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テロリストブレイク ~潜入の巻き~

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テロリストブレイク ~潜入の巻き~

リアクション


5.戦場の亡霊


「さすがは先生だ、惑わされない!」
 うおおおお、とテロリストが歓声をあげる。
 多くのテロリストは、突如始まった四十八人のアイドルグループに引き寄せられ、誘蛾灯に集まる蛾のように容易く退治されてしまっていた。
 このままでは総崩れになる、と彼らは恥じを忍んで先生、ドクター・ハデス(どくたー・はです)に応援を求めた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
 一段高いところで、ハデスは高らかに声を発する。
「くくく、テロリストたちよ! 粋がった割には散々な状況のようだな。だが安心したまえ、我々が状況をひっくり返してみせよう」
 ばっと白衣を翻すと、ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の三人、あるいは二人と一つ、が颯爽とその場に姿を現した。
「この発明品は君達の趣向を元に開発している。咲耶、アルテミス、発明品を援護しつつ敵を排除するのだ」
 かくして戦場に現れた、テロリストの協力組織は、獅子奮迅の活躍を見せた。
 まず、主力となるアルテミスと咲耶は、テロリスト向けに行われている色香に惑わされない。二人は別にパンツに並々ならぬ愛情があるわけではないからだ。
「きゃあああ」
「何こいつ、こないでぇぇ」
 そして、意外と活躍したのが、ハデスの発明品だった。機械の触手を伸ばし、陽動部隊の女性兵から次々と下着を無理やり剥ぎ取っていったのである。
「下着シュウシュウ完了、下着カイシュウ継続シマス」
 変態テロリストは女の敵、と陽動部隊に参加していた女性兵士達から次々と下着を奪い取るハデスの発明品は、二人の援護のみならず、回収された下着を受け取って戦闘力が跳ね上がったテロリストによって護衛され、もはや手の付けられない一団と化していた。
「フハハハ!」
 ハデスの高笑いを受けながら、二人は「ごめんなさいっ!」と謝罪の言葉を口にしつつ、陽動部隊へ攻撃を仕掛ける。
 実は、彼女達も被害者であった。オリュンポスがテロリストに接近するための手土産として、所持する女性ものの下着、すなわち二人のものを全て提供されてしまっていたのである。
 二人もまた、納品されてしまった自分達のパンツを取り戻すために戦っているのだ。
 士気アップ効果によってテロリスト達は息を吹き返す一方、下着を奪い取られた女性兵達は混乱した。ノーパンになってしまったために動き回る事ができず、不可抗力で異性に見られそうになってしまえば恥ずかしさのあまり仲間へ攻撃してしまっているのだ。
(ち、近づかないでおこう)
 遠目に見ながら、ラブ・リトル(らぶ・りとる)はそう判断した。
 ミニスカートなんて履かなければ奪い取られる事なんて無いのだが、かくいうラブもスカートを履いてきているので人の事は言えない。
 混乱が混乱を呼んでいる最中、突然ハデスの背後の城壁が爆発した。それは火薬を用いた発破ではなく、風船が空気の入れすぎて割れてしまったような、破裂であった。
 その衝撃は軽くハデスを吹き飛ばした。
 そして、城壁の中から巨大な人影が姿を現した。
 シルエットは人によく似ている。だが、目も鼻も口もなく、その背中からは謎の触手が何本も飛び出してゆらゆらと蠢いている。
「か、怪物っ……テロリストはこんなものまで用意していたの」
 だからこそ、彼らはここまで強気だったのか。
 驚くラブのすぐ傍らに、白い白衣の塊が墜落してくる。さっき吹っ飛ばされたハデスであった。
「なんだ、あの怪物はっ」
 テロリストの協力者であるハデスも、突然現れた怪物に驚きを隠せない。
「なんだって、あんた達の切り札じゃないの?」
「いや、あんなものは知ら……いや、あれは、そうかっ!」
 ハデスの天才的な閃きが、その怪物の正体を看破した。
「あれは、汚れた下着と汚れた心が合わさる事によって誕生した怪物だ。恐らく、よく繁殖し醗酵した最近が人間と下着を取り込む事によって産まれたのだろう。あの背中の触手―――恐らく、取り込んだものの力を再現するに違いない」
「ねぇ、真面目に言ってるの悪いんだけど、言ってて悲しくならない?」
 ラブは、一見まともそうだが、実のところ全く中身のない解説者にジト目で返す。
「ふん、天才の言葉はいつだって凡人には理解できん―――よし、今からあの怪物は、キングパンツマンと呼称する。恐らく、きっと、たぶん、我々の味方のはずだ」
 言い切る前に、ハデスの発明品がキングパンツマンに蹴り飛ばされた。敵とか味方とかない、第三勢力としてこの戦場に君臨し、好き勝手に暴れ始めた。



