百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

リアクション公開中!

昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう
昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう 昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう 昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう 昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう 昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう 昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

リアクション

 5年後、2029年。魔列車内の個室。

「……ようやくこの路線も開通する事が出来たわね」
 ツァンダから乗り込んだこの列車にしみじみとする御神楽 環菜(みかぐら・かんな)。5年後の現在皆と尽力し念願の路線を開通させる事に成功したのだ。
「……利用客の顔を見ていると感慨深くなりますね」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は乗り込む際に見た多くの乗客の顔を思い出した。
「何より、昔夢で言っていた開通した列車に陽菜を乗せるという事が果たせて嬉しいです」
 陽太はノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)と楽しくリバーシをしている5歳の愛娘の陽菜をしみじみと見た。5年前に夢で見た鉄道旅行で呟いた事が現在実現化していると。
「そうね。しかも久しぶりの家族旅行……申し分ないわ」
 環菜は完璧な幸せぶりにニンマリする環菜。
「申し分ないですか?」
 陽太が悪戯っぽく隣の妻に訊ねた。
「えぇ、私の願いを叶えようとしてくれた素敵な旦那様に可愛い娘と愛すべき家族……申し分がなさ過ぎて……私は本当に幸せ者だわ」
 環菜は陽太を見上げ、遊んでいる陽菜とノーンを見て確認するなり力強くうなずいてから答えた。
 すると
「それは俺もですよ……環菜は俺にとって唯一人の愛する女性。そんな女性にこの人生で出会えて本当に幸せだと思っています。俺がこうして成長出来たのは環菜のおかげです。愛しています、環菜」
 陽太も家族を見てから世界で一番愛する環菜に優しく微笑み愛を囁いた。自分の全ての幸せは彼女から始まったのだ。出会う事がなかったら臆病な駄目な人間のままだっただろう。何より愛しくて止まない陽菜とも出会う事もなかったのだから。
「……」
 この家族ワイワイの状況で愛を囁かれると思いもしなかった環菜は恥ずかしさに顔を赤くするなり
「痛っ!! 環菜?」
 隣の陽太の足を踏んだ。陽太はすぐさま照れ屋の妻を見下ろした。訳が分からないというように。
「…………そんなにさらりと言わないでちょうだい」
 環菜は伏し目がちに小さく洩らした。
 何とか聞き取った陽太は
「言わないでって、先に言ったのは環菜ですよ」
 あまりにも環菜が可愛くて少しだけ意地悪く言った。
「…………」
 ぐぅの音も出なくなった環菜は顔を赤くして沈黙するしかなかった。
 そうやって夫婦がいちゃいちゃしている横では家族が賑やかな鉄道旅行を楽しんでいた。
「う〜ん、陽菜ちゃん、結構強いねぇ」
 頭脳戦のリバーシにさすがの豪運で何でも強いノーンも旗色が少し悪く唸っていた。ちなみに精霊のためか外見は昔と同じ。
「えへへ、トランプではノーンお姉ちゃんにたくさん負けたけど、リバーシは負けないよ」
 陽菜は可愛らしく勝ち誇ったように言った。先にしたトランプではノーンに負けてばかりだったのでこれ幸いと。
「……」
 ノーンが次の手を考え出すのに少し掛かると見た陽菜は席を外し
「陽菜!?」
「どうしました?」
 大好きなお母さんとお父さんの真ん中に座ってにこにこと甘えん坊さんになる。
 そして
「どうしたの?」
 可愛らしい紅の目を父親に真っ赤にされた母親に向けて不思議そうに訊ねた。
「な、何でもないわ。それより昨日の参観日偉かったわね。クレヨンがないお友達にクレヨンを貸していたのを見たわ」
 環菜は慌てて話題を逸らすべく昨日陽菜の通うあおぞら幼稚園であった参観日の事を口にした。
「うん!」
 陽菜は嬉しそうににこにこするばかり。幼稚園ではお友達に優しくて賢い女の子だが家ではこの通り両親に甘えん坊。
「ナコ先生が陽菜のことを誉めてましたね。絵もとっても上手でしたよ」
 陽太は参観日で自分達夫婦を描いた陽菜を褒め、環菜譲りの金髪の頭を撫でた。
「……」
 陽菜は嬉しそうに撫でてくれる父親を見上げた。
 それから
「イルミンスールでお仕事してる舞花お姉ちゃん、来られるよね?」
 陽菜は来るのか少し心配しながら訊ねた。
「大丈夫ですよ。イルミンスールからヴァイシャリーに移動してそこから合流しますからもうそろそろ会えますよ」
 陽太は笑顔で言った。
「楽しみだなぁ。エリシアお姉ちゃんが一緒じゃないのがつまんないけど」
 陽菜は楽しそうな顔をしたがすぐに曇り顔になった。本日都合が付かず一人だけ不参加なのだ。
「そうね。だからたくさん遊んで帰ったらエリシアにお話してあげたらいいわ」
 環菜は娘を元気にしようと優しく声をかけた。その姿はすっかりお母さんである。
「うん。そうする!」
 お母さんの提案にぱぁと顔を明るくしこくりと頷いた。
 その時
「陽菜ちゃんの番だよ、早く!」
 ようやく次の一手を導き出したノーンの呼ぶ声がし
「はぁい」
 陽菜はぴょこんと座席から降りてノーンがいる座席に行き、勝負に戻った。
 そうしてのんびりと時間を過ごしている間にヴァイシャリーに到着し、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が加わった。

