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寝苦しい夏の快眠法

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寝苦しい夏の快眠法
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■双子の夢へ


「睡眠不足だったから丁度良かった」
 最近の猛暑で小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も睡眠不足となっていた所に快眠効果付き夢札を貰い珍しく双子に感謝していた。
「さぁ、早速使ってみよう」
 美羽は夢札を枕の下に入れ、快眠効果でぐっすりと眠り夢へと旅立った。

「今度は快眠効果のある夢札ねぇ。ここ最近の暑さのせいで寝不足が続いてレコーディングに支障をきたしたりしてたから丁度いいんだけど……」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は顔見知りの双子から貰った夢札に目を落とす。快眠出来るというのに表情は曇り顔。
「双子の事ですわね」
 同じ懸念を抱いていたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はさゆみの表情の理由を見抜いた。
「そうそう、前も夢札使ったけど、私の夢に乱入して来たのよね。だから今回も訪問してくるんじゃないかと思って……どうせくだらないイタズラをするだろうけど」
 さゆみは以前夢札を使用した時の事を思い出していた。伝説の歌姫を楽しんでいる所に乱入され悪さをされた事を。
「……ねぇ、アディ。自分達の夢を見るのもいいけど、あの双子はどんな夢を見るのやら妙に気になるからこちらから逆に訪問してみない?(どんな夢を見ているのかは知らないけど、好き勝手絶頂に世界中で悪戯している姿が否応無しに思い浮かぶ。夢の中ぐらい少しは大人しくして欲しいけど……)」
 さゆみはある提案を思いついた。双子を知っているため彼らの夢を容易く思い描きつつも。
「そうですわね。どんな夢か想像は出来ますが、未知の世界には変わりありませんし、それ以上に双子のイタズラがおよそロクでもないものばかりですから警戒をしなければですわね」
 アデリーヌは賛成しつつも警戒の顔。
 ともかく二人は夢札でぐっすり快眠すると共に夢へ。

「夢札でありますか。これはまた楽しい予感がするでありますよ!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は手元にある双子から入手した夢札にニンマリ。楽しい予感に胸が躍りまくりである。
 なぜなら
「いつものように双子と遊ぶでありますよ! 今回はこちらからイタズラを仕掛けるであります。夢の中ならば周囲の被害を気にせず過激なイタズラが出来るであります」
 双子と愉快に遊ぶつもりだから。ちなみに前回夢札使った時も双子と遊んだ。
 しかし、今回は
「二人の夢で遊ぶでありますよ!」
 前回とは違い双子の夢を遊び場にする事に決めた。
 吹雪は早々に夢札を使った。

 ■■■

 様々な実験器具や素材が揃っている賑やかな研究室。

「我が家に帰還……なんちゃってな」
「面白かったよな。みんな色んな夢を見てたよな」
 双子は少しあちこちの夢を放浪しSF夢に悪戯して帰還した今自分の夢で寛ぎ中だ。
「少し休んだらまた遊びに行こうぜ」
「だな」
 双子はひとまず自分の夢で一休みをしてからまた遊びに行く事に決めた。
 その時、
「二人らしい夢だね」
 聞き知った声と共に来訪者が現れた。
 弾かれたように振り向いた双子は
「お、お前は!?」
「どうしてオレ達の夢にいるんだよ!」
 警戒満々の険しい顔で来訪者美羽を見た。何せ自業自得とは言え美羽の見事なキックを幾度となく食らった事があるので。
「二人にお礼を言うためだよ。私も睡眠不足だったから」
 美羽はにこっと邪気のない可愛い笑顔。とても双子に感謝している模様。
 それだけでなく
「最近のヒスミとキスミって、いいもの作るよね!」
 美羽は双子を褒めた。使用して何をするかはともかく。
「何だよ、急に」
「褒めても何にも出ないぞ」
 これまでの事があってか警戒を解かない双子。
「こっちが何か出すんだよ。本当だったら瀬蓮ちゃんと一緒に来たかったんだけど、夢の住人を連れ出す事が出来なくて」
 美羽はニカニカと笑顔で言うがすぐに曇り顔。なぜなら親友を連れて来る事が出来なかったから。
「瀬蓮ってあいつの事か」
「前に会ったよな」
 双子はハロウィンで会った事を思い出した。
「そうだよ」
 美羽がこくりとうなずき、親友がいない事に残念そうにした時、
「美羽ちゃん!」
 美羽のよく知る声が近付いて来た。
「あ、瀬蓮ちゃん」
 美羽は弾かれたように振り向いた。
 そこにいたのは紛れもなく高原 瀬蓮(たかはら・せれん)。ただし美羽が生み出した夢の住人だが。
 ここで
「来たぞ」
「それで何を出すんだよ」
 双子が改めて自分達へのお礼を問いただした。
「それはね……」
 美羽はチョコレート、クッキー、キャンディー、ケーキ、キャラメル、プリンなどいろいろな種類のお菓子をどこからかともなく取り出し、いつの間にか現れたテーブルに置いた。ここは夢の中なのでどこから出そうと自由である。
「うわぁ、クッキーにキャンディーにケーキ……どれも美味しそう」
 甘い物が大好きな瀬蓮は出て来たお菓子に目をキラキラと輝かせる。
「みんなで食べよう、ね、ヒスミ、キスミ?」
 美羽は受け取る相手に言った。
 当然双子の答えは
「いいぜ」
「みんなで食べようぜ」
 と決まっていた。
「それじゃ、これを食べちゃおうかな」
 瀬蓮は嬉しそうにクッキーを一つ手に取り口に放り込んだ。
「私はこのケーキを食べようかな」
 美羽はフルーツと生クリームたっぷりのケーキを頬張り
「俺も食べる」
「どれも美味しそうだな」
 ヒスミはチョコにキスミはプリンを頬張った。

