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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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リアクション

 3年後、2027年。天御柱学院教員用宿舎。

「アルトラギッレ、こんな手紙が郵便受けにありました」
 六連 すばる(むづら・すばる)が一通の手紙を手に現れた。ちなみにアルトラギッレとはアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)の本名である。
「宛名がセシリアさんになっています……消印は3年前です」
 すばるはそう言いながら手紙をアルテッツァに渡した。
「……差出人もシシィになっていますね」
 受け取ったアルテッツァは手紙の裏も確認し
「……3年前の消印……どういう事でしょうか。スバル、心当たりはありますか?」
 首を傾げた。何せセシリアから手紙を書いたという話は一度も聞いた事が無いので。
「いえ、今初めてセシリアさんが手紙を書いた事を知りました」
 同じく何も知らないすばるは首を振るばかり。
「そうですよね……少し気になるので開封して読んでみましょう」
 アルテッツァはひとまず開封してみる事にした。
 開封して出て来た手紙には
『親愛なるパパーイとママーイへ

……ごめんなさい
この手紙を受け取った頃は、絶賛親不孝中だと思うの
せっかく体を健康にして貰ったってのに……

でもね、わたしは諦めていたことをしたくなっただけなの
健康だったら、タイチのお嫁さんになりたいって……

けど、パパーイは絶対許さないわよね
だから、勝手に出て行ってると思います、コペンギンハーゲンと一緒に

でもね、何かあったら連絡するわ、例えば……家族が増えたとか!

それじゃあね
セシリア』

 手紙を読んだ後。
「……シシィはこうなることを予見していたのでしょうか」
 アルテッツァの第一声は溜息混じりであった。現在病が完治した娘は恋人と共に浮遊大陸冒険中なのだ。つまり絶賛親不孝中という事である。
「……そうでしょうね」
 アルテッツァとは違いすばるはクスクスと手紙に書かれている素敵な報告を喜んでいた。
「……それならどうしてボク達に黙っていたのでしょうか」
 アルテッツァは手紙を見つめながらまた溜息を吐いた。
 すると
「それは、アルトラギッレが決して許すはずがないと思ったのでしょうね。かつて1人の女性を奪い合った相手の息子と結婚する事なんて」
 すばるは笑ったまま娘の彼氏の父親とアルテッツァが犬猿の仲である事を指摘するだけでなく
「しかも、ワタクシをパートナーに選んだのは、彼女に似てたからじゃありませんの?」
 アルテッツァにとってはつつかれたくない所を突くすばる。
「スバルにそう言われてしまうと、ボクとしてはぐうの音も出ませんね」
 苦笑するしかないアルテッツァにすばるはさらに言葉を続ける。
「貴方を人間らしくしてくれたのは『娘』である彼女ですよ。ワタクシも、彼女によって道を照らされた人の一人かもしれません。だって今、医療研究スタッフとして学院にいるんですもの」
 セシリアとの日々を振り返りながら。自分達を仲良くさせようとした事や現在完治している生まれながらに抱えた病の治療に尽力した事など。ちなみに現在すばるは学院の強化人間の健康管理を行う医療スタッフとして働き、アルテッツァは学院で教師をしている。
「……そうですね、スバル。キミにボクの本名を明かそうという気持ちにさせたのも彼女との日々があったから……ですね。そう考えると……どこまでも自分らしく生きている『娘』ですよね」
 同じくアルテッツァもセシリアと過ごした日々を振り返った。
 さらに
「……それにアルトラギッレ、彼女がワタクシ達の『娘』ならワタクシ達は彼女の『親』です。親として娘には幸せになって欲しいと思いませんか? 子供の幸せの……」
 すばるは親としてどうするべきかを説こうとするが
「ああもう、それ以上言わないで下さい……ボクの器の浅さを露呈するようで気分を害します」
 先を察したアルテッツァが慌てたように遮った。子供の幸せの前では親の個人的な事情は些細な事だとすばるは言おうとしたのだ。
 その時、着信音が鳴り響いた。
「……珍しいですね、セシリアさんから着信が……」
 すばるが一番に着信相手を確認。
「みたいですね。この手紙を読んだ後ですと嫌な予感しかしませんね」
 アルテッツァは今の流れから一番に思いつくのは先程話した事が実現する事。
 鳴り響くコールを放置する訳にはいかず
「……仕方がありません、出ましょう」
 アルテッツァはひとまず電話に出た。
『オッラ、パパーイ。わたし、セシリアだけど』
 アルテッツァが電話を取るなり真っ先にセシリアが挨拶をしてきた。この先に話す話題のためか心無しか緊張を感じる。
「シシィ、元気でやっていますか?」
 アルテッツァが相手に合わせてとりあえず挨拶を交わす。
『その……ちょっと倒れちゃって今、タイチのお母さんの所にいるの』
 セシリアは言い難そうに現在の状況を説明した。
「……そうですか」
 色々と言いたいのを抑えてアルテッツァはたった一言だけ口にした。
『その様子だとやっぱりあの手紙が届いてたりするのかな?』
 セシリアはアルテッツァが恋人の父親について言わない様子から手紙を読んだと判断した。
「えぇ、届いていますよ。悪いとは思いましたが、少々気になり中身を確認させて頂きました。しかし……」
 アルテッツァの返事はセシリアの予想通りのものだが、信じられず再度問い掛けようとするが
『それなら言うね。あのね、パパーイは、アヴォにな……』
 セシリアがアルテッツァが苦虫を潰したくなるような事を言おうとして
「アー……エヴェルダージ? やっぱり本当ですかシシィ?」
 アルテッツァが遮った。
『……本当』
 セシリアが間を置いてから改めて答えた。
 そのタイミングで
『ワタクシ達、祖父母になってしまいましたの?』
 すばるが筆談で電話内容を訊ねた。にこにこと楽しそうに。
 それに対してアルテッツァは黙しながら
『どうやらそのようですよ、スバル』
 筆談で返しつつ溜息を吐き出した。
 そして
「ノーッサ! セングラッサ……」
 アルテッツァは電話口で娘相手に驚きの表現を交えて嘘だ信じられないなどとポルトガル語で訴え続けた。
『アカーミ、シ、シ! パパーイ! ノン! ノン、シ……プレクオーピ!(落ち着いてよパパーイ、心配しないでよ!)』
 セシリアが電話口で必死に宥めていた。

「……ふふ、これから賑やかになりますね……お祖母ちゃんですか」
 すばるはアルテッツァの様子を幸せそうに見守っていた。娘達の幸せを願いながら。