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リアクション
ダイソウトウを探す選定神 アルテミス(せんていしん・あるてみす)の元で、ダイソウトウを探す選定神 アルテミス(せんていしん・あるてみす)の元で、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)を連れて、地面に爆発の数式を書いて、ダイソウトウが飛ばされた方角を推測する。
「えーと、爆発時の爆風のエネルギーは……ここでラプラス変換をして……」
いつもは目茶苦茶なことばっかりしているセレンの姿しか見ていないセレアナにはその姿が新鮮に見えた。
と、
「よし……計算が間違ってなければ……あっちに飛んでったみたい」
セレンがダイソウトウが飛んでいったとされる先を指差して、着地地点を目指した。
計算ではじき出された場所へは苦も無く行けたが、その場所にはダイソウトウはいなかった。
「どこへ行ったのかしら……それとも、誰かに拾われた?」
「あれを拾う奴がいるなら、そいつも間違いなく頭がアレしてるやつでしょうね。まあ
ともかく探さないと」
「どうやって?」
「そんなの決まってるでしょ」
セレンは得意げな顔をして、
「――ダウジングで探すのよ」
L字型の金属棒を取り出して見せた。
セレアナは頭を抱えた。
「それって行き当たりばったりってことじゃないの!」
「え? なんか問題があるの?」
「……ううん。無いです」
セレアナは反論が無駄だと悟って好きにさせることにした。
「むむ……こっちから反応がする……」
科学から一気にオカルトな雰囲気になってしまったが、セレンは構わず反応が示す先に歩を進めた。
そこには……オリュンポス秘密研究所があった。
「うーん……ここから先は分からないなぁ……どうしようか」
「ダイソウトウさまがいるのなら是非もない。突撃だ」
「いや……さすがにそれは危ないんじゃないかと……」
「それなら、あたしたちに任せてよね!」
その声に振り返ると、そこにはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)と和泉 真奈(いずみ・まな)がいた。
その後ろにもクロス・クロノス(くろす・くろのす)、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)、ヴァルヴァラ・カーネーション(ばるばら・かーねしょん)、五月葉 終夏(さつきば・おりが)、シシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)がいた。
全員がダークサイズの身内だ。
そしてほとんどがアルテミスの恋路に応援なり茶々を入れた覚えのある人たちだった。
「おぬしら……」
アルテミスはその姿を見て、呆気にとられた。
「あたしたちみんなでアルテミスさんを案内してあげる!」
ミルディアに続いて、シシルも声をかける。
「アルテミスさんの恋を応援する身としては、アルテミスさんの想いを届けるお手伝いがしたいです!
「もし告白を邪魔することがあったら、人だろうがイレイザーだろうがアナザだろうが足止めしますから」
クロスの言葉に一同は頷いて見せた。
アルテミスは目元を指で拭った。
「おぬしら……すまない、よろしく頼む」
話がまとまったところで、終夏はエバーグリーンで周りの植物を急成長させる。
「それじゃあ、ダイソウトウさんを迎えに行きましょうか!」
終夏が言うと、植物はその身を鞭のようにしならせて、基地の外壁に全力でぶつかった。
激しい衝撃音が何度か続き、外壁は徐々にひしゃげていき、ついに吹き飛んでしまった。
全員がそこから突撃を開始する。
衝撃音に気づいたオリュンポス特戦隊たちが向かってくる。
それに呼応してリアトリスが動く。
「活路は僕が開く!」
リアトリスは近づく特選隊に向けて則天去私と風車手裏剣を飛ばす。
攻撃は全て直撃するが、急所を避けた何人かがなおも突っ込んでくる。
リアトリスはスイートピースライサーを振り回し、レジェンドストライクを放つ。
勢いのついた強烈な一撃が次々と敵を叩きつぶし、切り捨てられていく。
通路の先には上と地下に続く階段があった。
その後ろを続くミルディアが叫ぶ。
「地下! 地下にダイソウトウさんがいる!