 美羽が双子と出会い挨拶を交わしている頃。
「……どうやら研究室みたいね。となると考えられるこの夢を見ている者は……」
「双子の可能性が高いですわ」
 さゆみとアデリーヌも別地点にて双子の夢入りを果たしていた。
「さぁ、アディ、気を引き締めて行くよ」
「えぇ」
 二人は気合いを入れ直して双子捜しを始めた。
 さゆみ達が双子に出会えたのは景色が変化してからだった。

 再び美羽達。
 美羽達が食べ終わった所で
「しっかし、ここじゃ味気ないから風景もっといい感じにするか」
 ヒスミは茶会にそぐわぬ無機質な研究室内を見回し
「あと飲み物も欲しいよな。ついでにお菓子も。ここは夢だから腹壊す事はねぇし」
 キスミは茶会にはもっと賑やかにしようと考えた。
 まずは風景から変更し
「うわぁ、とっても綺麗。二人共ありがとう!」
「草原の真ん中に立つ大きな木の下でお茶会なんて素敵!」
 美羽と瀬蓮を喜ばせる。
 澄み切った青空に果てしなく続く緑の絨毯、時々吹く風が大木を揺らし、葉音が言葉のまま音楽を奏でる。
「夢ならではだね。葉音が音楽なんて」
 風に吹かれ葉同士がこすれる度に奏でられる優しい音色に美羽は耳を澄ませた。

 その頃、別地点。
「爽やかな風が吹いているでありますね。胸が躍るでありますよ」
 素敵な風景広がる夢を訪れた吹雪は目を閉じて吹き抜ける風を感じていた。
 存分に風を感じた後、ゆっくりと目を開け
「さて、誰の夢でありますかね」
 吹雪はずっと先に茶会を楽しむ六人の中に双子を発見。
「ほほう、あれは……大正解でありますな。これはもう天の配剤。もう双子と遊ぶしかないでありますよ!」
 一発で双子の夢訪問が成功した事に吹雪はニンマリと口元を歪めるやいなや
「たまにはこちらからもイタズラをしてあげるでありますよ!!(周囲に地雷代わりの爆弾を埋めるでありますよ。ただし、二人以外に被害は出ないように)」
 悪戯を抱き勇ましく声を上げ双子の元に駆けて行った。

 再び巨木の下の茶会。

「私達も一緒にいいかしら」
「素敵ですわね」
 さゆみとアデリーヌが登場。
「げっ、何で来てるんだよ」
「自分達の夢を楽しめよ」
 双子は悪さをして仕置きされた七夕での事を思い出してかあからさまに嫌な顔をした。
「そんなに怖がらなくても二人が悪さをしなければ何もしないから」
「そうですわ」
 さゆみとアデリーヌは穏やかな笑みで双子を宥める。
 さらに
「よかったら、お菓子をどうぞ。夢ならではのお菓子もあるよ」
 美羽がお菓子を勧めた。そのお菓子の中には現実では有り得ないような物があったり。
「ありがとう」
「頂きますわ」
 さゆみとアデリーヌは席に着きお菓子を貰い
「美味しい」
「美味しいですわ」
 美味しく頬張った。
 それだけでなく
「……(何かしてるみたいだけど二人に悪戯でもするのかな)」
「……(何かしているみたいだけど、多分双子への悪戯だね)」
「……(二人は気付いていないみたいですわね)」
 美羽、さゆみ、アデリーヌは吹雪がこそこそと双子に見つからぬよう爆弾を埋めている事に気付くも目的を察し黙していた。

