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リアクション
同時刻、まだ両軍の衝突は続いていた。
「いつまで来るのよあいつら……」
シヴァは戦い疲れ辟易していた。
防衛有利な戦いなのに、【ノース】軍はその物量侵攻を辞めない。長時間の戦闘にかなりの疲れが溜まっていた。そしてそれは、操る機体も同じだ。
敵のその物量はRD社製の強化サイボーグの量産過程における脳のみ交換方法がロボットに転用されているからだった。
VR訓練によって兵器のAIとして教育された脳たちが、自己の肉体の破壊を気にすることなく戦い続ける。脳を守るパッケージさえ無事なら、それを回収して別のロボットに取り付ければ状況に応じて判断し続ける高度な戦闘を維持できる。脳がAIならば電子的ジャミングも通じない。
イーリャが機体とシヴァの疲労を見て忠告する。
「これ以上の無理はダメよ! あなたもこの子も持たないわ」
フィーニクス・NX/Hの各部位の警告サインが止まない。AICS、フロントバーナーとサイドブースターに異常。レーダー破損によるFCS索敵範囲の縮小と対EMC性能のダウン。冷却液の流出、レーザー兵器及び機体エネルギー残量のアラート。ジェネレーターの出力低下。脚部の破損によるバランサーからの危険信号。
それでもシヴァはギリギリでの戦いを続ける。
「もう少し……もう少し……」
何に願ってかつぶやく。それとも変化を知覚しているのだろうか。
最後のツインレーザーの一門掃射で武器供給エネルギーが尽きる。スズメバチ1体の腕部を破損させるだけに終わる。
これ以上はもう戦えない。
イーリャが殉職への覚悟を決めようとしたその時、敵の進行が止まった。
放火を辞め、敵が撤退を始めたのだ。
オーバーヒートの機体を地上に下し、二人は安堵する。生きていることと自分の大切な場所を守れたことに。
【ノース】軍が撤退を始める前。【ノース】軍の駐屯地にて、動きがあった。
雨に打たれ、帳が早く降りた中、サングラス型通信機に位置情報が映し出される。
《MAP:Point=X00000010》
《Groom :leader= ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)》
《Groom:01=上杉 菊(うえすぎ・きく)》
《Groom :02=エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)》
《Groom :03=フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)》
《Target:01=Romeo》
《Point:01=Kill Zone》
《Point:02=Deliver》
《Time=18:42》
映しだされた位置情報を確認し、リーダーはチームに伝達する。
「こちらグルームリーダー、各員の位置を確認。グルーム01から03状況を報告されたし」
返信。
「グルーム01、配達員は指定の位置に着いた。いつでも投函可能」
「グルーム02、小包の準備も完了」
「グルーム03、働き蜂からロメオの住所を送る。気を見て手紙を投函されたし」
ナイトナインが独自行動にて動いていた。
ターゲットは【ノース】軍作戦指揮官トールズ将軍。
陣営へ侵入し、将軍の位置をピーピングビーで偵察し、その位置情報を入手。陣内に侵入しての工作等も終わり、遠距離からの狙撃にて殺害する作戦。
駐屯地にされていたのはオベリスクのある廃都。今ではイコンの残骸だけが残る。重層世界の歪が有った場所。
グルームリーダーは観測地点、二つの墓のある高台に伏せ、狙撃の機会を伺っていた。
ターゲットがデッドゾーンに入るのを見計らう。
「グルームリーダーから各員に、手紙を投函する。まずは小包から、そして手紙。手紙の文面は“アルジャーノンに花束を”」
敵陣内で爆発が起きる。
トールズが叫ぶ。
「何事だ!」
踵を返し、部下に状況を乞う。
「弾薬テントにて爆発があったようです」
「すぐに消火作業に当たり、事故かどうか確認しろ。オレも確認に向かう」
トールズが爆発したテントへと向かう。
その経路で残骸と残骸の隙間を縫い射線が通る場所がある。
彼がそのポイントを通る瞬間。弾丸は彼脇から入りの肺と心臓を穿ち抜いた。躯体は膝から水たまりへと崩れる。雨と血液が混じり広がる。
「配達を確認。以後速やかに撤退せよ」
ナイトナインが撤退を始める。グルームリーダーもゴーグルを外し闇に消える。
【ノース】軍はすぐに狙撃位置を特定し、彼らを追ったがその足取りをつかむことはできなかった。
なぜなら、狙撃手は狙撃位置におらず、遠隔操作装置を付けた設置ライフルを使っていたからだ。
そのライフルも【機晶爆弾】により爆破され、さらに手がかりが消された。
トールズ将軍は凶弾に倒れ即死。指揮者を亡くした軍は混乱を避けるために撤退を余儀なくされた。
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