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古代の竜と二角獣

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古代の竜と二角獣

リアクション


転生

「アスターさ……ラセンさんはバイコーンがどうして森に来たのか知っていたんですよね」
 ユニコーン、ラセン・シュトラールの住処。ティー・ティー(てぃー・てぃー)はラセンにそう言う。
「もしかしてラセンさんも……いえ、今はもう関係のないことですよね」
 バイコーンがミナの森にやってきた理由。それをラセンは知っていた。そしてそれが意味することは……。
「今から、そのバイコーンさんに会いに行ってきますけど……、ラセンさんはどうしますか?」
 できればラセンにもついてきてもらいたいとティーは思う。
「きっと自分は怖がられるから難しい……うさ?」
 インファントプレイヤーで聞いたラセンの言葉にティーは聞き返す。
「うーん……それじゃ、仕方ないですね」
 仕方がないとティーは諦める。
「でも、ラセンさんもバイコーンさんがどうなったかは聞きたいと思いますから、全部終わったらいっぱい話しますね」
 そう言ってティーは住処を出る。
「ラセンさんには断られたか」
 ティーが来るのを待っていた源 鉄心(みなもと・てっしん)はそう聞く。
「はいうさ。でも、ラセンさんも本当は行きたそうでした」
「もしもラセンさんも『そう』だったなら行きたいのも当然だろうな」
 そしてそれゆえに自分がいかないほうがいいというのもよく分かっている。
「……とにかく、今はミナホさんと合流、そしてバイコーンの元へ行こうか」
 村の不安を解消するため。……バイコーンの目的を果たさせるため。

「バイコーンをユニコーンへと転生させるために」


「あの……イコナさん? どうして私の後ろに隠れているんですか?」
 森の中。バイコーンの元へ向かうミナホと鉄心達。そんな中でイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は腕で眠っている幼竜形態のスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)を抱えながらミナホを盾にするように歩いていた。
「だって、バイコーンなのですわ。きっとミナホさんはエロいことされるのですわ」
「いえ、それがどうして私の後ろに隠れることに繋がるんですか?」
「村長としてここは村人を身を挺して守って評価アップしないといけない場面なのですわ」
「……やっぱり、バイコーンって怖いんですか?」
「前に悪いバイコーンに会ったことがありますの。鉄心たちがいたから平気でしたが……」
「……そうですか」
 イコナの言葉にミナホは思う。その怖がられるというあり方がバイコーンにとって正しい姿なのだろうと。だからこそ、そのあり方に堪えられなくなったバイコーンはこの森に転生しに来る。
(そんな怖がらなくても……ぶっちゃけ人相の悪さならレガート殿だって負けてないでござろうに)
 夢心地の中で話を聞いていたスープは隣を歩く極道っぽいペガサスを見る。
(……やっぱりどう見てもその筋のペガサスでござるな)
「スープ、そろそろ起きるのですわ。重いですの」
(嫌でござる。歩きたくないでござる)
 体を丸めて置きたくないと行動で示すスープ。
「イコナさん、スープくん私が持ちましょうか?」
「いいんですの?」
「だって、スープくんその形態だと可愛いじゃないですか」
 スープを受け取って撫でるミナホ。
「……なぜか釈然としないのですわ」
(イコナ殿より柔らかいでござる)
「……なぜかぺしぺししたくなるのですわ」
 ぺしぺししながらイコナはそんなことを言うのだった。


「さてと……見つけた。情報通りだな」
 吹雪から逐一送られてくる情報を元に鉄心達はバイコーンのもとにたどり着く。
「ティー、バイコーンにはとある組織が角を狙っていることを伝えてくれ。そして仮に彼らにバイコーンの角が取られれば転生はかなわないことも」
 バイコーンが転生するには『心を通わせた乙女に角を切ってもらう』ことが必要だ。仮にそれ以外の方法で角を切ったとしてもユニコーンへの転生はかなわない。一つの角しか持たないただのバイコーンとして生きていくことになる。
(……正直、バイコーンの角は自分としてもこの辺りで手に入れておきたかった。今回の事件は渡りに船だ)
 バイコーンとはいえ無理やり奪うのはすこしばかり心が痛む。だが、両方の合意のもと手に入れられるのなら話は別だ。
「了解うさ」
 静かにバイコーンの元へと近づいていくティー。

