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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 
パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~  パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

リアクション

 四階・足玉(たるたま)の間


 四階は異様な装飾品で埋めつくされていた。
 ルーレット、スロット、トランプ、サイコロ、花札、麻雀牌……。部屋中に、ギャンブル用のありとあらゆるグッズが取り揃えられているのだ。
「――ここでは、互いの寿命がチップになるわ」
 カジノのような部屋の中央で、ディーラーの格好をした少女が契約者たちに告げる。彼女こそ、八紘零の拾ってきたという時を賭ける少女であった。
 寿命を賭けてギャンブルする未来人。まともに戦って、勝てる相手ではない。
「俺たちが相手になろう」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)が、パートナーの魔女フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)と共に、少女の前に立つ。
 彼には勝算があった。というより、負けない算段あった。
 不老不死であり、実質上『寿命が無限にある』魔女であれば、時を賭ける少女との勝負を延々と引き伸ばせるだろう。
 陽一の狙いを悟った他の契約者たちは、すぐに次の階を目指す。八紘零の儀式を止めるために――。

(時を賭ける少女は強敵だ。恐らく、強力な未来予知が使えるとみていい)
 フリーレが、時を賭ける少女を分析していた。特殊な力を秘めた相手。なんとか四階に留めておくため、ふたりは一芝居を打つ。
「わたしぃ〜、ギャンブルよくわかんな〜い」
 凛とした雰囲気のフリーレが、すごく頭悪そうに言った。
「ねーねー。これ、どうやって遊ぶのぉ〜?」
 ルーレットをカラカラと回して痴れ者を装うフリーレ。カマトトぶっているようだが、実際に彼女はカジノゲームをよく知らないので、その演技は板についていた。
「そんなことも知らないの。これはね……」
 時を賭ける少女がいちから説明をはじめた。――うまくいった。フリーレは、内心でほくそ笑む。
 少女からさんざんルールを聞いたあとで、フリーレは再び痴れる。
「よくわかんなーい」
「ちょ……。じゃあ、ポーカーにしましょう。これならさすがに知っているでしょ」
「知らないもーん。このカードって、どっちが表でどっちが裏?」
「そこからなの!?」
 トランプをくるくると引っくり返すフリーレに、苛立ちを募らせる少女。それでも根気強く説明するが、フリーレはいっこうに理解したそぶりを見せない。
「わかんないわかんないわかんなーい!」
 しまいには駄々をこねはじめた。
 少女の怒りは沸点に達しそうになるが、そこですかさず陽一がパートナーをシバく。
 フリーレの頭をひっぱたいてから、陽一は時を賭ける少女に頭を下げた。
「もう一度、教えてやってくれ」
「しょうがないわね……」
 なかば呆れながら、少女はいちから説明をはじめたのである。

 しかし、この時間稼ぎもそろそろ限界だ。少女は本格的にキレはじめている。
 さすがにこれ以上は無理だと判断したフリーレは、その場に寝っ転がりながら言った。
「もーわかんないから、陽一に任せる!」
「さんざん説明したのに……」
 少女はげんなりした顔で陽一に向きなおった。
「でも、いいのかしら。あなた地球人でしょう。私が賭けるのは、寿命なのよ」
「ああ……。ただし条件がある。勝負するのは俺だが、寿命を賭けるのはフリーレだ」
『寿命を賭けるのは対戦者に限る』というルールはない。――そう陽一が説得すると、少女はしぶしぶ承諾した。
「……このままじゃ埒があかないし、条件を飲むわ」
「もうひとつ提案したい」
「なによ?」
「勝負の方法は……紙相撲だ!」

 紙相撲。
 陽一が提案した勝負の方法に、時を賭ける少女はあんぐりと口を開いた。そんな子供じみた遊びで戦おうとは。
 絶句する少女をよそに陽一は紙細工で力士と土俵を作る。
「さあ、勝負だ」
 【ホークアイ】で視力強化、さらに『観察眼』を装着して【行動予測】をはじめつつ、【メンタルアサルト】でのフェイントを準備する。
 隙のない陽一の構えに、少女はようやくギャンブラーの血が滾ってきた。
 これはお遊戯ではない。
「――いいわ。たっぷりとかわいがってあげる」
 不敵な笑みを浮かべる少女。
 永遠に匹敵する寿命を賭けて、今、水入りなしの大一番がはじまったのである。