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学生たちの休日15+……ウソです14+です。

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空京にて



「それじゃ、その件に関してはそのように。後、あの件に関しては一任するのでよろしく」
 鉄道関係の指示を文官に告げると、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が電話をおいた。まだまだ空京の仮住まいに住んでいるが、じきにツァンダの新居が完成予定である。
「お待たせ。替わるわ」
「まだ大丈夫だよ。もうちょっとだっこさせてくれよ」
 二ヶ月の娘をだっこしながら、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が言った。電話の間だけだっこするはずが、もうちょっとだけだっこしていたいらしい。
「それはずるい」
 御神楽環菜が、きっぱりと言った。ここは妥協できないらしい。
 ほのぼのともめていると、陽菜が持っていたガラガラを落とした。
「とー、とー」
 とってと、陽菜が手をのばす。
「はい、とって。その間は私がだいているから」
「えー」
「あなたがだいているときに落としたんだから、あなたが拾うの」
 なんだか無理矢理に理由をつけられて、御神楽陽太が赤ちゃんを取られてしまった。仕方なく拾うと、その間に御神楽環菜が赤ちゃんをベッドへと運んでいく。
「そろそろおねむみたい」
「そうだね」
 そう言うと、御神楽陽太は、一緒に赤ちゃんの顔をのぞき込んだ。

    ★    ★    ★

「今年も綺麗に咲いたなあ」
 シャンバラ宮殿前の公園に咲きほこった桜を見あげて、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が言った。
「今年も、これを見られて嬉しいよ」
 地面の上に敷いたビニールシートの上で上半身を起こしながら、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)が同じように桜を見あげた。
 今日は、もう執務もない。いわゆるアフターである。こうして花見をしていても、なんのお咎めもない。まあ、シャンバラ宮殿からあまり離れていないからということもあるが。
「まったく、何をしているのかしらね」
 物陰に隠れながらそっと様子をうかがっていたセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が、いちゃいちゃする二人を見てちょっと柳眉を逆立てた。
 見れば、リア充の二人はのんびりと弁当を食べて花見を続けている。
「こうやってかぶりつくのが美味しいのよね」
 酒杜陽一が作ってきた原始肉に思いっきりかぶりつきながら、高根沢理子が嬉しそうに言った。
「それはよかった」
 紙ナプキンで口許の油を拭ってやりながら、酒杜陽一が微笑む。
「いや、いくらなんでも、豪快すぎるであろうが。なあ……」
 少し呆れながら、セレスティアーナ・アジュアが、護衛として連れてきている皇 彼方(はなぶさ・かなた)テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)の方を振り返った。
「はい、あーん」
「ええっと、照れるな……」
 いつの間に手に入れたのか、二人は陰で花見団子を一緒に食べていた。
「貴様たちもか! いったい、その団子はどこから現れたのだ!」
 聞かれて、あっちで配っていたと皇彼方とテティス・レジャが答えた。
「もう、放っておくのだ」
 やってられんわと、セレスティアーナ・アジュアが叫んだ。
 皇彼方とテティス・レジャを伴ってシャンバラ宮殿に戻ろうとすると、途中で人だかりができていた。
 パラミタペンギンやら、着飾ったキャンギャルが案内する先では、何やら花見団子大食い大会が開かれていた。
 ほろ酔いの者たちやら、物好きなカップルたちが参加して盛りあがっている。
「さあ、参加者はこっちよ。優勝には、荒野のお菓子の家量産型をプレゼント」
 主催である酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が、なんだか半ばやけくそで司会をしていた。
「ちょうどいい、参加してくるのだ」
「ええっ……」
 セレスティアーナ・アジュアに言われて皇彼方とテティス・レジャが抗議の声をあげたが、当然の力関係で二人に拒否権などはなかった。
「はい、カップルには特別に五割増しです。同性カップルにも、三割増しサービス!」
 それはサービスではないという皇彼方の声を無視して、ででんと花見団子が積みあげられた。
「はははは、早まっちゃったかしら……」
「が、頑張りましょうね」
 うっかりと参加してしまった綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が、目の前にうずたかく積まれた花見団子を見て顔を引きつらせた。
 二人で花見デートと洒落込んだところまではよかったのだが、うっかりと酒杜美由子のイベントを目にしてしまったのがいけなかった。
 久しぶりの休みのため、今日はとことん一般人になり通すつもりだった。とはいえ、実はエイプリルフールでお休みは嘘でしたーとなっても困る。すっごく困る。
 そのため、髪形を変えて、極地味だけど可愛いふつーの服を着て、お化粧も変えて、絶対に目立たないようにしている。これならば、たとえ休みが嘘であったとしても、見つかって連れ戻されることもないだろう。
 ところで、アイドルとしての綾原さゆみとアデリーヌ・シャントルイユは、普段はイベントを行う側だ。イベントに参加する側になったことは驚くほど少ない。それで、ついうっかり、イベントに引き寄せられてしまったのだ。
「仕方ない、食べるわよ!」
 覚悟を決めて、綾原さゆみが叫んだ。
 そして……。
 大食い大会は、皇彼方がロイヤルガードの意地にかけて優勝したが、現在、テティス・レジャのコーラルリーフによって全力回復中である。
「無理するんじゃなかったわ……」
 木陰でアデリーヌ・シャントルイユに膝枕してもらいながら、綾原さゆみがぱんぱんに張ったお腹をさすってゲップをしていた。早々と降参したアデリーヌ・シャントルイユと違って、限界まで頑張りすぎてしまったのである。
「頑張りすぎよ……」
 そっと綾原さゆみの頬に降りかかった桜の花弁を軽く手で払いながら、アデリーヌ・シャントルイユが言った。
「ごめんねー、せっかくのデートなのにー」
 失敗したなあと、綾原さゆみがアデリーヌ・シャントルイユに謝った。
「いいえ、今日は、まだまだ終わっていませんから、しっかりと楽しんで、いい思い出にしましょう」
 アデリーヌ・シャントルイユは、微笑みながらそう答えた。