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リアクション
午後14時、百合園女学院、温泉。
「皆、今日はご苦労、夏最後の狩りを見事成功よ」
セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)はゆるりと湯に浸かりながら騎士団の仲間達を労った。本日セフィーは騎士団の仲間達やパートナー達と共に狩猟を行い現在温泉に入り体を癒している。
「狩猟の後は温泉にかぎるわね。疲れが一気に取れるもの」
セフィーは仰ぎ、気持ちよさげに吐息をもらす。
「……ふふふ、ありがとうございますわ」
狩猟で一番の大物猪を仕留めたエリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)は部下の女白狼騎士達から尊敬を集め、賛美を受けては笑顔で応えていた。
「温泉といやぁ、酒だよなぁ」
酒好きのオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)は酒をあおり、いい気分になり
「本日の一番の英雄さん、気分はどうだい」
自慢の豊かな胸をエリザベータに押し付けてからかっていた。
「……オルフィナ、絡んで来ないで下さいな。大人しくお酒でも楽しんでいて下さいまし」
エリザベータは絡んでくるオルフィナをやんわりと流すと
「はいはい、邪険にされて悲しいな〜」
オルフィナは大袈裟に言ってから酒飲みに戻った。
その横では
「んー、今日は獲物の追い立て頑張ってでありますよ。さぁ、みんなで冷たい牛乳を飲むであります!」
狩猟で獲物の追い立て役に精を出した葛城 沙狗夜(かつらぎ・さくや)は冷たい牛乳が入ったジョッキを掲げ、部下の女白狼騎士達と乾杯し
「疲れた体に冷たい牛乳が染みるでありますよ!」
ごくりと飲み満喫していた。
四人は部下の女白狼騎士達と長湯を楽しみ狩猟の疲れをさっぱりと湯に流した。
そして、これ以上はふやけるという所で湯から上がった。
脱衣所。
「……ない。一体どこに。確かにここに置いていたはずなのに」
衣服を着ようとして置いていた場所に衣服が無い事に首を傾げるセフィー。
「ありませんわ」
隣のエリザベータも同じく衣服が無く困った顔に。
「師匠、冗談は止めて服を返して下さい!」
沙狗夜に至っては衣服が無い事はオルフィナがまた無茶な演習をさせようとしていると思い目を三角にして抗議するが
「いやいや、俺もねぇから」
オルフィナは肩をすくめ、おどけたように沙狗夜の抗議をあしらった。
「師匠でなければ誰でありますか?」
沙狗夜は困ったように誰彼なく訊ねると
「知らねぇよ。ともかく、全員やられた様だが、どうする、セフィー」
オルフィナが否定し、セフィーに訊ねた。
「そうねぇ、ひとまず周囲を探してみるしかないわね。もしかしたらどこかに……」
セフィーはそう言うなりあれもない姿であちこち探し回った。
「それはそうですが……慢心でしたわね」
エリザベータも同じく脱衣所で身体を隠せそうな物を探すが
「……何もありませんわね。となると既に敵に包囲されている可能性があるわ、警戒を厳に無闇に外に出ないで」
タオルや浴衣まで持ち去られていたので悪意を持った何者かの策ではないかと疑い始めた。
その時、
窓の外にある高い木の枝からクスククスと笑い声を洩らし眺めているのを
「なるほど、あんた達の仕業だったのね。今回は大目に見るからあたし達の服、返してくれない?!」
セフィーが気付き、なるべく怒らないようにと優しめな口調で言うと
「いいぞ」
「ただし、オレ達を捕まえられたら」
双子はセフィーの要求を呑んだが、枝を飛び降り脱兎の如く逃げ出した。
