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【アガルタ】土星くん、とっても丸いで賞を取る!?

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【アガルタ】土星くん、とっても丸いで賞を取る!?
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★哀れな見習い。哀れな副店長。哀れな苦労人が報われる日はきっと、たぶん、いつか来るだろう、来るといいなとか思ってからゥン年とかにはならないことを祈る★



 街全体でお祝いするということで、『フリダヤ』でもその準備が行われていた。
「なるほど。ニルヴァーナビーツ協会マスコット特別賞か。じゃ、ビーツにちなんだ料理を作ってあげると喜ぶかなぁ」
 話を聞いた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に気合が入る。……どこでビーツになったのかは分からない。ちなみにビーツとは、カブに似ている赤い植物のことだ。
 近くを通りかかった見習いが『円盤協会の輪っかで賞』じゃないのか、と呟いているのを見るに、どうもいろんな賞の名が広まっているようだ。
 弥十郎は店の名物の鍋にビーツを加えた。
「スープの色がまるで血の池地獄だねぇ。
 う〜ん。
 そうだ。コレに黄色いパプリカとヒヨコマメを使って土星君が泳いでいるようなスープとかどうかなぁ」
 段々とイメージが湧いてきたのか、弥十郎の手がスムーズに動き出していた。
 きっと美味しいのだろうが……なんで悲鳴を上げる砥器といい、ゲームバランス崩壊のパズどせといい、血の池地獄のような鍋といい。普通の商品が中々出てこないのか。
 ……きっと土星くんが愛されているからだ。きっとそうだ。

「段々薬膳鍋みたいになってきた……うん、これは面白そうだねぇ。火鍋の鍋を使って赤と白の対極マークにしよう。
 で、通常は赤い方が辛いけど、ビーツを使ってるからほんのり甘い感じで。白い方は生姜、唐辛子を隠し味にした鳥ベースにするかな。見た目にだまされるよね」
 少し口元に笑みを浮かべる。悪戯心が芽生えてきたらしい。いろいろと試していく。そして満足いく味が出たらしい。うん、と頷く。そして店のオーナーである真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)にまず味見をしてもらうことにした。
 西園寺は鍋を見て、戸惑ったように青い瞳を揺らした。
「で、どうやってたべるの?」
「しゃぶしゃぶみたいな感じだよ」
 テーブルにはスライスした葱(のようなもの)、白菜(のようなもの)、お肉(たぶん?)が並べられていた。
 そしてまずは白い鍋から、と口にして予想外の辛さに驚く。
「っ! これは……なるほど、これは見た目にだまされるね。けど、変に癖になる」
「でしょ? 名前は【地獄が顔を出す鍋】にしようかなって。キャッチコピーは小悪魔な味付け 赤の誘い 白池地獄でどうかな」
「いいね。
 それで土星君がお店にきたら、そこから販売開始にするようにしたいね。元々土星君の『世界サンラータンマスコット奨励賞』を祝うためにつくったんだし」
「え? ニルヴァーナビーツ協会マスコット特別賞じゃないの?」
「え?」
 しばしの沈黙。……やがて両者ともこの話題を忘れたかのように、話し出す。

「キャッチコピーにちなんで、売り出しに真名美もそんなっこしてみる?」
 弥十郎が笑って言うと、西園寺も笑って返す。
「それは見習い君にやらせよっか。私みたいなのよりピチピチしてるほうがいいしね」
「うえぇぇぇっ?」
 2人の会話に耳をすませていた見習い君が悲鳴を上げた。弥十郎と西園寺がそんな見習い君をにやっと見る。見習い君、とばっちりである。

 実際に行ったのかは、本人に聞いて……いや。傷をつつくだけになるかもしれないので、そっとしておいてあげて欲しい。



* * *



 紅茶のよい香りが漂う月下の庭園でも、マリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)がお祝いについての情報を仕入れ、その準備について従業員に指示を出していた。
 その指示のひとつが、グラキエスフレンディスベルクへの『御輿作成の手助け』だ。

「アガルタ全体で土星くんお祝いとの事であたし達も何かやるさねよ? あとエヴァーロングで御輿作成の人手を募集してるさー。
 この街で商売している以上、責任者や同業者との交流を深める為に積極的に手伝いをするのも重要な仕事さ?
 これは区班長の3人に手が空き次第、御輿や他困ってる事があれば率先して手伝いにいって欲しいさね」
 のほほんとしてはいるが、彼女も商売人。今回のお祭り騒動について、ただ祝うだけでなく利益についても計算していた。

 ベルクについてはさらに
『ベルちゃん、ちゃんと頼むさ?』
 何を、とはハッキリ言わなかったものの。笑顔のマリナに何かを感じ取り、ベルクの胃がきりきりと痛んだ。
 いつもそんなベルクをフォローしてくれるのが副店長のウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)。ウルディカが近寄ってきた時、ベルクは今回もそうだろうと思ったわけだが
「もしもの時はエンドロアを頼む。
 特にティラと同調し始めたら死んでも止めてくれ」
 と真剣な顔をした。
 うっとさらに青ざめるベルクだったが、その後ろで行われている光景に納得せざるを得なかった。

