝撃に備えてしっかりと腰を落とし……発射。続けざまに二発。着弾。地面が弾け飛び、瓦礫を宙に巻き上げながら粉砕する。爆炎に包まれたガーゴイル達は次々と物言わぬ石の塊へと変わっていく。
 反動でずれる着弾点を調整しながら更に三発撃ちこんだ。時間差で爆発したグレネード弾はガーゴイル達を跡形もなく吹き飛ばす。
 煙が晴れたその場所には細かな石の破片しか残っておらず、原形をとどめているものはいないように思えた。
「よーし、掃討完りょ――」
 そう言いかけた彼にひびだらけのガーゴイルが猛進してくる。殺意の宿ったその宝石の瞳はテノーリオを真っ直ぐに捉え、低空を滑空してきた。
 まずい、迂闊だった。やられる、そう思った時、彼の肩を後ろに引いて横から飛び出す人影――ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)であった。
「詰めが甘いわね。でもよくやった方だと思うわ。後は任せて、次弾の装填準備を」
 彼女がテノーリオの肩を引くと同時に突き出していた武器はひびの入ったガーゴイルの首へと深く刺さっていた。
 ぐらりと倒れ込むようにガーゴイルの身体が傾き、地面へと崩れ落ちた。宝石の目の光は消え、動作を停止したようだ。
 物言わぬ石となったガーゴイルの首を足で踏み砕くと、そのまま中空を一閃する。彼女に飛び掛かったひびのあるガーゴイルは翼を失い、地面へと落下。高速で突っ込んだその勢いを殺せず、破片を撒き散らしながら壁に激突し砕け散った。

「おや、一匹討ち漏らしてしまいましたか。この装備の扱いはなかなかに難しいですね」
 自らの身体に装着された強化外骨格の具合を確かめる様に手を開いたり閉じたりしている魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)
 彼は飛びかかるガーゴイル三体に対し、緑龍殺しとも呼ばれる長大なグレートソードを振るったのだが、強化外骨格に不慣れな為か力加減がうまくいかず一体討ち漏らしてしまったのである。
 とはいえ、グレートソードの一振りで二体のガーゴイルを地に沈めていた辺り、強化外骨格の扱いに慣れていれば無双の働きをすることができたのかもしれない。
 体に宿る戦の血がそうさせるのか、一体、また一体と斬り結ぶうちにその動きは次第に洗練されていき、しばらくすると討ち漏らす様な事は無くなっていた。

 奮戦する彼らのおかげか、押し寄せるガーゴイル達は一体も先行したメンバーに追いつく様な事はなかった。