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古代の竜と二角獣

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古代の竜と二角獣

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古代の竜と青い空

「いよいよ私たちの出番ですが……本当にこの作戦は成功するのでしょうか」
 古代竜の望みを一つかなえたあと。もう一つの望み『運動不足の解消』を叶えるために御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、
御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は不安そうな様子で古代竜の前に立つ。
「成功すれば確実に古代竜の望みを叶えられるはずですわ。……問題は古代竜が普通の生物の規格に収まっているかという点ですわね」
 舞花の隣に立つのはエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)。舞花のたてた作戦の要のスキルを持っている。
『そなたらか。我の二つ目の願いを叶えるのは』
「はい。及ばずながらあなたの運動不足を解消させるため尽力させていただきます」
 舞花はそう言って古代竜に頭を下げる。
『ふむ……して、どのように我の運動不足を解消させてくれるのだ』
「名も忘れられた古代竜。あなたの体をわたくしの『封印呪縛』でこの『封印の魔石』の中に一時的に封印させていただきますわ」
 そして外で封印を解き、思う存分動いてもらうとエリシアは説明する。
「封印される側の協力が不可欠ですが……私たちを信じていただけるでしょうか?」
 封印されるということは封印した側にすべてイニシアチブを渡すということに他ならない。この案は舞花たちのことを古代竜が信用しなければ適わない作戦だった。
『人の心根など目を見れば大体分かる。そなたたちは信用に足る目をしているだろう。騙されたとしても自らの未熟さを呪うだけ、そなたらを信じることに否はない。だが……』
「何か問題があるのでしょうか?」
『我の体は魔法的な干渉をすべて遮断する。それは我の意思でどうにかできる程度の話ではない』
「それでは私たちの作戦は……」
『我の防御壁を超える力で我を封印するか、あるいは我の防御壁を何らかの方法で無力化するか。その力や方法をそなたたちが持っていればカのであるが』
 あるのかと古代竜は無言で聞いてくる。


(ふむ、そろそろ私の出番かの)
 隠れながら見守っていたアーデルハイトは、そろそろ頃合かと思う。契約者たちは素晴らしいアイディアで古代竜の望みを叶えてきたが、最後の一手が足りない。それを埋めるのは自分の役目だろうと姿を現そうとする。
「大丈夫です。私がなんとかします」
 アーデルハイトが姿を現す前に、穂波は舞花たちの前に出て、古代竜と対峙する。
「私が、古代竜さんの防御壁を無力化します。その間にエリシアさんたちは最初の作戦通りに動いてください」
「そんなことができるんですか?」
 穂波が古代竜を超えるような大きな力を持っているようには感じられない。見た目どおりの少女程度の生命力……むしろそれよりも小さいくらいの力しか穂波にはあるようにしか思えない。
「古代竜さんの防御壁を古代竜さんの力自身で無力化するように力の流れを操ります」
「理論上は可能かもしれませんが……そんなの技術的に不可能ですわ」
 エリシアは言う。
「……、無力化したあと、多分私は倒れます。できればミナホお姉さんのところへ私を連れて行ってください」
 エリシアの言葉に穂波は寂しそうな顔をしてそう言う。そしてそれ以上言葉を重ねることはなく、古代竜へと触れる。

(古代竜さんの力を借りて流れを作る……けれど、その最初の流れを作るにはどうしても自分の力が必要)
 自分のやるべきことを考えながら穂波は思う。本当に最初だけ、古代竜の力を利用する為には穂波自身の力が必要だ。
(……そして、私が利用できる力なんて一つしかありませんよね)
 穂波という少女が秘めたる力を持っているということはない。本当に見た目どおり、少女程度の力しかないのだ。
(……生命力をかけます)

 穂波から小さな力が発せられたと思った後、それは古代竜の力と同化し、古代竜の防御壁を飲み込んでいく。
『そうか……そなたはあの都市の業……遺産の一つか』
 古代竜は自らの力を操られることに慌てることなく、ただ悲しそうに穂波を見つめる。
『人とは不思議なものだ。そなたらのように綺麗な目をしたものもいれば、そなたのようなものを作る業深きものもいる』
「私がどういう存在か知って、それでも私を人と言ってくれるんですね」
『そなたは人であろう。……人であるからあの都市の業は深いのだ』

 古代竜の防御壁がなくなったのと同時、糸の切れた人形のように穂波の体は崩れ去る。
「いろいろと聞かねばならないことがあるが……よく頑張ったの」
 その体が地面に倒れる前にアーデルハイトは穂波の体を支える。
「何を見ているのじゃ、小さき娘が作った機械を不意にするつもりなのかの」
 アーデルハイトの声に自分が何をすればいいか思い出したエリシアは『封印呪縛』を古代竜へとかける。それはなんの問題もなく成功し、古代竜の巨大な体はその石の中に封じられる。
「ふむ……及第点じゃが、私の力を借りずに古代竜の依頼を達成したようじゃな」
 こうして、古代竜の願いをかなえるための作戦はすべて終わったのだった。


「私はこの娘を村につれて帰る。お前たちは古代竜の気が済むまで飛び回るのに付き合っているが良い」
 遺跡都市の外。倒れた穂波を小さな体で抱えながらアーデルハイトはそう言って村への道をたどる。
「大丈夫でしょうか?」
「アーデルハイト・ワルプルギスがついているのですから、きっと大丈夫ですわ。ただ……」
 舞花の不安にエリシアはそう答える。
「ただ……?」
「……いいえ。きっと気のせいですわ」
 なんでもないという風にエリシアは首を振る。
(……気のせいのはず……ですわ)


「ミッションコンプリートなの! やったなの!」
 古代竜の望みを叶えることに成功したと翠は嬉しそうな声を上げる。
「それじゃ、今日はもう帰るなの」
 やり遂げた顔でそう言って村へと歩き出す翠。
「……課題を忘れてないと思ったら、目的を忘れてたのね」
 翠は翠だったとミリアはため息をつく。
「忘れてるって何をなの?」
「古代竜の爪が欲しくて頑張ってたんでしょうが」
「……そうだったの?」
「そうだったの」
 はぁとため息をつくミリア。
『ふむ……目的を忘れても前に進めるというのは一つの才能であろう。その娘、いづれ大物になるやも知れぬ』
 空から降りてきた古代竜がそう言う。
「今でも十分大物ですよ。残念方向で」
『それもまた真実か。……さて、確か我の爪が欲しいという話だったか。どの程度必要なのだ?』
「えーっと……大体翠の頭と同じくらいの大きさだったわね」
『なんだ、その程度か。それであればわざわざ願いを叶えさせるまでもなかったものを』
 そう言って古代竜は自分の爪を他の爪で切り取り翠に渡す。
『それではな、人の子よ。しばらくは巣に戻らず自由に空を飛び回るとしよう。また機会があればあうやもしれん』
 古代竜は飛び立ちいなくなる。
「古代竜の爪をゲットなの!」
 古代竜の爪を手に入れご機嫌な翠。
「……私たちの苦労はいったいなんだったのよ」
 古代竜が最後にはなった爆弾発言にため息をつかずにはいられないミリアだった。