 そして
「……(二人の様子からもしかしたらイタズラはまだなのかも。まあ、自分の夢の世界限定なら多少は目をつぶるけど度を越したものはとっちめないと。しかも人様の夢の中へ入り込んでまでイタズラするようであれば……)」
 さゆみは別のお菓子を頬張りながらあれこれ考えを巡らせていた。
「……二人共、ずっと自分の夢にいたの? 前みたいにあちこち訪問したりとかはしなかったの?」
 さゆみはお菓子を食べながら何気なく双子に訊ねた。
「何だよ、それ聞いて何かすんのか?」
「オレ達は何もしてないぞ」
 双子は妙に警戒。
「……(この反応は何かありますわね)」
 アデリーヌは双子の警戒ぶりから何かあると読み取るも黙って成り行きを見守る。
「……そんな気がしたから。例えば結婚式を台無しにしたり恋人達の時間をぶち壊したり調子に乗って夢の住人に悪戯したりとか」
 さゆみは思いつく限りの事を列挙した。
「な、何で知ってるんだよ!?」
「見てたのかよ?」
 双子は恐々とした顔でさゆみとアデリーヌをにらんだ。
「……見てた? 何の事? 私とアディは真っ直ぐにこっちに来たけど(図星みたいね)」
 さゆみは肩をすくめて言った。答えの通りさゆみは何も知らないが双子の考えは知っているので悪さをしそうな舞台はいくらでも考えられる。
「そうですわよ。何か後ろめたい事でもありますの?」
 アデリーヌは笑みを浮かべながら訊ねた。
「ないない」
「そんな物はないぞ」
 明らかに何かある様子で全力で否定する双子。
「……美羽ちゃん、あれって」
「何かしたみたいだね。きっと他の人の夢で悪戯したに決まっているよ」
 瀬蓮と美羽もこそこそと双子に聞こえないよう話す。こちらも双子の否定ぶりから正解を読み取っていた。

「そんな事より飲み物とお菓子を出すぞ」
「たっぷりと出すから楽しめよ」
 双子はさゆみ達の追求をはぐらかしてから大量の飲食物を出して皆の前に並べた。
「これも美味しそうだね、美羽ちゃん」
「沢山、食べよう。夢の中だから食べ過ぎてもお腹壊さないし太らないからいいよね」
 瀬蓮と美羽。
「アディ、ひとまずゆっくりしましょうか」
「そうですわね、ひとまず……」
 さゆみとアデリーヌ。

 皆が食べようとした瞬間。
「フフフ、遠慮せず受け取るがいいであります!」
 両手を腰に当てた吹雪が堂々と双子の前に登場。悪戯準備は完了したようだ。
「う、受け取るって何をだよ」
「というかお前まで来たのかよ」
 さっきからいた事を知らぬ双子はこれまでの関わり合いから吹雪を恐々と見た。
「さぁ、しっかりと受け取るでありますよ!」
 吹雪はそう言うなりパチンと指を鳴らした。
 途端、埋めていた爆弾が一斉に爆発して
「うわぁぁぁ!!」
 派手な爆風と共に双子を遙か彼方に吹っ飛ばした。夢のため現実以上に火力は凄まじいが双子以外の者達には無害であった。

「随分、遠くに飛んで行ったね」
「大丈夫かなぁ」
 美羽と瀬蓮と
「もう見えなくなったわね」
「ですわね」
 さゆみとアデリーヌはのんびりと双子が飛んだ方向を見た。
「まだまだでありますよ!」
 吹雪はロープ片手に双子が吹っ飛んでいった方に駆けて行った。

 ともかく残った四人は双子が出したお菓子や飲み物を食そうとした。
 その瞬間、暴走やら爆発やら手に取った者に被害を与え始めた。
「危ない、瀬蓮ちゃん」
 美羽は瞬時に瀬蓮に危害を加えようとするお菓子を蹴りで粉砕し、
「ありがとう、美羽ちゃん」
 瀬蓮を救った。
「これは教育的指導で二度と悪戯をする気が失せるまでとっちめる必要がありそうね」
「季節は夏ですから肝試しがいいですわね」
 さゆみとアデリーヌもお菓子や飲み物相手に奮闘した。
 向こうでは
「まだまだ受け取って貰うであります!! ちなみに返品不可でありますよ!!」
 吹雪が悪戯を贈り派手な爆音やら花火やらを打ち上げ
「もういらねぇって……ただ、楽しんでいただけだろ〜」
「何でオレ達が悪戯受けないといけないんだよ〜、ひでぇよ」
 双子は道理の通らない事を叫びまくっていた。