 ズダダダダダー

 死に物狂いでティーから逃げていくバイコーン。

「う、うさぁ〜」
 あんまりな出来事に泣きそうなティー。
「……もしかして、清らかな乙女が苦手とかじゃないだろうな」
 バイコーンの様子からそう仮定をする鉄心。
「えーっと……つまり、汚れ系の乙女の人が必要なんですね」
 そんな人が自分の周りにいただろうかとミナホは考える。
「……いますね」
 確実に乙女でバイコーンに怖がられそうにない人が。

「ミナホちゃんが困ってると聞いて!」
 ドびゅんと飛んでくるようにやってきたのはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)だ。
「れ、レオーナ様、速いです。もっとゆっくり……」
 その後ろから息絶え絶えでついてきているのはクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)
「ミナホちゃん、バイコーンの問題をどうにかするんだって? あたしも当然手伝うよ」
「はぁ……レオーナさんがこんなに頼もしく見えたのは初めてです。……というわけで、クレアさん、ちょっと耳を貸してもらえますか?」
「はい?……はい。――あ、なるほど。レオーナ様にぴったりですね」
 話を聞いたクレアはなるほどと頷く。
「レオーナ様。ミナホ様達は今、バイコーンと心を通わせないといけないみたいです。けど、あのバイコーンは怖がりで人が近づくと逃げてしまうようで」
「つまり、そこであたしの登場ってわけね」
「はい。ビーストマスターを経てドラゴンライダーになった経験が今こそ活きるときです」
 口八丁でレオーナを乗せていくクレア。だてに何度もレオーナに泣かされていない。レオーナの扱いにかけては右に出るものはいないだろう。
「これでお役に立てれば、ミナホ様も心ときめくこと間違いなしです。ですよねミナホ様?」
「たぶんきっとときめきます」
「よっし、レオーナさんやる気出てきた!」
 言ってくるとバイコーンに突撃するレオーナ。
「あそこまで不純にまっすぐだと清々しいでしね」
 心の底から言うミナホ。
「そう言えるミナホ様もそうとうズレていると思います」
 そんなこんなでミナホ達は遠くからレオーナがバイコーンを手懐ける様子を眺めているのだった。

「ほら、ごぼうだよ〜美味しいよ〜」
 近づいてくるレオーナに逃げる様子を見せず、バイコーンはレオーナが何をしているのかと観察をしている。
「むぅ……ゴボウには興味なしか。美味しいのになぁ」
 自分でかじりながらそんなことを言うレオーナ。
「う〜ん……やっぱりバイコーンだし、女の子の話をした方がいいのかな? あれ? 言葉通じたっけ? ま、いっか」
 雰囲気で伝わるだろうとレオーナはクレアを始めとして自分が出会ってきた女の子について話していく。

「……なんていうか。本当にレオーナさんって不純な目で女の人を見ているんですね」
 素直に感心してしまうミナホ。
「いえ、ですからその感想は間違っていませんが根本的にずれてます」
 ミナホの感想に突っ込むクレア。
 そうしている間にもレオーナの話は続く。

「――っと、言うわけなんだけど。あれ? 寝ちゃってる」
 レオーナが話を終えた頃。バイコーンはいつの間にかレオーナの膝の上で眠っていた。
「えーっと……これは心を開いてくれたってことでいいのかな?」
 伝承の中のユニコーンが清らかな乙女の膝で眠るように。バイコーンもまた不浄な乙女の膝で眠っていた。
「これ? 角切っちゃっていいのかな?」
 不安になるレオーナ。
「切ってあげてください。それがバイコーンさんの願いです」
 ティーはバイコーンの心の中を代弁する。
「それと、あなたにバイコーンさんが伝えたいこと。……『自分はあなたのようになりたかった』だそうです」
「どういう意味?」
 ティーの言葉に首を傾げるレオーナ。
「そのままの意味だと思いますよ」
 ミナホは思う。そうなれなかったから……バイコーンとしてそう生きることが出来なかったからユニコーンへの転生を望んだのだと。
「うーん……よくは分からないけど、切っていいなら切るね」
 一本の角を根元から切るレオーナ。その瞬間にバイコーンの転生が始まり、数秒の後その姿はユニコーンの白い姿になる。


