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リアクション
■少女との交流
近くにヒュドラの住まう湖の傍。
大きな樹の幹にもたれかかり、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は本を開いている。
彼の膝の上には、乗ることはできないが乗っているように正座しているお化けの少女の姿があった。
「……と、言うことで二人は幸せに暮らしました」
最後の一節を読み終え、貴仁は本を閉じる。
内容は子供に読んで聞かせるような内容の心温まる恋愛をモチーフにした絵本だったが、少女はその話に聞き入り、真剣に聞いていた。
最初は動物達と一緒に居なければ貴仁に寄ることもできない状態だったが、どうにも打ち解けてくれたようだ。
『……誰かと一緒に居るって、良いですね』
「でしょう? 君がよければ俺が一緒に居ますよ、ルミルちゃん」
『えっ』
少女は貴仁にそう呼ばれ、狼狽える。
『え、えと……』
「気に入りませんでしたか?」
『ううん、ありがと……』
貴仁が付けた名前を気に入ったものの、照れくさいのか少女は顔を背ける。
「よかった、次は何を読みますか?」
『えっと……』
持ってきた本は豊富で、どれも女性向けではあるものの、小説に絵本、漫画と多彩だ。
内容も豊富で少女はどれを読もうか、と迷っている。
『ぬあーっ! 何勝手に進めてるですかぁ!!』
「何言ってるです、元々読んでるのはこっちですぅ」
傍で上がった2人のエリザベートの叫び声に2人は驚く。
気が付くと貴仁の持ってきた漫画類を勝手に読んでいるようだった。
最も、エリザベートがどんどんと読み進めているおかげで魔王は思うように読めずイラついているようでもある。
「ぬおっ!」
そんな2人の前に、ドスンと音を響かせて何かが降ってきた。
貴仁やエリザベート達があっけにとられている間に降りてきたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)。
空飛ぶ魔法によって上空で何かをしていたのだろうか。
「大丈夫? ダリル」
「すまない、もう少し調整が必要のようだ。 だがこの体の強度は申し分ないようだ」
ルカルカの手を取って起き上がったのは魔王エリザベートの姿。
『は、はぁああっ!? 何がどうなってやがるですかぁ!?』
じたばたと腕を振るい、指を突きつける魔王。
確かに、魔王のデータはエリザベートの手の中にあるにもかかわらず、目の前には魔王の体が動いている。
「ねぇ、ダリル。 やっぱろ勝手に借りたのは不味かったんじゃない?」
「む……飛行機能のテストに、と思っていたのだが」
魔王の体を借りていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は申し訳なさそうな顔をする。
『よくねーですぅ! しかも服ボロボロじゃねぇですか、この変態!』
「へ、変態……?」
だが、落下の影響でボロボロになっていた服に気が付いた魔王はダリルに非難の言葉を投げかける。
「わ、わかった。 直ぐに返すからしばし待て」
ダリルがそういうと、魔王の体は一度機能を停止し、大慌てでダリルの半透明の体が飛び出してくる。
そう、まるで幽体離脱したように。
『お、おばけぇー!?』
『い、いや、待て、俺は……』
そんな結果を見て、少女ルミルは驚き、叫ぶ。
「それはあんたですぅ」と、突っ込むエリザベートはさておき、落ち込むダリルを見てルカルカは微笑んでいた。
「ふふっ、私はルカルカ。 貴女は?」
『え、えっと……ルミル、です』
「そう、ルミルちゃん! 何かしたいことない? なんでもいいのよ?」
笑顔でそう迫られた少女は困った顔をして悩む。
『え、と、みんなでお散歩……?』
「よし、じゃあ早速行こうか!」
手を引くことはできないが。ルカルカは笑顔で手を差し出す。
そんな彼女の笑顔を信用したのだろうか、ゆっくりとルミルは手を伸ばす。
「ふう、ようやく戻ってきたですぅ」
「……すまなかったな」
自分の体に戻り、調子を確認する魔王と先ほどの言葉が効いたのかしおらしくなっているダリル。
そんな2人を見て、ルミルは『楽しそう』に笑っていた。