 茶会現場が落ち着いた頃。
「戻ったでありますよ」
 派手な悪戯をバンバンした末にロープで双子を確保した吹雪が戻って来た。
「縄を解けよ!!」
「オレ達、何もしてねぇのに」
 封じられていない口は大活躍だ。
「何もしてないって、してたよ。二人が出したお菓子や飲み物がおかしくなったんだから」
 美羽が反論する。
「そ、それは……ちょっとした悪戯だって」
「そうそう、盛り上げるために」
 双子は皆に通じないと分かりながらも苦しい言い訳をする。
 その間も吹雪は作業を続け、
「ちょっと、降ろせよ」
「横暴だぞ!!」
 双子を木に吊した所で吹雪は手を止めた。
「たっぷりと良い眺めを楽しむでありますよ!」
 吹雪は木に吊した双子を絶景と言わんばかりに見上げた。
「何が良い眺めだよ」
「早く降ろせよ!!」
 双子はぎゃぎゃわめく。
 そこに
「ここにいるみんな大変な目に遭ったんだからね。罰としてみんなに特大パフェを御馳走する事。もちろん、現実でだよ?」
 美羽は罰としてお決まりの台詞を口にした。
 途端
「はぁぁ!?」
 双子は明らかに嫌そうな声を上げ、美羽をにらみ、
「何でだよ!! 夢だからいいじゃんか」
「みんなってここにいるみんなかよ!? 夢は自由に楽しむもんだぞ」
 文句を言いまくる。
 さらに
「さっきの話だけど、人様の夢で何かしたよね?」
「観念して素直に教えるのですわ」
 さゆみとアデリーヌが双子を詰問する。
「折角の夢だぞ。面白くないとつまんねぇじゃん」
「サプライズだぞサプライズ」
 双子はおどおどしながらも他人の夢で悪さした事を認めない。認めたらが何が待っているのか分かっているから。そもそも認めなくとも行き先は同じだが。
「……つまり反省していないという事ね。アディ」
 『ソウルヴィジュアライズ』を有し双子の感情の動きに敏感なさゆみは自分の予想が的中した事を知り、
「さゆみ、準備は出来ていますわ(これほどされているというのにイタズラ魂が抑えられぬというのなら……)」
 隣のアデリーヌは笑顔で双子を見上げた。実はこれから行使する技を使う前に捕まえて現実以上に恐怖の肝試しにちなんで痛い目に遭わせようと思ったが、吹雪のおかげで手間が省かれたのだ。
 まずはアデリーヌから
「♪♪」
 『エクスプレス・ザ・ワールド』を使い、幽霊やら悪魔やら夏の肝だしにぴったりな歌を歌い、イメージを実体化させ、双子に襲わせた。
「!!!!!」
 双子は世にもおぞましい恐怖の獣に襲われ逃げようとするも拘束されているためされるがままである。
 怯えきった所でさゆみは
「お仕置きの次は指導よ」
 どこからともなく刃物を取り出し、双子を吊すロープを切って
「うわぁぁぁぁ」
 双子を落下させるが、下には二人分の椅子が待機しロープで拘束されている双子を見事にキャッチした。夢だからこそ出来る芸当である。
 そして仕上げに双子を椅子に縛り付け
「さぁ、厳しい教育的指導を始めるわよ」
 さゆみは『シュトゥルム・ウント・ドラング』で強烈な感情で双子を震え上がらせながら指導を始めた。
 しかし、途中で指導に耐えられない程怯えた双子はここが自分の夢である事を利用して他人の夢へ逃亡した。

 ■■■

 覚醒後。
 美羽が結ばせた約束は果たされ
「やっぱり、アイスと生クリームとフルーツ沢山がいいよねぇ」
「自分はこれにするでありますよ!」
「期間限定もあるのね。御馳走して貰うなら特に美味しそうな物を選ばないとね」
「どれもこれも美味しそうですわね」
 美羽、さゆみ達、吹雪は双子に御馳走になった。四人は容赦無くお高い特大パフェを注文した。
 結果
「はぁぁぁ」
 双子は多額の支払いにがっくりとうなだれていた。
「ヒスミ、キスミ、ありがとー」
 提案者の美羽は大満足の笑顔で二人に礼を言った。