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ロウソク一本頂戴な!

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ロウソク一本頂戴な!
ロウソク一本頂戴な! ロウソク一本頂戴な!

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■ 2日目(4) ■



 葦藁島、とある長屋、玄関先。
 まず、初めに記載しておこう。
「ここではお子様も参戦出来るよう工夫されているのですね」
 というフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の、その認識に間違いは無い。むしろ、歌を歌って笹に飾り付けやお願いごとを括りつけて星見に夜を過ごすのだから、正しいくらいだ。
 ただ、
「マスター、ジブリールさん……。私、七夕とは、織姫様と彦星殿と戦う為、短冊に願望を書いた笹飾りを目印とし、笹団子を食して英気を養いながら夜通しお二方の襲撃に備え、見事対戦相手に選ばれ勝負に打ち勝った者が願いが叶えられる行事だと教えられましたが……、
 行事とは奥が深いものです」
 なんたる、真実か。真顔で衝撃を受けているフレンディスにベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、思わずと自分の胃を腹の上から抑えた。
 他にも、
・謎の武闘派ご老公サンタ&従者トナカイとペアバトルクリスマス。
・狂ったツリーにしか見えないエコな門松。
 と、自分が過去に経験した行事を例を挙げて戦(おのの)いているフレンディスにベルクはげんなりとした表情で口を開いた。
「フレイの知ってる七夕だが……、また騙されて教えられただろ?
 それ全部嘘っつーかクリスマスと同じ展開な段階で気づいてくれ! 頼むから!!」
「マスター?」
 七夕とはとフレンディスに嘘情報を吹き込んだ人物に心当たりがあるがここでは深く追及せず、ベルクは続ける。
「一応説明しておくが本来の七夕っつーのはだ……」
 と、地球人のフレンディスより、説明できるくらいは地球の行事に詳しくなっていく吸血鬼であった。
「しかし、誰だよ七夕にハロウィンとお盆を足しで二で割ったような行事にクラチェンさせたのは……。
 まぁ、クロフォードしかいねぇか。確かに子供は喜ぶかもしれねぇがもーちょいなぁ……。
 とはいえ系譜の子供達は独特な七夕を信じこんでるみてぇだし、これについては今回100歩譲るとしていいのか……」
 思わず「違ぇだろ」といつもの調子でいいそうだなとか悩むベルクにジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)も頷く。
「七夕は経験した事がないけど、フレンディスさんと系譜の七夕はオレでも違うと思うよ?」
 と、エンジン音に気づいて三人は道の向こうへと目を向けた。

竹に短冊七夕祭り 多いは嫌よ ローソク一本頂戴なー くれなきゃ顔をかっちゃくぞー

「はい、お待ちしておりました」
 和菓子作りが得意なフレンディスは、ベルク、ジブリールと三人で作った、笹団子、水羊羹、フルーツ水饅頭など、葦原の涼やかな風にさらされ瑞々しくも独特な艶を弾く和菓子を膝を曲げてお盆を子供達に見えるように下げた。
「フレンディス、これお菓子?」「忍者さん、これ食べれるの?」「溶けたりしない?」等と見慣れない和菓子に向けられる質問をフレンディスはひとつひとつ丁寧に答えていく。
「荒野に住んでるし、確かに見たことないもんばっかりだろうな。しかしよ、本当にこれって七夕なのか?」
 疑問を投げかけられて破名はベルクに見えるように両肩を竦める。
「キリハが言うには、本に載ってたそうだ。此処に来るまで懐かしいことをしているなとも言われた」
「ほー。あるにはあるんだな」
「俺は詳しくないからキリハに聞くといい」



「ねぇ、シェリー、さっきからクロフォードさんと目を合わせないようにしているみたいだけど、何かあった?」
 切り口も綺麗にスパッと問いかけられて、シェリーはジブリールに驚いた顔を向けた。何かを言いたげな視線を受けてジブリールは頷く。
「うん。視るのは結構得意だから」
「舞花といいジブリールといい、鋭いわ」
「シェリーはどちらかというとわかりやすいほうだよ。すぐに顔に出るしね」
「私、そんなにはっきりした態度を取ってる?」
「クロフォードさんを避けてるんだね?」
 質問に質問で返されて、返答に詰まるシェリー。自白した少女にジブリールは、うーん、と唸る。
「聞いてもいい? どうして避けてるの? クロフォードさんはいつもと変わらないように見えるよ」
 シェリーの態度だけが違うので、浮くように目立つ。
 指摘を受けて、シェリーは「舞花にも言ったんだけど、友達として相談していい?」と前置きした。
「もう、なんか色々恥ずかしくてね……」
「恥ずかしいの?」
「うん。だってね。クロフォードって、背は高くないし、線は細いし、風が吹いたら飛んでいきそうだし、気絶ばっかりするし、悪魔っていうには地味顔できらきらしてないし、居るか居ないかよくわからないし、むしろいつも居ないし。怒ることはないけど、叱ることもないし、世間知らずだし、物覚えは悪いし、字だってろくに書けないし、書けても凄く汚いし、センスは無いし、料理は作らない、家事は手伝わない、食堂か応接間の引きこもりだし、少しでも困ったことがあったらマザーかキリハを頼るし、やっぱり気づけば居なくなってるし、本当に頼りないのよ?」
 誰と比較しているのかはわからないが、シェリーが交流を持っているのはほとんどが契約者ばかりだ。未契約者たる破名をそんな彼らと比較するのは少々酷かと思われるが少女は気づいていない。
 でも、とシェリーは続ける。
「でもね、私に幸せになれって言ってくれる人なの」
 それだけを望んでくれる人。
 ただ純粋にそれだけを望み、心を砕いてくれる人。
「ねぇ、ジブリール。クロフォードは、私にお父さんなんて呼ばれて、迷惑だったんじゃないかしら……」
 不安が滲んでいる声で聞かれてジブリールは「うーん」と周囲に視線を巡らし、ふと、気づく。
「でもさ、本当に迷惑だったらあんな風にシェリーの事見ないと思うよ?」
「え?」
 促され視線を上げたシェリーは、破名がいつもと変わらぬ顔で自分を見ていることに気づいた。



 境遇が似ているせいか、親身になってシェリーの話を聞き相槌を打つジブリール。
 それを見守るベルクの姿は、家族のそれで、親馬鹿と言われたら否定はできないくらいかもしれない。
 だからというわけではないが、自分と同じく二人に視線を向けている破名が今何を考えているのか少しだけ気になった。
「マスター」
「なんだ?」
 呼ばれて振り向いたベルクは、神妙そうなフレンディスに首を傾げた。
「七夕は戦争なのですね」
 気づけば、好みの問題で発生し勃発したのはお菓子の争奪戦だった。
 未知なる食材にも臆さない子供達にとっては、見たこと無いお菓子は戦争の元である。
 あるが、人数分あるのだから、少しは落ち着いてと争いに気づいたシェリーは慌てて駆け寄った。