「どうしてそこまでハッキリと言い切れるのですか?」
自信たっぷりのミルディアを訝しむように真奈が訊ねると、
「勘!」
ミルディアはどこから来るのか分からない自信に満ちた声で言い放った。
「勘って……そんな偉そうに言われても」
「いいの! どうせ考えたって始まらないんだから行動あるのみだよ!」
「まあ、下手に戦力を分けるよりかはいいかもしれませんわね……。それに、あながちその勘も間違っていないかもしれません」
「どういうこと?」
「敵が上からでなく、下から来ている。つまり、先に行かせたくない理由は地下の方にあるということです」
下から上ってくる特選隊を見ながら真奈は言った。
「おお、なるほど。それじゃあこのままこいつらの出所まで行こう! こうなったら地の果てでも探し当ててやんよっ!」
リアトリスは引き続き先陣を切って皆は地下を目指す。
最下層は階段を下りたすぐそこに扉が一つあるだけだった。
特選隊の出所からして、ここに何かが隠されているのは間違いなかった。
「ここに、ダイソウトウが……」
アルテミスが息を飲むと、シシルがアルテミスの前に立った。
「その前に身だしなみを整えましょう。告白する前にこの格好じゃマズいです」
そう言われてアルテミスも気づいたが、ここまで来るのにあちこち服が破れたり、ほこりが付いていたりしていた。
シシルはタオルでアルテミスの顔を拭きながら、繕い妖精で服の解れを修繕していった。
「な、なにもここまでしなくても……」
「駄目です。ちゃんとした格好でやらないと、ダイソウトウさんに笑われちゃいますよ?」
言いながらもシシルは手を休めずにアルテミスの身だしなみを整えていく。
「ふぅ……こんな感じですかね」
シシルは息をつきながら額を拭った。
アルテミスはいつも以上に身綺麗な姿となり、扉の前に立つ。
その背中にシシルは声をかける。
「アルテミスさん、がんばって! 大丈夫です、アルテミスさんは素敵です!」
「ありがとう……それでは、開けるぞ?」
アルテミスは振り返ると、皆は一様に頷き、扉が開かれた。
「ダイソウトウ! おるか!」
アルテミスは叫ぶと、視線が一点で止まる。
そこには鎖で両手を拘束されて眠らされているダイソウトウの姿があった。
そして、それにいの一番に駆けていったのはアルテミス――ではなく、ヴァルヴァラだった。
足に顔をこすり付けたり、背中に抱きついて首筋を舐めたりしてもてあそび、装備品を脱がせて胸に顔こすりつけたり、股間付近を尻尾でポンポン叩いたりし始めた。
それに合わせるようにイノシシ獣人力士とキノコマンが一緒にマントでダイソウトウとヴァルヴァラを隠し、そのうえでピーが「ダークサイズの進撃はこれからだ!!」の旗を掲げて手を振った。
一同が茫然としていると、先に我に返ったのはアルテミスだった。
「な、なにをしておる! さっさと離れんか!」
「そうだよヴァルヴァラ。早く戻ってきなさい!」
飼い主(?)であるリアトリスが叫ぶ。
と、
「いや、どかなくて結構。――無理矢理引き剥がさせてもらう」
男の声がダイソウトウの背後から聞こえ、
「きゃう!?」
ヴァルヴァラは皆のいるところまで吹き飛ばされた。
「誰じゃ!?」
アルテミスが声を上げると、声は突然に高笑いをはじめて、その白衣に包まれた姿を現した。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクター・ハデス(どくたー・はです)! 待っていたぞ選定神アルテミス!」
「待っていた……じゃと?」
アルテミスが訝しむようにハデスを睨みつけるのと、クロスが飛びかかるのはほぼ同時だった。
「アルテミス様、下がって!」
クロスは頭上に上げたピコハンを振り下ろしながら、同時に炎の聖霊での攻撃を行う。
「邪魔を……するなァッ!」
ハデスは潜在解放と魔力解放による渾爆魔波を放った。
「うあああぁぁ!?」
頭上から襲撃しようとしていたクロスは咄嗟に防御態勢をとったが、その凄まじい威力に聖霊は掻き消え、自身は壁に背中を激突させた。