「土星くんをイメージキャラクターにした祭りをするのか。
 各地区の店では土星くんグッズの企画もあるらしいしな……この店でも特別メニューを作って来る人に喜んでもらいたい」
「それはいいですね! なら今流行りのものを取り入れるのがいいです。僕が現在どういうのがアガルタで人気か市場調査してみましょう」
「そうか! ポチは凄いな。頼りにしてる」
「えへへ」
「……犬ごときにできますかね
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が笑顔でグラキエスへと声をかけていると、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が微笑を浮かべながらぼそりと何かを呟く。それはグラキエスには聞こえないがポチの助には聞こえるという絶妙な音量で。
 ポチの耳がぴくぴくと動く。グラキエスは気づかず、パートナーたちに笑顔を振りまく。
「エルデネスト、アウレウス。ポチとともに、メニューの開発を頼んでいいか? 俺は御輿を頼まれたし、2人は料理が上手だからな」
「主が、主が俺の料理の腕を頼って下さった! 俺の料理が美味いからだと言って下さった!
 お任せ下さい主よ! お望みの料理、私が全力で作り上げてご覧に入れます!」
 あるじいいいいいいいい!と涙を浮かべるアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)をちらと横目で見たエルデネストは内心、頼られたのが自分だけでないことに嫉妬を覚えたものの、顔には出さない。

(何故私一人に言わないのか。私の嫉妬を煽って……ないな。 その気があれば逆に助かると言うのに)
 だが終わった後の報酬を考え、指示に従うことにしたようだ。

 一方のアウレウスはというと、ポチとガディ(人型)へと声をかけていた。
「ガディ、俺が料理を作っている間主を頼むぞ。ポチよ、市場調査は頼んだぞ」
「このハイテク忍犬にお任せください!」
 どうも犬は鎧と手を組んだようだ。エルデネストへとこれみよがしな視線を送る。
「……そうですか。いってらっしゃいませ。まあ私はそのような情報などなくとも素晴らしいものを作りますが?」
「ふふん。
 随分、大人げない下等悪魔ですね? 全くアウレウスさんと僕を見習うといいのですよ」
 ぴきぴきっと血管が浮き出たエルデネストに気づきながら、ポチは『ビグの助』、『調律機晶犬・SHIBAα』を従えて店を出て行った。その背をじろりと睨みつけるエルデネスト。
(まだ鎧は役に立つからいいものの……アレはだめだ)
 ポチ君よ。今日からは夜道を一人で歩いてはいけないよ?

 そしてこちらは、そんな様子を見守っていた苦労人副店長。額を押さえる。
(何だこの面子は。……駄目だ、こいつらを放ってはおけない。かと言ってエンドロアを野放しには)
 ウルディカは悩みに悩んだ末に、店に残ることにしたのだ。残るも地獄、いくも地獄……ベルクに出来ることは、胃薬をしっかりと握り締めることだけだ。

「それでどんな料理にされますかっ? 私は――」
 ふと回想していたベルクはそんなフレンディスの声に我に返った。彼女は手先こそ器用で和食も上手だが、センスはあまり……なのだ。
 彼女に任せれば『フレ的に可愛いし似てると思っているけど絶対に土星くんとは違う口にするのに躊躇しそうな怖い見た目謎の怪生物料理』が誕生するだろう。
「新メニュー開発か……グラキエス、何か案あるか?」
 話題をグラキエスに振る。
「デザートだとケーキやマカロン。料理だとオムライス、ゼリー寄せ……とかだとあの形を活かせそうだと思ったんだが」
「そうですな。丸くカットしてチョコペンで絵を描けば……オムライスも」
「ならアウちゃんはケーキサンデーとオムライス担当さね。エルちゃんはマカロンとゼリーをお願いさ」
「分かりました。グラキエス様、どのような形や味にするか隣で」
「マカロンは本来クリームを挟む所チョコの円盤を挟むのはどうだ?」
 グラキエスの手を引こうとしたエルデネストを遮るようにウルディカが口をはさむ。

「えっと、なら私は」
「フレイの出番はもう少しあとだ。味見しないといけないからな」
「それにダイ・リーニンらがそろそろ休憩に入る。ティラ、悪いがホールに入っててくれないか?」
「ほら、割烹着」
「あ、はい! 行ってまいります」
 フレイを2人のコンビネーションで上手くホールへと誘う。ホールへ行けば、マリナの指示が飛ぶため、疑問を思い浮かべる余裕はないだろう。
「なら俺は」
「グラキエス様。少しお聞きしたいのですが」
「ん、今行く」
 グラキエスは主に新メニューの開発を担当しながら、ベルクの雑用を手伝う。
 ウルディカは周囲(特に悪魔)を見つつ、食材の確認を行っていく。
(仕入れたばかりだが……試作品の分もとなると……足りないか。それに新メニューの宣伝もいるな)
 帳簿や食料庫を確認した後、厨房に戻るとしきりと飛び交う「主」「グラキエス様」の声にメニュー開発から脱線しているのを感じ、ため息をついた。
「……エンドロア。それ以上食べると身体に悪い。ティラと交代してきてくれないか?」
「分かった」

 副店長も中々に大変なのだ。
 あとでベルクがこっそりと胃薬を手渡したとかいないとか。