「敵とはいえ、その姿は忍びない。ここは私が受け持つ、下がりたまえ」
 龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)と合体したコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、キングパンツマンの前に素早く躍り出ると、ついでにハデスの発明品を蹴飛ばしてどっかに吹っ飛ばした。
 その傍らには、しゃがみ込むアルテミスと咲耶の二人。顔を真っ赤にして両手でスカートを押さえつけている。
 キングパンツマンに蹴っ飛ばされたハデスの発明品はエラーを起こし、女性だろうが男性だろうが、とにかく機械の触手が届く範囲のパンツを剥ぎ取り始めたのだ。
 そのため、彼女達のまわりにはとてもじゃないが『見せられないよ』な空間が広がっている。
「ありがとうございます」
「助かります」
 二人はそれぞれ礼を言うと、素早く―――動くわけにはいかないので、のそりのそりとその場から離れていった。
(こいつ、想像以上にやばい力を感じるよ)
「うむ、油断できんな」
 コア・ハーティオンは慎重に、そして大胆に踏み込んだ。
 触手が頬をかすめながらも、接近し一撃を叩き込む。たたらを踏んで後退するキングパンツマンだが、「この程度ではだめか」とコア・ハーティオンが零した通り、ダメージはそこまでではないようだ。
「む……」
 怪物の様子がおかしい、わなわなと震えていたかと思うと、背中の触手がいきなり増えた。二倍、三倍、とわらわらと触手が増加していく。
 そのうえ、ただの布の塊だった顔に口のようなものが形成され、
「よくも―――よくも―――我を見捨てたなぁぁぁぁ!」
 おぞましい怨嗟の言葉を吐き出した。
 そう、この怪物のコアとなっているのは、隠すまでもない、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)その人なのだ。背中の触手は、イングラハムに起因するのである。
「なんというパワー……」
 じりじりとコア・ハーティオンは後退させられる。
 だが、彼の勇気は折れはしない。きりっと相手を見つめると、再び立ち向かった。

「ねぇ、やっぱり殺した方がいいでしょ、ねぇ!」
 クコ・赤嶺(くこ・あかみね)は巨大な汚物の塊を指差しながら、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)に告げる。
「変態をこじらせると怪物になるんなら、皆殺すしかないじゃない!」
「いや……うん、だめですよ、うん」
 殺しはせずに、手加減してテロリストを鎮圧しよう。そう霜月は前もってクコに提案していた。クコはテロリストのあまりにもあんまりな要求と行動に憤っており、やり過ぎてしまいそうな雰囲気があったからだ。
 丁寧に諭して、あくまで陽動だから追い詰めちゃいけない、と自分達の役割も混ぜて説得し、とりあえず「殺さない」という約束を取り付けていたのだが、テロリストを相手にしてクコのストレスゲージはぐんぐん上昇していき、そして怪物の登場によって限界を迎えた。
「殺そう、一人残らず一掃しよう。女性の敵はこの世界にいらないわ」
「待って、待とう。仕事に私情を持ち込むのはいけない」
 どうどうと落ち着かせている間に、キングパンツマンとの戦いは激しさを増していっていた。
「……わかった、殺すのは我慢するわ」
 なんとか説得に成功し、クコからその言葉を引き出す。
 そうしている間に、既に戦況はほぼキングパンツマンに大きく傾いていた。
 キングパンツマンは触手を除けば、特にこれといった強力な武装も技もない。すごく地味だ。強いて言えば臭い。なのに強いというとてつもないメンドクササの塊である。
「ひとまずは、あれをなんとかしないといけませんね」
「殺さない代わりに、もうあんまり関わりたくないわ」
 そう言いつつも、臨戦態勢を取るクコ。
「とにかくあの鬱陶しい触手を―――」
「―――切るっ!」
 遠くあったキングパンツマンとの距離を一気に詰める。
 自動迎撃もかくや、という触手をひらりひらりと二人は回避し、そのまま触手の付け根に取り付いた。
 二人は互いの手の届く範囲の触手を切り落とす。二人合わせて、総数の三分の一ぐらいの触手を失ったキングパンツマンは、悶えてその場に膝をついた。
「今です!」
 二人は素早く怪物の背中から飛び離れる。
 そこへ、コア・ハーティオンが勇心剣を掲げて駆け寄った。
「流星一文字斬り!」
 振り下ろされた一撃を受け、怪物はうめき声をあげてその場に倒れこんだ。
「終わった……か?」
 怪物は倒れても、残った触手を振り回している。それで敵の接近を防いでいるようで、見れば負傷した部分を大急ぎで修復しているようだ。
「これは……」
 距離を取りすぎず、様子を窺っていた霜月は、はらはらと舞い落ちる布切れに目を向けた。コア・ハーティオンの一撃で損傷した際に飛び散った下着の破片だ。
「そうです、炎を!」
 霜月はコア・ハーティオンに向かって言う。
「……! わかった、やってみよう」
 コア・ハーティオンは勇心剣を地面に突き立て、炎の柱でキングパンツマンを攻撃した。
 炎に巻かれた怪物は、苦しそうにもがく。だが、布の塊に一度ついた炎は中々消えない。むしろ、男の油を吸い込んだ下着達は、それこそ着火剤であるかのように盛大な炎をあげた。
「男の油でコーティングした下着を乾燥させ、編みこむ事によって刀すら通さない鎧としていたのだろう。しかし、布と油が素材である以上、炎は天敵というわけだな」
 ドクター・ハデスはしたり顔で解説を入れると、びしっと手をあげた。
「よし、撤退」
 野暮ったいジャージを履いたアルテミスと咲耶と三人で、既に動かなくなるまで壊れてしまったハデスの発明品を担ぐと、すたこらさっさと撤退していった。
 怪物はさすがに質量があるからか燃え尽きるまで時間がかかり、炎が消えると、中から程よく膨らんだアフロの一団が回収された。