双子が去った後。
「もう、どこにもいねぇ」
体裁を気にしないオルフィナは窓を開けて外を確認し、すでに双子の姿いない事を知るなり
「ガキにしては度胸あるな、あいつら……だからといって見過ごすつもりはねぇしガキだからと容赦をするつもりもねぇが」
オルフィナは窓を閉め、高周波ブレードを抱えゆるりと脱衣所の出入り口へ向かう。
「今日は意見が合いますわねオルフィナ……丁度、私もあの子達の中身が何色なのか確認したくなってきましたわ」
双子達の悪戯だと判り、矜恃を傷付けられたエリザベータは怖い微笑みを湛えながらオルフィナにうなずく。冷静だが完全にキレまくっている。
「さて、行くか」
『捜索』を有するオルフィナと
「行くでありますよ!」
リターニングダガーを手に持つ『追跡』を有する沙狗夜が共に騒いでいた女白狼騎士達を引き連れ、出撃。
続いて
「インフェルミーナの姫騎士エリザベータ・ブリュメール、押して参る!」
勇んでエリザベータが女白狼騎士達を引き連れ、続く。
「ちょっと! その格好じゃ風引くわよ、あんた達!」
セフィーが大声で叫ぶも血気盛んな三人には届かなかった。
そして
「まあ、素直に謝るようじゃあ、あの双子があたし達に悪戯なんて仕掛けないわよね」
一人脱衣所に残ったセフィーは溜息混じりに呟いてから
「……さて(今は夏休みで学院内に殆ど人は居ないから少しの間なら裸で暴れ回っても人目には晒されないだろうけど、学院外に逃げられたら完全にアウトね。となると短時間で何とか捕まえないといけないわね)」
あれこれ策を巡らすも結局は
「何にしろまずはこの格好をどうにかしないとね」
今の格好を何とかしてからという事に考えが至った。
そのためセフィーは双子は追いかけず、学院内の自室に戻り百合園制服に着替えてから双子追撃に加わる事に。
セフィーが単独行動している間。
「早く服を返すでありますよ!」
沙狗夜は女白狼騎士達を引き連れ、投げても手元に戻って来るリターニングダガーを投げつけながら追いかけるが
「む、罠でありますか!?」
仕掛けられた罠が発動し、吊り上げ式括り縄が沙狗夜と引き連れて来た女白狼騎士達を襲い、女白狼騎士達は一網打尽となりあられもない姿で吊り上げられ晒し者になった。
しかし、
「……許さないでありますよ!」
沙狗夜は『超感覚』で巧みに縄を回避し、斬り捨てていくが、
「ふわぁぁ!?」
別の仕掛けが発動し投げ網が頭上から降り、沙狗夜の動きを止め、
「!!!」
括り縄が四肢に襲い掛かり、無惨に大の字姿勢で吊り上げられてしまった。
逆さになった沙狗夜の目には
「♪♪」
にこにこと笑う双子の顔が映っていた。
「むむ、ここで負ける訳には……」
沙狗夜はその笑顔を見るやここで脱落は嫌だと思うも身動きが取れず
「師匠!!」
オルフィナに助けを求めるが
「わりぃが、頑張ってくれ」
双子を早くとっちめたいオルフィナはさらりと流して通り過ぎ来て行った。
「もう許しませんわよ」
エリザベータも双子しか見えていなかった。
「……師匠」
放置された沙狗夜は悲しげな声を上げ、二人を見送った。
沙狗夜を脱落させた罠を越え
「……早く観念した方がよろしいですわよ」
女白狼騎士達を率いるエリザベータが双子に静かな怒りを湛え迫る。
しかし、
「!?」
床に違和感を感じた途端、
「きゃぁぁ」
エリザベータと女白狼騎士達は落とし穴にはまり奇妙な軟体生物の餌食となり
「ひゃぁぁああん」
生物が体を這い回り抵抗する力を吸い取り艶っぽい声を上げては体を震わせていた。
三人の内、唯一生き残ったオルフィナは
「あちゃぁ、残ったのは俺だけか」
落とし穴を覗き込みエリザベータのあららな姿に溜息を吐き出した。
しかし、手を貸す事は無くオルフィナは『疾風迅雷』を駆使して双子追跡に戻った。