 舞花が加わった賑やかな個室。

「イルミンスール滞在でのお仕事はどうでしたか?」
 訊ねる陽太に
「はい、無事に終了しました」
 答える舞花の姿は未来世界の特殊事情なのかまたは『T・アクティベーション』によるものなのか変化は無かった。
「イルミンスール滞在中に色々と知り合いに会い、楽しく過ごしました」
 舞花は仕事の結果だけでなく土産話もしっかり携えていた。皆すっかり舞花の話に夢中に。
「ヴァルドーさんとハナエさんは相変わらず仲の良いご夫婦ぶりで陽太様と環菜様、それと陽菜様ともまた会いたそうなご様子でしたよ。近いうちに皆で訪ねたいですね」
 まずは変わらず新婚旅行をする幽霊老夫婦の事を報告。
「そうね。是非会いたいわ」
「幽霊になっても変わらず仲良しなのは素敵ですよね」
「会ってたくさんお話したいなぁ」
 環菜と陽太と陽菜も会いたそうにする。
「そうそうシロウさんにも会いました。忙しくしていましたが、元気そうでしたよ」
 雄猫又のシロウの事を話した。師匠猫又ミッカに手を焼いている姿を思い出しながら。
「シロウちゃんにも会ったんだね。元気そうでよかった。また会いたいね」
 ノーンも同じく賑やかな光景を想像しながら言った。
「オリヴィエさんからは新作ケーキのレシピを披露していただきました。5年前のとっておきのケーキからすっかりお菓子作りに夢中のようで調薬探求会でもケーキを御馳走しているそうです」
 オリヴィエから聞き出した割と平和な調薬探求会の様子を語った。
「それじゃ、舞花ちゃん、そのケーキ食べたの?」
 ノーンが少しジト目で一番気になる事を訊ねた。
「はい、食べました。とても美味しかったですよ。レシピも教えて貰いました」
 舞花はあっさりと答えた。そもそもレシピを披露と言えば食べているのは間違い無いもの。
「いいなぁ、わたしも食べたい」
「食べたい!」
 羨ましそうにぶぅぶぅ言うノーンと陽菜。
「舞花からレシピを教えて貰って今度俺が作りますよ」
 食べたがる二人を見かねて陽太が提案すると
「絶対だよ、おにーちゃん」
「約束だよ!」
 ノーンと陽菜は身を乗り出してじっと陽太を睨む。
「えぇ、旅行から帰ったら一番に作りますから」
 二人の勢いに押された陽太は時間設定までして約束をする事に。旅行にケーキ作りにお父さんは忙しいようだ。
「あらあら」
 環菜は端で他人事のように笑ってやり取りを楽しんでいた。
 その後、お喋りを続けたりみんなでトランプをしたりノーンと陽菜は舞花を加えてリバーシをやったりその微笑ましい光景を御神楽夫妻は眺めたりと賑やかに終点の空京に着くまで楽しんだ。到着すると早々に馴染みのホラーハウスに向かった。