「さて……選定神アルテミスよ。お前は、本当にダイソウトウの愛を信じられるのかな?」
言いながら、死霊の囁きでその身を蝕む妄執による幻覚を見せ始める。
「な、なにを馬鹿な! 我は……!」
「こう考えたことはないかね……? ダイソウトウの心は、秋野向日葵に向いており、自分には向いていないのではないかと!」
「ッ!」
ハデスの言葉はアルテミスの中で不安となり、その身を蝕む妄執がそれを具現化する。
彼女の眼にはハッキリと見えてしまった。
ダイソウトウの目が自分を見つめていないこと。
隣にいるのが自分ではないこと。
いつもと変わらぬ表情なのに、幸せそうにしているダイソウトウの姿。そこにアルテミスの居場所などなかった。
アルテミスはカタカタと体を震わせて、目を逸らそうとするが、ハデスの魔王の目がそれすら許さない。
「だが、お前がダイソウトウを手に入れる方法が一つだけある。アナザ・ダイソウトウは、イレイザーの力で、アナザ・アルテミスを吸収した。ならば、選定神であるお前が望むなら、その逆も可能なはず! さあ、欲望に身を任せて心の暗黒面に囚われるがいい!」
「あ……ああ……」
アルテミスはすでに自我を失ったようにうわごとを繰り返す。
そんなアルテミスを救おうと、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)と祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)が声をかける。
「アルテミスさん! そんな奴の言うことを信じちゃダメ! ダイソウトウ力と恋する乙女力が合わされば、きっとアルテミスさんの言葉はダイソウトウに届くから!」
「闇から光へと生まれ変わったダークサイズの一員にして神であるアルテミス。また元に戻るつもりなの? 信じるべきものは、そんな男の言葉じゃない! 自分自身の心の声じゃないの!?」
「だいたい、その胡散臭い白衣の言うことなんか一割だって真実がないよ! フィクションだよ! 実在の人物とは一切関係ありません、だよ!」
「そうよ! そもそも、フハハハハ! なんて笑う奴にロクな奴はいないんだから。そんな怪しさが白衣を着ているような男の口車に乗らないで!」
「そうだよ! それにあの眼鏡も全然似合ってない!」
「それになんだか弱そうだわ!」
「アホ!」
「馬鹿!」
「変態!」
いつの間にか言葉の矛先がアルテミスからハデスに変っていた。
心無い罵声にハデスが心の暗黒面に囚われそうになってしまう。
「ええい! 貴様らの言うことなど聞く耳もたん! ……さあアルテミスよ! ユニオンリングによる愛の力など信じず、イレイザーの悪の力を用い、強引にダイソウトウと一つになってしまえばよいのだ!」
「ああ……うわああああああああああああああああああああああああああああ!」
アルテミスは割れんばかりの悲鳴を上げる。
もうその眼には何も映されていない。
あるのは黒く濁った絶望。他人を意に介さない欲望だけだった。
アルテミスは暗黒面に支配されてしまった。
と、
「ぬうっ!」
バゴン! とこの部屋の一つきりのドアがけたたましい音と共に開け放たれて影が一つ飛び込んできた。
飛び込んできたのは乳母車だった。
その中にはアナザ・ダイソウトウが入っていた。
「むう……約四か月くらい運ばれていた気がするが、ここはどこだ……?」
アナザ・ダイソウトウは周囲を見渡し、皆は突然のことに硬直した。
「む……まさか、私のいる場所に運ばれるとは……これも運命か……よかろう。この場で決着を着けてくれる」
その言葉にダイソウトウは目を覚ました。
「聞き覚えのある声がすると思えば……。やはり、自分の始末は自分でつけたくなったか?」
「いや、訳のわからぬままここに来ていた」
「……………………まあいい。私も決着を着けようと思っていたところだ!」
ダイソウトウは飛びかかろうとして、
「その前に、この鎖を外してもらいたい」
なんとも締まらないセリフを口にした。
アルテミスは暗黒面に落ち、さらにアナザ・ダイソウトウの乱入。
基地の地下は今、混沌と化した。