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ロウソク一本頂戴な!

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ロウソク一本頂戴な!
ロウソク一本頂戴な! ロウソク一本頂戴な!

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■ 3日目(2) ■



 空京、某所。

竹に短冊七夕祭り 多いは嫌よ ローソク一本頂戴なー くれなきゃ顔をかっちゃくぞー

「待ってたよ。ゆっくりしていってね」
 自宅への招待を許したエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、中に入ってと招く。
 出迎えにメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が並んで歓迎の表情を浮かべていた。
「あらあら。おちびちゃん達、いらっしゃい。歓迎するわね。持って帰るお菓子は用意してあるわよ。
 でも少しここでも食べていらっしゃいな。氷菓子も用意してあるわよ。暑いでしょ?」
 言うリリアに子供達の期待は高まる一方である。
 地球のヨーロッパのデザインを用いた家はそこそこ広く、小奇麗な外見からも、窓の多さで部屋数が想像できる。庭も家に合わせた適度な広さで、流石というべきか手入れは存分と行き渡っていて、見てるだけで癒される。
 庭には植物園もあり、興味があるならとエースは立ち入りを許可してくれた。
「時間的に丁度いいかなって思って」
 ケーキに目がないと聞いているし、他のお菓子もたっぷりある。系譜の子供の旺盛さは知っているから、この場で食べていくのが良いと、エースはお茶に誘う。広めの部屋には既にその準備も整っていた。
「エース、何か凄いね」
「綺麗ー」
「どうせだから、英国式お茶の時間で優雅な時を体験してもらおうと思って」
「ゆうが?」
「今から知っておくと大きくなったら便利だよ」
 小さな淑女に微笑むエースは、皆に席に座るように促し、側で控えていたメイドに目配せした。
 子供達も使用人達に給仕してもらいお嬢様、お坊ちゃま気分を味わってみてもらおう。
「サンドイッチですわ!」
「すっかりヴェラのマイブームだな」
 テーブルの上のケーキワゴンにケーキ以外にも食べ物が乗っているのを見つけてヴェラがときめいている。
「猫ー。エース、猫いっぱいー」
 エースの保護猫。特に人懐っこい子は屋敷内を自由にさせており、臆さない子供に近づいては遊べと言わんばかりに足に擦り寄り、自らねだる。
「前に話していた猫か。多いな」
 聞かれて、同じテーブルに座ったエースは破名に「うん」と頷いた。
「思ったより回復早くて安心したよ。体力ついたんだね」
「体力の問題かはわからないが、脳が潰れなければ大抵平気だ。でも、確かに期間が短くなったのはありがたいが……なんだ、皆そういう認識か?」
「君はちょっと気絶が多いもの」
 心配もされるさと苦笑するエースは、破名の冷たくなったカップの中身を新しいのと交換しようとしたメイドの手を止める。破名は基本的に何も口にしない。この茶会も彼だけは形のみだけで、そこまでの配慮は必要ないのだ。
「親って子供が幾つになっても子供の心配しても良いんだよ」
 寄ってきた猫を抱え上げてエースは時折子供の様子を伺う破名に囁く。
「突然何を?」
「もちろん、子供達が独り立ちする手助けはしなきゃならないけど。
 シェリーは結局どこの学校に行く事に決めたのかな?
 他の子達の進路はどうなの? 他の子も修学して構わない年だろ?
 ってその顔、全然考えてなかって顔だね?」
 エースの指摘に破名は言葉に詰まる。
「上の子に下の子が影響されるのは道理だ。言われなくともとは思うが、先に言われたな……」
 と、エースのテーブルにメシエとリリアが現れる。リリアはそのままシェリーの元へと向かった。
「楽しんでいるかね?」
「何もしなくても全てやってもらえているというのは楽だな」
 返答にメシエも同じくテーブルについた。
「もう体調に問題は無いのかね」
「皆に聞かれる」
 破名のその答えは予想ついていたのか、メシエは更に重ねた。
「あまり子供達やキリハに心配を掛けさせないように」
 慣れているからで何もかも正当化してはいけないと誤魔化しを許さず、破名の横に座ってなりを潜めているキリハに、「色々と大変だったね」とメシエは労う。
「キリハも近頃破名に振り回されぎみの様だね?」
 出会った頃はそういう感じでは無かったような気もすると言われ、キリハはメシエにそうですねと口を開いた。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。勝手をされる事には慣れていますので」



「シェリーも引率のお姉さん役お疲れ様ね」
 リリアに、にこっと笑われて、シェリーは照れるように赤くなり、おずおずと食べかけのアップルパイを指さす。
「これ、凄く美味しいわ」
「でしょう? 私のお勧めなの。まだあるから沢山食べてね」
 言って、リリアはシェリーの隣り、空いている椅子に座った。そして、ふと思い出す。
「そうそう、学校はどこに決めたの?」
「あ……」
「その顔はまだ決めてないって顔ね。そうよね、時間がかかるものよね、自分の人生を左右するもの」
「リリア」
「あとね、先日の件はメシエから聞いたわよ。親代わり相手に今更恥ずかしいもないでしよ」
 振られた話題に、シェリーはぎくりとする。
「そう、かしら?」
 瞳に不安の色を揺らめかせるシェリーにリリアは大丈夫よと、少女に自然と俯いてしまった顔を上げるように促した。
「覚えてない位小さな時にきっともっと恥ずかしい事色々やらかしていると思うのよね! きっと破名も逐一意識していないと思うけど。
 だからあんな事叫んじゃった位、平常運転だと思って」
 言われたことを反芻し、瞬間、シェリーは、かぁっと顔を赤くする。
「小さい頃って……頃って」
 あわわと、お父さんと読んで迷惑だったのかなと悩んでいたよりも、ずっともっともっと恥ずかしくなった。院にはフェオルの様な小さな子供はいる。性格は違えど、子供というのがどんな存在か身近に接しているシェリーは、自分にも同じ時代があったのだと気付かされ、焦った。
 物凄く焦った。
(うふふ、焦る姿が可愛いわ)
 感情が顔に出るシェリーの様子をリリアは微笑ましく見守る。



「じゃぁ、またね」
「リリアが子供達が来るのを楽しみにしているからねぇ、何かあれば気軽に連絡するといいよ」
 子供達にお土産用のお菓子を配るエースとメシエを眺め、リリアはくすっと一人笑う。
(とか言いながら、ちゃんと持ち帰り用のお菓子セット用意しているのを見ちゃったわ。実は楽しみにしてるのよね)
「またいつでもいらっしゃい」
 三人に見送られて、バスは来た道を帰っていく。