そしてとうとう
「さぁてもうそろそろお遊びは終わりにして貰いてぇんだが」
何やら悪戯を仕掛けようとする双子の前に立つ事が出来た。
すっかり時間は午後の16時に回っていた。
剣呑な声に
「!!」
双子は顔を上げてびっくり。高周波ブレードを持つ女性が怖い顔で仁王立ちしていたからだ。
「……って、何で裸なんだよ」
「何か着ろよ」
双子はオルフィナの堂々とした裸姿に驚き、激しくツッコミを入れる。衣服を盗んだのは二人だというのにおかしな事である。
「とぼけるつもりか。どんな竹篦返しが来るかまで考えているのか。俺はガキでも容赦はしねぇ」
オルフィナは裸にも関わらず慌てる様子もなくとぼけているとしか見えない双子へ怒り滲む鋭い眼光を向けた。
「やばいぞ」
「逃げろ。ただここに遊びに来ただけなのに」
ただならぬ様子に危機感を察知した双子は悪戯を放置して背を向け逃亡を図ろうとするが
「逃げるだと、黒狼のオルフィナを嘗めるなよ!」
刃の如き鋭いオルフィナの威嚇が双子の背を捕らえ、
「!!!」
『先制攻撃』を有するオルフィナは双子を逃す事無く背後から両手を伸ばして双子の顔を胸に密着させて両脇でがっちりと固めて捕まえた。
「だから、服を盗んだのは魔法薬で作った分身で俺達は罠しか作ってねぇ」
「そうそう、ここにいる奴らを誘き出すための囮役で」
オルフィナの腕から逃れられない双子は刑を軽くして貰おうと言い訳をするが、
「……つまり元凶はあんた達って事でしょ」
前方から現れたセフィーによって峰打ちを食らわされて
「!!」
昇天し、頭がだらりと垂れた。
気絶した双子を見やるなり
「何とか間に合ったわね。魔法薬って事は他にも質の悪い物を持っているかもしれないわね」
「だな」
セフィーとオルフィナは双子が気絶している間に魔法薬を全て回収。
「うわぁ、出るわ出るわ。全部処分ね」
セフィーは出て来た魔法薬の量に呆れる。
「それはいいとして結局、俺達の服はどこにあるんだ」
オルフィナは改めて自分達の衣服の行方を気にする。
この時
「……服はここであります。中庭に隠していたであります。分身の双子は消えたであります」
段ボールで双子を追尾する吹雪が現れセフィー達の衣服を出した。実はセフィー達の服を取り返すために分身の方を追尾していたのだ。そのため本物の悪戯に手を出す事が出来なかった。
吹雪から衣服を受け取り
「……助かったぜ」
さっさと着替えを済ませた。
その時、
「……ん」
タイミング良く双子が目を覚ました。
双子を迎えたのは
「ようやく、起きたわね」
大量の魔法薬を抱えたセフィーであった。隣には怖い顔をしたオルフィナ、背後には双子に気付かれぬよう吹雪。
「!!」
双子は怖い顔にビクッと青い顔になるも
「あぁ、オレ達の薬!?」
「おい、返せよ!!」
セフィーの腕の中にある魔法薬に目ざとく気付き文句を垂れる。
途端
「俺に勝ったら返してやるよ」
オルフィナが冷たく輝く大剣の刃を見せつつ不敵な笑みを浮かべて挑発する。
「……むぅ」
やられると察知した双子は口を尖らせ不満顔でオルフィナをにらむ事しか出来なかった。
そこへ
「……二人共、何か言う事があるでしょ」
セフィーの厳しい言葉。
「……」
じっと二人の顔を見比べた後
「悪かった」
「ごめんって」
ぼそぼそと謝った。二人には敵わないと判断したらしく声には多分に恐れが含まれていた。ちなみに男子禁制のこの学院に二人がいるのは夏休みでほとんど人がいなかった事と悪戯小僧の力を発揮してだ。
「……全く」
セフィーはようやく謝った双子に呆れていた。
この後、エリザベータと沙狗夜も何とかなり衣服を着る事が出来た。
双子はまたどこかに行ってしまった。謎の段ボールを知らずに引き連れて。