 空京、ホラーハウスの食堂。

「ユルナちゃん、ヤエトちゃん、久しぶり〜」
 ノーンは何やら相談をしている顔見知りのキサラ兄妹を発見し、手を上げて挨拶をしながら駆け寄った。
「あ、お久しぶり!」
「……」
 気付いたユルナは親しげに挨拶を返すが変わらず素っ気ないヤエトは目線を向けるだけ。
「また何かイベントの相談ですか?」
 続いて舞花も来て事情を訊ねる。
「相談っていうか、ここを始めて随分経つから何か記念的みたいな事をしようと思って、大々的にしたいから話していたんだけど……どれもこれも実現無理とか言って却下するのよ」
 ユルナは兄を睨み付けながら散々と顔見知りの舞花達に愚痴をこぼす。
「考えついたものを形にする事しか考えていないだからだろ。コストを含んで考え直せと言っているんだ。イベントをして赤字になったのでは話にはならない。子供のお遊戯会じゃないのだからな……再度考え直すんだな」
 ヤエトはこれ以上付き合いきれないと書類だけを置いてさっさと出て行った。
「本当、面白くないんだから。もう少し遊んだらどうなのよ。コストとか考えたらつまんないものしか出来ないわよ」
 ユルナは出て行くヤエトに吠えた。
 その後、
「いらっしゃい!」
 ユルナは改めて舞花達を迎えた。
「うん、早速。いつもの!!」
 ノーンは早速注文。
 これまでここに何度も訪れお決まりの物を注文し続けたため商品名を言わなくともスタッフにはノーンが食べたい物が何なのか伝わるようになっていた。
 それは
「ここに来たらやっぱりこれを食べなきゃ!」
 この施設名物のデカ盛りパフェ。しかもスタッフも慣れたもので注文してから料理が届くまでの時間が恐ろしく短く、届いた時はまだ四人が注文する料理を選んでいる時だった。
「美味しそう。食べたい!」
 陽菜はノーンの前にあるデカ盛りパフェに釘付けに。
「陽菜、注文しても食べ切れないかもしれないわよ?」
 食べ切れない事が火を見るよりも明らかなため環菜は陽菜を諦めさせようとするが
「でも、ノーンお姉ちゃん、美味しそうに食べてるよ?」
 陽菜はノーンの美味しそうに食べる見事な食べっぷりを指さして諦めない。
「……分かりました。注文して三人で食べましょう。そうすれば食べ切れますよ。どうですか?」
 陽菜が諦めないのを見て陽太は妥協案を提示。
 途端
「さんせい!」
 陽菜は元気に賛成すると
「……陽菜も陽太もそれでいいなら私も文句は言わないわ」
 環菜は仕方無くという体裁で賛成をした。
 この後、四人も注文し、しばらくして料理が運ばれた。

 料理が運ばれた後。
「美味しいね!」
 陽菜は口を生クリームだらけにしながら美味しいパフェににこにこ。
「そうね。相変わらずボリュームが凄いわね。本当、ノーンはよく食べるわよ」
 環菜は娘の口を紙ナプキンで拭ってやりながらもうそろそろ食べ終わるノーンを見て感心と呆れを混ぜながら言った。
「……今度は三人で一緒に食べる事になるとは思いませんでした」
 陽太はパフェを食べながら昔夫婦で仲良く一つのパフェを平らげた事を思い出し時間の流れをしみじみと実感していた。
「……(陽菜様も大きくなりますます賑やかになりましたが、いいですね。見ている方も幸せな気分になります)」
 選んだ料理を食べながら舞花は陽太達のやり取りを微笑ましげに眺めていた。
 そして、無事に五人は腹ごなしを終えた。

 食事後。
「食べ終わったから今度はホラーハウスに挑戦してくるね!」
 ノーンは勢いよく椅子から立ち上がり、早速ホラーハウスに挑戦しようとする。
「ホラーハウス?」
 陽菜は興味津々。
「そうだよ。陽菜ちゃんも一緒に行く? 色んなおばけがいたり変な音がしたり面白いよ!」
 陽菜が興味を持っている事を察するなりノーンが誘うも
「……行きたいけど」
 陽菜はノーンの最後の言葉に少しだけ元気を失った。なぜなら興味はあれど陽太に似ていて少しだけ怖いのが苦手なのだ。
「心配はいりませんよ、陽菜」
 元気のない我が子を放ってはいけないとすくっと陽太は立ち上がり
「本物の幽霊や妖怪の方々とも会ってますしホラーハウスなんてパパに任せれば楽勝ですよ。一緒に行きましょう」
 陽太はどんと胸を叩いて凛々しい顔で言い手を差し出した。
「うん!」
 陽菜は父親の手を握って立ち上がった。
「……もう(何言ってのかしら、自分も苦手な癖に……こんな所で父親ぶりを発揮しようなんてしなくても)」
 環菜は溜息を吐きながら夫の発言に呆れていた。怖いのが苦手な癖に娘の前だからと強がりを言っているのは妻である環菜にはお見通しである。
「ねぇ、一緒に行こう」
 陽太と手を繋いだ陽菜は空いた手を伸ばしながら母親を誘った。
「……いいわよ」
 まさか自分に飛び火するとは思わず驚くも可愛い娘の頼みのため環菜は断らず手を取った。
「私はここで荷物番をしていますのでゆっくり楽しんで来て下さい」
 舞花がすかさず荷物番を引き受けた。
 すると
「それじゃ、行こう♪」
 頼りになるノーンを先頭にホラーハウスに挑みに行った。
 ノーンのサポートにより写真収集は上手く行き、ゴールまで辿り着く事は出来たが、その道程が大変であった。
 狙ったように御神楽親子にお化けや作られた怪奇現象が降りかかり
「……陽菜、大丈夫ですから」
 陽太は顔を強ばらせながらも父親として失態はみせたくないと必死に頑張っていた。
「……うん」
 陽菜は少しだけ怯えた顔でひしっと繋いだ手に力を入れていた。
「……(頑張ってるわね)」
 環菜は父親として頑張る陽太の姿に微笑んでいた。

