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パートナーの飯が不味いんだがもう限界かもしれない

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パートナーの飯が不味いんだがもう限界かもしれない

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■誰かの為に、兄の為に■


「うん! おいしそうにできた☆」
 満足気に手を叩く芦原。確かに美味しそうな料理である。
「これなら味見しなくても大丈夫だよね。みんな喜んでくれるかな?」
 何故か、理由は解らないものの『あれはとてつもなくヤバい代物だ』と、肝心の心が感じ取っているらしく、ナチュラルに芦原は味見を避けた。
 さて、次は何をしようかと回りを見渡すと、時間が思ったよりかなり過ぎていた。
「おっと、もぅ帰らなきゃいけない時間だ。ほんとはお料理の感想聞きたかったけど、また今度にしよう」
 てきぱきと、帰りの用意をする。
「荀灌、お〜い荀灌、どしたの? 顔色悪いよ?」
 一緒に来ていた妹を呼ぶと、近くで強く手を握り締めていた。
「……心配です……」
 小さく呟く言葉に、芦原は首を傾げる。
「なにが? ほ〜ら、帰るよ」
 時間が無いから、急ごうと、芦原は荀の手を握った。
 芦原に手を引っ張られながら、荀は後ろを振り返る。
 美味しそうな料理から、見るからに食欲をなくす料理まで数々の品数が揃えられていく。
(とりあえず私にできることは食する方たちの無事を祈ることだけです。まぁ無駄ですよね……)


 ドクター・ハデス(どくたー・はです)は半ばやけになって、マイクを持っていた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! ……などと名乗っている場合ではない!」
 皆の注目を浴びながら、がくりと膝をついた。
 ラナからの依頼に紛れて、ヴァイシャリーのパーティー会場に潜入し、パーティー会場を制圧して、ヴァイシャリー家との取引を企んでいたのである。
 しかし。
「まさか、ヴァイシャリー征服のためにやってきたパーティーで、咲耶が料理を作ることになるとは! 早く逃げねば、ヴァイシャリー征服どころか、俺の命が危ない!」
 額に『肉』『体』『美』と書かれたハデスブラザーズ(エリザベートシスターズ)3人組と、特戦隊の5人、ノーマル戦闘員(すごいパラ実生)を引き連れて逃げようとするハデスだが、ラナにしっかり捕まってしまう。
「逃がしませんよ。一緒に運命を共にしましょう」
 後ろには榊、ルカルカ、無限も居る。
「くっ!」
 逃げるのは難しそうだ。
 ラナ達だけでなく、所々で人が見張っている。
 ハデスと同じように、逃げようとする輩が何人もいたのだろう。
「誰だ、咲耶をコックとして潜入させたのは! 咲耶は給仕として潜入する予定だったはずだろう?!」
 本人です、の言葉に、ハデスは頭を抱えた。
「くっ、仕方がない。こうなったら【戦略的撤退】だ!」
 周りから気付かれないように、身を小さくし目立たなくし、こっそり隠れつつ玄関へ向かうハデス達だったが……。

 料理を会場に並べ終えた高天原が、いると思った兄がいない事に気付き、首を傾げていた。
 パーティ会場を制圧するのが目的で来たのだから……兄は隠れているのかもと、神の目を使った。
 普段、家ではハデスが料理役で、咲耶をキッチンに近付かせてくれないため、こういう機会はなかなかないのである。
 このパーティーで料理を作って、ハデスを喜ばせたかった高天原は、自信満点の料理の一つを手にして、ハデスの元へ向かう。
「ふふ、この料理を食べれば、兄さんも私の女子力を認めてくれるはずですっ!」
 ブラコン(ヤンデレ気味)の高天原は、毎日ハデスに料理を作りたかったのだろう。
 しかし、『殺人的調理師』としても有名なほど、料理の腕が壊滅的な高天原が作った料理。
 とてもいい笑顔で、隠れていたハデスの前にしゃがみ込んだ。
「さあ、兄さんっ! 私の愛情のこもった料理を食べて下さいっ!」
 差し出されたそれ。
 スライムのように蠢いている『謎料理』。
 今にもダメージ受けそうな料理。なるべく食べたくない。
 食べるのを後回ししたいと、ハデスは高天原に誘導されるまま、彼女が作ったフルコースの料理席に座った。
(兄さんに料理を食べてもらって、ハートをゲットです!)
 高天原は、大人しく椅子に座るハデスを見て、思い切り心の中でガッツポーズを作った。
「えーと、咲耶よ……。参考までに聞いておくが、このスライムのように動いているモノは、一体、なんなのかな……?」