リアクション
予定日へ 「一年がすぎるのは早いものだな……」 口許をタオルで被いながら、ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)はヒラニプラの官舎の大掃除をしていました。 妻のフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)は一月に出産予定なので、諸々の手続きを済ませての今年最後の大仕事です。 子供が生まれたら、この官舎では手狭ですから引っ越す予定になっています。とはいえ、まだ新居が見つかっていないので、しばらくはこの部屋に住むようになるようです。住人が一人増えるのですから、今までの埃はすべて取り去って、ベビーベッドの配置などもいろいろと考えなくてはなりません。 「ああ、そんなことはしなくてもいいから、お前はもっと簡単なことをしていろ」 「大丈夫、これぐらい動いた方がいいのよ」 必要以上に過保護になっているジェイコブ・バウアーに、フィリシア・バウアーが苦笑しました。これでは、窓ガラス一つ拭かせてもらえません。 日に日に、心配性のおとうさんになっていくのが少し面白いです。観察日記でもつけてしまいましょうか。 あたふたとしながらも、無事に大掃除も終わり、ジェイコブ・バウアーが年越し蕎麦をゆで始めました。 「ええと、蕎麦を三枚ゆででと……」 「二人なのに、気が早いわよ」 「いや、その、俺が二枚食べるんだ」 フィリシア・バウアーに指摘されて、ジェイコブ・バウアーが、慌ててそういいわけしました。本当でしょうか? ともあれ、できたての温かいお蕎麦を二人でいただきます。 「……あなた、すっかり父親の顔をしている」 フィリシア・バウアーが、ふふっと微笑みながら言いました。来年になって、本当に新しい命が一人、目の前に現れたら、この人はどんな反応をするのだろうかと想像して、思わず口許がほころんでしまいます。 そう言われても、今のジェイコブ・バウアーとしては、素直にうなずくしかありません。パラミタに来たころの暴力的な自分を思うと、まったく別人のようです。やはり、守るべき物を得ると、人は変わるものなのです。 「フィル、お前こそもう優しいママの顔だ」 ジェイコブ・バウアーは、そう答えました。 |
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