「さてと、バイコーンの角を手に入れたわけだけど……どうしよっか」
 自分の手にあるバイコーンの角を見ながらレオーナは悩む。
「ユニコーンの角とバイコーンの角。二つは揃いましたが、わたくしたちでは調合できませんからね」
 二つを調合すれば『魔女の枷』を一時的に外すことができると前村長に聞いている。
「ふむ……じゃあ、私がアゾートに渡そうかの」
「ア、アーデルハイトさん!?」
 いきなり現れたアーデルハイトに驚くミナホ。
「よいかの?」
「うーん……結果的にアゾートちゃんに任せることになりそうだからいいのかな?」
「出来たものに関してはお前にどうするか判断を任せるのじゃ」
 それならとレオーナは頷きアーデルハイトにバイコーンの角とユニコーンの角を渡す。

「それとミナホ。お前の判断、瑛菜から聞いておる。そして、ここにある結果も見た。……明日の校舎完成祝いの場で合否を伝えるのじゃ」


「いい光景だねリュート兄」
 バイコーンの転生劇を遠くから眺めていた赤城 花音(あかぎ・かのん)はそう言う。
「そうですね、花音。……申師匠、傭兵団が仕掛けてくるとしたらこのタイミングでしょうか?」
 花音の言葉に頷きながらもリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)申 公豹(しん・こうひょう)に油断なく聞く。
「今までの傭兵団の行動を考える限りその可能性が一番高いでしょう。終わったと思った瞬間は誰しもが油断するものです。彼らはそれをつくのが非常にうまい」
 これまでの傭兵団がらみの事件を考慮したことを申は伝える。
「うーん……でも、傭兵団が出る様子は全然ないよ?」
 申の言葉に花音は言う。
「それならそれでいいのですよ。誰も傷つかずにすむのでしたらそれが一番です」
「備えあれば憂いなし……ですね。最悪の事態を想定して備えることが無意味ということはないです」
「ほぅ……童も言うようになったものです」
 リュートの言葉に少しだけ感心する様子を見せる申。
「申師匠に鍛えられていますから」
「うーん……確かに、万が一にでもあの光景が壊されるのは嫌だしね。リュート兄や申師匠が言うことももっともかも」
 花音もリュートと申の言うことに理解を示す。
「でも、いつまで警戒を続けるの?」
 花音の質問。
「ひとまずは村長が森を抜け村に帰り着くまででしょうか」
 村であれば防衛の対策をしているため守りやすいと申は言う。
「それじゃ、それまでは気を抜かず警戒だねリュート兄、申師匠」
「はい。花音。僕たちの手で守りましょう」
 花音の言葉にそう気合を入れて返すリュート。
「? 申師匠?」
 言葉を返さない申に花音は不思議そうな様子で呼びかける。
「……少しぼうっとしていました。ええ花音。私達の手で守りましょうか」
 誤魔化すようにして申は花音にそう返す。
(気配が消えましたね。撤退しましたか)
 森に入った時から感じていた気配、おそらくは傭兵団『黄昏の陰影』の気配がなくなったことを申は感じる。
(こちらが警戒していることに気づき撤退しましたか。やはりやっかいな相手です)
 仕掛けるべきところで仕掛け、無理しないところでは無理をしない。それが出来る相手は強さに関係なく手強い。
「まぁ……それでも、私の目が黒いうちは負けませんよ」
 自分の弟子たちの居場所の一つ……それをなくさせるつもりはなかった。