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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第4章 イルミンスールの祭典 Story2

 弥十郎がようやく店に戻った頃、斉民の表情がいっそう険しくなっていた。
「まったく、どこいってたの!?」
「ごめーん。ちょっと見回りもしてたんだよ」
「ならいいけど…」
 見回りなら仕方ないかと、あっさり許してやる。
「ここって出入り口にかなり近いよね。弥十郎が選んだわけ?」
「違うよ、先生たちが決めたんじゃない?ほら、探知能力のこともあるし」
 いち早く侵入者を探知するために、出入り口付近に配属されたのだろうと言う。
「あー…そうね」
「どれくらいできたのかな?」
「粉類をふるい終わったところ」
「わーっ、こんなに!?」
 いくつものボウルに真っ白な粉がどっさりと入っていた。
「どうせ全部使うでしょ?」
「まぁね♪」
 大量に作る気満々の弥十郎はにやりと笑みを浮かべた。
「クグロフ用の粉はそっち使って」
「斉民。ベーキングパウダーは入れた?」
「言われるまでもないわ」
「どうも♪」
 透明なボウルに、常温で柔らかくなったバターと砂糖を入れて混ぜ始めた。
「ほんと、お菓子作りマシーンみたい」
 常人より明らかに手早く混ぜていく様子を眺める。
「ふふっ、褒め言葉と受け取っておくよ」
「他の人の仕事が終わらないうちに終わりそうね」
「試作品だから大丈夫。粉類を入れて…さっくりと♪」
「へー…そう」
 そのわりにはいくつものボウルに生地が出来上がっていた。
「クルミも入れたら?」
 持ってきたのに使わないのかと未開封の袋を指差す。
「あ…っ。そうだった、ありがとう!」
「その包丁、切れ味が異様ね」
 容易くスッパリ刻まれていくナッツやクルミを目にし、そのうちまな板もざっくり切れちゃうんじゃないかと思えるほどだった。
 刃の色味の残像が視界に入り、見た目にも鮮やかだった。
「シェナイデットに切れない食材はないよ。細身の万能包丁といったところかな」
「なんか人の名前みたい」
「包丁は料理人の相棒みたいなものだからさ♪」
「ふぅ〜ん…」
 大事そうに何を荷物へ忍ばせていたのかと思えば、やっぱりか…とため息をつく。
「万能包丁ってことは、平たい部分で食材を叩いたりとか?」
「えー、それはやだな」
「できなくはないでしょ?」
「うーん…やっぱりイヤかな♪」
 削れたり折れたりする心配はないが、手荒く使うことはしないと言い切る。
 切ったナッツやクルミを生地に混ぜ、170℃に暖めたオーブンに入れる。
 その30分後…。
 オーブンを開けると焼きたての甘い香りが鼻をくすぐる。
「味見してみてくれる?」
「あら、このクグロフ美味しい。けど、もうちょっとナッツとか入れてみたらどうかしら。あと、お酒は……あ、未成年が多いからださないのね」
「ラム酒苦手な人もいるからさ」
「子供じゃなくても好まない人もいるものね」
 うんうんと頷きながら焼きたてのクグロフを食べすすめる。
「それより斉民」
「何?」
「あんまり食べると肥るよぉ」
「余計な一言だわっ」
 イラッときた斉民は彼の頭をトレイで叩き、コーンッといい音を響かせた。
 “いったぁあ!?”と声を上げる彼に、“自業自得だわ”と言い、プイッと顔を背けた。



 プリンの店を流行らせようと、テスタメントはデザート作りに燃えていた。
 いつのまにやらテーブルに置いていった校長のメモ用紙を握りしめ、懸命にボウルへ粉をふるう。
「注文を受けたからには、全力で作るのですよ」
「ねー、プリン作るのに何で薄力粉がいるの?」
「これは器にするのです」
「ふーん…」
 イスにトスンッと座り、真宵は興味なさそうな声で言う。
「器も全部おいしく食べられるプリン。素晴らしいじゃないですか」
「また変なところに情熱を…」
 祓魔術よりも熱くなってそうな彼女の姿に、はぁー…と嘆息した。
「ふぅ。器は焼けるのを待つだけですね」
「あ、普通に入れるわけね」
 豪快にオーブンへ突っ込むのかと思いきや、丁寧に並べていた。
「何を当たり前なことを…」
「はぁ…そう」
 テンションの変わりように、もうついていけなさそうだとまた息をつく。
 クッキーを焼いている間、プリンのもとを作ろうとテスタメントが卵を割りまくる。
「ちょ、ちょっと…割りすぎじゃないの」
「手早くやらないと沢山つくれないのです」
「それでも多いわよ。バケツプリンでも作る気?」
「ふっ、なにをぬるいことを」
 真宵の言葉にかぶりを振り、不適な笑みを浮かべる。
「ま、まさか…」
「そうです、プリンのお山を作るのですよーーーーっ!売り歩くこともしますが、1つはインパクトのあるやつを作りたいじゃないですか!!」
「は…ははは……そう」
 いよいよテスタメントのテンションについていけなくなり、乾いた笑いを漏らした。