 四人がホラーハウスを楽しんでいる間。
「お仕事の方はどうですか?」
 舞花は仕事の息抜きをしているユルナに声をかけた。
「まぁ、順調かな。アタシの方も兄さんの方も。ホラーが苦手なのは変わらずだけど」
 ユルナは息を吐き出しながら答えた。
「それは良かったです。でも相変わらずのようですね」
 舞花は本日会った時に見た兄妹のやり取りを思い出しくすりとした。昔と変わらずだと。
「向こうが悪いのよ……しかも前より何か共同の仕事が増えた気がするし……お母さんが裏で何か工作している気がするのよね。相変わらずあちこち回ってるし」
 ユルナは冷たい兄と呑気な母親に文句を垂れた。何気に昔と状況は変わっているらしい。
「素敵な家族ですね」
 舞花は文句を言いながらもユルナが兄を頼りにしている事を読み取っていた。
「……まぁ、そうかな」
 舞花には全部お見通しだと察したのかユルナは困ったように言葉を濁らし、喉を潤した。
 この後、ノーン達が戻って来るまで舞花はユルナ相手にあれこれとお喋りをしてのんびりと時間を過ごした。

 四人が行ってから随分時間が経った後。
「ただいま!! 楽しかったよ!」
 いの一番にノーンが元気に現れた。
 その後ろには行きと同じく手を繋いだ御神楽親子がいた。行きと違うのは陽太と陽菜の顔に少しばかり怖がった色があるくらい。
「お疲れ様です」
 舞花は微笑を浮かべながら皆を迎えた。
 その時、
「あっ! 忘れてた!」
 ノーンが目を見開き大声を上げてしまったの顔に。
「急にどうしたんですか?」
 陽太が突然の大声にびっくりしながら訊ねた。
「あのね、昨日、5年前イルミンスールで未来の自分に宛てて書いた手紙が届いたんだよ。それで今日舞花ちゃんにも会えるからみんなで一緒に読もうと持ってきたんだけど……楽しくてすっかり忘れてた」
 ノーンは説明しながらいそいそと未開封の手紙を取り出して皆に見せた。列車内で話題にしても良かった代物だがあまりにも鉄道旅行が楽しくて忘れてしまったらしい。
「どんな事が書いてるの?」
 何も知らない陽菜が好奇心に目を輝かせながら訊ねると
「……読んでみるね」
 ノーンは急いで封筒から手紙を取り出し、読み始めた。
 そこに書かれている事は
「そのお手紙すごいね。全部、書いてる通りだよ。でも旅行の事は書いていないみたいだけど」
 陽菜がびっくりして言うように5年前にノーンが見た未来がそっくりそのまま今となっていた。しかも丁度昨日は幼稚園の参観日でノーンが見た未来通りの事が起きていたり。
「そうだね(手紙通り、おにーちゃん達が幸せになっていてよかった)」
 陽菜にうなずいたノーンは未来予想通りの幸せな御神楽家の現状に改めてニッコリ。
「……すっかりお見通しみたいで変な気分ね」
「でも悪い未来ではないですから良かったじゃないですか」
 環菜と陽太は手紙に書かれていた以上に幸せな今の家庭を実感して微笑みあった。

 そして
「舞花ちゃん、わたしが書いた手紙以上に幸せそうだね」
「えぇ、本当にそうですね。これからもずっと続けばいいですね」
 ノーンと舞花は御神楽親子の幸せがいつまでも続く事を願いながら見守った。