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リアクション
■少女の記憶
「真実が最も残酷、か……」
「人はよりどころ無くしては生きられん、ということじゃのう」
イルミンスールの森の中。
源 鉄心(みなもと・てっしん)はアーデルハイトと共に例の少女が居るという場所へ向かっていた。
「それにしても、エリザベート校長からの頼み事は?」
「んー? 連絡もないし飽きたんじゃないかのぅ」
それは貴女じゃないのか、と言いたい鉄心だがとりあえずは突っ込まないことにしておいた。
「ギルティ……ですうさ……」
森の中を歩いていると、ティー・ティー(てぃー・てぃー)のそんな声が聞こえてきた。
どうやらすぐ近くにいるようで、鉄心が覗き込むとお化けの少女ルミルの周りでミニうさティー達がミニいこにゃ達にぺちぺちと叩かれている。
「このうさぎたちは……!」
イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)も一緒になってぺちぺちと叩いている。
そんな彼らをさておき、ティーはルミルに向き合っていた。
「ルミルさん、何か昔のことは覚えてないですうさ?」
ルミルの半透明な体に手を伸ばして話を聞く。
『ご、ごめんなさい。 何も覚えてなくて……』
「あ、鉄心」
謝るルミルと鉄心がやってきたことに気が付くティー。
お互いに気まずそうな空気になっているのは、ティーがお化けに少しおびえているからだろうか。
「やっぱり、何も覚えてないか。 少し、君のことを調べてきたんだが、聞くかい?」
『……! はい』
鉄心の顔を真っ直ぐ見て、ルミルは頷く。
その姿を見て、鉄心は「わかった」と一言置いた後、話を始めた。
パラミタが地球に現れるよりも前の時代、イルミンスールの森のあった場所には1つの集落があった。
決して大きな集落ではなかったが、人々は豊穣の神の元に生活を成り立てていた。
だが、信仰だけでは神は応えてくれず、人々は生贄の儀式を行っていたという。
物心もつかない若い少女を生きたまま、棺に入れて湖に沈めるという狂気じみた。
犠牲になった少女達は数知れず、その怨念によってか集落は滅び、今は湖のみが広がっているという。
鉄心が語り終えると、少女は黙ったまま何かを考えているようだ。
「……ひどいですの」
話を聞いたイコナはミニミニ軍団に絡むのをやめていた。
「あくまで記録、実際どうかはわからないさ。 ルミルも気負わなくていい」
『いえ、ありがとうございます。 だから私は湖の底で1人だったんですね』
ルミルは胸の支えがとれたような顔をして、鉄心に礼を述べていた。
正直そんな姿を見て、強いな、と思ってしまう。
「もーっ! 湿っぽいよーっ!」
湿っぽい空気をぶち壊すかのようにノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の元気な声が響き渡る。
「ルミルちゃんも落ち込まないで、みんなで一緒に踊ろう!」
ノーンが指をパチンと鳴らすと勢いよく夢想の篝火が燃え上がり、五人囃子達が楽しげな演奏を始める。
その演出を見たエリザベートはビクりと反応し、こっそり逃げ出そうとするが彼女の行動を読んだセレンががっしりと首根っこを捕まえていた。
『え、でも私……』
「えいっ! これでよしっ!」
ルミルの言葉を待たずにノーンは取り出した大型人形の頭をぽんぽんと叩く。
すると、人形はあっという間にルミルそっくりの姿へ形を変える。
「憑依できる? これなら一緒に踊れるよ!」
困惑するルミルだったが、アーデルハイトがこっそりと耳打ちすると意を決して人形体へと入り込む。
しばらく体の具合を確かめていたルミルだったが、どうにか不都合なく動けるようだった。
「やった! じゃあ踊ろう!」
ノーンはルミルの手を引き、歌を歌いながら踊りだす。
突如と始まった宴だが、他の契約者達もノリノリといった様子で参加を始める。
そんな中、魔王は1人離れた場所にいた。
「うん、なかなかうめーですぅ」
「おい、それは……」
いつの間にかプリンを貪っている魔王。
それを見て、ダリルは自分の持ってきたお菓子を魔王の体に持たせていたことを思い出す。
「マオちゃん! 食べた分はしっかり踊らないとね!」
「げっ、ま、マオはふとらねぇ……のわぁっ!」
踊るのをサボり、見る側に回っていた魔王はノーンに手を引かれ、ノーンとルミルと手を繋いでダンスに引き込まれていく。
初めのうちはうまく踊れず嫌だ嫌だと言っていた魔王だが、慣れてきたのかしっかりと踊りに参加してくれるようになっていた。
そして、ルミルの顔には自然と笑顔ができていた。
「ふふっ、よかった」
いつの間にか笑顔になっているルミルを見て、今回も御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に面白い話ができそうだと思いながら、共に笑っていた。